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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
三章:セリシアと精霊の歌
38/302

町へ続く山道で

更新しました!第三章開幕です!



 どこか、遠い場所。

 大地から炸裂するエネルギーの暴発は、巨大な火柱を立てる。火の粉が吹き荒れる熱風に煽られ、岩壁を焦がしていく。この世の終焉を体現したような光景は、火の揺曳によって明滅した。

 火山から延々と上がる噴煙が、太陽を覆い隠した。暗い空の下で、二つの人影が佇んでいる。

 青年が黒い外套を脱ぎ捨てた。熱気に膨らんだそれは、すぐに空へと舞い上がって灼熱の流動を俯瞰できる崖から振り落とされ、溶岩に溶けて見えなくなる。

 留まらぬ憤懣を声にして叱咤する。それと同時に爆発した火山が、彼の激情を表現しているようだった。何を叫んでいるかは解らない。寄せられた眉根は険しく、憎悪に歪んだ顔が傷物の刃を連想させた。その怒りが、自身を焼き焦がす。流れ出る溶岩流に照らされた背中は、悲痛な思いを訴えている。

 対するは初老の男。その顔に感情はなく、冷然とした眼差しだけを送っている。片手に握る杖を手中で一旋させて、青年の怒声を黙殺した。

 双方の瞳は同色だった。凄まじい火勢で煌々と天空を照らす灯台の如き火山の光に当てられ、琥珀色の輝きを放つ。


 青年が剣を抜く──刀身は緋色をした禍々しい光の刃。その武器を手に、その場から大きく跳躍する。高く空中へと舞う彼を、男は憐愍に目を細めて俯く。頭上から迫る相手を正視しない。

 剣を振り上げ、頭部を両断しようとする。依然として不動を貫く男の真意も探らぬまま、感情のままに振るった。既に彼は激流に身を委ね、二度と引き返せない道を辿ってしまっている。迷いも無く、ただ省みる事もせず猛進する。いつ、どこで道を違えたかも考えずに。


 青年の剣を握る腕が落ちた。地面に落下した身の一部を、憮然として見下ろす。

 男の手には、既に抜き身の細い刀が握られていた。鞘から放たれた獰猛な凶器が、音もなく無慈悲にその本分を全うする。

 断面から流血が迸った。赤く、紅く、青年の足下を濡らす。傷口に火の粉が降りかかり、悲鳴を上げてその場に膝を着く。男に許しを乞うかのように地面に伏せる。地の底から響き渡る怨嗟の呻き声を上げて、青年が顔を上げた。

 男は無感動に見下ろしたまま、納刀すると背を向けて歩き始めた。青年は必死に追おうとするが、既に不可能だった。自身の体を見回す事も出来ない。膝を着いたと思ったそれは、ただ男が抜刀した際に腕のみならず両足も同時に切断されていたのだ。

 残された片腕で這いながら、岩を掴んで進む。遠くなる姿を捉えた視野は、血涙に赤く滲み始めた。肌を焼く風に喉が乾いた。力の限り叫び、男を引き戻そうとする。だが彼は止まらない。


 ふと、眼前に巨大な亀裂が入った。地面が揺らぐと、地響きと共に浮遊感が体を襲う。瓦解した崖の瓦礫に巻き込まれ、青年は火の川を流れる高熱の岩に叩き付けられる。

 あまりの熱量に服が発火し、青年の体を包んでいく。抗う事も出来ず、獣の咆哮じみた絶叫を上げた。

 男は空に届いた彼の声を聞きとがめて、振り返る。今まで動じることのなかったその顔を、悲しそうに伏せた。







   ×      ×      ×




 ユウタは揺れる荷台で目を覚ました。

 長閑な森を進む荷馬車の上から、周囲を見回す。夏の日差しの中で流れた涼しい風が心地よく、思わず眠ってしまっていた。手綱を握る農夫が、まだ半刻も経っていないことを告げる。安堵に胸を撫で下ろした。肩に乗る軽い感触に振り向くと、安らかな寝息を立てて寝ているムスビの顔がすぐ近くにある。

