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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
三章:セリシアと精霊の歌
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撃退作戦(1)/竜騎士の本性

更新しました。連続って怖いですね。



 聖女一同は、ニクテスの森へと踏み入ったユウタの帰還を心待にしていた。この数日で、彼と少女の親睦がとても深いことも含め、外界の世界に対する興味などは、周囲の目からしても瞭然としていた。これを機に、その頑固な閉鎖的体制を解体する。レミーナは、寸分先の未来が輝かしい物を期待していた。

 ニクテスの成果を挙げれば、今以上に聖女の存在は崇拝される。この功績で、益々タリタンから重宝されるであろう。──即ち、国の繁栄に欠かせぬ存在として、歴代の聖女が遭ってきた八咫烏に対する守備力をより強固とする。

 ドネイルの報告にあった、船の襲撃を聞き、いよいよ今回雇った刺客の手練れたるユウタを、己の傘下に率いれようと策謀していた。その人間性がニクテスとの連絡という立ち位置を獲得し、それと併存する桁外れの実力が、聖女への貢献を見せる。


 樹間の中から、数名を引き連れた老人が現れた。後続して、ユウタと少女が姿を出すと、浜辺に降りていた船員たちの顔にも安堵の色が見て取れる。ドネイルは素直な賛嘆に拍手をしており、それに気付いたユウタが目礼した。

 その容貌からも、他とは違う聡明さが感じられる老人に対し、慇懃に振る舞うレミーナ。ドネイルもその背後で、彼女を守る騎士として厳然と佇んでいる。老人の背後に控える者達の、ただならぬ強者が発する気配に構えているのだ。


「この娘より聞いた世界、そして島に固執していた我々に手を差し伸べる聖女殿の厚情に感銘を受け、この長い歴史に終止符を打ちます」


「それは、外交に応じる、という解釈でよろしいですか?」


「はい」


 ニクテスの族長が快諾すると、聖女の顔から緊張が解ける。ユウタに笑顔で振り向くと、彼は少女と顔を見合わせて頷いていた。少し自身を無視されたと思い、心の不服を面に出さぬように努めて、族長を船へと導く。船員も颯爽と船体へと駆け寄って、早速出航の準備を整える。

 これで、長い沈黙を破って遂に大陸と結ばれたニクテス──その立役者はレミーナと、忽ち噂になるだろう。名声と安寧を手に入れた未来を仮想し、彼女は喜悦に綻ぶ口を引き締める。

 その胸中を見透かしていたユウタは、何とも言えぬ顔で、彼女の背を見詰めながらテイの手を引くように出ていく。テイもまた、これから実行される作戦を悟られまいと感情を圧し殺していた。


 船へと乗り込んだが、まだ出航はしない。船員が忙しい状態を見て、もう暫く掛かりそうだと判断したレミーナは、ドネイルを伴って船室へと下りていった。

 船体は以前よりも頑丈に補強され、船の縁に付けられた鉄製の欄干がある。尤も、潮風で錆びてしまう故に、聖女が乗船している間のみの急造品だ。ユウタは身を乗り出して、欄干に頬杖をつきながら下の景観を見下ろした。


「ゼス、積み荷、どれくらいで完了する?」


「もうすぐ、だぜ」


「ありがとう、本当に悪いね」


 ユウタは穏やかに微笑んで、傍に居るテイを見た。集落を訪れてすぐ、まだ島を出発しなくてはならない。ニクテス族長は、これからリィテル町長と交流を誓い合う為の式典へと出席しなくてはならない。彼女は故郷の開放の為に遣わされた者であるため、立会人として求められている。だからこそ、集落へ留まることは許されなかった。


 点検も終わり、いよいよ船が浅瀬からリィテルを目指す。






  ×       ×       ×






 その晩、式典が執り行われる。

 集った町人達の目前で、これから交流する相手のニクテスとの繋がりを知らせる為に。

 聖女も立会人ということで、警備に余念はなかった。リィテルへの道中、彼女を護衛した数多の兵士が式典の場を城塞のような陣形で固めることとなる。南地区の港で行われるのであれば、敵が攻めて来れるのは山の方面からのみ。

