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異世界Good Will Hunting:善意の狩  作者: 寄り目犬
14/34

王都到着

王都を舐めていた。

今俺は好奇心が抑えきれず、

王都の門の手前で高く跳躍し、その全容を眺めている。


マタック村に毛が生えたような町かと思いきや、とんでもなかった。


白く美しい外壁が地平線の向こうにも続いている。途方もなく広大な敷地だ。

遠くに霞んで見える

美しく雄大な湖の中に佇む白い神殿の

ような建物群に目を奪われる。


パルテノン神殿と

モスクを足して2で割ったような

外観をしている。

真っ白な石で作られているようにも見えるが

建物には滑らかな曲線が多く、

どうやって建築したのか想像もつかない。

乳白色な半透明の鉱石と思われるものや、

透明度の高いクリスタルのようなものもところどころ見られるが、

それらは半透明な樹脂のようにも見え、未来的な建築物にも見える。


街並みも神殿付近の中央部はそんな感じで、

白と乳白色の鉱石、美しいクリスタルで統一され

犯しがたい神々しい雰囲気を醸し出している。

あまり生活感がない。一般の王都の民は住んでいるのだろうか。


王都の中央部からは、湖に放射状に橋が架けられており、外周部の建物群は、外周に行くほど、俗っぽくなり、どんどん雑多になっていく印象を受ける。ただ、マタック村のような木造のものは、外周部の通りにある、屋台のようなものくらいだ。

全体として、規格整備された美しい街並みだった。



すとん。着地。


今見た感動をまあちゃんに伝えると

「そうか、物々しい兵隊さん達が待ち構えていなくて何より…」と、静かに笑った。


そうか、王都に着いて浮かれていた。

今我々の立場は王都の騎士を助けたとはいえ

非常に危うい。

マタック村を無断で抜けてきたこと。

異世界人なのに、記憶をがっつりもっていること。

記憶にはないが、王都と敵対する魔女を助けてしまったっぽいこと。


そのことを知られるとあまり穏やかな展開は待っていなさそうなので、さすがにセレイにも打ち明けていない。

魔女との邂逅は今後も誰にも言うことはないだろう。


ついでに、まあちゃんの瞬間移動は、超高速移動ということにして

なおかつ、4次元ポケット的な能力も

魔法発動時に、

コードのようなものが見えること、

魔法を無効化することも

秘密にしろ、と言われていた。

あとは、自分自身の

「化け物になっちゃうかもしれない」

という懸念も黙っておく。


セレイが門の光玉に手をかざし

「魔獣遊撃部隊長、セレイ。

ただいま帰還した。」


緊張が走る。思わず木刀をかたく握りしめる。


そう言うと、白い門は

くり抜かれたようにトンネルが出来た。

セレイと、その隊は躊躇なく先に進んでいく。


俺とまあちゃんが

恐る恐る前に進み出した時、

まあちゃんの前に

突如黒い靄が現れた。

まあちゃんが、4次元ポケットを使うときに

出てくるあの黒い靄だ。

なんで、このタイミングで?


