手繰る糸は運命に結ばれて
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地下水道を奔走するのは四人――いや、正しくは三人である。ユウタは耳栓を取り、周囲から差し迫る胸囲の気配を察知して道を選び、両腕でムスビを抱えて水を蹴る。さしものユウタも、ここでは足音を立てた。負傷は無いが、魔力の消費が激しい故に満足に身体を動かせない彼女を運ばなくてはならなかった。
ムスビはというと、時折、ユウタの頤の下に額を当ててすり寄ったり、襟を掴んで身を丸めたりと忙しい。何事かと確認する暇もなく、ドゥイとミシルが先導する一座は、追手を撒いて地上へと脱する。
主犯と思われたワバトが瓦礫の下で事切れたとなれば、町を蝕んでいた呪いも解ける。町人にかけられた呪術は消失し、いつもの人の営み、平生の地響きのような喧騒を取り戻す。四方八方へと自由に往来する人波を掻き分けることには難儀したが、これがまた刺客との距離をさらに伸ばすのに好都合であった。
ムスビの話に聞く【獅子】の使者が途中で合流し、裏切り者はウェインであり、それを撃退したジンは組織を引き連れ、館から町の外へと既に脱出していると伝達をしに来た。
第三区から町の外へと抜けた面々は、再びクェンデル山岳部にあるドン爺の工房を目指した。ドゥイに導かれておよそ数時間を掛け到着すれば、【獅子】と合流する。負傷したムスビの事情に対し、彼女を抱えていたユウタはジンからの詰問を受けることになったが、彼に責は無いとして事なきを得た。
大人数を匿うことは出来ず、数日の内に【獅子】の殆どが次なる拠点へとそれぞれ分散して行き、主要人物であるジンと参謀の一人を残して、工房から出発した。その分、ドゥイと共にユウタが食糧となる物を都合するのに苦労したことは、全員が知っている。ミシルは猟に関しての知識は無く、疲労困憊のムスビは動く事もままならない故に二人が担当すると定まった。
その間、ユウタの下に三通の手紙が届く。確認した彼は、承諾の意を伝える内容に安堵する。これで、後顧の憂いなく決戦へと臨める。首都で相見えるであろう双子の氣術師と戦う方針が決まった。その案件にも、<印>の策謀が関わっていると読んで、ジン達が後援に付くという望外の展開にはユウタは歓喜したが、やはり断固として彼等の処断については自身が行うことを譲歩せず、ジンもまた並々ならぬ意気があるとユウタの主張を認めた。
間隔を置かず首都への出発は危険とされ、仇敵の到着に合わせる。獣人族の殲滅を合図し、神樹の村の焼き討ちを実行した存在への怨みについて、ユウタとジンは利害が一致している。尤も、ユウタとの同行を主張するムスビと反し、ユウタはジンに同道するよう彼女に勧めた。一ヶ所に二人の指名手配者が留まれば、使嗾される刺客はラングルスで体験した量を遥かに上回るであろうことが予測される。何より、それが西国の中枢となれば、敵は刺客だけでない。国に養成された王直属の騎士団が、国賊を排するべく剣を執る。
ムスビは渋々とこれを承諾。旧知の仲であり親友ともなれば、信頼関係も心配はない。わずかな嫉妬を懐きながらも、ユウタはジンに彼女を預けると伝えた。
その間も、西国の騒乱は絶えなかった。
国境の蟠りは余波を国へと伝播させ、今まで沈黙を守っていた国家の反乱分子にも影響を与える――ドゥイが町から入手した確実な情報とは疑わしき伝聞では、既に首都へ向けて大量の軍勢が押し寄せているという。皮肉にも、これらが現在その勢力の移動速度や人数、気候や地勢を勘案しても、ユウタ達が首都を訪れる日と重なる。
避けられない場合、ユウタ達の敵は<印>と首都だけではなくなるだろう。
× × ×
