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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
三章:セリシアと精霊の歌
44/302

セリシアの隣人/ニクテスの協力

更新しました。やっと余裕が作れた感じです。



 耳に届く声は、次第に強くなっていた。

 声の源は、主人だと考えてはいたが、そうではなかった。ただ、彼との邂逅が切っ掛けであって、時間の経過とともに大きく響く。


 セリシアは幼き頃からの“隣人”の正体に、ようやく解答を得る希望を見た。辛苦を共にし、この人生の多くを傍で過ごしてくれた。言い方を変えれば、その“隣人”はいつだって助けてくれない。──しかし、自分にとっては家族にも等しい時間を共有する仲である。それが天使だろうと、或いは悪魔だろうと、セリシアという人格を形成した環境の一つであり、決して欠かせぬ生命器官。


 離れていた主人が接近すると、“隣人”の声も大きくなる。その影響で、主人の帰還を把握できた。抱擁を交わせば、あたかも耳元で囁かれているほどの近さを感じる。


 “──ああ、どれほど、この時を待ったか。”


 “隣人”との距離が縮まる。その感覚は漠然と、しかし確実にセリシアの体にある。


 ダンジョン第二層で、夥しいミノタウロスを相手に戦うムスビから離れた場所で待機していた時、抱き寄せていた妖精族の少年の出血が酷くなった。傷が圧迫されたにも拘わらず、流血が包帯の下から存在を拡張している。セリシアは身近に人の死を悟った。

 ムスビに彼を任せられた。死なせてはならない。

 その時、主人が不在の地下、脳内で轟く。その音響はかつてないほどで、血管を叩きながら走り、脳内を撹拌する爆風のようだった。頭痛を伴う激しい声に意識を集中させる。向き直るほど狂いそうになる衝撃に悶えながら、聞き逃すまいと頑固になる。


 “──答えて、あなたの本当の名前を。”


 本名なんてあるのか──セリシアというのは、奴隷商売の男が付けた名である。その地の民間伝承に伝わる“銀の精霊”に因んで命名された。

 本当の名前なんて知らない。

 そう訴えるセリシアに、同じ言葉を続ける。


 “──答えて、あなたの真実を。”


 明確な声音は、セリシアの心を打つ。どうしてか、いつも聞いているのに、込み上げる何かがある。

 名前なんて知らないのに、唇だけが震えて、喉が思考の離別したかのように独りでに言葉を紡ぐ。腕の中で冷たくなる妖精族の少年に、清水を注ぐかのように。


 少年の体が淡い光を帯びる。

 白い布を侵していた血は、ゆっくりと止まった。取り戻される体温と、掌に伝わる命の脈動。セリシアは憮然と己の唇に指を当て、そっと撫でた。

 誰かを救った──“隣人”と一緒に、誰かを癒した。

 その事実を反芻して、感覚を噛み締める。


 “──もうすぐ、音は声に、声は歌になる。”







   ×      ×      ×




 ダンジョンを介して、浜辺に出現したミノタウロスにリィテル南地区が騒然となった。避難を喚起する警鐘がけたたましく町中の空気を叩いて、人間の危機感を刺激する。

 恐怖や混乱に染まった人間達が、一斉に北上していく景色を、ギルドの二階から眺望していた。セリシアからすれば、彼等の感情が理解できない。死とは必然的に訪れる摂理──命はいつだって理不尽に終わる。余命がいつかなんて、最初から把握している人間とは、云わば聖人、神といった条理を捻じ曲げることの可能な存在だけ。

 何度だって暴漢などに死の恐怖を与えられ、ついには麻痺してしまったセリシアにとって、町人が不可解に思えてしまう。


 受付の男が避難を促すが、セリシアは首を横に振った。ムスビが帰るまで待機する──それが命令だ。如何なる時も自分は道具であり、一個の命ではない。人の為に動き、人の為に磨耗していく。ムスビの命令に反することは、道具の範疇を越えたものとなってしまう。

