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異世界Good Will Hunting:善意の狩  作者: 寄り目犬
12/34

魔獣の群れに襲われる王都騎士団、セレイ遊撃隊を救出せよ

「まあちゃーん」


公園に俺の控えめな叫び声が

染み渡る。


あろうことか

まあちゃんは俺を庇って

大魔王の凄まじい攻撃に

吹き飛ばされ

目の前で絶命してしまったのだ。


俺は、まあちゃんを失った

悲しみから

真の力に目覚め

手にした剣を振るう

「斬鉄光波斬!!」


シャキーン


大魔王を鎧ごと両断して

あっさり勝利するものの

友は戻らない。


そんな虚しい余韻に浸りつつ

剣を鞘に戻す。


「ぷっ」


死んでいるはずのまあちゃんが

吹き出した。


「おいまあちゃん!死んでるはずだろ!」


「ごめんごめん。こないだと

 おんなじ必殺技の名前だったから」


「なんで?いいじゃん斬鉄光波斬!

 鉄をも斬り裂く、光の波の斬撃だぞ」


「いや、意味不明。

 光の波の斬撃ってなに?

 そもそも鉄を切り裂くには・・・」


「ああ、もういいよ。ああ、冷めた。

 せっかく感動的な『旅』になったのに」


途端に現実に引き戻され、

なんだかものすごく虚しい気持ちになった。

先ほどまでは友を失った関しみに浸っていた

俺だったが、今は自分たちで作り上げてきた

『旅』を失ったことに虚しさを感じている。


「ごめんよー、けんちゃん」


小学校3年生に進級して、

クラスが同じになり

俺たちはますます

一緒に遊ぶようになっていた。

ただ、このころのまあちゃんはだんだん

『旅』に真剣に取り組まなくなっていた。


自分たちで設定を決めて

大魔王を倒す冒険譚。


まあ、平たく言えばごっこ遊び

なんだけれど


それを俺たちは

『旅』

と呼んだ。


漫画やゲームの世界観をぱくりまくって

作り上げられた世界観の中を

旅するのは、

その当時の俺にとって

ワクワクする遊びだった。


小学校1年生になり、

色んな漫画やゲームのストーリーを

それなりに楽しめるようになった

俺は、

まあちゃんに無理やり

『旅』の仲間になってもらった。


近くの雑木林で、

良い形の木の枝を探し、

それを剣や魔法の杖に見立て

近くの公園に

『旅』に出た。


その頃の『旅』は、ひたすら

強くなり、装備を整えていき

悪者を倒して大金持ちになる。


言うなれば、

ひたすら「得る」だけのお話。

そんな超ご都合主義の世界の中で

それぞれの役割を演じていた。

その当時から、まあちゃんの頭の良さを

感じていたから、

配役は俺が剣士でまあちゃんが魔法使いだった。

まあちゃんは

「悟空みたいな武闘家になりたい」

と言ったこともあったが

俺は、

「いや、まあちゃんには

最強の魔法使いがよく似合う」

などと言って譲らなかった。

まあちゃんも、言ってみるだけで

そこまでこだわりはなかったのか、

毎回、魔法使い役を演じてくれた。


3年生になってもその配役は

変わらなかったが

脚本にも少し影を帯び始め、

大団円で終わらずに「友を失う」などの

別れの要素などが加わり、

話に深みが出た反面

その世界に最後まで没頭して

なりきることが難しくなっていた。


確かに、木の棒を持って

空想の大魔王に立ち向かっているとき

「クラスの誰かに見られたら」

と不安に思うこともあった。

でも、これは俺とまあちゃんが

作り上げてきたごっこ遊びだ。

そんじょそこらのチャンバラごっこと違うんだ

という自負が幼いながらあった。


しかし、3年生の夏休み、

唐突にまあちゃんは言った。


「なあ、もうやめよう」


俺は、突然のことで

ショックを受けたけど

色々と思い当たるこことがありすぎた。

何より、まあちゃんがあんまり

言いづらそうに言うから

俺も平気なふりをするしかなかった。

「OK。暑いしね」

確か、そんなことを言ったと思う。


それ以降もまあちゃんとは遊んだが

それはただ

他のクラスメイトに混じって

サッカーをしたり

ゲームをしたり

しているだけで


だんだんと、まあちゃんとの

絆のようなものが

薄れていく気がしていた。


しかし、今

その『旅』の世界は

現実のものとなり、失われた絆を

これでもか、と

取り戻しつつある。


「けんちゃん!後ろ!」

俺の背後に迫っていた

四つ足の黒い魔獣は、

まあちゃんの魔法(ひと睨み)で

体を小刻みに震わせて

その場に立ち尽くす。


すかさず俺は、振り向きざまに魔獣に木刀をふるう。

魔獣の胴はいとも簡単に両断され、完全にその動きを止めた。

すぐさま他の魔獣が炎を吹き出した。

が、

「炎のコードか」とまあちゃんが呟くと

その炎はかき消えた。


俺は、慌てて

