哀 Ⅰ
処女作です。至らない点がありましたら。教えていただくと嬉しいです。
次回の投稿は間が空きます。
ソレは駅にいる。
周りには人はおらず、静寂の空間が無限に広がっていた。いつもと雰囲気が違うことから不安を覚えたのかソレは呟いた。
「此処はどこだ…」
周りと馴染めないソレは、まさに異質だ。
ソレは辺りを散策して、この現場を一秒でも早く抜け出したいと思いを馳せているが、ふと、ソレは立ち止った。
(私は誰だ…)
瞬間背筋が凍ると視線を感じた。
振り返ってみたが、後ろは黒のような色に塩渦が足されたものが生まれただけだった。怖くなって、いち早くいなくなりたいと思い走った。
ソレはその場を走り去っていった。
ソレはプラットホームのベンチで一本しかない線路を眺めていた。周りは金網で囲まれておりさっき降りてきた階段しかない。草もガムの跡も人もない何かを厳選するような空間だ。すると、ソレは視界に鉄錆がポツポツとある鉄柱に緊急停止用のボタンがあるのを気がついた。“いつも”なら気になることがある筈が無いであろうボタン。何処の駅にもあるようなボタンにソレは魅惑を感じていた。ソレは一目散に近づいてボタンを覗いた。ボタンには文字が書かれている。
「落合 哀人」
知っている。最初に見て思ったのは、その一言だったろう。
そのボタンを眺め押すか押さぬかの葛藤の中に九分の好奇心と一分の恐怖に“私”の中で変わった。 私はそのボタンの姿に意味深な気配をかんじた。悩みに悩みボタンを押した。
カチッと音と共にボオー、ガシャン、ガシャンという重量感のある騒音が頭の中を掻きまわした。その騒音の中に一筋の光が“私”の目を差しながら近づいて来た。その光の正体は闇に溶け込む様な真っ黒に塗りつぶされ、所々に塗装が剥がれたSL列車だった。その列車は私とは違いこの無限に広がる闇に合っていた。いや、その空間と列車は一心同体の生命体に見える。
列車は目の前に止まりドアの開いた奥の景色は血塗られた様な赤色のシートとそれを包み込む深い青い光だ。窓はあるが無意味だろう。兎に角私は、椅子に座る。座るのと同時にドアと発進するための起動音。その音にビクッとなってしまった。
これから何が起こるのかわからない不安に恐慌してやまない。
今、動き出した。
動いている。数分だろうか、数時間だろうか、ただ、時が過ぎていくのを感じている。そのせいか精神の軸が唸りだしたのかじわじわと心を占める感情が変わっていた。
恐怖に…
(私は何故此処にいる?この列車はどこ行く?落合哀人とは誰だ?)
いつの間にか、私は自分に自問自答を繰り返していた。だが、どの質問にも返答は皆無であった。所々抜けている記憶。バラバラになっている破片。あるものが無いその恐怖が、脳内を埋め尽くす。しかし、恐怖が脳にストレスを与え続けたせいなのか、私は不意の睡魔に浸食されてしまった。
“私“はソレを見ている。ソレは眠っている。私はただ願う。○○を手にいれることを…
何時間眠っていただろう。朦朧とする中で意識を覚まそうとしたが、急激に襲う頭痛でその必要がなくなった。
「大丈夫ですか?」と隣から声がした。
頭痛に耐えながら隣を見上げると、10代後半の明眸皓歯で少し小柄な女性が心配そうに話しかけてきた。その女性の姿を見ていると頭痛は頭の外へ抜けていき、その代わりに涙が頬を沿った。自分の中とは違うところで、何か揺さぶられる感覚だった。自分の涙を見てだろうか、女性は戸惑っていたので、急いで気を鎮め、涙を拭い先ほどの言葉に対応した。
「すみません。大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」と頭が回らず、素っ気ない言葉が喉を通り越してしまった。
「いえいえ。大丈夫なら、良かったです。あと、早く立った方がいいですよ。丁度、きましたので。」と微笑みながら、言ってくれた。私は「はい。」と一言言いながらは立ち上がり、辺りを見回した。辺りはサラリーマンや学生が溢れ返っていた。隣にいる彼女もそうなのだろう。ふと、時計を見た。時刻は「7:30」を指していた。瞬く間に、目の前で暴風と重量感のある塊が止まろうとしていた。電車は止まるのと同時にドアが開いた。みんなはシートを取り合うために乗り込んでいく。自分も“いつも”のように乗り込んでいく。その瞬間、意識は暗闇に落ちた…
私はいつの間にか何もない谷の底の様な空間を漂っていた。不思議と先程の感情は無く、逆に安心感や喜悦感が心から海のように湧いてくる。そのような感情に浸りながらあの状況をクリアになった頭で思い返してみた。
(何故、駅にいたのだろうか?何故、あの女性のことを考えると嬉しいのだろうか?)