 警鐘は鳴り止まない。受付の男も怯え、セリシアの肩に載せた手を小刻みに震わせている。避難すべきは彼の方なのに……。


 潮騒よりも強くギルドに届いたのは、金属が打ち合う音。いま浜辺で開かれた戦端で行われるのは、魔物と人が鎬を削る命の遣り取り。

 波の打ち際に、きっと生きていた筈の肉塊が転がっていることだろう。いつかは辿る末路、生命の終点。生まれ出た時から定められた道筋。


 セリシアは蒼然とした空を見上げる。

 人の苦辛など微塵も知らぬような快晴。雲一つない無窮の象徴。奴隷の自分に、あれほどの自由があったとしても、きっと何も望むことは無かっただろう。──きっと考えもしない。思考放棄して、主人に従うのみ。諦めた人生に、“隣人”以外に希望を持つことなどない。


 本当にそうか?──なぜ、今こんな自問をしているのか。浜辺から死を感じて、それが自身に迫っていると識って、必死に考えているのか。

 まさか、自分を救おうと、生き延びる道を選択させようと本能が諭しているのかもしれない。


 受付の男が下を見て、小さく悲鳴を上げた。

 セリシアは肩を掴む男の力に小さく呻いて、その視線の先を追った。

 そこには、体長三メートルはあろうかというミノタウロス。通常の個体よりも高く、そして肉体は膨大な空気を含んでいるように厚い筋肉に覆われている。その手に駆る斧の白刃が鈍く光った。

 セリシアと受付の男に、己の死として映った。

 セリシアを捨て、避難口から逃げようとする受付の男は、床の段差に爪先を引っ掛け、盛大に辺りの物を倒して転んだ。それを冷静に見下ろしていたセリシアは、ふと階下のミノタウロスがこちらに血走った眼球を向けていることに気付いた。

 どうやら、獲物を見つけたらしい。


 標的が決まれば、ミノタウロスの行動は早い。

 門扉を蹴り、中へと蹄で板張りの床を踏み砕きながら進む。

 ギルドにいた職員たちが、断末魔の絶叫を上げながら、惨たらしい肉片となって壁や机を赤く汚す。逃げる間も与えず、圧殺し、斬殺し、撲殺する。純粋に本能に忠実な彼等は、ある意味では自由。

 湾曲した角を掲げるように、ミノタウロスが顎を持ち上げる。二階に居る気配を感知して、鼻息荒く斧から滴る血に昂りを抑えられず、新たな血を求めて走った。


「どどどどどうしよう!?」


 目前まで接近する脅威に、受付の男はこれ以上ないぐらい狼狽えた。目尻に涙を溜めて喚く姿は醜くも、セリシアの眼には眩しく見えた。これが命への執着。幼い頃に自分が捨てた感情。

 セリシアは彼の頬を流れる涙を指で掬った。きょとんとする相手に口端だけを上げて笑みを作ると、巨大な足音へ向けて歩く。見送る視線を背に感じながら、悠々と進んだ。


 何をしている?自分にはどうにも出来まい。死ぬつもりか?


 それは無い。別に自殺希望者でもなければ、生存本能に素直な生き物でもない。

 ただ単純に、あの男を救いたいと願った。行動原理はそれだけだ。他に何かを思うほど、自分は感情的じゃない。


「ブルルルルルッ!!」


 猛るミノタウロス。

 見上げなくてはその顔すら見えない。ただ間近に見て、さらにその大きさを詳しく認識することができた。

 握る拳は、自分の胴ほどある。あれで殴られたら、自分なんて残るのだろうか。木端微塵になるのが普通で、良くても脳漿(のうしょう)の飛び出た頭蓋だけが男の前に転がる。


 ミノタウロスが咆哮を上げた。天井や支柱、二階の床を空振だけで激しく揺らす力強さは圧迫感を伴って、セリシアを突き飛ばす。後ろへとたたらを踏んで、数歩引き下がった場所で止まった。

 直立する少女は、それでもなお胸の内に恐怖はない。安らかで静かな心臓の音が、鼓膜を小突くだけ。それが取り除かれたら、もう何も残らない。


 “──口を開けて、声を出して。”


 “隣人”の聲が、耳朶を打つ。

 圧倒的な相手を前にしても、その音の方がセリシアには重要であった。呼び掛けるのはいつも、自分を見守っていた存在の、唯一の証明。


 “──歌え、唱え、詠え。”