炎を吐いた魔獣に間合いを詰め

木刀を一閃

「斬鉄光波斬!」などと叫ぶ余裕はない。

ただ、次から次へと迫り来る

魔獣に向けて木刀を振り回すだけだ。


驚くほどテンパッている。

俺はさぞ、無様に木刀を振り回しているだろう。

目の前のことに集中しているとは、思う。

マインドフルネス状態とでも言おうか


例えるなら

コンビニのレジをしている時に似てる。

気がついたら客が列を作っている時に

とにかく、さばく。

少しでも早くさばく。

そんな感じだ。


コンビニのレジとは違うのは

間違いなく命のやり取りをしているところだ。


鋭い爪や牙、魔獣たちのうなり声、

放たれる炎、そして殺気。

本来なら腰を抜かしているところだろうが


その全てがあまりに

現実離れしていて、

いまだに現実味を帯びていないだけかもしれない。


その魔獣は遠目で見ると

イヌ科のような見た目だが、

赤黒い皮ふに、血管が浮き出ており

足の爪と、牙は鋭く、目は血走っている。

決して可愛くはない。

その上動きはかなり俊敏だ。

元の世界の賢治の運動能力では、

一瞬で哀れな肉塊と化していただろう。


当の本人でさえ、

よくこんなのと戦えているな

と思っているくらいなので

魔獣に襲われ傷つき、倒れた王都の騎士たちは、

うずくまりながらも

「なんて…戦いだ」

と、驚愕を露わにしている。


ただ、王都の兵士は全滅という訳ではなく

皆息はありそうだ。

遠くの方で1人の騎士が奮戦している。

炎を纏い、物凄い動きで飛び回っている。

周りにいる兵士たちのサポートに回り、

魔獣を圧倒している。



あれほど避けていた

王都の騎士との遭遇も

魔獣との遭遇も偶然ではない。


つまり、この状況は

まあちゃんの手によって

引き起こされたものである。



王都に向けて旅をする際、

俺は確かにまあちゃんに

瞬間移動で、移動していくことを提案した。

まあちゃんの瞬間移動は

見えるところ、行ったことのある場所なら

瞬間移動できると聞いたからだ。

それならば、と。

俺がまあちゃんを背負って、

思いっきりジャンプして

視界に入るもっとも遠い地点に

瞬間移動をしていけば

あっという間に王都につける!と

自分の妙案に酔いしれて提案したのだ。


しかし、まあちゃんの腰は予想外に重く

あれやこれやと瞬間移動するリスク

について並べ立てたてきたが

要するに

「移動先に魔獣や、

 王都の騎士が潜んでいたら

 面倒だ」

と、いうことらしい。

そして、最後に本音をぶちまけた。

「・・・あと、男に背負われるなんて

 俺のプライドが許さん」


「いや、魔獣や王都の騎士より

 あんたのプライドの方が面倒だわ」


と、喉元まで出かかったが、

貴重な仲間を失ったら心細いので

グッとこらえた。


まあちゃんは、

自分の生き方に潔癖なところがある。

そして、熱のこもった声色で

己の美学を主張することがある。

普段はロジック第一、エビデンスありきで

話をする彼だが、そういう時は何を言っても

耳を貸さないのだ。



そんなやりとりをしたのがちょうど2週間前。

魔獣と王都の騎士の合戦をさっちしたのがあ

2分前だ。


強化された俺の聴覚に

騎士たちの叫び声や、魔獣のうなり声が

遠方から聞こえたのだ。

俺はまあちゃんに即座に報告し

迂回ルートを提案したのだが・・・

「騎士の人数は20名ほどか…

 おそらく俺の見た大部隊とは別だな」

と、呟くと


「よし、ここで王都に恩を売っておこう。」


そう言って、俺の肩を掴み

合戦のど真ん中に瞬間移動した。


頭がパニックになり

動悸は高まり

足は震える。


さらに信じられないことが起こる。

「加勢する!私はマタック村のマサトシ!」

なんとあのまあちゃんが、

小学校時代の『旅』でも

恥ずかしがったであろう

名乗りを上げたのだ。


そして、言い終わると

こちらを見て目で訴えかけてくる

「けんちゃんも言え」と。


目は口ほどにものを言う

とはよくいったものだ。

まあちゃんの目力に押され

俺も

「お、同じくマタック村のケンジ!助太刀いたす!」

などと、妙に時代がかったセリフを

叫んでしまった。


騎士や魔獣も一瞬動きを止めて

「え、今『いたす』って言った?」

という感じで、空気がどよめいた気がした。


とんでもない巻き込み事故だ。


自分だけが感じる

圧倒的滑った感。罪悪感。

それらを打ち消すために

俺は、敢然と魔獣に向かっていった。


魔獣との戦いは、これで3度目。

2週間のうち、3度魔獣に遭遇するあたり

運がいいのか悪いのか。

しかし、魔獣との戦闘を通して

自分の能力について、

少しずつ理解を深めることができたからこそ

なんとか、体を動かして戦える。


⒈木刀で今の所なんでも切れる。(木、岩、動物、魔獣)