曇天の空には、未だ青々と生い茂る森がある。寒風が樹冠を撫でると、揺れる枝葉が季節を錯覚させる。この森が枯れることなく、緑の火を燃やし続ける理由はドン爺以外に把握していない。クェンデル山岳部の山頂、そのガレ場には岩の表面に付いた朝露が凍り、見回りに赴くドゥイの足を阻んでいる。この地帯にある雨季は、夏から秋にかけての時期のみであり、初冬には寒気のみを残して雨雲は霧散していく。
森の中で暮らしていたユウタにとって、冬のシエール森林は懐かしい故郷を思わせる気候となっていた。思い起こす旧故の念に亡くなった友人への悼みを胸に、決戦当日を待つ。待望した双子の守護者――否、氣術師との対決。捕らえられたと思われるハナエの妹カナエの所在、そして<印>の思惑以外に彼等と交わす言葉は無い。リィテルで宣言したのは、双子への復讐。ユウタの胸を絶えず焼き、衰えることのなく望んだ憎悪の仇討ちが遂に果たされる。
騒動から一月、出発の前日。
仕込み杖の仕上げ砥を終えたユウタは工房を出た。外では熾火に体を温めていたムスビの傍にジンが座っている。彼女の表情は親友との会話中でありながら晴れ晴れとはしていない。恐らく、ユウタが同行を拒んだのが理由だろう。聖女護衛の任にユウタが就く際もそうだったが、ムスビは相棒との旅を強く所望している。それが依存なのか、ユウタとしてはまだ判断し難いが、彼女は自然と周囲を味方にしてしまう。その中でも自分の容貌のみで傘下に加わる者が多いため、内面で人を見るユウタへの信頼が篤い。
「……」
「何だよ、嫉妬か?」
二人の背を眺めていたユウタを、横からドゥイが肘で小突く。不意を衝かれたユウタは面に驚愕を示し、思わず奇声が漏れた。彼の野卑な笑顔に鋭い視線を返しながら、ユウタは二人を斜視した。仲は良い――それは旅の途上で出会った人間達に対するムスビの態度からしても解る。あの頑固で傲岸な性格である彼女が、ジンには少しの配慮や譲歩が見られる。
他にも信ある同胞、それも幼き頃に別れた友との再会となれば、ユウタは祝福すべきなのだろう。だが釈然としない煩悶が胸の内に蟠り、今もユウタの気分は澱んだ水のようだった。確かに嫉妬があるのかもしれない、だがそれをユウタが感じる理由が判らない。
「そう……なんですかね。なんだか、よく判らないや」
歯切れの悪い返答に、ドゥイはなお面白そうに笑顔のままだった。恐らくユウタの内にある煩慮を彼は知っているのだろう。その韜晦する笑みが気分の優れないユウタをなお苦悩させる。
「本当に判んねぇの?」
「早く教えて下さい」
「こう言うのは手前で気付かなくちゃ意味が無ぇんだがな」
呆れたように首を振って、ドゥイはムスビを見る。熾火に照らされて、二人の影がユウタの足下まで伸びていた。揺らめく火に煽られ、それが時折交わるとユウタは自然と顔を顰める。自身も判らない心慮に苛まれるユウタの反応を見れば、ドゥイだけでなく、そういった事に興味の無いドン爺ですら解答を導き出せただろう。ユウタを盲信するミシルですらそうだ。
【鷹】を脱退してユウタと共に逃げ、いま工房の中に居る。ユウタは首都に向かう時ミシルを伴う積もりだ。やはり一人では処し切れない場面がある。直近には戦闘力がある人物が欲しい――最後にアレオを誰にも察知されずに背後へ回り、首を刎ねたミシルの真の実力を垣間見て、彼女を求めた。ミシルも異論はなく、寧ろこれから【鷹】に依存せず自らの力で名声を上げると意気込み、ユウタの要望に躊躇いなく従う姿勢を見せている。
そんなミシルでも察しが付くであろうユウタの心理を知らぬ者は恐らく居ない。
「お前ぇは単にあの娘を盗られたくねぇんだろ」
「……まさか、それは友情ですよね?」
「男の嫉妬、ってヤツだよ」
