幕間:新たなチーム~シェイサイト~
更新が早い!これが小話ですね!
俺──ティルは、シェイサイト冒険者協会の前まで来ていた。緊張に足が竦んで、まともで居られる自信がない。今すぐにでも逃げ出してしまいたいが、既に自身の中で定めた固い意思を曲げるのは唾棄すべき行為だ。
ユウタ達が旅立って、二週間が経過した。
あれから、町は平常の空気を取り戻したが、少し変わったところがあるとすれば、町の広場にユウタを讃える石碑が建てられた事。俺は知らないが、彼は著名人の弟子らしい。
俺は彼らの影響を受け、冒険がしたいと思った。彼等のように強く、そして謎を求める探検の素晴らしさを説いたガフマンさんに憧れ、ギルドの扉を開けようとしている。ミミナには既に伝えたが、凄く心配された。あれから気まずくて、まともに妹と会話すらしていない。
だが、今日こそ向き直るのだ。俺は自分を変える為にも、自身のやりたい事に打ち込みたい。誰かの為でなく、自分の欲に忠実になる。その生き方が出来たら、何と誇らしいか!
よし──覚悟して、俺は扉を開け放つ………
「遅かったじゃねぇか、黄金虫!」
「ナイフ使い。貴様、予定より遅刻するとは一体何のつもりだ」
あれ、おかしい。
ギルドの扉を開け、一番に視界に入ったのは見知った二人である。それも、あれから交流はあるが、冒険者への志望についても語っていない。
騒動から町に滞在しているクロガネは、冷然とこちらを見下ろしていた。その隣で【猟犬】のヴァレンさんが意気揚々と腕を組みながら、何だか下卑た笑みを湛えている。
踵を返して逃げようとしたが、襟や裾を捕まれて中へ引きずり込まれたのだった。
「よっし、揃ったな!」
「ヴァレンさん、これは何の集会でしょうか」
「……貴様、弁えずに此所へ来たのか」
先程から絶賛ご立腹のクロガネに睨まれ続け、殺されると思い何度も肝を潰した。気迫が凄まじくて、とてもじゃないが相手にしきれない。
飄然とヴァレンさんは俺とクロガネの前に立ち、高らかに宣言した。
「この三人で、冒険者チームを組む!」
「え」
「うむ」
唖然とする俺に、ヴァレンさんは照れ臭そうに話した。
「いやな、ユウタがクロガネ倒してからずっと企画してたんだよ。俺は暗殺稼業を止め、冒険者になる。その為に【猟犬】の親方を継がずに、ガフマンに秘密の訓練をしてもらってたからな」
「初耳です」
「貴様……」
「だから何故怒られる!?」
ヴァレンさんは身を乗り出して、俺に詰め寄った。
「この町で一ヶ月経験を積んだら、俺らも旅に出るぞ!」
「え……でも、ミミナが……」
「俺はミミナちゃんから聞いたんだぞ、お前の冒険者の夢。俺の案も黙って聞いてくれたし、きっと何かあるんだって」
「ですが……」
「貴様もまだ迷うのだろう。今宵、話してみるが良い」
「……わかった」
× × ×
帰宅して真っ先に、ミミナに質問すると、彼女はすべてを知っていた。包み隠さず、ヴァレンの事も話してくれる。聞き終わった後、俺は罪悪感しかなかった。仮に冒険者となって一ヶ月の経験を得れば、彼等と共にシェイサイトを旅立つのである。
ただ一人の家族──ミミナを置いて行くのが心苦しくて、自分には到底出来ない。
「お兄ちゃん、行きなよ」
「え……?」
「私なら心配ないよ。ギルドで住み込みで働けるように、受付嬢さんが配慮してくれたの。新しい家族みたいで嬉しい」
「そう言えば、受付嬢さんの名前って?」
「ジーナさんだよ」
「知らなかった!!」
意外と綺麗な名前だった。確かに気品のある人で、大人の女性の雰囲気がある。遜色はないのかもしれない。
姿勢を正し、改めてミミナに問う。
「俺が冒険者になっても、構わない?」
「うん。旅に出ても、手紙さえ寄越せば」
「…………良し!」
× × ×
──────────
ティル(15)/人族・男
・通常ステータス
筋力:C/耐久:C/敏捷:B/魔力:C/技術:B
・特殊ステータス
魔力操作:D──魔法適正:B/呪術適正:B
総合戦闘力:B──武器適正:B/格闘:B
特殊能力:C/その他:C
──────────
ヴァレン(19)/人族・男
・通常ステータス
筋力:A/耐久:C/敏捷:A/魔力:C/技術:A
・特殊ステータス
魔力操作:D──魔法適正:C/呪術適正:B
総合戦闘力:A──武器適正:A/格闘:A
特殊能力:C/その他:C
──────────
クロガネ(35)/人族・男
・通常ステータス
筋力:S/耐久:A/敏捷:A/魔力:E/技術:A
・特殊ステータス
魔力操作:E──魔法適正:E/呪術適正:E
総合戦闘力:A──武器適正:A/格闘:A
特殊能力:E/その他:A
──────────
「化け物かよテメェ」
「当然だ」
「まあ、魔力関連はからっきしなのが一目瞭然。つまり脳筋か!」
「脳筋ではない、肉体解決だ」
「何が変わったのか教えてくれ」
冒険者登録を終えた俺達は、互いにそれぞれのステータスを交換して確認した。やはりクロガネは破格であったし、ヴァレンさんも中々高い。というか、まだ二〇じゃなかったのに驚いた。
チーム内じゃ俺が一番見劣りする。果たして、この二人に付いて行けるのだろうか。きっと、今俺は情けない顔をしているに違いない。
受付の方をみると、制服を着たミミナが両拳を胸の前で握ってみせる。──頑張れ、と伝えたいのだろう。
ユウタもきっと、最初は不安だったに違いない。ここで俺が気負けしていても埒が開かないだろう!
自分の両頬を平手で強打し、気合いを入れる。
俺は二人に一礼した。
「宜しくお願いします!」
「宜しくな、ティル!」
「うむ」
いつか旅先でユウタとムスビさんに会うかもしれない。その時、更に強くなった自分を見せたい。
ここに、俺の冒険者としての旅が始まった。
次回も小話です。
読んでいただいた方には、引き続き楽しんで頂けるよう邁進していきます。今回は大変有り難うございました。
引き続き、『氣術師の少年』をよろしくお願いいたします。