⒉戦闘時、身体は強化され、視覚も聴覚の機能も桁違いになり、

 敵の動きはゆっくり見え、騒々しい中でもまあちゃんの声、周囲の音などを拾うことができる。

⒊敵意や殺意、気配に敏感になっている。

危険察知能力がケタ違いに上がる。



木刀最強説。


とりあえず、自分たちがチートであることは

まあちゃんも1回目の魔獣との戦闘を切り抜けた時、早々に認めた。

「俺たちが小学校の頃にしていた『旅』よりも

 ご都合主義でよかったな。やっすいラノベみたいだ」

と、吐き捨てていた。


ちなみに、まあちゃんの魔法に関しては

もっと底知れない。


出発を決意したあの朝

「旅に必要なものを持って行こう」と

キャンプ場でものを漁っていたとき

まあちゃんは

「全部持って行こう」

といって、手をかざした。

すると

黒い靄が現れて、おいてあったキャンプ道具は

全て吸い込まれた。

「ええ・・・」と若干引いていると

「なんかリクエストしてみて」と言ってきたので

「じゃあ、テント」というと

あっさりと

黒い靄から再びテントが現れた。


四次元ポケットのようになんでも収納できて

好きな時に取り出せるらしい。

ただ、収納できる容量は本人も分からないし、

便利な未来の道具は流石に出せないようだ。


しかし、まあちゃんはポンコツな

猫型ロボットよりも

道具(魔法)の使いどころを理解し、

的確なアドバイスをくれる。

また、先ほどの戦闘でお見せしたように、

魔法を無力化することができるので

未来の道具を出せなくても

ドラ◯もん以上に頼もしい。


魔獣を殲滅すると

そこら中が光り輝いた。

魔獣の身体が赤く光り輝き

光の粒が空中に集まっていく。


魔獣の魔石化だ。

この光景を見るのは3度目だが

とても美しい。


光の粒が次第に形を帯び、

実在感を増し、

血のように赤く、深い紫色をした

結晶が出来上がると、

地面にボトッと落ちる。


あとは、それをまあちゃんが

先ほどの黒い靄で

四次元ポケットに収納する。


王都で売ればどれくらいになるのだろうか。

結構溜まってきている。


一連の作業を終えて、

ふと気がつくと

後ろに騎士が立っていた。


その騎士は先ほどの戦いで

善戦していた

数少ない王都の騎士の一人だった。


顔も鎧も土ぼこりに汚れているが

金髪、碧眼の凛々しく美しい

女性の騎士だ。


「失礼。助太刀感謝する。

 私はザピン王都、騎士団

 魔獣遊撃部隊

 隊長のセレイだ。」

堂々たる立ち姿で、

騎士の部隊長らしく

キビキビと挨拶され、

圧倒される。


「あ、あのー、マタック村のケンジと言います・・・」

と、頭をかきながらおどおどと答えるしかなかった。

我ながらダサい。


まあちゃんはすかさず

営業スマイルで

「私はマーシー。この度は大変な戦でしたね」

と、話しかける。もう自分の名前をマーシーで押し通すつもりらしい。


こういう、

まあちゃんのエセコミュ力を見るたびに

羨ましいような、恥ずかしいような

なんとも言えない気持ちになる。

まあちゃんが俺に負けず劣らずの

自意識過剰で、面倒くさい野郎だというのは

俺が一番よく知ってるんだぞ。


「いや、全く面目無い。

 2週間ほど前、

 魔獣討伐の本隊からの連絡が途絶えて

 我が隊が様子見に遣わされたのだが

 魔獣に襲撃され、このザマだ。」


自嘲気味に笑いながらいったあと、

セレイは表情を引き締め

倒れている騎士たちに向けて

叫んだ。


「そのまま聞け!

 セレイ遊撃隊の勇敢なる戦士たちよ!

 ここにいる方々の助成により

 魔獣は殲滅した!

