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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
三章:セリシアと精霊の歌
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奇妙な旅人

更新しました!

魔法って難しいですね。



 今回の聖女の仕事は、リィテル港から出港してすぐの離島である。


 この町が形成される以前から、先住民族──ニクテスによって統治されており、外交は一切禁ずる彼等の戒律で、未だその全貌が明かされていない。リィテルが僅かな情報しか無い所以である。


 ニクテスは呪術に関して高い技量を持つ。執拗な交流を推し進めれば、その力による被害を受ける可能性がある。故に、リィテル町人は渡航を忌憚としており、町長も完全に諦めている。


 しかし、西国の首都キスリートは更なる発展を目指し、ニクテスの技を必要とした。そこで、強引な手段であると自覚しながら、“聖女”を使嗾する事にした。現在は停戦状態ではあるが、東国を牽制する為にも新たな力が必要なのだ。彼女の持つ神聖さと、特別な魔力によってニクテスの考えを改めさせる心算である。

 しかし、キスリートにとって“聖女”もまた特別な存在。仮にニクテスから呪術を受けてしまった場合、大きな損害になるのは明白だ。加えて、彼女を狙う八咫衆の存在を無視できない。

 充分な守備力を以て、その遠征に臨むべく、国から支給された兵を率いて、リィテルとニクテスの間を横合いから侵略する。

 リィテル到着までは、八咫衆を予測した陣形で進み、離島には少数精鋭で交流を図る。その面子として、聖女には一人の兵士が付いていた。

 “竜騎士”──ドネイル。

 現在の国では、最も武勲を上げた若い兵の一人。その剣術と指揮力を見込まれ、今回の聖女護衛の任務に配属された。

 しかし、聖女としてもドネイルのみでは不安だった。未踏の地に、僅か二名で乗り込むのはあまりに危険なのである。故に、その道の途中で幸運にも、新たな護衛を得た。

 最近、各町を騒がせる噂の少年ユウタ。数々の逸話を持ち、災厄とも形容された傭兵クロガネを破った。若年でありながら、その実力は【猟犬】の証言付きである。

 本当に戦闘行為に及ぶとは思えぬ温和な気質の持ち主だが、その手に提げた紫檀の杖は、裏の世界では今もなお伝説とされる存在の象徴とされている。果たして、噂通り“アキラの後継者”なのだろうか?

 聖女はユウタを、その透視能力で観察したが、記憶までは覗けなかった。普段ならば、無粋にも一般人の脳内まで探ることのできる力でも、少年の肉体が拒絶反応を示した。その正体が、彼の右腕の何かだと知ったのである。


 聖女は強い人間を求めている。

 その身に迫る、八咫衆を撃退する為に。

 ユウタを籠絡するように、その距離を詰めていくことにした。





  ×       ×       ×





 恙無く出港した聖女一行。

 遠目に窺える離島は、隔絶とした体制をしていると知っているためか、不気味な空気を潮風に乗せ、それをユウタも犇々と感じている。初めて船による渡航だというのに、この仕事の所為あって、素直に楽しむ事すらできない。

 揺れながら海を滑る船底、跳ねる水飛沫。頬に飛んだ海水を舐めとり、その塩辛さにユウタは目を見開いた。話には聞いていたが、本当に塩分濃度が高い。川の水と違い、飲むには辛いほどである。


 船の縁から海面を見て、景色を眺めた。

 後ろの町では、いまムスビ達が頑張っている。その事実を弁えると、彼は気を抜く訳にもいかない。聖女レミーナという敵をすぐ近くに見据えている今、彼女に疑心を持たれぬよう立ち回る努力が要求される。

 竜騎士ドネイルは、彼女の傍を離れず、つい先程二人で船室に戻っていった。船員の仕事を拝見し、ユウタは暇を潰すことにする。

 船の隅に置かれた桶を三つほど前の床に置き、胡座をかいて目を閉じる。


 森を出て、長らくしていない氣術の練習。

 師からは一日たりとも欠かさずに取り組めと言い付けを受けたが、ハナエと共に移住して以来は、忙しい日々の中に身を置いていた。故に、こうして氣と真剣に向き直るのも、久しいことである。

