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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
三章:セリシアと精霊の歌
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復讐の宣誓

更新しました。




 聖女レミーナの方針。

 先日の大量発生の再発を危惧したリィテルの為、三日間の猶予を設ける。町の復興及びダンジョン調査隊の編成へ重点的に行う。その間、ニクテスの少女テイは、外界についての学習で交流の検討に必要な情報の収集を命じられた。護衛としてユウタを同伴させ、リィテルの学舎で、外界の常識を知ることで、如何にニクテスにとっての危険性の有無を確認させる魂胆である。

 平和的交渉を掲げながらも、リィテル訪問まで山道を共にした兵士を滞在させている。仮に、不都合が発生した場合、聖女による印象操作でニクテスが弾圧される状況を仕立て、武力的解決を惜しまぬ態勢を整えている。


 ユウタの計画。

 ニクテス協力の下、外交禁止といった閉鎖的体制を厳守する彼らを侵略せんとする聖女レミーナという外敵を阻止すべく、彼女の内懐にて探り続ける。三日後、再び離島に赴く時には、作戦の考案、敵勢に関する情報の伝達と、どれも確実性のある物が必要だ。

 別動隊のムスビとセリシア、そしてサーシャルは障害となり得る八咫衆(やたのしゅう)の動向を探りながら、冒険者としての活動を続行。ユウタの要望により、片手間でシェイサイト領主の所在を調べている。この三日間で、やはり彼女達にも作戦を伝えなくてはならない。

 学舎にて、聖女と国の関係性、存在の与える影響、作戦に使用されるであろう呪術や魔法に関する知識の習得。これが必要条件となる。


 これらの諸事情を勘案して、ユウタが現在衝突するであろう最大の敵は、八咫衆若頭セイジ。ユウタの動体視力で捉えられない行動の加速に加え、羽毛による連続射撃。どちらも威力として人体が四発以上も耐えられる代物ではない。

 対抗策として、ユウタにも遠距離攻撃が求められる。上空からの一方的な攻撃を凌ぐには、飛翔する八咫烏を撃墜する火力。氣術による跳躍でも届かない高度まで回避されると、勝機は絶望的だ。しかし、魔法や呪術の適性が恐ろしく低いユウタに、三日で実用に至るまでの鍛練は至難とされる。

 可能だとすれば、氣術と投擲のみ。だが、どちらも容易く避けられる上に、着弾しようとも威力に欠ける。

 氣術を攻撃へ応用した技──氣巧法。過去に激突した氣術師の敵も、やはり近接戦闘を主流とした戦闘スタイルだった。八咫衆への攻めの一手としては難しい。

 通常の氣術による引力で、距離を一定以上離れられないようにするとしても、発動中の防御が手薄となる。

 魔法と同等の威力が要求される戦場、いよいよユウタは技の開発を迫られていた。







   ×       ×       ×




 リィテル北地区の居住区にある学舎。

 齢一五までの間、この場で常識や商法、学問についての基礎知識を得る。

 魔法・呪術の訓練など可能で、施設の中にある修練場での鍛練さえも認められている。町内での魔力を行使した力は、専門職のみが公認であり、その他は刑罰の対象となる。法的にも認められる数少ない場所だ。



 誰も居ない教室にて、整然と並ぶ机の二つに腰掛けるユウタとテイ。慣れない環境の空気に、緊張が隠せなかった。忙しなく周囲を見渡しては、窓の外に広がる子供の遊戯で気を紛らす。

 実際的に、二人は森の中で長く生活していたため、一般教養なども危ぶまれるほどである。課外の時間帯に、聖女による要請で教師が派遣され、無償の教育を受けられるのだ。ユウタとしては大変有り難い話ではあったが、彼の年齢は本来修学している上に成人とされる。未だに学ぶ事があるとは、羞恥に気が落ち着かない。


 教室の引戸を開け、男性が入室した。会釈すると、意気揚々と手を振って応えた彼の行動で、幾分かユウタとテイの心は軽くなった。厳格な雰囲気のある教師だったなら、と考えて二人は肝を潰した。


「私はシートン。今回、君らに勉強を教える為に来た。よろしく」


 快活な笑顔で自己紹介をしたシートンへ、ユウタもその場から慌てて起立した。


「ユウタです。よろしくお願いします」


 テイも小さく黙礼し、授業が始まった。

 学舎の中でも高評価を得るシートンの諧謔を交えた話術などの授業展開によって、ユウタは恙無く学習することが出来た。無論、まず字の読めないテイには、解説を分かり易く要約したシートンの配慮で、置き去りにされる事はない。