「な…」

まあちゃん自身も驚いている。

異常事態の発生だ。

黒いモヤからは魔石が次々と飛び出し、

光玉に吸い込まれていった。


「マサトシ殿、ケンジ殿、魔獣討伐ご苦労。

魔石は、こちらで回収させていただく。

報酬は後ほど」


光玉から、そんな声がした。

だれ?おっさんの声だ。


「では、まずは今の声の主に会いに行こう」

セレイは何事もなかったかのように

先導する。


突然襲われたり、魔法でいきなり牢獄に転移させられないだろうか、と思いつつ門内にできたトンネルの壁をにらみながら進んでいると

まあちゃんがスタスタと前に歩いて行ってしまったので、あ、もう警戒しなくてもいいのかな?と判断してひょこひょこついていく。


セレイの説明によると

声の主は、ゲボリアン・チョッパー。

なんかもう、色々とすごそうだ。

名前だけでキャラの濃さが想像できてしまう。

王都周辺の警備、

狩人の管理を任されているらしい。


魔石の個人的な売買は禁止されているようだ。

狩人が勝手に魔獣を狩り、

売り飛ばすことができない仕組みになっており、

その仕組みの一つが白門による、魔石強奪能力。


魔法で魔石を隠そうとしても

先ほどのように、強制的に巻き上げて魔石の保管庫に納められるように

なっているらしい。


白門にできたトンネルをくぐると

商魂たくましい、商人達の呼び声が聞こえる。

予想以上に活気がある街だ。


そして、驚いたことに

「車…?」


歩道とは別に、道路が設けられ

車のようなものが走り回っていた。

車輪はなく宙に浮いている。


セレイが手を挙げると

車は静かにやってきた。

なんと、ドライバーはいない。

「これで、ゲボリアン様のところへ行こう。

馬車よりは乗り心地がいいはずだ。」


セレイの隊の者たちは

皆、跪き

「セレイ様!お気をつけて!!

 我々は先に練兵場にて、お待ちしております!!」

と、大きな声で言っていて、

恥ずかしかった。


「ふん、大げさな者共め」

セレイはまんざらでもなさそうだった。


車に乗り込むと、

中は空調が効いていて

気持ちがいい。

シートもフカフカだ。


「なぜ車で遠征しなかったの?」

思わず聞いてしまった。


「この車は王都の中でのみ使用可能だ。

これだけの質量を動かすには、

相当な魔力を要するからな」


魔石による魔力供給と

光玉による魔力の補助が必須なので

その二つが十分に揃っている王都でしか

走らせられない

ということらしい。


「魔石を動力源にして

 動力を得る仕組み(エンジンのようなもの)を開発すれば

 光玉なしで、王都の外でも走らせられるのでは?」

まあちゃんがすかさず疑問を口にする。


「面白い発想だ。

 実際、そのような魔導具も開発中らしいぞ。

 ただ、魔石を外部に持ち出す魔導具の是非について

 いまだに上層部でも論争が続いているからな・・・」


そんな話を聞き流しつつ

外を見ていると、驚くべき光景を目にした


「なんで、スーツ姿のサラリーマンが・・・」

ハンカチを取り出して、首元をぬぐいながら

歩いていく。


「何?サラリーマンだと??」

険のある表情で、セレイが聞き返してくる。

まずい、この世界にサラリーマンなんていう言葉が

あろうはずはない。追求されたら

なんと、ごまかそう・・・

と考えていると

セレイは、間の抜けた声を出した。

「なんだ、違うではないか。

 あれは、貴族御用達の商人たちだな」


「へー、か、変わった服装だねえ」

知らないことにした。


「ああ、あれはここ最近流行り出した

 スーツというものでな。

 サヴィル・ロウという男が作った

 新感覚の礼服だ。」


新感覚どころか

現実に引き戻される気がして

げんなりする。今頃同級生たちは

スーツを着て、インターンシップだの

企業説明会だのに出かけているのだろうか。

俺は今からゲボリアン・チョッパーとかいう

訳わからんおっさんに会いに行きます。

マジで、何やってんだろう。


「ちなみに狩人の間でも

 流行ってきているぞ。

 我が師、クロフォード様も

 ここ数年好んで着用している」


スーツで魔獣狩りなんて

シュール過ぎないか。

まあ、話を聞く限り、

狩人は、登録が認められれば

住まいは用意され、格安で

食堂も利用でき、

その上で、魔獣を追い払ったり

魔獣を倒し、魔石を持ち帰れば

その成果に応じた報酬がもらえるらしい。

歩合制で給料が上がる

サラリーマンとおんなじだ。


「ついでに、あの忌々しい『サラリーマン』めも

 いっちょまえに、着ているな」

え?