 前に伸ばし、開いた左手を掲げると、彼を中心に空気が輪のように微かな波を立て、桶から中心のユウタに向かって収斂(しゅうれん)していく。不可視の力による流動は、船員から見ても奇異の視線を寄せた。触れずに上へと浮上していく物体に、言葉を失っている。ある高さまで到達すると、それは潮風にも揺すられずに静止した。

 ユウタは物体の重量ならば、少なくとも大岩を複数を持ち上げる事が限界である。春先の氣術師の戦闘で倣った氣巧法で、業はかなり上達した。しかし、師は容易に村より遠く離れ屹立していた崖を持ち上げられる。それこそ、ユウタの目標であった。彼とはまだ天と地ほどの差ではあるが、いずれは超えるべき壁として心の中に聳え立つ師の背中を思い浮かべる。

 今回の桶を用いた練習は、集中力の持続。揺れる船体は、それこそ修練としては最高の環境であった。気力を遮ろうとする妨害を甘受し、それでも感覚を研ぎ澄ましていく。

 至近距離の戦闘では、氣術による斥力を放つ防御展開が間に合わないことが多々あった。ギゼルの攻撃が例である。即座に使用できる技量を完成させなくては、今後も厳しい戦いを強いられるだろう。クロガネの戦闘で敗北を経験して以来、旅路の険しさを痛感した。


 桶の一つが乾いた音を立て、床に落下した。そこでユウタの氣術が解除され、二つを両手で受け止める。予想していた時間よりも状態を保持できたが、まだ耐久ができた筈だ。溜め息をついて、ユウタら掌を見つめた。船員は彼の顔に浮かぶ落胆の色を見て、励ますように拍手を送る。

 周囲の視線には気づいていたが、中断する訳にはいかなかった。失敗を慰められるとは思わず、苦笑して深々と一礼する。


「凄ぇな兄ちゃん!」


 溌剌とした声と共に、一人の小さな少年がユウタに駆け寄る。その眩しい羨望の眼差しに捉えられ、ユウタは照れ臭そうに笑った。氣術を旅先の他人に誉められた経験はない。

 胡座を解いて立ち上がると紫檀の杖を氣術で引き寄せて見せた。その光景を見て息巻く少年と、その背後で感嘆の奇声を上げる船員。少し調子に乗って披露してしまったことをすぐに恥じる。


「オレにも出来るかな?」


 少年の質問に、ユウタは記憶を遡る。

 氣術が血筋や修練開始の年齢、性別に依存するか否か。記憶している師との会話で見る限りは、そういったものが無かった。

 ユウタが初めて氣術を教わったのは、齢四の頃。その時、無意識に食器を引力で手元に手繰ってみせたのを師に見咎められ、それから指導が始まったのである。


「多分、出来ると思うよ」


 船員の一人が少年の襟を掴んで持ち上げた。日に焼けた赤銅色の肌に、太い腕と頭に布を巻いた男性。


「悪いな、コイツまだ仕事あるから。それにしても、今のは魔法か?」


「あ、いえ。氣術という、少し変わったものです」


 そう答えると、船の空気が冷たくなった。目前の男性も、口を閉じて瞠目している。様子が一変したことを察して、ユウタは戸惑いに首を傾げた。

 ぎこちない挨拶で立ち去っていく男性から、ユウタは彼等の感情を悟る。


 漠然と感じたのは、怒りであった。







   ×      ×      ×





 宿で一泊し、迷宮へと赴いたムスビとセリシア。浜辺に出来た洞窟に足を運ぶ冒険者の盛況に気圧されて、入る隙を窺っていた。ここにはあの【冒険者殺し】がいるという情報もない。しかし、時間帯によって所々が浸水するという第三層から危険性は著しく高くなる。今回、ムスビが受ける依頼は[S]クラスの魔物討伐。生態を調べたところ、第三層の深い位置に棲息している可能性が高い。


