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八雲先生の苦悩  作者: 夏目 碧央
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3年生の始まり

 颯太は3年生になった。俺も無事に持ち上がりで3年生の担任になれた。けれど、3年生になると理系クラスと文系クラスに分かれるので、理系の颯太は国語教師の俺のクラスではない。これはずっと前から分かっていた事だ。

 とはいえ、クラスは1組と2組で、隣同士なわけだし、毎日会えると思っていたのだ。しかし、その考えは甘かった。理系には国語の授業がほとんどないし、ちょくちょく隣のクラスを覗いているわけにも行かない。2年生の時には、毎日ホームルームで朝夕顔を合わせていたのに、顔を見られない日々が始まってしまったのだ。

 それでも、時々廊下でバッタリ会える時がある。それに、進路指導の授業は1,2組合同なので、その時には顔を見ることができる。それでも、話すことは滅多にない。颯太の方から質問しに来ない限り、ない。国語は国立大の一次試験でしか使わないわけだから、3年生の最初から勉強するはずもなく、放課後の質問もあり得なかった。はああ、寂しい。

 ある日、気が付いたことがある。1,2組合同での体育がある時間、俺は空き時間だという事だ。教員室の窓からは校庭を眺められる。2階の窓から体育を眺めれば、颯太の事を一時間見ていられるのだ!ちょっと遠いけれど。俺はそんな風にして、思いっきり片思いを満喫していた。こんな事は人生初だった。

 「どうしたんですか、二ノ宮先生。誰か、気になる生徒でもいるんですか?」

「えっ。」

校庭をじっと見ていたら、急に隣から声をかけられた。同じ3年生の教師だが、担当クラスは離れている。

 き、気になる生徒!?図星!いやいや、待て。そういう意味で聞かれたのではないはずだ。普通教師が気になる生徒と言えば、問題を抱えている生徒、という事だ。そのはずだ。

「あ、いえ。特に誰というわけではなくて。みんなストレス溜めずに元気にやってるかなーと思いまして。」

とっさに取り繕う。

「楽しそうにやってますな。もうすぐ体育祭ですね。特進クラスは、また作戦を練って来るんでしょう?怖いなあ。」

俺は苦笑いを返す。体力や運動能力では到底かなうはずのない体育クラスに、特進クラスがいかにして対抗するか。生徒たちはそこに楽しみを見出している。去年は惜しくも3位だったが、今年は優勝したいと言ってクラスで盛り上がっているのを見聞きすることもあった。

「彼らには、それがストレス発散なんですよ。頭を使う事が。」

そう返すと、

「うちのクラスは体を動かす事が、ストレス発散です。間違いない。がはははは!」

同僚教師は笑いながら去った。校庭を見ていると、生徒同士でよく話し合いながら、バトンの練習などをしている。

「体育祭か。」

何となく呟いた。そして、去年の体育祭を思い出した。颯太が足をくじいて、肩を貸した事。

「うっ。」

どうしたのだろう。急に心臓がズキンと痛んだ。


 授業に向かうため、3年生の教室の前の廊下を歩いていた。1,2組は体育から戻ってきて、着替えをしている。俺は心なしか1組の前を歩く時に速度を緩めた。颯太はいるか・・・あ、いた!

―ガラガラガラ ピシャリ―

ひどい。ドアが閉められてしまった。いや、誰かがわざと俺の視界を遮るために閉めたのではない。廊下から教室に入って行った生徒が、普通に閉めただけなのだ。ああ、もう見えない。がっかりだ。俺はうなだれて2組の教室に入って行った。


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