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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
二章:ティルと黒塗りの刃
34/302

新たな仲間との旅立ち

更新しました!

第二章完結です!でも私の人生は終幕しませんよ!



 問題となった結婚披露宴は、ビバイが【猟犬】によって暗殺された事により、幕を閉じた。披露宴の為に並んでいた屋台を無為にする訳にもいかず、シェイサイトは三日間の祭典を開く事にした。町全体で執り行われる祭りには、冒険者までもが参加している。

 ギルドでは、【冒険者殺し】が迷宮から姿を消し、その甲斐あって以前の活気を取り戻した。撃退の立役者となったガフマンは、故郷への凱旋中に再び功績を挙げる。尤も、その当事者たる冒険者二人が名乗りを上げなかった故である。以前の依頼の滞りも解消され、受付嬢も安堵した。何よりも、ミミナもより忙しくなり、ティルはそれを嘆いている。


 ムスビの身は解放され、再びユウタのチームとして活動する。それに難色を示す人間もいたが、ガフマンの説得あって悪意をもって狙う人間はいなかった。

 町中で繰り広げた激闘により、ティルとユウタは称えられ、祭りの中心として常に人々からの関心を寄せている。ユウタ自身は負傷しているため、衆目の前にまだ顔を出していない。よって、ティル一人が蜂の巣となっており、彼は初日から炭鉱に出る暇もなく、町中を奔走している。


 一方、シュゲンは披露宴での騒動を見守るように、ヴァレンが帰還した後、彼に看取られながら逝去した。【猟犬】の親方の地位は、ヴァレンの采配に任せると命じたのが、最期の言葉であった。当然、祭りの裏側で彼の葬儀が行われ、それにはガフマンやユウタも出席した。哀愁に満ちた儀式の中でも、ヴァレンだけが毅然としていた。

 彼は後に、【猟犬】の中でも優れ、シュゲンの二番弟子である人物に親方の座を禅譲する。彼には他に目的があり、それを遂行する為にもその地位は枷となるのだ。


 発生した問題は、紫檀の杖で戦ったユウタ。あの戦闘を静観していた中には、“アキラ”の名を知る者がいたため、町中では“アキラの継承者”と嘯かれ、暫く彼が堂々と外出できない要因となる。凄腕の刺客の弟子と持て囃される現状が好ましくない。


 ユウタは負傷しながらも、ダンジョン内で冒険者の経験を積んだ。ガフマンの指導の下、魔物の討伐法や、採取などについての知識を享受した。ユウタは師の修練の際にも発揮した学習能力の高さで、ガフマンの教授した技術の吸収も早い。

 ムスビは同行しておらず、ルクスの家に張り込み、彼と何をしているかまではユウタも把握しておらず、黙々と一人冒険者としての腕を磨いた。

 本来、冒険者が装備する防具などについても学んだが、ユウタにとっては重い鎧も剣も取り扱えず、現状維持が妥当だと判断された。


 ガフマンがリュクリル出身とは知っていたものの、彼はトードの息子であるらしい。故に、帰省するためハナエの居るあの夫妻の家に立ち寄ると聞いたユウタは、必然的に嫉妬心を懐く。加え、ガフマンが結婚相手を探していると耳にした際は、密かに仕込み杖を持つユウタを、ヴァレンが必死に止めたのである。ユウタがシェイサイトを発つまでは、彼もこの町に滞在する予定だ。







   ×       ×      ×




 クロガネは、ルクスの家で意識を取り戻した。濡れた布を額に置かれ、傷口には薬と包帯を施されている。己の姿に瞠目し、そして記憶を探って納得した。

 ユウタに敗北した際、彼が受けたのは浅い傷だったのである。錫杖を掻い潜って切断した後、少年は自身の背後へ回って後頭部に一打を加えた。初めての邂逅の時は、逆だった。


 右目に疼痛を感じ、指で撫でる。二〇年前に受けた傷は、初めての敗北の証。“アキラ”の場合は一撃で仕留められた。東国側であったクロガネに対し、西に雇われていたあの刺客は、国からの命令を受けクロガネの始末を任務として言い渡されていたのである。しかし、“アキラ”は右目だけを切ると、ローブの人間を引き連れ、戦場から忽然と姿を眩ませた。

