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八雲先生の苦悩  作者: 夏目 碧央
4/20

体育の後で

 5月になると、時々夏のように暑い日がやってくる。今日は日差しが強く、30度近くまで気温が上がっていた。

 6時間目、2年2組に授業をしに行くと、5時間目が体育だったので、まだ生徒たちは着替えの最中だった。まだ休み時間中なので仕方がない。それにしても男ばかり25人が汗をかきまくっていて、むさくるしいやら汗臭いやら。冷房はまだ使ってはならないと学校で決まっていて、窓を開け放って、扇風機をかけているものの、暑い。教師はワイシャツにネクタイというスタイルを崩してはならないと、これまた学校の方で決められているので、俺は暑くてもネクタイを締めていた。

「あちー、制服着たくねえ。」

「だよなー。」

生徒たちはチャイムが今鳴っているというのに、体育着や下敷きで自分の顔を扇いでいて、騒がしい。まだ着替えが終わっていない生徒もいる。俺は教室に入り、荷物を教卓に置いたものの、何となくぶらぶらしていた。そして、当然気になる颯太の方へそれとなく視線を向ける。

 はっう!

 見てはいけないものを見てしまった、気がした。颯太は汗をかいて前髪が濡れており、顔が上気して頬が赤く染まっていた。手で顔を扇ぎながら口からふーっと息を吐き、ちらっと俺の方を見た。

 は、鼻血が出そうだ!俺はぱっと窓の方に視線を移した。そして、腕組みをしてそのまま窓際まで歩き、開け放たれた窓辺に立ち、外を眺めた。落ち着け、俺。まさかここで鼻血を出したら洒落にならない。深呼吸だ。深呼吸。だが、もう一度颯太の顔を見たい。いや、まずいだろう。だが見たい。見たい、ああ、振り返りたいが・・・。

「先生。」

いやあ、振り返ったらまずいだろう。本当に鼻血が出てしまうかもしれない。

「八雲先生。」

だが、颯太のあんな顔が見られるチャンスなんて滅多にないかもしれないし。

「八雲先生?」

「ん、あ?」

俺は我に返った。振り返ると、クラスは静まり返っており、みんな制服に着替えて席に座っていた。いつの間に静かになっていたのだ?

「先生、どうしたんですか?大丈夫ですか?」

「暑くておかしくなったんじゃね?」

悪態をつく生徒も、いる。それは仕方ない。俺は教卓まで、ゆっくり歩いた。この事態をどう乗り切るか、頭の中は忙しなく動く。

 教卓にたどり着き、両手をついた。クラス全員の顔を見渡す。ああ、颯太は可愛い。が、今はそれどころではない。みんな俺が何を言うか興味津々だ。みんな俺に大注目している。

「うん、良い集中力だ。授業を始めるぞっ。」

俺は国語の授業をいつも以上に張り切って始めた。生徒たちはキョトンとしたまま俺のペースにはまって行った。おしゃべりする隙を与えない、俺。


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