深く考えれば考えると謎が深まるだけ…いや、何もわからなさすぎる…。
何時間考えていただろう。疲れてきたのか不意に睡魔が訪れてきた。私は天使に身を預けるように目を閉じた…。
顔に風の塊が高速に当たってきた。自分は驚いて後ろに転んでしまった。
「大丈夫ですか?」と隣から聞こえてきた。その声が気になって視線を動かすと前にも見た女性だった。女性はこちらを微笑みながら手を差し伸べてくれた。
「ありがとうございます。」と恥ずかしく申し訳なさそうに手を受け取り立ち上がった。
「いえいえ。しかし、私たちってよく。会いますね。昨日も夜もバッタリ会いましたし…」
「そ、そうですね。あっ…自分は落合哀人といいます。」と自然と口走ってしまった。
(やってしまった!まだ、二回しかあってない人に対して馴れ馴れしいだろうよ!)
「あ…はい。私は天川千春と言います。よろしくお願いします。」と微笑みながら返してくれた。
(少し、戸惑っていたが大丈夫か。)
「よろしくお願いします」と自分達はお辞儀し合った。すると、ゴチンッっと鈍い音が脳内に響き合った。
「イタッ!」と涙目になった。
彼女も相当痛かったのだろうか悶絶しながら蹲っていた。私は「すいません」と蹲っている彼女に対して土下座した瞬間、目の前は暗転した。
また、暗闇。
(戻ってきたのか…。しかし、この空間はなんだろうか?周りが暗いくせに自分の姿ははっきりとみえるし、この空間にいる時も時間は進んでいるのか?)と考える像のポーズの真似をしながら考えていると手首にいる時計が目に入った。針の指す数字は短いのが12で長いのが12の右の小さなメモリを指していた。さらに言うと秒針も12をさしていて、動いていなかった。そして、不思議に思うことがあった。それは、針が動かないことといつも?付けている時計が違うようなことだ。どちらもおかしいのは分かる。だが、砂漠の中をさぐってもカギは見つからず何一つ分からない。外そうと思っても外せない。何時間したら針が動くかとおもえども動かない。何時間も試してみたが、何も起きず、毎度の様に睡魔に襲われた。
目の前が光に包まれた。刺激を受けた視界が回復して辺りを見渡すといつもの駅だった。いつも通りの騒音。走るサラリーマン、電話で誰かと話す女子高校生、ベンチに座って電車を待つ老人などと駅のプラットホームは色々な人々が行きかっていた。その様子を見ているとトントンと誰かが肩にリズムを刻んできた。その正体を確かめようと振り返ると…
「おはようございます!落合さん。」
こちらにひまわりのような笑顔をむけている天川千春さんだった。
「おはようございます。天川さん。」と微笑みながら彼女に向って言った。すると、彼女は「はい。」一言間に入れると話しかけてきた。
「聞いてくださいよ~。落合さん。私、昨日先生に言われたのですよ。お前は頑張りすぎだ。もっと余裕をもって勉強しろよ。ミスもなく完璧だがペースが異常すぎる。お前はまだ高校生だろ。もっと遊べ!って…まぁ、心配してくれるのは嬉しいのですけど…」と不服そうに頬を膨らませて言ってきた。その姿は体格と同じぐらいの幼さが感じられた。
「いいじゃないですか!私なんていい加減勉強しろ!や今勉強しないでどうする!とかグチグチ言われるんですよ…まぁ、正しいこと言っているいい先生なんですけど、長く引き留め続けるのはやめて欲しいんですよね~」
何故か恥ずかしくなったので手を頭に持っていってしまった。
「お互いに大変でいい先生持っていますね。」
そういいながら、笑う彼女をみていると、また、どこか恥ずかしくなってしまった…
そんな思いを吹き飛ばすのか様な春一番の風と共に電車が来た。
電車はプシューと止まるとドアを開けた。
気持ちを今まであった気持ちを簡単に取られたような気分になった。
まぁいいや。と電車に歩みよった。矢先に暗闇に吸い込まれた。