 起こすのも気が引けて、彼女が倒れぬように少し引き寄せる。小さく呻いて身動ぎをしたが、肩に回された彼の腕にも気付かずに寝言を呟く。その様子にユウタと農夫は顔を合わせて笑った。


 山道は屋根を高く葺いた武具の露店と、斜面に建てられた平屋の食事処の間を縫うように続いている。その中でがらがらと音を立てて進む馬車の音も、喧騒の中に掻き消される。山中にある集落は、旅人に向いた商業が盛んだった。

 道を往来する人間の中には、首に金具を付けられ鎖で引かれる者がいる。長い森の生活で俗世間に疎いユウタでも、それが何なのかは弁えていた。──彼等が奴隷と謂われる、人権を奪われ商品へと貶められた道具。旅に出て初めて見るが、背筋に走った悪寒に震えた。

 白く擦り切れ、粗悪な服を着せられた小さな少年が通る。虚ろな瞳で顔を上げた子供に視線を惹き付けられたが、ユウタは首を横に振る。こういった商売が認められる以上、自身が道徳や倫理を述べたところでどうしようもない。ムスビの肩に触れる手に力が籠った。


「あ、あのさ」


 耳元で囁かれ、ユウタはぎょっとして顔を上げる。振り向くと、目を開けたムスビが頬を紅潮させ、気まずそうにこめかみを掻く。彼女からすれば珍しい気弱な姿勢に、ユウタが顔を覗き込んだ。

 すると、馬を走らせる先頭から声がした。農夫が口元を手で押さえながら、目元は笑っている。何が可笑しいのか察せず、困惑するユウタの腹部に鉄拳が突き刺さった──ムスビの一撃が脳髄まで響く。


「な、何するんだよ」


「別にいま恋人役をする必要ないでしょ?」


「ごめん、意味が解らな」


 言い掛けて止まる。密着したムスビの体を見下ろしてユウタは凍った。柔らかい感触と体温が脇から全身に伝わり、頭を沸騰させたように思える。言葉を発せずに、ぎこちなく腕を広げて彼女を解放した。

 ムスビは小さく鼻で嘆息をつきながら、赤面した顔を隠すように背を向ける。積み上げられた荷物に頬杖を付いて、陳列する店を眺めた。目を覚ました直後に、至近距離で彼の体温を感じて思わず動揺したのだ。不覚にもユウタ如きに動悸がしてしまった。


 農夫と約束した場所で別れる。未だ山道の中で徒歩となることをムスビは嫌がったが、ユウタは無視して歩き始めた。街道に向かって合流する為に拓かれた山道は、進む毎に屋台などの密度が増していく。

 ユウタは脚絆を外して、背嚢に入れる。山道などを想定して装着していたが、様子を見る限りは必要なさそうであった。これを使用する時となれば、雪山の場合のみだろう。修練で鍛え上げたユウタの健脚なら、(すね)を掻かれて足を挫く心配もない。

 ムスビは薫る焦げ臭さに顔を顰めて、四方八方へと視線を巡らす。臭いの元は、中腹に棲息する魔物ドンファーを焼いた肉である。削られた木で串刺しにされ、獣脂が滴る度に火が大きく揺らめく。空腹を覚える時間帯でもあり、彼女は物欲しそうに見詰めた。


「……ここらで少し休憩するか」


 ユウタは財布の紐を解きながら店主に話し掛け、ドンファーの串肉を四つ注文した。承った店主がすぐに取り掛かり、火に薪を入れる。作業を阻害しないよう配慮しながら、ユウタは彼に質問した。


「すみません。この山道で美味しい食事が取れる場所をご存知ですか?」


「あん?それなら、この三つ隣にある飯屋が良いぞ。あそこは山菜の取り扱いが上手くてねぇ」


「それは、おいしそうですね」


 ユウタは幼少期から獣肉と山菜のみで育ってきた故に、リュクリルやシェイサイトでもそうだったが、使用されている食材の質に拘っている。新鮮な物を扱う店はあまり無く、彼は久々に美味なる料理を求めている。