──────────────

 聖女の存在。

 タリタンは主にケルトテウスを崇拝する信仰国家。対して、センゴクは無神論国家。大陸同盟戦争で神族の協力を惜しむ様子に、賛否両論あり、大陸が二つの国に分かれた。

 聖女とは、一〇〇年に一度現れる、ケルトテウスの声を聞き届ける者のこと。その存在は、タリタンにとっては信仰対象にもなる。或いは国の信仰心の象徴と呼べるのだ。

 しかし、歴代の聖女は全員が暗殺され、常にその身が狙われていた。犯行は全て八咫衆と言われ、“聖女は烏の餌”という皮肉さえもある。

──────────────



 歴史の科目が終了すれば、次は最もユウタが重要視する案件だった。


「じゃあ、魔法と呪術に関してだ。二人は、何か知ってる?」


「魔法は、体内魔力を使って現象を起こす……としか」


「その解釈で問題ない。それじゃ、説明するよ」




──────────────

 魔力。

 万物に存在する力。肉体や精神、生命活動にも影響を与え、この世界の血液と形容しても過言ではない。それらを応用する事で、あらゆる物への干渉が可能とされる。ユウタ達──氣術師が氣と呼ぶモノと同意義。


 魔法。

 体内の魔力を操作し、現象を起こす。発火、吸熱、促進、変動……など、自然に干渉する技術。魔法を主流として扱う者が魔導師。

 現代も魔法の開発や調査は行われ、多岐にわたって、様々な種類などがある。

 主に二種類。

 「通常魔法」と「特殊魔法」。

 前者は、火、水、土、風といった現象を操る力。後者はそれら以外の概念に抵触する力を示す。


 呪術。

 魔法とは異質で、生物に影響力の高い魔力操作。成長など人体にある生理現象を促すなどの効果もあるが、主に“呪い”となるのが一般的だ。体力の減少、肉体の腐食、催眠……その他と魔法と同様に多い。

 こちらも種類がなく、使い手による為に基本的な原形などが存在しない。



 “治癒”は、呪術と魔法を持つ場合のみで、使用者が多い特殊魔法・呪術とされる。

──────────────



 ユウタはこれらを見て、深く消沈した。

 氣術との違いとして、師から聞き及んでいたが、無知も同然である。すべてが新鮮に聞こえたしまった事が、何よりも彼を打ちのめした。

 テイはニクテスの得意とする呪術に関する授業ともあり、先程から興奮気味である。彼女も多少は心得があるからこそ、理解できる点もあって嬉しいのだ。

 二つの力──魔法と呪術。ユウタとしては、まだ見た事もない。負傷した際に、シェイサイトで治癒魔法を受けたが、意識が回復していない間であり、この目で未だ魔法を見た事がない。ダンジョンで冒険者が使用していたらしいが、ガフマンによる指導で余裕がなかった。


 ふと、氣術について、疑問に思った。

 先日の離島への渡航で、船員達が氣術と聞いて、空気が険悪となった事。彼等は歴史、だと言っていたが、ユウタには判らない。

 ユウタは恐る恐る挙手した。


「氣術……が、忌諱される理由とは?」


「あー、それね。

 実は、べリオン大戦で、東国の氣術師達によって、一時的にこのリィテルが支配されたんだ。ここの漁港は南大陸と最も近いから、魔族との密輸をしていた。そこで交換される物資を狙って、奴等は此所を占領したんだ。

 リィテル町人は手酷い扱いを受けてね。だから、彼等の使う氣術を嫌悪するんだ」


「そう………ですか」


「しかし、氣術を知ってるなんて以外だね」


「聞いた事があっただけで、質問してみたくなっただけです」


 リィテルが過去に、氣術師に占拠されていた。二〇年前の戦争といえば、シュゲンの話からすると、ユウタの師が死亡したと流布された時だ。氣術師が戦争で動いていた事実がある。それが雇われたのか、或いは独自の行動なのか。仮に後者だとするならば、それが<印>である可能性も考えられる。