「サラリーマンって人の名前か?」

と、すかさずまあちゃん。


「いや、ある狩人の二つ名だ。

 外の世界の言葉で

 『世界を動かすもの』という意味らしい。

 ふん。奴には不相応だ。

 奴の本名はスティーブ。

 ここ数年狩人の中でもかなり幅を利かせている」


おいおい…

「サラリーマン」の意味

壮大に拡大解釈されてないか。

まあ、間違っちゃいないけど。


まあちゃんを見ると

また、何やら黙って

考え込んでいる。


久しぶりに見たな

まあちゃんのシンキングタイム。

王都に来てから

新しい情報が色々と入ってきて

思うところあるのだろう。


後で聞こう。


などと考えていると

あっという間に

景色は変わる。

途中、セレイは車内の光玉に手をかざし、

2回門を通過した。


商業エリア、王都住民エリア、

そして今いるところは、

王都の貴族やら士族やらがいる官僚エリア、

霞ヶ関といったところだろうか。


「ここだ」

車を降りる


中央部の湖がかろうじて見えるところに

その屋敷はあった。

石造りの建物のせいか

やけに冷たく、無骨な印象を受ける。


「下手にうろついたり、屋敷のものに触るなよ。

 この門にもだ。触れただけで死ぬぞ。

 この屋敷のセキュリティには

 ソフィの魔導具を導入しているそうだ。

 私が先導するから、その通りついてこい」


こわ〜。触れただけで死ぬって。

ソフィってだれ?

もう分からない固有名詞は

後でまとめて聞こう。


「セレイです。恩人を連れてまいりましたあ!」

やや投げやりにセレイが

門前の光玉に手をかざして叫ぶ。


「え、セレイちゃん?ウッヒョお!!

 上がる〜〜!!」

気持ち悪いおっさんの声が聞こえ、

門の扉が静かに開く。


先ほど、王都の白門で聞いた声の主と同じだ。

こいつか、ゲボリアン・チョッパー

光玉越しにも伝わってくるこのゲスオーラ。

想像以上のカス野郎のようだぜ・・・。


などと思いつつ

セレイの後をなるべく忠実に歩いていると、

屋敷内に入る前に門が開いた。

そこには、筋肉隆々の角刈りの男が立っていた。

一応、軍服らしきものをきている。

「ああ、セレイちゃん!今日もかわいいね〜〜」

セレイは、まあちゃんを超える

ドライな表情で、軽く会釈する


「ん?ちょっとちょっとなんだお前ら〜〜!!

 あれか?お前らセレイちゃん親衛隊か?このやろう!

 羨ましいぞ!!」


「え、え?」


「はっはっは〜〜!!冗談冗談!!」


突然大きな声で笑われ

いきなり、ガシッと両手で握手される。

握力つえーー。指がいてえ。


「感謝してるっ!!ありがとう!!」


「あ、ああ。いえ・・・。」

やばい。苦手すぎる。


「ゲボリアン様、おはつにお目にかかります。

 私はマサトシ、そちらのものはケンジ。」

まあちゃんがこうべを垂れている。

口には笑みを浮かべているが、目が笑っていない。

その視線は恐ろしく冷たく、

ゲボリアンの目をまっすぐ射抜いている。


怖い怖い怖い。

何を企んでいるのだろう。


「お、おお。こわ!!

 お前怖いな!!なんだその目!!

 そんな目で人を見るなよ!!

 やめて!見透かされるーーー!!」

まあちゃんの視線に気づいたゲボリアンは

勝手にわめき出した。

なんて醜い。


「早速報酬の話をしたいのですが」


「ええ!俺のリアクションに

 ノーリアクション??

 もうちょっと繕え!!

 『いや、この目は生まれつきのものでして』

 とかさあ」


「報酬の話は外でしても?」


「お前さ、無視するなよ。

 流石に、凹むよ俺も。そういう塩対応。」

ゲボリアンの顔つきが変わった。


先ほどまでの

「後輩の前でバカをやる先輩」という

キャラが崩れ、怒りを滲ませ

年下の男の後輩をしめてやろう

という気迫が感じられる。


対して、まあちゃんには余裕があり、

むしろしてやったりという愉悦をにじませている。

ゲボリアンを挑発して、かかってきたところを

正当防衛の名の下に抹殺する気かもしれない。


「ゲボリアン様、先に私の報告から

 よろしいでしょうか」

不穏な空気を察したのか、

セレイがフォローに入る。


「ああ、いいとも。

 セレイちゃんの報告ならいつだって

 聞いちゃうよ〜。

 中で聞こうか」


セリフこそ先ほどの調子を

取り戻しているが

その目は先ほどのように

セレイを見ていない。

まあちゃんを警戒している。


ああ、心臓に悪い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



屋敷に入ると

なんとも悪趣味な

ごてごてとした内装に

出迎えられた。


落ち着かない。

執務室に案内され

そこで、セレイが報告をする。


「なるほど。

 いつもながらセレイちゃんの報告は

 無駄がなくていいわー」


「それにしても・・・

 この二人、そんなに強いの?