 「たまんねぇぞ?」店主は焼き上がった串肉を持ち、ユウタに渡しながら言った。

 ユウタはムスビの下へと戻り、二つを手渡した。不機嫌な彼女を立ち直らせる為に奢るしかない。

 まだ熱い内にその肉を食した。味が好みを当てていたのか、彼女は余韻に浸る為にいつまでも咀嚼している。森育ちのユウタはそうだが、口元が汚れるのも厭わず豪快に頬張る少女に、周囲の人間達の視線を集めた。

 店主から勧められた店までは数分もかからずに到着し、ムスビは期待に目を光らせながら入店した。ユウタも苦笑し、続けて入る。

 この飯屋は三人の店員で営まれている。既に食事をしている人が見受けられた。


「ねぇ、何にしたら良い!?」


 店内の隅にあった空席に腰を下ろすと、早速彼女は机に置かれた注文表を手に取る。石板に文字が刻まれたそれを、ユウタにも見せるようにし、意見を求めた。


「辛味の多いやつはあるかな……」


「ここにまで来て嫌がらせしないで」


「苦しむ顔が見たい」


「あんた、そこまで行くと清々しいわ」


 ムスビは悩んだ末に、ユウタの注文の同じ物を頼んだ。彼女は卓に運ばれる料理を楽しみにしているようだが、ユウタが薄笑いを浮かべたことに気付かない。彼が注文したのは、甘味の後に刺激が強い辛味が舌を強襲すると店員に教わった品。自分に倣ったムスビの安直な思考を嘲る。

 運ばれてきたそれを、ムスビがすぐに食す。一口目から、幸せそうに顔を綻ばせていたが、口内を電流が流れるような辛さに硬直し、涙目で悶えている。ユウタはくつくつと笑って、自身も料理に手を伸ばす。

 食事中は終始、ムスビに睨まれていたが、ユウタは気に留めず完食した。──この店はアタリだ。

 悪戦苦闘する相棒を喜悦に眺める。救済を求めるムスビから敢えて顔を逸らし、店内を見回す。


「最低!あたしを嵌めたわね!」


「注意を怠った君の自業自得だ」


「何で仲間にまで警戒しなくちゃいけないのよ!?」


 ユウタは笑い声を押し殺して、ムスビが平らげるのを待った。自身が満腹になる適量を注文したが、今回はそれが仇となっている。ムスビの量は桁が違う。それがすべて苦手な物となれば、彼女としては拷問にも等しい。


 ユウタは天井を見上げて、今後について思索する。

 神樹の村の壊滅に加担した可能性のある容疑者、守護者のゼーダとビューダを追跡する為に開始した旅。ビバイが開催した結婚披露宴の一件で、彼等が五ヶ月後にシェイサイト領主と共に首都に到着する情報を入手した。彼等を問い質す為にも、ユウタは約束の日に首都に居なくてはならない。

 それまで長い空白がある。その間は、仲間のムスビが目的とする案件に取り掛かるつもりだ。しかし、<(スティグマ)>の動向が知れない今、どうあっても彼等を追う事は困難。それも下手に接触しても、相手は氣術師であるために危険性は高い。

 ユウタとしては、このまま風に流れるように漫然とした旅を満喫したいのが本音である。


 空の器に匙を置く音。ムスビが漸く皿を平らげ、怨みの眼差しをユウタに注いでいた。


「許さない」


「これからについて話し合おう。だから殴るのは勘弁してくれ」


 ムスビは掲げた拳を緩めて、机に伏した。


「何?もしかして、あたしと結婚したいって言うの?ごめんなさい無理」


「何も言ってないのにフラれたよ」


 「次の町には行くんでしょ?」溜め息混じりにムスビが言うと、ユウタは躊躇いなく首肯する。彼女は彼の方針に基本従うつもりだ。自身よりも状況判断が素早いからこそ、旅の指針にもなる。

 ユウタはムスビと共に勘定を済ませ、背嚢を背負い直して飯屋を出た。






   ×      ×      ×




 店を出て、すぐに行列に阻まれた。

 甲冑を着た人間達が、一つの荷馬車を囲んでいる。ユウタとムスビが乗車した吹きさらしの物資運搬用ではなく、地位の高い人間を運ぶ馬車だった。山道には似合わぬ白い車体と、それを引く馬は鬣の毛並みからも、手入れが行き届いているのが解る。