 方法なんて解らない。

 しかし、体が記憶しているかのように、“隣人”に合わせて全身が動く。



 セリシアの歌が光となって、ミノタウロスを包み込んだ。







   ×       ×       ×




 リィテルの離島──


 先住民ニクテスが守護する島。

 長い時間を、外の者たちを斥けて過ごしていた。その中で発展したのが呪術だった。本来は政などに用いられていた筈が、いつしか敵を苦しめる為の最適な毒として重宝されることとなる。

 この島では、厳然と聳え立つ山の中に祀られた精霊を崇め、民の幸福と安寧を願う。排他的な思想は、それを端に発していた。


 ニクテスがいるのは、山の麓である。岩壁から少々離れ、森の中で円形に開かれた土地に集落があり、木造の家を建てていた。大人は色彩豊かな装束を纏い、薄絹の服で統一された子供にとってその姿は憧憬である。

 特に豪奢な衣装の人間は老若男女問わず、その尊敬を集める。集落の長として認められ、常人とは異なる空気をしていた。

 長を中心に広がる集落の人々は、俯瞰すると山に向かって半円状の陣を作っている。膝を曲げて地面に平伏し、山の頂上に合掌すると指を畳んで胸に引き寄せる。その動作を繰り返し行っていた。



 ある一軒の家の中から、布団より上体を起こして、その遠景に感嘆する。聞こえてくるのは民族に伝わる呪いの言葉。過去より守られた風習に従い、ニクテスは今日も祈りを捧げている。

 ユウタは彼らを見て、郷愁に胸が苦しくなる。

 ニクテスから、もう既に滅んだ神樹の村を想起した。帰れもせず、戻れもせず、だが脳裏に焼き付いて離れないのは、火に巻かれて灰塵となった人と家。焦げ臭い熱気が鼻腔を焼いた。

 なぜ、彼らに重ねてしまうのか。それはすぐに解することができた。

 周囲から閉鎖的で排他的な体制。

 この集落は、“シャンディ”という自警団によって守られ、島に立ち入る人間を排除する役だという。彼らが得意とするのが呪術で、その殺傷能力は毒よりも強い。武器は吹き矢、弓矢、投げ槍を主流とする。他にも投擲武器と、遠距離から外敵を狙う武器を選ぶ傾向から、相手に姿を目視されることすら忌避するニクテスの精神を感じる。

 神樹の村、その守護者も同じく一撃で侵略者を仕留めることを基本とし、その為に技を練り上げる。

 過去を思い出して、ユウタは卑屈に笑った。


「ユウタ、大丈夫?」


 自分を心配する声に首を回した。

 布団の傍で正座をしているのは、この家の家主たる少女──テイだ。ユウタよりも一つ年齢が下で、橙色の髪を首筋が見えるほど短く切り、金の瞳は眼球に閉じ込められた太陽のようだ。


 ユウタは肩を回したり、足先に力を込めて探りを入れる。体を蝕んでいた痺れがとれて、十全に動く。立ち上がって屈伸し、上体を逸らして地面に手を着く。

 ユウタの体の柔軟さを見て、テイは思わず拍手した。体操をしていた彼の行動すべてに注目している。純粋で邪悪のは縁の無い穏やかな気性の女の子。

 視線に照れて体を戻したユウタは、改めて現状把握に思考回路を回す。体が麻痺していた時には鈍重だった脳内も、速やかに情報の整理に取り掛かる。


 森でニクテスの気配を悟り、交渉しようとしたのだが、背後から予期しなかった吹き矢を受け、その呪術で動きを封じられて捕縛されてしまったのだった。為す術なく集落へと持ち帰られる。

 しかし、侵入者だというのに殺されなかったのは、恐らく「話し合い」をしに来たユウタは、まだ生かす価値があると判断したのだろう。目的を問い質せば、外界の更なる動向も知れると考慮したシャンディが、ユウタを連れて帰還した。