 思えば、彼等の行動と同時期に、ユウタにとって大きな出来事があった。五年前、ムスビの種族が大量虐殺された事件、ユウタの師が死んだ事が重なる。しかし春先の事件で、タイゾウ達は師が故人であると知らなかった。いや、単に彼等よりも上位の存在しか把握しておらず、命令で動いた分隊だったかもしれない。偶然か、それとも計画的犯行か。

 獣人族は八咫烏と縁があると、ムスビから話を聞いた。八咫衆を捕縛し、尋問をして事実の解明が出来る事が可能とも考えられる。


「よし、じゃあ今日は終わり。二人ともお疲れ様」


 シートンが去っていった後も、思考に耽る。テイの声にも応答せず、暫く彼は学舎の一室に留まっていた。






   ×       ×       ×




 ユウタとテイは、夜の町にいた。

 理由としては、ユウタが沈思していたからでもあるが、テイ自身も文字の読書に専念していた。外界の知識が、何かテイの琴線に触れるものがあったのだろう。シートンにも嘆願して、書庫では文字の練習に耽溺した。


 学舎を出る時間が遅くなり、二人も夕餉を済ませようと飯屋に入る。聖女の件が終わってから回りたいと口にはしていたが、ふとした時に食欲が滾るのだ。

 テイは好奇心旺盛であり、ユウタが随伴しない限りは勇気が出せず踏み込めないが、彼が指定した店にも異を唱えることはしない。

 魔物の一件から、まだ一日しか経たない。普段は昼夜問わず活気に溢れるリィテルも、重い空気を漂わせていた。晴れない顔色の人々がそこかしこに見られ、事件が如何に惨憺たるものだったかを語っている。果たして、原因として最も可能性があるシェイサイト領主護衛の双子について、ムスビは何かを掴んだのだろうか。ユウタとしては、彼等であって欲しくないというのが本音であった。


 魚介を取り扱う飯屋に入り、今日はそこで空腹を満たそうと考えた。聖女護衛の身である故に、町長の屋敷へ行けば無償で提供して貰えるが、あの場では上質な物ばかりで、逆に物足りない。山道のようなごく普通の平屋のような店が好ましいのである。

 戸口の無い玄関を潜って、店内に入る。テイと空席を求めて、中を見回す。


「…え…?」


 ユウタの視線が厨房に最も近い席に固定された。そこに座る人間に注目する。

 長衣を着た、黒とも思えぬ深い藍色の髪に、横顔で口と目鼻以外を覆った包帯──その二人組。既視感のある背に、ユウタはただ混乱した。


「ゼーダ………ビューダ?」


 名を呟くと、二人が振り返る。

 その時、もはや見紛うこともなかった。再会の挨拶も要らない。正面に向いた二人の顔を見ただけで、ユウタの認識は即座に双子だと確信を得た。


 包帯に覆われた顔、晒された口からは嗄れた声が出た。その口が小さく、笑みを湛えている。


「ユウタ、久し振りだな」


 店内で遭遇した奇異な風貌の人間に、テイは身構えて対する。そしてユウタの顔を盗み見て、ぎょっとしたのだった。

 彼の顔は喜びと共に、怒りや悲しみが同居し、二人を見る瞳は困惑に揺らいでいた。相手の反応によっては、その複雑に形成された表情の均衡が瓦解する。

 席に座っていた双子が、ユウタに歩み寄る。久しい友に接するかのように、肩に優しく手を触れる。


「また、会えたな」


 懐かしむゼーダの傍で、ビューダも深く頷いていた。


「二人とも、悪いけど一つ……尋ねたい」


 感情を圧し殺し、二人を見据えて、ずっと訊きたかった事を、挨拶より先んじて言う。

 足を止め、少年を見下ろしながら質問を待つ彼等の目は、もう既に何を問われるかを察している。


「あの村を、ギゼルの手で焼き払い、そのギゼルさえ口封じに殺したのは……?村や今回の魔物による事件の犯人は?」


 ユウタの声に頷くと、顔の包帯を取り除く。何も言わずに解かれていくと、隠されたその全貌が明らかになった。その下に隠された皮膚は、全く傷もない褐色の肌がある。そして──