 ユウタとムスビは、それを見守った。ゆっくりと進む集団の数は多い。山道ならば最低限の分隊で済ます筈だが、大袈裟なほど引き連れている。一体、何を警戒しているのだろうか。

 怪訝に見詰めるユウタと違い、ムスビは森の景色を眺めている。山の頂上へと続く斜面には草が生い茂り、林立する木々の間から風が吹き抜ける。


「ん?」


 ユウタはふと、列の途中で視線を止めた。

 衛兵と思われる三人の男が、小さな子供の髪を強引に掴んで地面に引きずっている。倒れたその子を踵で踏み締めて笑う集団に拳を握り締める。

 虐げられているのは少女だ。土に汚れた銀髪、薄汚れた布を纏い、数字の刻まれた首輪。ユウタはそれを見て、踏み出そうとした足を止めた。


「……ッ……」


 ユウタは唇を噛んだ。あの子が奴隷だと判った途端、救いに行くのをやめた。内心で己を薄情者と叱責するが、それでも足を前に出す勇気が欠けている。仕方がない、あの子は奴隷なんだ──そう自身を納得させる声がする。確かに、一切関係ないあの子を一体何の益体があって助ける必要があるのか。

 葛藤に苛まれるユウタを、背後からムスビが軽く押す。ムスビは独り言のように呟いた。


「早く行けば?あんたが救いたいと思ったんなら、身分なんて関係ないんじゃない?」


 ムスビが微笑する。彼女はユウタに救われた元指名手配者であった。冤罪ではあるが、彼はそんな自分を救ってくれた人間である。ムスビの身分を考慮せず、一人の人間として手を差し伸べたのだ。

 ユウタは衛兵たちの近くを見回し、それを動かず傍観している人間を見咎める。暴力を受ける少女を平然と見たまま、葉巻を吸う男性。彼に向かって恐るおそる話し掛けた。


「すみません。貴方があの子を取り扱う奴隷業者の方でしょうか?」


「ん、ああ。それがどうした?悪いが奴隷なんだから、やられても仕方無いだろ」


「あの子を買いたいんです」


「は?」


 ユウタの発言に、その男性が耳を疑った。

 片方の眦を上げて奇声を上げ、少年の顔を凝視する。見れば見るほど、その言葉が戯れではないと知った。

 商品の記載された紙を懐から取り出し、少女の値段を確認する。彼は念を押すように、再度ユウタへと尋ねた。


「良いのかい?」


「はい、あの子をお願いします」


 少々値は張るが、躊躇わなかった。ユウタは支払いを済ませ、衛兵たちの下へと歩み寄る。固い足で蹴られながら、少女の無表情な顔を見て、胸の痛みを感じた。あたかも人形のように、痛みを享受している。己のすべてを諦観した虚ろな瞳。本来ならば綺麗な深紅の瞳が濁っていた。荷馬車ですれ違った少年を想起する。