 それから、長の指示でテイの家に拘束することに。この集落で彼女は、神樹の村でのユウタと同じ立ち位置らしく、見方を変えれば面倒を押し付けられたのだった。意識が戻り、体を動かせるようになれば長の下へ連行しろという言い付けを、テイは渡されている。


 浜辺で聖女を待機させたまま、村に拘束されてしまった。意識が落ちてから時間はあまり経っていないが、彼女の不信感を煽らぬ為にも早急に帰らなくてはならない。

 シャンディの追手から逃れるのは至難の業だ。あちらは島の地理に知悉し、その上で的確に追い詰めてくる。この集落を抜けてから、すぐに逼塞した状況に陥るのは自明の理だ。

 ならば、もはや和談しかない。


 ユウタの持つ紫檀の杖は、現在シャンディが管理している。長との折衝が上手く進めば、返戻されるかもしれない。武装は解除され、今は袴と単衣のみの姿だ。取り上げるだけ無駄だと思われたのか、把だけの小太刀は腰の帯にある。

 テイはおずおずと小さく縄を取り出して、ユウタに渡す。それに苦笑してユウタは優しく言った。


「自分を縛ることは出来ないよ」


「あの、その、ごめん」


 歯切れの悪い言葉で謝りながら、大人しいユウタの両手首で紐を結んだ。後ろ手で固定された両腕で固さを確認すると、すくっと立ち上がってテイに誘導して貰いながら、集落を歩いた。

 先程までの祈りが終わったのか、集落の人間がこちらを注意深く監視している。険しい目付きなのは、自分だけが原因ではないとユウタは察した。テイもまた彼らに嫌悪されているらしい。


 石が投じられた。

 無造作に、テイよりも小さな子供の手から飛んで、彼女の側頭部を直撃した。テイは痛みに頭を手で押さえながら、声を噛み殺している。指の間から赤い線が一筋流れる。

 次々と投げ入れられる石に、ユウタは丁度良いと、意識を集中させた。これほど複数の物を、小物でも制御するのは難しい。


 中空で、総ての石が停止した。その光景に、集落の人間も固まり、息を飲んだ。

 自分を中心に世界の時間が凍ったように感じるほどの静寂の中で、テイは周囲を見渡して目を見開いている。

 ユウタが後ろの手で指を振ると、誰もいない空間へと石が移動し、地面へと転がった。


「ユウタ、ありがとう。お礼、いつかする」


「別に良いよ、修行になったから。それよりも、その怪我は大丈夫?」


「後で、薬草、塗っとく」


 大丈夫だと微笑むテイに少し触れ、氣術で体内の氣を促進させ、自然治癒力を高める。こういう時、ユウタは、相手の氣も操作が可能な己の氣術に改めて感謝した。流れさえ大きく変えなければ死に至らず、逆に人を救う手立てとなる。

 肩を寄せてきたユウタに、彼女は赤面する。顔から蒸気を上げるほど熱を発すると、ユウタは首を傾ぐ。


「あ、ここか」


 ユウタとテイは、一際大きい家に着いた。洋館でないだけ、神樹の村との違いを感じる。その感想を口に出さず、テイの顔を見た。

 強張った顔で入り口を見詰めている。目に見えてわかる緊張感に可笑しく、ユウタが小さく笑うと心外だとばかりに頬を膨らませた。笑いを押し殺しながら謝罪して、中へと入る。


 部屋の中心では長が床に腰を下ろして座っている。厳格な雰囲気のある面持ちが、こちらを威圧的に見た。それだけで、テイが肩を跳ねさせる。

 ユウタは一礼して、長と正面に位置する場所で正座すると、テイも慌てて座る。


「私がニクテスを統括する者だ。む、テイ、お前は下がりなさい」


「良い、です?」


「ああ、それとだな。裏口に傷薬があるから、それを使うと良い」


 少し和らげた声に、テイはすぐに席を外した。

 どうやら、長は彼女の味方であるらしい。その傷を見て薬を提供したり、優しい声掛けの様子を見てユウタは思った。

 再びこちらに向き直った長に、ユウタは声を絞り出す。


「ユウタです。今日はニクテスの方々に相談あって、森に入った者です」


「何故、この地を訪問した?」


 予想通りの質問、しかしその言葉の内包する警戒心の強さだけは違う。理を言って通ずるかも疑わしいほどの疑念を隠匿しようともしない。敢えて、何と返答するのかを試している。