 町人達を海へと追いやるような形で取られた警備の配置は、刺客に対する最大限の警戒を示していた。彼女を害する者に途轍もない重圧をかける。


 式典の準備は恙無く終了し、町人も集まり始めていた。緊急時に警鐘を鳴らしていた仕掛けをを使い、町長の意向を広く伝えることで、自然と彼等は足を運ぶことになる。ニクテスという、長らく隣人のようで遠い存在だった民族が、この地に来訪しているともなれば、興味を懐かない者はいなかった。

 あの時を準えるように、人々の注目が集まる。

 式典の中心に立つ人間には、聖女、町長、族長、ドネイルと騎士達やシャンディ、そしてユウタとテイといった面子だった。過去に、ニクテスによって仲間を殺された船乗りなどが、少なからず町にはいる。町長が長く彼等と接している事に反対を掲げていたのだ。仮に、設置された大きな台の上で、二人の長が交わす約定を阻害する者が出れば、有無を言わさず始末することを意図する態勢である。


 ユウタは台の傍に立ち、民衆を見回した。まだ疎らではあるが、着実に姿を見せる人間は数を増やしている。式典開始まであと少しという最中で、八咫烏が介入することはないだろう。彼等は夜になると、飛翔や変化といった能力が使用不可能となるらしい。彼女らがこの時間帯を選んだのは、最善の策だと言える。

 密度を増した会場の中に、ユウタは見慣れた姿を目視する。相変わらず露出の多い姿で、ムスビは長い白髪を一つに纏めて、陽気に手を振っていた。仲間である、とドネイルに勘付かれぬよう視線だけを返す。その態度に彼女は気に障ったのか、不機嫌そうに頬を膨らました。

 セリシアがその傍から、ユウタの真意を汲み取り、毅然とムスビの傍で立っていた。奴隷の象徴である首輪が消え、白い雪のような肌が露になっている。もう襟巻きをする必要もなく、ただ一人の人間として堂々と振る舞う様にユウタは危うく感激に咽び泣くところだった。思ったよりも、自分の思い入れが大きいことを、漸く自覚したところである。


 式典という事もあって、テイの服装がやや豪華になっている。裾の長い緑のドレスに、肩や胸元を晒した姿だった。化粧をしているためか、ほんのり頬は赤く、唇は妖しい艶に濡れている。町の男に声を掛けられ戸惑っているのを、遠目でその姿とともに確認していたユウタに気付き、急いで走った。彼の肩に体当たりをするように抱き着く。


「どうしたの?」


「あの人、怖い。嫌、言っても、誘ってくる」


「あー、まあ、そうなるよね」


「ユウタ、そんな事、する?」


「どうだろう?僕の場合、そんな度胸無いかな」


 自嘲するユウタに、テイが柔らかい表情になった。故郷から離れたこの孤独の数日間を、傍に寄り添ってくれた少年に対する信頼は絶大である。ある意味では族長と等しい、心の許せる人物。

 テイは彼の横に立って、式典を見届ける事にした。


「此所は危ないから、もっと台から遠くに」


「ユウタ、守ってくれる」


 そんな風に信頼されては、と頬を掻いて何も言えなくなった。確かに、台の上よりはテイを守る方が簡単ではある。

 ドネイルが微笑ましそうに黙視してくる。ユウタは居心地が悪そうに、彼の視線から逃れて小さく移動する。船を降りた時もそうだったが、シャンディやレミーナに二人が恋仲だと勘違いしていた。訂正しようにも、テイといつも仲良く手を繋いでいる現状では何も出来ないのだ。

 テイが怯えて前に踏み出せないのを、ユウタが支えているのではない。単に、彼女自身をどちらへ進むべきか誘導する為にしている。シェイサイトでもそうだが、冒険者ガフマンに相棒との関係を話題に弄られることがあった。