 水竜リーヴァンネ。

 外見は蜥蜴と差異はないが、体長はムスビの数倍はある。何よりも、腹部以外を覆った体毛は毒の体液に濡れており、肌に触れただけで肉が爛れてしまう。尾による薙ぎ払いと、口腔からの体液噴射が攻撃らしい。

 群生ではないため、個体での発見例が多い。


 セリシアはムスビが動きやすきように、彼女の背嚢を背負っている。

 ムスビは、ギルドにて待機していろと指示したが、彼女は従わずに同行を強く所望したため、仕方なく連れて来ている。危険な魔物との遭遇にも、少女を守りながら戦わなくてはならない。


「セリシア。あんた、勝手な行動はしない、これを約束しなさい。あと、魔物との交戦中は隠れること」


「了解です、お姉様」


 セリシアを改心させたいが、誰かに教え諭すのは得意ではない。本来ならユウタが得意としている上に、恐らくは彼の方が子供の扱いが上手いのだろう。現に、彼は前回の町でも年下の女性に慕われていた。

 素直な性格でない己の性分に苦しめられてきたムスビは、心底自分の面倒見の悪さに失意する。


「おや?どうなされましたか」


 飄然とした声に、ムスビが顔を顰めながら振り返る。ユウタが不在の今は、彼を恋人と欺瞞を張ることもできない。鬱陶しい男の誘いがきた、と彼女の顔が苦く歪んだ。


 背後には、黒装束を着た白い仮面の男。ユウタと同じく東国の服は、周囲の鎧やローブに身を包む人間達の中では異質さが際立っている。烏帽子を被る彼の奇抜な風貌に、ムスビは呆気にとらわれて、何も言わなかった。


「失礼。見麗しい少女が二人、思わず声をかけてしまった。

 僕はカズヤ、東国出身で旅人です。冒険者ではありませんが、今回少し事情があってダンジョンに入らなくてはならなくて」


「ふーん……それで、あたし達に何か用?」


「これでも僕は戦闘にも心得があります。途中まででよろしいので、どうか同行させて貰えませんか?」


 胸に手を当てながら礼をする男の礼儀正しい態度に、ムスビはセリシアと顔を合わせる。如何にも怪しい人物ではあるが、一度目を付けられては拒絶した後に、何らかの報復を受けても困る。今、聖女護衛でムスビ達の身を守る為に奮闘中のユウタに、余計な負担をかけるのは悪いと感じ、縦に首を振った。

 白い仮面の下で喜ぶ彼の表情をセリシアは読み取った。邪気のない相手を注意深く観察するのは、ユウタの相棒たるムスビに害を為そうとする相手を排斥するため。セリシアは既に懐でナイフを忍ばせている。


 カズヤは袖を振って姿勢を伸ばすと、ダンジョンを指差した。


「事情と言うのも、僕は歴史を研究していまして。この町のダンジョン第三層辺りにあるとされる壁画の調査を申し付けられまして」


「ああ、丁度あたしの仕事場ね」


「おや、それは奇遇です。もし良ければ、道中、このカズヤがこの大陸の歴史について、語りましょうか」


「……………………何で?」


「大変申し上げ難いのですが、歴史への関心が薄そうなので」


 見事に看破された。と言うより、厳密に言えば関心もなければ知識もない。獣人族では体術と語学のみだった為に、歴史にまで学が及んでいなかった。図星のムスビは、一つ咳払いをして誤魔化す。


「へえ!研究者の語る歴史なら、興味深そうね。良いわ、聞かせて」


「有り難い。しかし、貴女の表情を見ると、僕の身なりにもあまり驚かれた様子が見受けられませんでしたね。もしかすると、東国の知人がおられますか?」


「旅の相棒よ。今は別行動なんだけど、忙しくて戻れないみたい」


「なるほど、恋人でしたか。残念ですね」


「初対面で人を殴りたいって思ったのは、これが初めて……でもないか」


 ムスビは嘆息を吐いて、ダンジョンへと向かう。薄暗い中、洞窟の壁面に埋められた石が明滅している。


「あれ、何?」


「魔石です。地中の魔力が圧縮されて固形物となった状態。魔力の吸収、蓄積などが可能で、商売道具としても取り扱われます。魔力の枯渇を防ぐ為に、旅人が持ち歩く場合が多いですね」