「質問が多いな。疑い深いところなどは、やはり、タクマと変わらない」


 店内に吹き込む風で煽られた前髪。その額に、白い二頭の蛇、その頭部を貫く短刀の烙印が現れた。

 それを見て、ユウタは憮然となった。


「今、我々はシェイサイト領主殿といる。

 あれから、ユウタの噂を耳にした。【冒険者殺し(同胞)】も世話になったとね。いや、本当に強くなった」


 ユウタは驚怖に立ち尽くしていたが、口だけは別系統の回路で出来ているかの如く、質問を続けていた。それ以上聞けば、一体どうなるかも弁えている。


「……タイゾウ達が、春に来たのは?」


「我々が召集した」


「獣人族が、<印>に大量虐殺されたのは?」


「君の師……先代ヤミビトによる監視が消えたからだ。我々は呪術が使える。()()()()()()()()()()()を持っていて、その消滅を命じられて村人を催眠し、元より住人だった者と扮した」


「先代ヤミビト?」


「いや、知らないならまだ良い。

 本来なら、そんな必要もなかった。しかし、驚愕したのは、君の師が村外れに居た事だ。彼は一目で、この身の素性までも看破し、行動を制限したのだ。故に、五年前に彼が逝った事実を確認し、実行した。

 以前から獣人族を全滅させる所存だった。だが、君の師が縁ある者であったが故に、不用意に手出しをすれば我々が抹殺される。昔から、我々と彼は敵対関係にあったから」


 ゼーダがユウタを抱き締めて、耳元で囁いた。


「詳しい事は後で知るだろう。

 君の師が甘かった。我々を殺さなかったからこそ、多くの犠牲者が出た。恨むならば、先代にしてくれ。あの凶悪無比だったアキラが、不殺なんてものを誓った所為だよ……お蔭で君は優し過ぎる子に育ってしまったけどね」


 ユウタの手が小太刀の把に掛かる。抜き放つと同時に氣巧剣の媒体とし、発言させた光の刃でゼーダを貫こうとする。町内だろうと関係ない。怒りが明かされた事実に衝撃で炸裂した。もうその意中に、二人への友情の欠片も無かった。

 ゼーダの姿が消える。霧を切ったような感触に、狼狽えていると、その背後で双子がユウタの背後で笑っていた。余裕綽々とした立ち姿の男に、客は見向きもしない。恐らく、呪術による催眠で支配下にあるのだろう。

 振り向きざまに氣巧剣を横へ薙ぎ払う。


「甘い」


 彼等の声が重なると、それが衝撃を伴ったかの如く、ユウタは見えざる拳で殴打される。店の壁に叩き付けられ、床に臀部を打ち付けた。


「……氣術……!」


「当然だよ。<(我々)>は氣術を主流とする血統」


「どうしてさ!どうして二人なんだ!ゴウセンやフジタさんだって………守護者の皆も仲間だったんだよ!?ハナエだって傷付いた!どうしてこんな事したのさ!?」


「守護者は、目的の過程で交流を強制されただけのこと。我々にとって大切なのは、ユウタだけだ」


 ユウタが床を蹴った。もう思考回路は回らない。ただ目前の怨敵だけを討つ為に、全身が駆動している。友人と愛しい村を奪い、ハナエさえも絶望に陥れた存在に、嘗て無いほどの殺意が暴発する。

 もう一度、双子が迎撃しようとすると、今まで恐慌に動けなかったテイが、ユウタを抱き止めていた。正面から受け止め、必死に耐えている。

 ユウタは彼女を押し退けてまで進もうとするが、テイは断固として放そうとしない。鬼気迫る気勢のユウタに、静かに言い放つ二人の声が耳朶を打った。


「ユウタ、もう我々は次の町へ向けて出立しなくてはならない。次の機会にしよう」


「待てよ!」


 二人は振り返りもせずに、店を出ていく。その後ろ姿を剣も同然の鋭い眼差しで追う。


「いつか………いつか、必ず、アンタらを殺してやる!!……絶対に!!」


 もう迷わなかった。たとえ、それが皆の望んだ事で無くとも、ユウタが渇望していた。この手で為す──<(スティグマ)>も含め、ゼーダとビューダを破滅させる。

 姿が消えてもなお、怒号するユウタの声に合わせ、店内の人間が振り返った。催眠が解けたのか、周囲を見渡して酷く驚いている。元々、店内に居ること事態を訝るようだった。

 テイが力の抜けたユウタの体を放すと、彼はその場に立ち尽くして、出口を睨んでいた。



 “──いつか、いつか必ず。”




















三章も佳境です。



今回アクセスして頂き、有り難うございます。

次回も、よろしくお願いします。

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