 恩人の前で、そのような無礼は許さん!

 立て!!

 王都に帰るのだ!

 こんなところでへたばるな!!」


恐ろしく良く通る声だが

威圧感はない。

不思議と心地よく感じた。

次の瞬間、セレイから光が放たれ

騎士たちの体に

暖色の光の粒が降り注ぐ。


一人、また一人と

騎士たちは立ち上がり、

セレイの周りに集まり

片膝をついて、ひれ伏した。


「治癒魔法ですか?」

まあちゃんは、目を細めその光景を眺めつつ

セレイに質問している。

もう、ここからはまあちゃんのターンだ。

うまいことやってくれるだろう。


「ああ、ただご覧の通り

 発動に時間がかかり

 戦闘中は使えないがな。」


「なるほど」


「貴君らはどちらへ」


「我々は、王都に向かっておりました」


「ほほう。その腕前。

 『狩人』となり、ひと旗あげるおつもりかな」


「いえ、『狩人』に所属している『外の人』に

 お会いしたく、参りました。」


「・・・。

 なるほど。

 先ほど、貴君らは、マタック村の者と言っていたが…身なりから察するに

 『外の人』とお見受けする」


「ええ、おっしゃる通り。我々は外から来ました。」


「まさか、『外』の記憶がおありか!?」

え、バリバリ記憶ありますけど。


「あ、いえ、マタック村の方々に拾ってもらい

 自分が外の者だと知ったのです。」

お、まあちゃんそこは誤魔化すのね。

まあ、あの様子だと記憶があるのがレアケースっぽいもんな。


「なるほど。『外』から来た者ならば

一人心当たりがある。

 紹介できるが、会って如何される?」


「・・・。

 この世界でどのように生きているのか知りたいのです。

 我々は、村人と認めてもらえたものの、

 突然得た力に戸惑い、村を飛び出してしまいました。

 どうしてもこの世界で生きていける気がしないのです。

 外から来て、活躍されている狩人の方であれば

 あるいは、と。訪ねてきた次第です。」


あれ、元の世界に帰る件は・・・?

しかし、まあちゃんのその話を聞いて、セレイの表情が

かすかに和らいだように見えた。


「・・・。

 ふむ。

 貴君らの戸惑い、不安、

 私にも覚えがある。

 私も実は外から来た者なのだよ。」


「そうなのですね。やはり記憶は…」


「残念ながらないな。

 生きるため、この力と引き換えに

 記憶は失ったらしい」


「そうなのですね・・・」

なにー!

そういうもんなのか。


確かに、ノーリスクで

こんなにチートじみた力がある方が

不自然か。


本来なら記憶を失うはずのところ

元の世界の記憶がある。


そのことは、

この世界においてどれほど

重要な意味を持つのだろう。

考えると怖くなる。


特別じゃなくていいから。

オンリーワンじゃなくていいから。

選ばれしものではなくて

普通の男の子になりたい。


そんな風に心から思えたのは

生まれて初めてだったかもしれない。

大学に入ってからも

なんだかんだで本当のところ

自分は特別な存在なんだと

なんの根拠もなく思っていたから

あんなことをやらかしたんだ。


自分の過去を思い出すとともに

また一つ王都に

秘密にすることが増えたようで

気が重くなる。


「では、先ほど心当たりがあると言ったのは・・・

 ああ、私自身もそうだが、

 現役の狩人に一人私の友人がいてな。

 紹介しよう。

 何しろ貴君らは同郷の恩人だ。」


そういってセレイは爽やかに微笑んだ。

その笑顔は重い気分を吹き飛ばしてくれた。

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