表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
五章:ミシルと罠師の糸
99/302

幕間:ドゥイの鍛冶~クェンデル山岳部~

更新しました。



 山での生活がまた始まった。

 俺――ドゥイは、居候だった連中とユウタの相棒を見送って、またドン爺との静かな生活に戻る。二人での生活……いや、ジンシが居ねぇと静かなモンだな。息苦しさは感じねぇにしても、寂しいって気持ちが確かにある。

 あいつの所為で、俺は二人分の仕事をしなくちゃならん。山頂での天候の予想、それから仕入れ番、ドン爺の世話……やべぇ、忙しい。


 そんなある日、ドン爺が工房に火を付けた。


「なっ、何してんだ爺さん!?」


 俺は思わず怒鳴った。実は爺さんに教えられ、ちょくちょく鍛冶をしていた。だから少し思い入れがあるし、何より此所はこの人が大事にしてた場所だ。

 「もう要らんだろう」と、素っ気なく応える。


「何でさ!?」


「ワシは最後のヤミビト、そして無名のヤミビトの刀を打った。なら、もうお役目後免だろう。本当の意味で、これ以降ワシは刀を打つ事はない」


 その時のドン爺の顔が晴れ晴れとしていて、俺は押し黙った。






  ×       ×       ×




 工房を焼いてから数日として、ドン爺が体を壊した。恐らく、工房を失ったから『神の加護』とやらが消えたのだろう。長らく生きていたその体が、いよいよ限界を迎えたのだ。

 床に仰臥したまま、ドン爺が俺に振り向いた。部屋の隅でその視線を察した俺は、そちらへ膝行って近付く。


「どうした、ドン爺」


「ワシはもう死ぬ」


「判るぜ、今回はどうしようも無さそうだからな」


「ふん」


 ドン爺の体は、工房と一緒に焼かれてるみたいに縮んでいた。肉が削げ落ちて、頬骨が深く浮き出ている。


「ドゥイよ、この山を離れて何処かへ行くが良い。ここぁ不自由だろう」


「んな事ぁねぇよ。俺ぁ此所が好きだ」


 俺がそう応えると、ドン爺が笑った。


「そうさなぁ……まぁ良い。だが、ワシが死んだら、好きにしろ」


「ああ……」







   ×      ×      ×




 それからドン爺は静かに逝った。珍しく、あまり無駄な会話をしない爺さんが饒舌で、その分悲しくなったが。

 ジンシと同じ場所に葬ってやった。長い務めを果たした後……その魂がとうとう呪縛から解き放たれた、新たな門出みたいなモンだ。ゆっくり休みな、爺さん。


 それから、不思議な事が多々あった。

 燃焼した筈の工房が復活したり、届かない森の景色が見えるようになったり。あれから変な声も聞こえる。


 ……やれやれ、どうやら受け継いじまったらしい。


 俺はあれから剣を打っては、ラングルスへ売るようになった。前みたいに墨やら薪を売るよりも儲かる。その分、大変さとかこつなんかも判ってきて、ドン爺がしていた仕事がどれだけ凄ぇかも理解できた。剣よりは道具鍛冶が多いけどな、包丁とか色々。


『鍛冶師よ、剣を打て。闇人の剣を打て』


「うるせぇ。生憎だが、こちとら注文が色々と入ってて忙しいんだよ」


 俺はそういって、神様とかいう奴の声を無視する。

 もし、此所を訪れて剣を打て、っつー輩が現れたら、代金を請求してやる。

 だが、そいつに黒印が付いてる事はねぇ。何故なら、ユウタより後に、きっと神様に従うヤミビトは居ねぇから。

 俺はただの鍛冶、それ以上でもそれ以下でもねぇ。


「師匠、今回の出来はどうでしょうか!?」


「駄目だな、まだだ」


 何より、今は弟子の育成で忙しいんでね。

 孫弟子のこと、見守っててれよ爺さん。











次回、第五章の登場人物紹介です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