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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
二章:ティルと黒塗りの刃
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幕間:英雄の凱旋~リュクリル~

更新がしました!

え、早い?氣の所為です。おっと書き間違えてしまいました。



 国境の森、その南にある町──リュクリル。

 僻地と呼ばれ、冒険者や旅人が訪れる事も少ないこの町に、強風が吹き荒れようとしている。閑散とした街道を一つ、巨大な人影が蠢いている。短く赤い頭髪は風に靡くと、頭頂を燃やす火のようである。


 英雄ガフマン──知らぬ者はいない冒険者。


 一軒の裏の戸口に立ち、扉を勢いよく開け放った。大きな音を立てて、屋内に響かせる。


「帰ったぞ、親父!!」


「うるさいわ!!」


 仕事場から鍛治師トードが顔を覗かせて、帰省した息子を叱咤する。そのまま労いもせず、仕事場の戸を閉めてしまった。相変わらずだと薄笑いを浮かべて、荷物を机に下ろすと椅子に腰を下ろした。懐かしい家──鉄の焼ける匂いが微かに鼻腔を擽る感覚は、麻薬のようにガフマンの心を落ち着かせる。

 ふと、表の戸から現れた婦人ミオが、既に入ってきていた客人に驚いて奇声を上げた。


「うわっ!!もしかして、ガフじゃないの!?」


「はっはー!息災で何よりだぞ母ちゃん!」


「あっらー……成長したのは体だけねぇ」


「む?」


 ミオの言葉も聞き流し、ガフマンは彼女の背後から現れた少女に注目した。

 流れる金色の髪が戸口から差す陽光に濡れて光り、翡翠色の瞳は宝玉を思わせた。顔の造形も、その場に立ってこちらを覗く些細な所作も、すべてが人の意識を惹き付ける魔性の如し美貌である。ガフマンは目前の少女に理性を失いかけたが、ふと記憶に引っ掛かった。

 シェイサイトに滞在していた際、指導していた少年の言葉である。彼が述べた、彼の幼馴染の特徴と前にいる少女を照合させていく。


「娘、まさかお前がハナエかッ!!」


「は、はい。そうですが」


「はっはーん。こいつぁたまげた」


 一人納得するガフマンに、少女ハナエは首を傾げる。






   ×      ×      ×



 その日、裏町ではガフマンの帰還を盛大に祝う。彼を中心に深夜までに続いた。


 ガフマンは自宅、冒険者になる以前は彼が使い、そして神樹の村から逃れたユウタが暫く使用した部屋でハナエと話していた。



「話を聞き、お前さんを娶ろうかと言った瞬間、坊主の奴は我を殺す気勢で睨んできおったわ」


「そ、そうなんですね」


 シェイサイトでの出来事を語ると、ハナエは慌てたり、赤面したりと表情が忙しない。ユウタがハナエについて自慢気に語っていた様子を聞くと、どこか嬉しそうに笑っていた。

 しかし、その相棒ムスビについて話題を取り上げると、彼女は若干声音に険が入っている。


「奴もかなりの美しい容姿だ。モテるぞ」


「う……ゆ、ユウタの反応は?」


「それが聞け。坊主の奴、悉く『ハナエの方が可愛い』、『残念な奴だ』、『ハナエとは雲泥の差だ』と。言葉の節々にいつもお前さんの名前が上がる。ありゃ愛が深いぞ」


「でも……ユウタの愛情は、きっと兄妹みたいなモノですよ」


「果たしてそうかな?お前さんが告白でもすりゃ、一発で落ちるぞ」


 ガフマンは意地悪そうな笑みを浮かべ、ハナエの頭を鷲掴みにするように撫でる。


「………ユウタは、わたしと居る事が辛いみたいなんです。わたしを傷付けてしまうから、って」


「聞いたぞ。問題事ばかりに遭遇する質らしいな坊主は」


「わたしが進んで彼と関わろうとするからってだけで、彼の責任じゃないのに…。本当に優しいんです、ユウタは」


「解った解った。そこまで愛してるなんて言われたら、こっちはニヤけて堪らん」


「いいい言ってません!!」


「安心せい娘。今の我の見解なら、奴は必ず此所へ帰ってくる。坊主の心は、お前さんの隣にあるらしいからな」


「え」


 顔を真っ赤にして狼狽するハナエに、ガフマンは自室で眠るように催促する。少女は一礼だけして、部屋を辞した。彼女を見送った後、その巨体をベッドへ横臥させる。





   ×      ×      ×




 早朝、ガフマンは一人荷物を纏めて裏の戸口から出た。一度だけ振り向いて、そこからは静閑な街道を進む。町の騒がぬ内に出立する。

 自身がリュクリルを発った時も、こうして誰の目にも付かない時間帯を選んだ。誰か大切な人間に見られてしまえば、声を掛けられてしまえば、もう二度と踏み出せない気がする。それが彼が悟ったものだった。


「待て」


 背後から聞こえる声に、振り向かない。

 そこに父親トードが居ると知っているから。

 リュクリルから旅立つ時、彼は冒険者になる息子との壮絶な親子喧嘩を繰り広げ、度々は仕事の都合上、武器や防具について以外の会話は交わさなかった。


「我は急ぐぞ」


「これ持ってけ」


 ガフマンは背に押し付けられた物体を手繰ると、笑ってしまった。それは、まだ真新しい長剣である。それも、ガフマンが愛用する中途半端な長さの得物だ。


「行ってこい、バカ息子」


「次は土産を持ってくる」


 ガフマンは再び踏み出そうとして、再び呼び止められる。

 今度は、母親ミオである。小包を渡して、彼女は身を退いた。


「大好物、持ってきな」


「有り難く頂戴するぞ」


 ガフマンは二人に見送られながら、町を静かに去る。

 リュクリルの出口が近付くと、そこに佇む人影を見咎めた。


「おう、娘。早いな」


「ガフマンさんを見送りたくて。ユウタの時もそうでしたけど、やっぱり誰かの旅立ちを見守るのは大切だって思ったんです」


「……そうか。ありがとうな」


 ハナエの肩に手を置き、彼は力強く頷くと快活に笑った。


「では、我は行く!お前も、坊主を迎えた時の為に母ちゃんから色々教わっとけ!」


「は、はい。気を付けて」



 ガフマンはそのまま街道を進んだ。シェイサイトとは反対側からの出発。西側ではなく、東国を目指して彼は進んだ。

 冒険ではある──だが、今回は少し事情が異なった。ユウタと<(スティグマ)>の関係性、そしてクロガネの言葉からも、彼は何か不吉な予感を感じ取ったのだ。まだ漠然とした輪郭も浮かばない、謎の脅威の姿。その正体を探す為にも、東国を探検する。



 その日──

 冒険者ガフマンは、再出発を果たした。














今回アクセスして頂き、誠にありがとうございます。登場人物紹介を挟み、いよいよ第三章を始めます。


 これからもこの作品を読んで頂けたら幸いです。

よろしくお願いいたします。




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