誰かいる。咄嗟に感じた。辺りを見渡すと、四人だろうか。全員子供ぐらいの大きさだと思う。黒く靄が掛かっておりハッキリとは見えない。何をしているのだろうか?話しかけようにも話しをかけれない。何故か声が出せない。映画の様にただ見るだけしかできない。
子供たち?は四人で何かを話し合っている。すると、何か決まったのか彼らは何もない虚空に走り消え去った。まるで、そこにいたこと自体が幻覚の様に…。
数時間しても私は彼らが居たであろう先を見ていた。いや、正しくは目が離せなかった。不思議とそう感じる。さらに、なんとも言い表せない喪失感、暗いはずなのに目の前がチカチカとなる。本当にこの感覚は何だろうか?窮屈で仕方がない。一畳の部屋に押し込まれたような。
誰か助けてくれ…。
こんな事忘れたい…。
目を瞑る。
次に目を開くと、毎回同じの駅にいた。
今回は辺りを見渡さずに太陽だけみた。何も考えずにただ太陽を…。
すると、かたを叩かれた。
「おはようございます。」
天真爛漫で輝いた声音だった。
「おはようございます。天川さん。」と振り返りながらあいさつした。
「はい。落合さん。」と微笑んでいた。
この笑顔みると自然と嬉しくなってしまう。今さっき考えていたことが解けていくように感じる。
「どうしたんですか?嬉しそうな顔して、いいことでもありました?」
(やべっ!にやけていたか。平常心を保て!)
「いや、気にしないでください。あ、そうだ学校。どこの学校に通っているんですか?」
と少し話を逸らしてみた。
「え?昨日話しませんでしたか?同じ学校じゃないですか。ちゃんと聞いてたんですか?私が11組で落合さんが10組でとなりですね~ってはなしたじゃないですか~。」
少し眉を顰めながら彼女はいった。
「あぁ~そうでした。物忘れが早くてだめですね~もう歳ですかね~」
「少し早すぎですよ。あ、そういえば、定期テストはどうでしたか?わたしは完璧ですよ!フフッ」
(そんなのあったのか?まぁ、いいや。言ってやろう)
瞬時に思い付いた言葉をドヤ顔でこちらを見てくる彼女に私は言ってやった。
「多分、国語以外赤点ですね!フフッ」
「え…それってやばくないですか?」
「やばいです。」
「と、とりあえず、電車も来た様なのでのりましょうか。」と電車のドアが開く音とともに歩き出した。それを追いかけるように私も歩いた。電車中は、ふつうで端にシートがあり上にはつり革がぶら下がっていた。
「こっちですよ。」と手招きしてよんでいるので、したがって隣に座った。
電車の椅子に座ると太陽の温かさによってなのか眠くなってしまった。
「すいません。少し眠らせてもらってもいいですか?なんか眠くて」
「はい。いいですよ。駅に着いたら起こしますね」と優しい眼差しをくれた。
「ありがとうございますぅ...」
「......さん......落合さん。おきてください。落合さん。」
「んあ?あ、はい。起きていますよ。ありがとうございます。」と立ち上がりながら出口に向かった。
「よく眠っていましたね。あと、夢でも見てたんですか?ニコニコしてましたけど?」と微笑む彼女は言った。
「そうなんですか?...」と聞き返すのと同じに視界は黒に染まった。
少しこの空間に慣れてきたかもしれない。前の時は少し狭かったけど、今は少し広く感じる。天川さんのおかげなのかもしれない。
(そういえば、今回はあっちの世界に長くいた気がする。もしかしたら、次第にあっちの世界に過ごす時間が長くなっているんじゃないか?)
ふと、時計を見た。時針は12を分針は小さなメモリ二つ分ぐらい右にズレていた。秒針は6の数字を指している。
明らかに時計は動いている。しかし、今は動いていない。
(この時計は時間に関する何かを示しているのだろう。分からないが。まぁ、徐々にヒントを探していこう。しかし、天川さんと学校同じだったんだなぁ。これから、言動に注意しなければ!)
気持ちが本当に楽になったのだろう。泥沼の様に重く沈んでいた気持ちが無く感じる。今は、前向きな感覚が強い。