 余計な取り繕いや言い回しは一切使わずに話さなければ、最悪この場で戦闘もあり得る。ユウタは深呼吸をして答えた。


「実は、ニクテスとの外交を求め、タリタンという国からの使者が訪れています。その目的は、ニクテスの持つ呪術。それによる技術の発展」


「ほう」


「遣わされたのは聖女レミーナ。しかし、その本性は一言で形容するならば悪女です。欲する物に対して、巧みな話術と演技で人を懐柔する」


 味方を悪評するユウタに、長が怪訝な視線を投げ掛ける。


 ユウタは集落を見て、決心した。

 テイの現状が、過去のユウタに重なっている。敵は多いが、自分を理解してくれる人がいる状況。何よりも、外交をせずとも不自由なく暮らすニクテスの平和が、果たして国と交わることで維持されるのか。──否だ。

 間違いなく開拓、新たな技術の開発を強要される。聖女という手段に打って出た国ならば、やりかねない手法だ。

 間接的ではあるが、ユウタは国を敵に回すこととなる。よくよく考えれば、リィテル滞在期間中のみで、あの聖女──のような我欲の強い人間が、逃がしてくれるのか。ムスビへと揚々と説明はしたが、実際的に不安である。

 いや、恐らく正しい。なら、敵対組織を束ねて聖女を叩く他ない。ニクテスも、そしてユウタも国と対立しないよう、聖女が失敗したという形で結末させられるように。

 何よりも、神樹の村を守れなかった未練をここで晴らしたい、というのが何よりも強い意思だった。


「僕は、いま聖女によって拘束されているも同然の身です。彼女を退ける為にも、ニクテスの力をお借りしたい」


「聖女とやらに逆らうと起こる不利とは?」


「仲間に害が及ぶ、その一点」


 即答したユウタに、長は顎を擦りながら思考する。嘘は言っていない。信頼がないのは仕方がない。ニクテスとしても、これからも、この体制を続けていく所存だ。

 新たな侵入者は“聖女”が、国から送られた刺客なのだとすれば、相当手強いだろう。外の世情に疎いニクテスでは、処しようがなくなってくる事態があるやもしれない。少年の協力を惜しむ理由は、いま何処にもないのだ。

 暫く考えて、顔を上げた族長がゆっくりと頷く。


「うむ、心得た。共闘しよう、ユウタ」


 ユウタは胸を撫で下ろした。


「では、一度聖女の下へ帰還します。相手の動向を探った後、改めてお伺いしますね」


 すると、族長の家に入ってきた男が無言でユウタの左腕に触れた。赤い円の模様をした印が現れ、それをまじまじと見詰める。長はユウタに説明を補足した。


「必要かと思って準備した『契約呪術』。ユウタが私と交わした、聖女打倒が果たせなかった場合、その命消えるという呪術だ」


 平然と言った彼に、ユウタは頷いた。


「やはり、こうしないと一応の信頼は無いですよね」


「当然だ。協力は惜しまぬが、君もやはり外界の人間。未だ疑うべき対象の範疇」


「任せて下さい。必ず、僕の仲間と、そしてニクテスを守れるよう尽力します」


 深々と頭を下げたユウタに、族長は目礼する。

 彼は再びテイを呼び、ユウタの横に座らせた。傷口に傷薬を塗った後であるため、彼女から薬草独特の青臭さを感じた。

 族長は少し笑顔を作って、二人を見る。


「では、テイ。情報収集の為にも、ユウタと行動を共にすると良い」


 唖然とするユウタの耳で、数瞬遅れて言葉の意味を理解したテイの絶叫が弾けた。


































アクセスして頂き、ありがとうございます。

展開がシェイサイトの時に似てきてるのは、きっと氣の所為です。


 八咫衆、ニクテス、聖女とドネイル、ムスビとサーシャル、ユウタとテイ、そしてセリシア。

全員の行動をしっかり書けるよう頑張ります。


 次回もよろしくお願いいたします。

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