「テイ、僕はもう、大人が嫌いになりそうだ」


「?大丈夫?私、何かする?」


「いや、君は僕の隣にいるだけで良いよ。何かあったら危険だしね」


 歯の浮くような台詞を平然と言い放つユウタに、テイは俯いて必死に赤面した顔を隠す他になかった。耳まで赤く染まった様子に微塵も気付く素振りのないユウタに、兵士や目を留めていた民衆が落胆の声を上げる。サーシャルは額に手を当て、こいつバカだと言わんばかりに深い溜め息を吐いた。セリシアは、自分が長く不在だった場所に、主人に近付くテイへの嫉妬で少し眉根を寄せている。ムスビは語るべくもなく、手中で魔力が充填され、今にも発射されそうな予感を放つ。

 だが、この全員の反応に一切気付かないのがユウタだった。純粋に護衛──いや、作戦を遂行することに意識を傾注している辺りが、彼らしい。その内、テイに同情の声を上げる女性の罵声すら小さく飛び交い始めた。


「やけに騒がしいね」


「うん。でも、私、慣れた」


「確かに、一緒に色んな所散歩したよね」


「ユウタ、もう、大丈夫?」


 テイの言葉の意味は、すぐに解った。故郷の守護者との再会である。復讐はするなと、ムスビにも言いつけていたが、ユウタの場合は違った。もう切り離せぬ運命が<印>と自分を結んでいる。根絶やしにしない限り、一生彼等の脅威に怯え続けるだろう。

 しかし、テイが止めてくれなければ、あの場でニクテスとの作戦も終わり、契約呪術の効果に則ってユウタの命は終わっていた筈だ。彼らとの戦闘が、小規模な被害で抑えられる訳がない。テイが身を挺して止めてくれたからこそ、今こうして戦える。彼女にはこれだけでも、深甚なる感謝の念を懐いていた。


「有り難う、テイ。君には助けられたよ、看病とか、他にも色々ね」


「ゼスにも、お礼、言わなきゃ」


「そうだった。後でしっかり伝えておこう」


 船乗り達も仕事を終え、今は民衆の一部となっている筈だ。あの元気な少年にも、後で感謝を伝える必要がある。

 式典開始の合図である鐘が鳴った。喧しいその音に顔を顰めながらも、ユウタは杖を握り締めた。






  ×       ×       ×





 リィテル町長による挨拶が始まった。公衆の面前に、ようやく全貌を明かす機会として、これまで歴代の町長が積み重ねた外交への努力を語る。その述懐に耳を傾けている者はほとんどおらず、近くに立つ聖女へと全員が集中していた。

 改めて、白いローブに身を包むレミーナは、神々しいばかりの光を放つような空気を纏っていた。何人かが合掌し、その姿に祈りを捧げている。流石は神を信仰する国家タリタンにとっても、重要な存在として持て囃されるだけはあった。

 だが、数人と船乗りを除いてである。彼等の視線は、依然としてユウタに固定されたままだ。テイとユウタを祝うように煽る船員と、殺気を隠そうともしないムスビを諫めるサーシャル、面白くなさそうなセリシアの面々に、やっと気付いた。ユウタは些か驚いたように見開いたが、すぐに視線を外す。

 船乗りはその態度を照れ隠しだとまた笑いの種にし、ムスビ達はその冷然とした姿に呆れた。


「では、族長の言葉を」


 リィテル町長が身を引くと、族長が迷いなく前へと進み出た。初めての環境にも威風堂々とした姿は、彼の気質が現れている。細めた目から放つ威圧に、少しひそひそと小声で会話をしていた人間さえもが注目した。初対面の人間を大勢に、こうも御す族長の力を改めて知り、テイは嬉しそうに笑う。

 ムスビは何かを思うのか、どこか遠い眼差しで、ニクテス族長を眺めている。ユウタは初めて見たその顔に気を取られ、護衛の任も忘れてしばらく見入ってしまった。何を想い、そんな顔をするのだろう……


「私は、これまで長い歴史を見て、思った事がある」


 族長の演説が始まった。聖女は笑みを湛えたまま、背後からそれを見守っている。


「周囲との隔壁を作らんと、戦士を育成し、呪術の腕を練り上げた。そんな努力もあり、森を侵攻する外敵を撃退してきたのだ。

 だが、時に過つ。ただ交友を求めた人間さえも滅ぼした。それは大いに反省し、謝罪したい。その親族も、さぞや悲哀に苛まれたであろう。

 だが──」


 強くした大音声に、聖女達も驚く。ユウタは決意した。族長が本意を伝えた瞬間、始まりだと。

 リィテルと外交を結ぶつもりは、一切合切ない。その意向を発表し、それを合図に作戦が始まるのだ。テイの顔にも覚悟の色があらわれる。

 




