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prologue

なろう初投稿です!

 「ここからは別行動だ」


 太陽が最高点に到達し、日差しが一層強まる時間帯。

 魔王討伐班の班長であり勇者でもあるグンゼが、洞窟の前で言い放った。


 「ええ。それがいいでしょうね」


 魔女ジョティがブロンドの毛先を指で弄びながら賛成の意を唱える。


 「合流は此処でいいかな?」


 続けて、召喚士テモが皆に確認をとる。

 反対する者はいない。三人が深く頷く中、ただ一人だけ手を上げた。


 「待って。お前たちは戦えるけど、僕は一人じゃ戦えない。それに、今回の件は目的すら聞かされてないんだけど」


 腰にポーチを下げた男――回復職のアスは三人の視線を一身に受けながら、抗議する。


 聖剣に選ばれ、比類なき身体能力を誇る勇者グンゼ。

 五属性すべての魔法を使え、オリジナルの魔法さえ所有する魔女ジョティ。

 魔獣、魔物、飛竜など、あらゆる生物を召喚して従属させる召喚士テモ。


 彼らはたった一人でも一国の全戦力に匹敵する力を持っている。故に、魔王討伐に名乗りを上げ、その冒険に出ているのだ。

 だが、そんな化け物揃いの一行に場違いな者が一人。


 回復魔法がな少年アス。


 唯一無二の存在である勇者、魔女、召喚士とは違う、ありふれた回復職の少年だ。

 特別な回復魔法が使える訳ではなく、ただ得意というだけのレベル。前線で戦える力を持ってはいるが、他のメンバーを見れば足手まといだろう。

 しかも、メンバーがメンバーなだけに怪我を負うことも滅多にない。

 完全な邪魔者だった。

 いない方がマシ。お荷物。戦犯。

 それが、班員のアスへの認識だった。


 「アス。今回は大したクエストじゃない。ただ洞窟に生える薬草を採取するだけのクエストだ」

 「そうそう。それに、この洞窟はスライムの生息地だけど、大型のモンスターどころか中型モンスターすらいないわ」

 「そういうことだから、別れた方が効率がいいんだよ」


 三人の意見を聞き、アスは納得する。

 スライム程度のモンスターならば、回復職のアスでも充分凌げる。それに、洞窟内に生息する薬草の多くは調合用のもの。

 回復職が調合することによって、効果が倍増するものだ。


 「アスも理解してくれたみたいだし、そろそろ入るか」

 「あ、待ちなさいよ、グンゼ!」

 「ジョティも待って!」


 勇者に続いて三人が洞窟に潜る。

 アスが足を踏み込んだときには、三人の姿は見えなかった。早くも散策に出たらしい。

 普段のクエストでは、あまり役に立たない自覚があるアスは、今回のクエストを張り切っていた。


 どんどん奥へ進み、外からの光が届かなくなってランプを着けた頃。

 アスは大きく開けた場所に出た。

 洞窟とは思えないほど天井が高く、壁には装飾品にもなる高価な鉱石があり、その中央に一本の木が生えている。

 

 「なんだ、ここ……」


 班員とあらゆる場所を冒険してきたが、こんな光景は初めてだった。

 周囲を見渡していると、木の根本に薬草が茂っているのが目に入った。

 アスは木に駆け寄り、腰を屈めて薬草を採取する。


 「流石はジョティさんだ。中型モンスターどころかスライムにすら出会ってないや」


 採取した薬草をポーチいっぱいに入れ、腰を伸ばす。


 「草むしりしてた村のおばあちゃんの辛さを体感した気がするな……」


 以前、班員で助けた村の老婆の事を思い出しながら広場の散策を始めた。

 薬草の他にも鉱石を削り、木の枝からぶら下がる果実を取る。どれもこれも市場では滅多に見かけない代物だ。

 

 ――きっと、これを持って帰れば班員の皆も見直してくれる


 そんな甘い想いを抱いて、アスは広場を後にした。

 班員を驚かしてやろうと、アスの足は速度を上げる。行きよりも遥かに早い速度で進み、気が付けば日光が差し込むところまで帰ってきていた。

 外に三つの人影が見える。


 (あれ、皆も早く帰ってきたのかな……?)