「発光してるのは?」


「暴発寸前まで魔力を与えると、魔力を光に変換します。未だ地中から提供される魔力で、このダンジョンの照明として利用されているみたいです」


 冒険者よりもダンジョンに詳しい。その事実に、ムスビは少し顔を険しくした。


「道中の魔物を蹴散らしながら行くから、あんたも協力してよね」


「了解しましたよ、姫」


「姫?」


「いえ、こちらの話です」


 一層で妨害する魔物を払いつつ、一層から二層へ暫く進むと、三叉路に出た。迷いなく進む冒険者達の中で、ムスビは、どの道を行くか思案している。依頼期間が長いため、どの道を探検しても時間が余る。早々に完了するか、或いは未知を求める冒険者として馳せるか。

 頭を抱える彼女の横で、カズヤは襟巻きを取り出し、それをセリシアの首に巻いた。奴隷の証である首輪が隠れる。

 白い仮面を見上げるセリシアに、手を振る。


「いえ、隠した訳ではありません。そちらの方が可愛らしいので。暑ければ取って頂いても構いませんよ」


「……ありがとうございます」


 形だけの礼を述べて、襟巻きを少し緩めた。夏の中では少々暑い。

 しかし、それを外さずにいるセリシアにカズヤはふふと笑って、ムスビの肩を叩く。


「姫、こちらの道がよろしいかと」


「え、どうして?」


「通過して行く冒険者を観察する限り、中級の方の多くがこちらへ。姫の実力なら、僕の見解からしても無難かと」


「あたしの実力?」


「軽装でダンジョンに挑むような強者です。余程の力なのでしょう?」


 やや挑発的な彼の口調に、ムスビはふんと鼻を鳴らして、カズヤの示した道を進む。黒髪を揺らしながら進む彼女の背後を進んだ。


「僕の髪と同じ色ですね」


「そうね。メッシュ入ってるけど」


「となると、東国の血が流れているのでは?」


「?そうかしら?両親はどちらも美しい白髪だったけど」


 自身の髪を一房だけ掌に乗せて見つめる。

 これまで見た中で、黒髪の人間と言ったら、自分とユウタ、カズヤ、そして……<印>。クロガネも恐らくは黒髪なのだろうが、戦闘に邪魔だと刈り上げてしまっている。

 黒髪とは西国では珍しい。


「何でだろう?」


「さあ、奇妙ですね。おや?」


 カズヤの視線の先に冒険者が倒れていた。整った相貌と長い耳。鮮やかな緑の頭髪を後ろで括っている。妖精族の少年だ。

 駆け寄って、容体を確認した。外傷が見られるのは頭部。こめかみに入った切創から、血が流れている。セリシアを手招きで呼び、背嚢から包帯で止血する。クロガネの看病で手慣れている彼女は、すぐに作業を終えた。

 カズヤは冒険者の周辺に散乱した金属片を拾い上げ、前方の道を見る。そこは大きく広い空間になっており、自然に形成された洞窟の岩が柱となって天井を支えている。通路よりも魔石が多いのか、その部屋は明るい。


「姫、気を付けて下さい。何やら嫌な予感がします」


「セリシア、そこの冒険者を見守ってて」


 セリシアに命じると、ムスビとカズヤは空間へと進み出た。靴音が辺りに反響する。多くの冒険者が通って行ったとしては、やけに静かだ。

 広場の中心に立つと、先へと繋がる回廊の前で夥しい冒険者が倒れていた。カズヤはそれを見て呟いた。


「冒険者……Lv.5の方々ですね。上級者だというのに、二層目で倒れている。姫、これは少々面倒ですよ」


「あんたも働きなさい」


「御意」


 カズヤは袖の中から、短い短刀を取り出す。鞘を抜き捨て、刀身に触れると、太さと長さが一気に数倍にまで膨張する。初めて見る黒い太刀に、ムスビも興味を惹かれた。


「へえ、あいつのより長い」


「おや?他の男と比較すると、恋人が嫉妬しますよ?」


「やかましいわ!」


 ムスビの張り上げた声に呼応して、周囲から巨大な足音が接近する。

 支柱の影から姿を現したのは、二本の湾曲した角を振りかざし、巨躯を揺らしながら進んだ怪物。黒く厚い体毛に覆われてはいるが、それでも彫刻のような筋肉が一目で解った。その頭部は猛り狂った闘牛で、目を血走らせて中心の二人を狙っている。