 だが、ユウタは視界に捉えたモノに身を固くした。彼から見える、北地区へと真っ直ぐ伸びた中央道、その空を何かが滑空している。こちらへ、猛烈な速度で直進する影を見咎めて、ユウタはテイの手を放して仕込みの柄に手を掛けた。いま、自分しか気付いていない接近物。秒を数える暇もなく、拡大されていくその正体に、ユウタは声を張り上げた。


「敵だッ!八咫烏を押さえろ!」


 ドネイル達がユウタの声を知覚したが、もう遅い。空を飛んでいた敵影──八咫烏が族長たちのいる台へと猛然と突き進み、聖女を抱き上げて空へと上昇した。頭上で羽音を鳴らせば、風が吹き荒れる。

 高らかな哄笑の声に聞き憶えがあったユウタは、相手を睨め上げる。


「セイジ!」


「やはり貴様も居たか、ヤミビト!悪いが聖女を貰うぞ!この女の命尽きる前に、追って来るが良い!」


 空を叩いて、凄まじい速度で去っていく八咫衆若頭セイジを唖然として見送った民衆の中で、騎士たちが即座に動く。ドネイルも台から跳躍して、ユウタの傍に降り立った。

 突然の来襲に動けなかった護衛が、一斉に聖女奪還を志し、中央道へと走ろうとする。


「出よ、我らニクテスの力を知らしめろ!作戦実行だ!」


 族長が叱咤する。ちらりと訝る兵士達は、気にも留めず無視して突き進む。


 しかし、彼等の体が即座に力を失ってその場にひれ伏す。先行していた者が倒れると、後に続く者も足を取られて、重なるように倒れた。ドネイル一人が立ち止まり、その光景を愕然と凝視する。

 そして兵士に駆け寄ろうとした瞬間、竜の兜を横から叩打する衝撃に蹌踉めいた。敵襲と感じて振り返った彼は、立て続けに驚愕を受けることとなる。

 屋根の上から、ニクテスの装束を着た者達が、弓や槍を携えた姿を見せた。その鏃の尖端が、兵士やドネイルに照準を合わせて構え、残りに対しては飛び降りた槍のニクテスが肉薄する。

 ドネイルは放たれる矢の雨を弾きながら、町の中を走る。八咫烏の消えた方角へと進むと、すぐに追い付いたユウタが並走した。

 二人で路地を走り、必死に遠い八咫烏を追う。周囲から人影が消え、街灯だけが点いた無人の街を駆け抜ける。


「何故、八咫烏が?」


「奴等は光さえあれば、どうやら活動できるらしい。町からは出られないだろうが、迂闊だった」


「そうですね、ニクテスもまさか反逆するなんて」


「ユウタ殿、これは一体どうなって……!?」


「ではドネイル。お役目、ご苦労様です」


 俊敏にドネイルの前へと回り込んだ。草履で踏みしめて構える。


「……まさか、謀ったのか………我々を裏切るのか!?」


「聖女殿の本性が、聖女とは言い難いものであることは、既に理解しています。今回は偶然にも、ニクテスと僕の利害が一致していただけのこと」


 淡々と述べるユウタは、杖の中程と柄を握る。


 ユウタとニクテスの作戦。

 聖女達が式典に参加する時、八咫烏までも相手にするのは危険だと悟ったユウタは、夜に行われるこの隙こそ絶好のチャンスだと踏んだ。

 島で出航を遅らせ、船室に戻ったドネイルとレミーナに見えない場所で、ニクテスの戦士を次々と乗り込ませる。式典で盛大に祝う為、どうしてもと船員に依頼し、ゼスを介することで彼等を陸へと運んだ。

 あとは、族長の言葉で機を見計らったニクテスが兵士を眠らせ、レミーナも呪術でその歯牙にかける。その後にドネイルをユウタが暗殺し、聖女をニクテスの呪術で記憶ごと抹消する。強引な策ではあったが、失敗したという記憶さえ残してしまえばいい。