 アスは更に速度を上げ、最早駆け足と呼べる速度で外を目指す。

 三つの影が班員だと確認できる距離まで近付いた時。


 「――アイツ、本当に使えなかったな」

 「全くよ。私の魔法の邪魔しかしなかったわ」

 「俺の召喚獣にすら邪魔者扱いされてたからね」


 背筋が凍るような感覚に襲われた。

 咄嗟に岩影に姿を隠したアスは、耳を澄まして三人の会話を盗み聞く。


 「それも、今日で終わり。アイツともお別れだ」

 「あ~! ホンットに清々するわ」

 「……ところで、ジョティに任せてた件は完了したのかい?」

 「当然でしょ。しっかり刺激しておいたわ」

 「そうか。良くやったな、ジョティ」

 「これで、よっぽど悪運が強くない限りは生還できないだろうね」


 アスの肩が震える。

 名前が出された訳でもないのに、アスの震えは止まらない。

 三人の会話に出てくるアイツの正体が、アス自身であることを実感していた。


 「だが、ヤツ――ワイバーンを刺激して大丈夫なのか? 洞窟から出られるとマズイぞ」

 「その点は抜かりないわ。アイツの手袋を魔法と一緒にぶつけてやったから、きっとワイバーンの狙いはアイツに集中してるはずよ」

 「そのアイデアは俺のなんだけどな」


 ハッと、アスは右手を見る。

 今朝、クエストの準備をする時に見付からなかった右手の指ぬきグローブは、ジョティに盗まれていたのだと判明した。

 だが、怒りよりも焦りが強く押し寄せる。

 

 (狙い……だって? ワイバーンの狙いが……僕!?)


 冷や汗が頬を伝い、地面に落ちる。

 ほとんど同時に、洞窟の奥から咆哮が轟いた。恐らくは、ワイバーンの。

 

 「おお。ワイバーンのヤツ、怒ってるな」

 「まあ、アイツを喰らえば収まるだろ」

 「それじゃ、最後の仕上げね」


 ジョティの杖から炎の球が発射され、洞窟入り口の上部を崩壊させる。

 洞窟全体を揺らすような衝撃に、アスは目を瞑る。

 暫くすると、揺れも収まった。

 

 「嘘……でしょ……」


 目を開いて飛び込んできたのは、崩れ落ちた岩石に塞がれた洞窟入り口だった。

 唖然とするアスの耳に、僅かに笑い声が聞こえる。


 「逃げられて、俺たちの噂を流されでもすれば面倒だからな」

 「だから、逃げ道を塞いだのか。流石だな」

 「ちょっと、崩したのは私なんだけど」


 声は段々と小さくなっていく。


 「――じゃあな、役立たずの回復職」


 それっきり、外からは何も聞こえなくなった。

 鼓動が早くなる。顔から血の気が引き、足が震える。

 

 (裏切られた? 見捨てられた? なんで、なんで……? 戦闘では役に立たなかったけど、怪我や毒をもらった時は頑張ったじゃないか……!)


 奥歯を噛み締めて、岩石の壁を殴る。


 「ふざ……けるな……!」


 段々と怒りが込み上げてくる。

 自分なりに工夫し、編み出した独自の魔法で、なんども致死量の毒を解毒した。二日も放っておけば命を落としかねない大ケガも、夜通し治療した。非力な体で、前線にも出た。

 そんな努力を理解してくれていたと信じていた仲間に、あっさりと捨てられたのだ。


 「ふざけるな!  グンゼ!  ジョティ! テモ! ここから出せ!」


 何度も殴り付ける。

 拳から血が溢れる。腕全体が痺れた。

 叫びながら殴り続けていると、またも咆哮が響く。さっきよりも遥かに近い距離での咆哮だった。

 アスは振り返る。


 「う、うわあああああああああああああ!?」


 翼を広げれば家二軒分ほどの大きさがあるであろう黒龍――ワイバーンが、鋭い眼光でアスを睨み付けていた。

 腰が抜け、尻餅をつく。臀部を地面に擦りながら後退するも、すぐに背中は行き場を無くした。

 震える手でポーチを漁る。……が、武器になりそうなものは何もなかった。

 そうしている内に、ワイバーンの頭が下りてくる。

 両手を顔の前でクロスさせ、防御の姿勢に入ったアスの腕を、


 ――ペロ


 と、生暖かい感触が走る。

 恐る恐る瞼を上げると、そこには拳から流れる血液を舐めるワイバーンの姿があった。


 「……え?」


 混乱するアス。

 アスから震えが消えたことを確認するように、瞳を覗き込んだワイバーンは体を地面に伏せた。


 『我がご主人様よ――』


 人語を話し、服従の姿勢を取ったワイバーンを目の当たりにし、


 「……え、えええええええええええええ!?」


 アスの絶叫が、洞窟内に木霊した。




 

  


 

 


 

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