 それともセレイちゃんの部隊が弱いのかな?」


なんとも高圧的な物言いだ。


セレイは表情を変えず答える。

「我が隊の練兵不足です」


「ああ、いいねえ、セレイちゃん。

 謙虚な人は伸びるよぉ〜」


う、うぜえええ。


「マサトシ殿、ケンジ殿。

 まずは、セレイちゃんを助けてくれてありがとう!

 そして、随分魔獣を狩ってくれたようだな。

 王都の軍人として、感謝する。

 規則に乗っ取って相応の報酬を渡す」


そう言って、執務室の光玉に手をかざす。


光を放ち、目の前に

ずた袋に入れられた貨幣と

報酬の支払いに関する規約と

報酬の算出方法が書かれた文書が現れた。

すかさず、まあちゃんは、

その文書を手に取り、目を通し、貨幣の枚数を

目で数えている。


「ははは!いきなりちょっとした小金持ちだな!

 ちなみに、二人は今日はどこに泊まるんだ?

 ちゃんとした宿なら、光玉を通して部屋に送り届けることも

 可能だからな。遠慮なく言えよ。」


基本はいい兄貴分なんだろうけどなあ。こいつ。


「ありがたいお言葉感謝いたいします。

 しかしながら、まだ宿も決まっていないので

 いただいたお金は当分はケンジが持ち運びます」

まあちゃんがしれっと答える。


「お、おお、そうか」

ゲボリアンは無理に笑顔を作る。

まあちゃんに苦手意識を持っていることは

間違いない。


「我々はこれで・・・」


「まて」

ゲボリアンの真面目な声色に

冷や汗が出る。


「何か?」

まあちゃんの冷たい声が部屋に響く。


「お前たち、マタック村に住民登録してあるな。

 セレイちゃんの隊に入らないか?

 マタック村の現村長キドラントさんには、

 俺から話をつけておく。

 

 なにぶん、魔獣遊撃隊はまだ新しく編成された隊でな。

 はっきり言って、戦力が揃っていない。

 さっき、セレイちゃんは謙虚にああ言ってたけどよ。実際のところ、練兵とか、それ以前に使えないやつが多すぎるんだよ。

 セレイちゃんがかわいそうだろ」


なんというセレイびいき。

まあちゃんの方を向くと

珍しく迷っている。


「ありがたいお申し出なのですが・・・」

あら、いつのまにか口を開いていた。


「お断りさせていただきます。

 狩人になろうか、迷っておりまして・・・」


「・・・そうか。

 まあ、狩人に入ればまた

 会うこともあるだろう。

 いやー、残念だったな!!セレイちゃん!!

 貴重な戦力を」


「いえ、お気遣いありがとうございます。

 それでは、私共はこれで・・・」

会釈をして部屋を出ようとした時

ゲボリアンのアホな声が響く。


「おお。また来てね!セレイちゃーん」

そう言いながら、

ゲボリアンの目は笑っていなかった。


言いようのない不安を感じていた。

魔女の件はバレていないのだろうか。俺たちの、まあちゃんの能力はバレていないのだろうか。

そんな具体的な気がかりも、もちろんある。だが、それ以上にあのゲボリアン・チョッパーという男と関わりを持ってしまったことに、何故だか不安を感じているのだ。


心は曇天のように曇っていたが、屋敷を出ると、青空がめいいっぱい広がっており、だいぶ日差しが強く感じた。

やはり、屋敷も空調が効いていたようだ。



セレイが気を取り直そうと言わんばかりに

「さて、飯でも食うか。

 私のおごりだ。二人も付き合え」

朗らかにハキハキと言って車を呼んだ。

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