ドゥイの返答に、意外にもユウタは驚かなかった。ただ琥珀色の眼差しは、ムスビに注がれている。男の嫉妬――とは、そういう事なのだろうか。確かに、既に半年近く行動を共にしている。ユウタが旅の道中で誰よりも信じているのは、ムスビに他ならない。
「僕は婚約者がいるんですけど」
「知ってらぁ。だが、人ってぇのは一つに集中は出来ねぇ。お前ぇは婚約者とは別の一面で、あの娘に惹かれてんだよ」
「……確かに羨ましくはあります。僕には無いモノがある。僕は常に一人じゃなくては力が発揮できないのに対し、ムスビには人望が集まる、強気で大胆な行動も出来る」
「……まだ確信が得られねぇなら、二人で話してみるこったな」
ドゥイはそう言い残すと、背負子を担いで工房の裏手に回った。彼はドゥイ爺の世話、ユウタやジンらの来客に対する用意、そして情報収集に忙しい。ユウタ一人の相談にも付き合ってはいられないのだろう。ムスビに対して、ユウタは惹かれている。そう言われると、ユウタは納得した。ハナエと違う魅力がある。だが、自分はハナエを選んだ。そこに後悔は無い、それだけは断言できる。ならば、自分が彼女に何をしたいのか、そこだけが全く判らない。
空を見上げて唸るユウタの横に、扉を開けて工房の中からミシルが現れる。
「ん?師匠……どうしたんですか。悩み事なら、僭越ながらあっしが相談者になりますよ」
「え、いや、別に大丈夫」
「そーなんですか」
「うん、そうそう。悩んでないよ、寧ろミシルも僕に何か相談してくれて良いよ」
「え、良いんですか?」
「え、あるんだ」
いつも溌剌とした印象を受けるミシルに悩み事があるとは思っても見ず、軽率な言動をしたとユウタは思わず自責する。
「実はあっし、ここ最近悩んでるんです。カーゼは刺客だったのに、どうしてあっしを育ててくれたのか。飲み込みは悪いし、刺客には向かないって散々言われました」
ミシルの疑問はユウタからすれば酷く素朴なものだった。第三区で追い詰められた時、カーゼはユウタに言った。
『娘を頼んだ』
この一言で、彼がミシルに対して向ける愛情の深さを知った。名を馳せた冷酷な刺客には疑わしき発言であるが、シェイサイトに居た【猟犬】のシュゲンも、部下から慕われていた。殺し屋の集団というよりも、家族に近い情を彼等から受けたのである。何より、自身の子でもないユウタを育てた師も、実子も同然に愛してくれた。彼等には彼等の、彼等しか持たない懊悩があっただろう。
だが、それは紛れもなく彼らが人情を持ち合わせる人間だったからである。機械ではなく、人形ではなく、現象でも武器でもない。
「カーゼは多分、暗殺者になって欲しくなかったんだと思うよ。ただ、一人の子供として無事に育ってくれれば良かったんだよ」
「どうして?」
「教えられる事が、それしか無かったんだ。愛情以外に与えられる物が、自分が生業として居たモノで培ってた総てだったんだと思う。僕からすれば、君は凄いよ……暗殺者に向いてる」
ミシルは黙ったまま、ユウタを見上げている。その瞳には、夢を否定された悲痛の念などはなく、驚嘆の表情を目元に浮かべていた。
「カーゼは師というより親だったんだ。君を子供として育ててたんだよ」
「……じゃあ、カーゼとあっしは父子のようだった、という事ですか?」
「それを彼も目指していたと思う」
「……じゃあ、あっしが刺客として進むのは、変なんでしょうか」
「カーゼは最期に君の夢を応援するように言っていた、だから別に変じゃないよ。
……ミシル、改めて聞くけど、君はどうして刺客になりたいの?」
ユウタの問いを真っ直ぐに受け止めたミシルは即断した。それが当然とばかりに、純心で答えていた。
「人の役に立てるからです。それを遂行するカーゼの姿に、憧れたんです」