「ミノタウロス、ですか。第三層の魔物ですね」


「こんなデカイのはガフマン以来よ」


「おや、あの有名な【灼熱】の?」


「そんなのどうでも良いの。あたし達で殲滅するわよ」


「コイツらは女が好みで、繁殖に必要な相手としか見ていません。重ねて注意を」


「うわ、やめてその情報」


「では行きますよ、姫!」


 地面を蹴って、弾かれるように二人は左右へ分かれた。


 ミノタウロスが姿勢を低く、角を突き出しながら突進を繰り出す。地面を蹄で打ち鳴らしながら、ムスビめがけて走った。

 その迫力に臆することもなく、ムスビは立ち止まって掌を猛進するミノタウロスの頭部へと翳す。彼我の距離はおよそ八メートル。安全圏と見なしたその間隙から、ムスビは魔力を集中させる。

 体内から体外へ、指先に募る力の圧縮に耐える。手の前に、数本の白い火が中空に灯り、次第に矢の形に変わった。余りの熱量に、周囲で陽炎が揺らめく。


「《火焔の矢(ファイア・アロー)》!」


 詠唱と共に飛散した矢は、ミノタウロスの突進を上回る速度で命中した。頭部を爆砕し、首のない巨体が勢いのままムスビの足下へと倒れた。

 漸く実戦で使用できたことに歓喜するムスビは、カズヤの驚愕を知り得ない。戦闘中に横目で見守っていた彼は、あまりの威力に乾いた笑い声を上げる。

 初級魔法の《火焔の矢》で、ミノタウロスの固い角ごと破壊するのは困難である。一体、どれほどの魔力で打ち出されたのか想像が難しい。


「おっと」


 ミノタウロスの腕が、カズヤを掴まえようと振るわれる。上体を反らして躱わした鼻先の空間を、樹齢を重ねた木の幹の如し太い肉が掠める。これがあの冒険者を盾を破壊し、昏倒させた一撃だろう。

 その場から横へと飛び退きながら、黒の太刀で切り裂く。剛腕が血飛沫を上げて天井へと舞い上がり、支柱に叩きつけられて床に転がる。

 白い仮面についた返り血を指で拭いながら、傍にいるミノタウロスの膝下に一閃した。前に体勢を崩した牛の頭が、次には体を取り残して背中の上を転がる。

 仲間が倒れたことに戸惑った魔物が、次々と倒れ始めた。太刀の先の血を払いながら、ミノタウロスの死体から空間の中心へと飛び退く。

 先ほどから体術を織り交ぜ、一体ずつ着実に討伐していたムスビも後退すると、二人の背が接触した。


 二頭のミノタウロスが飛び出し、ムスビとカズヤを挟み撃ちする。


「《火焔の矢》!」


 ムスビの呪文と共に放たれた攻撃が一体の口で爆散し、同時に、大上段から太刀を振り下ろしたカズヤの一撃で、ミノタウロスの頭部が両断された。切り裂くというより、叩き割る形に近く、眼球が眼窩から溢れ落ち、血が滲み出る。

 魔法の直撃に、口から黒煙を立ち上らせて倒れるミノタウロスを踏む。


「やるわね」


「姫なら背中を任せられます」


 すると、通路の方から更に四頭のミノタウロスが姿を現す。


「あんたの選んだ道、最悪ね」


「今後は姫の采配に任せるとしましょう」


「一気に片付けるわよ」


「仰せのままに」


 二人は敢然と、迫るミノタウロスへと走った。


















 

読んで頂き、まことに有り難うございます。

次回から本格的な第三章スタート、になると思います。


これからもよろしくお願いいたします。

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