 ニクテスもユウタも、国と敵対する事なく終えられる・・・はずだった。


 八咫烏が出現したのは予想の範疇外。

 だが、これを利用しない手だてはない。町にはいま、全町人といっても過言ではない人間の数が集まっている。聖女を追い掛けて走ったドネイルは、もう人通りの無い場所まで来ている。ここで彼を殺そうと、噂になる訳もない。仮に誰かに目撃されたなら、脅迫すれば良い。

 聖女については、いっそ八咫烏に殺させてしまおう。歴史がそうだったように、当代のレミーナにも犠牲者として名を連ねてもらう。


「せめて、聖女殿が純粋な善人だったら、未来も違ったのに」


「ユウタ殿……!」


 怒りに震え、湾刀を執ろうとしたが、既に遅かった。

 一瞬早く出たユウタが、仕込みの刃先で兜の隙間から、眼球を衝いた。そのまま脳組織にまで至った手応えと共に、ドネイルが脱力する。静かに引き抜いて、小さく返り血が付かないよう払って納刀する。

 眼前で倒れたドネイルから視線を外し、ユウタは八咫烏を八咫烏を追う。どの道、聖女にはここで果ててもらうとして、彼等を捕らえる為にその場へと向かう。


「待て」


 背後から呼び止める声。

 翻身すると、ドネイルが立っていた。驚いて後ろへと飛び退くと、竜の兜の口腔から光が溢れる。


「え?」


 奇声を上げたユウタに対し、ドネイルが頭を振って、正面を向いた。

 その瞬間、ユウタの視界が炎に包まれる。猛烈な勢いで地面を焼き焦がしながら進む火炎の舌に、氣術で屋根上へと跳躍する。草履の爪先を掠め、火がちらちらと辺りに躍った。

 着地したユウタが見下ろすと、路地は煉獄のような光景となっていた。その中に立つドネイルの姿は、まさしく竜である。兜を脱ぎ捨て、素顔を晒した。


「まさか、ユウタ殿に裏切られるとは」


「……?」


 ドネイルの顔は、蜥蜴のように鼻が長く、鱗に覆われていた。爬虫類のような鋭い牙を持ち、瞳孔は縦に一筋細くなっている。その容貌は明らかに人間ではない。

 いや、そんな事はどうでも良い。確実に脳を破壊した筈だというのに、この男は立ってみせた。


「驚いているな?

 そう、私は竜族(ドラゴン)と人の間に生まれ落ちた混血種。竜人(りゅうびと)とでも言おうか。竜族の高い自然治癒力があれば、この程度の傷、造作もない」


 ユウタの心を見透かして、ドネイルが不敵に笑った。


「ほ、本当に竜騎士だったのか!」


「この姿を見た者は、戦場でも何人たりとも生かしはしなかった。さあ、貴方も例外ではない!ここで灰塵となるが良い!!」


 ユウタのいる建物を、ドネイルの口から放射された業火が包んだ。火勢はあっという間に、全体を呑み込んでしまう。ユウタは道の対岸にある建物へと飛び上がり、火に巻かれる前に回避した。

 空中に舞い躍りながら、ドネイルの姿を観察する。船上で戦った魚人と同じく、重厚な鱗は刃のを阻むだろう。通ずる一手とするならば、氣巧剣による斬撃である。

 杖を腰帯に差して小太刀を抜く。把を握りしめると共に出現する暗黒の刃。氣によって構成された剣気の熱量ならば、ドネイルの炎を遥かに凌ぐ。尤も、剣としての形に固定されているからこその威力。接近して切り付ける以外に威力は発揮せず、その為にはあの獰猛な火の波を躱わして行かねばならない。


 振り向いたドネイルが湾刀を両手に、提げて口から火を噴きながら、悠然と進んだ。


「さあ、楽しもうか………ユウタ殿」






今回もアクセスして頂き、まことに有り難うございます。


スピンオフ作品として、『無気力猟師は鬼少女の為に』も連載中です。良ければこちらも暇潰しに読んで頂けたら嬉しいですら、


次回もよろしくお願いいたします。



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