「……それなら、僕が君の職場を紹介するよ。君に最適な場所を」
「何処ですか!?師匠が勧めるなら、凄い所でしょう!?」
「『カルデラ』って知ってる?」
「えーと……あの、有名な政治家の?」
「そこで君は、彼女専用の刺客か、それとも護衛になるんだ」
ユウタが勧めたのは、南方の名を知らしめる一族の名である。現在はその当主がユウタの従姉妹。カルデラ一族は国政への発言力は絶大ではあるが、その身を守る武力を欠いている。カルデラは代々、自身を守る為に手練れを随身としていた。常に敵意を寄せるため、唯一の欠点を補うべく。先代アカリ・カルデラより更に一代遡ると、そこにはユウタの師がその役を担っている。
当代のカルデラ、カリーナの武力となれば、ミシルは人殺しの業ではなく、人を守る為にその職能を活かすだろう。
「僕の従姉妹が当主なんだ。だから、気が合う……かも」
一瞬だけカリーナの姿を思い浮かべ、ユウタは言葉に詰まる。誰の意見にも耳を傾けない、それこそムスビよりも頑固な彼女にミシルが不満を持たずに働けるだろうか。それが大いなる懸隔を作る恐れがある。
カリーナへと彼女を紹介するならば、ユウタは一人で首都へ向かうしかない。
「ま、まあ、良い人だよ」
「……カーゼは、喜ぶでしょうか」
「きっと喜ぶよ」
「…………はい。頑張ってみます、師匠の為に、そしてあっしを育ててくれたカーゼの面目に懸けて!」
気勢を上げるミシルに、ユウタは震える手で合掌し、心の底から祈る。どうか……あの姫様によって、カーゼの面目が台無しにならぬよう。
× × ×
出発は夜――月の無い日。
下れば首都への街道へ入る峠に、ユウタは立っていた。追手との距離を広げる為にも、夜半に行動しなくてはならない。半月後には首都に到着すると計算して、街道に紛れ込む。夜の山岳部は魔物が徘徊し、危険に満ちているがユウタならば問題は無い。何よりも、街道に降りるまでの道中は、ドン爺の力を借りるため、刺客や魔物との遭遇も少ないだろう。
国は今、戦争の気配に怯えている。国賊とされるユウタの登場のみで、首都は混乱に陥るだろう。敵対勢力は国、<印>、【鷹】など圧倒的な多勢。ハナエの護衛にと、既に友人達が動いている。ユウタは旅の目的である、二人の守護者の断罪を全うするだけだ。
先代ヤミビト――アキラから続いている<印>との因縁、それを断ち切る為に弟子であり、そして当代のヤミビトとして黒印を刻まれたユウタは、戦いに挑まなくてはならない。既に引き返しのつかない場所まで、自分は足を踏み入れている。
ユウタの目的は――<印>の壊滅、すなわち神族を害する為に暗躍する矛剴の殲滅。血縁者を切り捨てることに躊躇いは無い。もう違えた道は戻らない、師がユウタを森で育て、そして三人の氣術師からの勧誘を拒絶した時から衝突は必然。氣術師、ベリオンの皇族、二つの国、魔族……様々な思惑が交錯している。それらを辿れば、必ずそこに<印>はいるのだ。
彼等を滅して、ハナエを迎えに行く。
ムスビに対する想いよりも、それは強い。彼女と歩む幸福の未来の実現のみを目指し、ユウタは剣を振るうだけ。
迎えに出たのは、小人族の二人とジンとミシル、そしてムスビである。こうして、共に旅をして居たムスビに見送られるという現状の奇観に、思わずユウタは笑ってしまった。
「先に行ってるよ」
「あたしも直ぐに行くから」
「また会えるよ」
「そうね」
未だ不機嫌な彼女に苦笑して、ユウタはドン爺へと体を向け、深々と頭を下げた。彼の視線は、右手に持つ紫檀の杖にある。これまでヤミビトに捧げてきた業を、今度はその同族もろとも殺める兵器へと鍛えたこの奇怪な状況に複雑な思いを抱いているのだ。
ユウタの肩を叩いて、無言のまま下がった。ドゥイが前に出ると、ユウタを見上げながら後頭部を掻く。