「すみません。その子、僕が買ったのでやめて頂けますか?」


 突然、奴隷を庇うように現れた少年に全員が驚いて身を引く。中でも少女に対して特に攻撃を加えていた兵士は、たたらを踏んで地面に尻餅をつく。

 ユウタは奴隷少女を両腕で抱える。腕の中で自分を不思議そうに見詰めている少女に、安心させるよう笑顔を取り繕う。


「おいガキ。俺達兵士の休憩を邪魔するのか?」


「休憩?仕事中にですか?」


「俺達はな、山道を大勢で甲冑着込んで護衛してるんだよ。その大変さが解るだろ?そのストレスを解消する為に、奴隷がいるんだ」


「いえ、僕は鎧を着た事もない上に、森育ちで険しい地形にも慣れているので、貴方達が疲労する事について共感できません。

 それに、所有物でもない奴隷を傷付けるのは、些か貴方達の常識を疑います」


 ユウタも人の事を言えた質ではないが、自身が述べていることが正論だと自負している。実質、心労などの負担を解消する為に他人を虐げる考え自体が理解し難いものだった。

 兵士の一人が剣を鞘から抜く。切っ先をユウタの額に翳した。


「調子に乗るなよ」


「大人とは、子供を凶器で脅して従わせるような人間とは思いません。少なくとも、僕が世話になった人達に、そんな事をする人はいなかった」


「じゃあ、今回が良い経験になる。しっかり学習しな」


 兵士が剣を下ろすと、固めた拳を振りかぶった。二人はユウタを下卑た笑顔で見物している。彼等は今から、殴り飛ばされる少年を想像して笑っているのだ。

 ユウタは少女を地面に下ろすと、相手の内懐へふらりと踏み入った。相手の前に出た軸足を払い、その場に転倒させる。

 唖然とする二人に対し、肩を竦めてみせる。


「大人が理不尽なのはよく判りました。良い勉強になったし、そろそろ失礼しますね」


 ユウタは足下で倒れる兵士を一瞥もせず、少女の手を引いてその場を去る。

 戻ってきた彼に、遠目で事の成り行きを見守っていたムスビが溜め息をついた。


「あんた、あんなの付き合ってどうすんの。適当に無視しとけばいいのよ」


「僕はキミミタイニカワイイオンナノコじゃないから。男はみんな、野蛮な対処法しか知らないんだよ」


「何で大事な部分に抑揚がないの!?」


 ユウタは未使用の手拭いで少女の顔を拭く。土を払い落とすと、ムスビが自分のパーカーを着させる。流石に薄すぎる服装を見て、彼女も気が気でなかったのだろう。少女は表情を変えぬまま一礼した。


「ありがとうございます、ご主人様(マスター)


「あの、僕はユウタ。好きに呼んで良いよ」


「では、旦那様」


「え」


 ムスビはユウタと少女を交互に見た。


「この子の名前は?」


「セリシア。綺麗だろ?」


「あたしのムスビって名前は?」


「ああ、君ってそう言えばムスビだったね」


「いやちょっと何それ?酷いにも程があるわよ」


 ユウタは冗談を言いつつ、奴隷少女──セリシアへと背嚢から草履と脚絆を取りだし、彼女に差し出す。顔には無いが、受け取るか逡巡している。彼としては、セリシアを買った以上は旅に連れて行かなくてはならない。次の町に向かう為にも、山道で怪我をされては困る。


「旦那様」


「付けて。じゃないと怪我するから」


「命令ですか?」


「お願いします、付けて下さい」


「上下関係わかんなくなるわね」


 彼の言葉を聞き入れ、脚絆を臑に巻く。ムスビとユウタは安堵し、セリシアの作業が終わるのを待つ。二人を待たせていると思った彼女は、手を早めた。


「終わりました、旦那様」


「お腹空いてない?遠慮しないで良いよ。何か、必要な物があったら注文して。可能な限りは用意するから」


「空腹はありません。ですが……抱き締めて頂けますか?」


 両腕を広げるセリシアに首を傾げながら、ユウタは彼女の背中に腕を回して抱擁する。何故この行為を求めたのかユウタは判らず、始終当惑していた。離れる際に、少し名残惜しそうに俯いた彼女の頭を撫でる。


「何か、可愛い妹ができたみたいだな」


「妹に旦那様って言わせるとか、度し難いほどの変態ね」


「セリシア、お兄ちゃんに変更」


「旦那様、それは承服できかねます」


「くっ……そっか、その呼び方が好きなんだった」


 ユウタが項垂れる。ムスビが呆れながら、彼の背中を叩く。


「痛いな、何するんだ」


「ほら、挨拶するわよ」


 ユウタとムスビは、セリシアに向き直った。深紅の瞳は静かに二人を見据えている。一行は新たに、銀髪の少女を仲間に迎えた。


「よろしくね、セリシア」


「お姉ちゃんって呼んで良いわよ!」


「旦那様の命令以外には従えません」


「命令して!」


「君だけ抜け駆けさせてたまるか。──セリシア、この人の事はビバイと呼びなさい」


「了解です、旦那様」


「ちょっと!?嫌な名前思い出させないでよ!?」






































本作を読んで頂き、まことにありがとうございます。

これからも皆様に楽しんで頂けるよう努め、知恵を振り絞って執筆したいと思います。


次回もよろしくお願いいたします。

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