「達者でな。色々と悩んでるかもしれねぇが、今は目の前のことに集中しろよ」
「……有り難う。ドゥイさんも、達者で。」
「結局、馴れ馴れしいんだか敬語なんだか、そのどっち付かずの態度は直せなかったか」
「いずれ、また」
「おうよ」
ドゥイが笑うと、ジンが懐から瓶を取り出すと、ユウタの前に差し出した。贈り物かと手を伸ばしたが、さっとジンは再び懐へ戻す。
「これは……『神樹の樹液』だ」
「!?な、何故そんなものが……」
「本来はムスビに使う筈だったが、彼女はハナエという娘に使うと聞かなかった。これを後で、そのハナエに郵送する」
「……有り難うございます」
ジンは顔を逸らしたムスビを一瞥してから、麓に向かって下っていく。
「……ミシル」
「師匠、頑張って下さい!あっし応援してます!」
ミシルが笑った。
<印>は少なからずカルデラ一族と因縁がある。そしてまた、当主のカリーナも彼等と対決に挑む方針を既に示しており、ユウタに協力する所存だ。故に、その身がまた危機に直面するだろう。そうなった場合、そこに実力者が必要である。彼女の側近である騎士ジーデスと勇者セラではまだ不安があるのだ。――ミシルが必要とされる場所がそこにはある。
ユウタは既にミシルを護衛に申請する書状を送った。これが恙無く済めば、当主は堅固な守りを手に入れる。恐らく後の国の中、強い後ろ楯になり、<印>による騒動を鎮めるには彼女が必要だ。
「最初は慣れないかもしれないけど大丈夫」
「はい」
「安心して。君にならつとまる」
安心させるようなユウタの声に、強い意思を込めた眼差しで応える。
ユウタは溜め息を吐いて、全員に背を向けて歩き始めた。峠の険しい道を草履で音もなく進みながら、時折振り返ってムスビに手を振った。共に過ごした日々は、旅でも一番長い。これまでの困難も、彼女がいなくては乗り越えられなかっただろう。一心同体、一蓮托生である彼女との別れは、それこそ身を切るような思いであった。
ムスビは険相のまま、右の拳を突き出して傲然と顎を上げて、ユウタを見下ろしていた。
ユウタはまた、少し寂しそうに苦笑してから、前を向いて歩いた。
ユウタの姿が見えなくなってから、ドン爺を背負って進むドゥイの後を続く。ムスビの表情は未だ晴れない、今でも走って追えば、まだユウタにも追い付くが、それこそユウタの足枷となる行為になる。互いを忖度して、二人は一時の別れを選んだ。
ミシルは束ねた糸を手繰る。
月光の無い夜にも、艶を放つそれはカーゼから貰い受けた一本。量産の仕方は、既に彼から伝授されているが、これから数ある束の内の一つでしかないその一本を、ミシルは大切そうに仕舞う。
国に狙われる少年を捕まえたのは、ミシルの罠糸なのかもしれない。そして、それを強固にしたのはカーゼ。運命とはまた気紛れなモノで、更なるモノとミシルを繋げようと広がっていくだろう。それが敵か、或いは仲間なのかは判断し難いが、自分を育てた師――カーゼに恥じぬ生き方をしようと決意を固めた。
そして、後にミシルは知る。
「カーゼ、あっし頑張るから」
――罠師の糸は、大いなる運命の流れに絡まって、また獲物を捕まえたのだと。
本作を読んで頂き、誠に有り難うございます。
これにて、第五章は完結です。予定ではありますが、恒例の小話と登場人物紹介を挟んでから、第一部完結となる第六章が始まります。
第六章は、双子の守護者ゼーダとビューダ。二人を起点に起こったあらゆる事件の決着になります。故郷を焼かれたユウタと、一族を殲滅されたムスビ、復讐に燃える【獅子】、狙われる皇族の末裔ハナエとその護衛達、さらにはカリーナと面々の活躍をお楽しみ頂けるよう精進します。
これからもよろしくお願い致します。