 奇しくも、その弟子に敗れた。手応えとして、まだ“アキラ”には遠く及ばないが、それでもあの化け物に近付くだけの潜在能力がある。恐らくは近い内に、クロガネにすら処しようのない強者に成長するだろう。

 “アキラ”への執着に武器を執る自分とは違い、敗北と師の遺品を奪われた事への憎悪よりも己と戦う道を選択した少年の健やかな強さ。それが直接的な敗因だと納得している。クロガネは潔く、自身の敗北を認めた。


 窓の隙間から漏れる喧騒の音は、未だ賑わう祭りの所為だろう。楽器を奏で、さらに人間たちの雑踏で、静寂など一分たりとも存在しない。

 窓の外へ思いを馳せていたクロガネは、階段を軋ませる足音に気付く。現れたのは、ムスビである。ベッドの傍の椅子に腰掛け、クロガネの顔を覗き込んでいた。


「具合はどうかしら?」


「ああ、問題ない。お前が看病してくれたお陰だ」


「あれ、知ってたの?」


 可笑しそうに笑う彼女を見て、クロガネも口角を上げた。


「傭兵クロガネは、今日で終わりだ。この稼業から足を洗う」


 卒然と宣告したクロガネに、ムスビは頷くと、彼の額にある布を取り替えた。ベッドに横たわる長身が動き、傷の痛みに呻きながらも上体を起こす。布は落ちぬように押さえながら、自身の腹部を見下ろして擦った。


「あの“アキラ”の弟子を見て、思った。人を救う仕事もまた、悪くない。敵や味方を問わず、人を殺めずに事を解決する未来。いつしか諦めたその選択を、またやり直そう」


 クロガネが拳を握ると、戸口から訪問者が現れる。ムスビは振り向くと、静かに席を外して階上へと向かった。

 彼女と入れ代わるように、椅子に腰かけた人間からクロガネは顔を逸らす。


「話がある」


 ユウタは真剣な面持ちで、クロガネを見詰めていた。クロガネは振り向いて、少年と向き直る。改めて自身を打ち負かした相手を拝見し、思わず失笑が溢れた。以前よりも逞しく見える少年の姿。


「何の用だ」


「領主の息子ビバイは、アンタを雇う際に父親の伝を頼ったそうだな」


「シェイサイトの領主とは古くからの知己だ。奴の息子から文を貰い、縁と思って仕事を受けた」


「シェイサイト領主と連絡は取れる?」


「ああ」


 ユウタは拳を握った。

 現在、シェイサイト領主は首都へと遠征中である。故にビバイが荒事を立てられる環境となったが、それよりも領主はユウタにとって、重要な存在だった。彼はいま、その遠征で二人の武人を随伴させている。──神樹の村の守護者だったゼーダとビューダ。同じ守護者たるギゼルを利用して村を壊滅させた容疑がある二人だ。

 ユウタは、彼等を追って旅に出た。現在、二人を追う手懸かりは、シェイサイト領主と繋がりを持つクロガネだけである。ビバイは暗殺された故に不可能だったが、まだ此所に希望はあった。ギゼルと同様に口封じで殺される危険性も皆無。

 【猟犬】の情報は、二人がシェイサイト領主を遠征中に守衛として雇われている事だけであった。ユウタにとって、彼等がどの期間中、何処へ行くまで領主と行動を共にしているかが問題である。

 クロガネは部屋を見渡し、部屋の竿に掛けられた自身の長作務衣を発見すると、その懐を探るようユウタに催促した。指示に従い、手を差し入れると一枚の紙がある。


「クロガネ、これは?」


「シェイサイト領主は、首都で友人の結婚披露宴に出席する予定だ。ビバイの任務の後、奴と合流して護衛業を務める予定だった。まあ、かなり間がある上に遠征の帰路だ」


 ユウタが手元のそれを開くと、紙面には町と時間が記されている。


「各町を訪問しながら首都を目指している。その間、二人を長期間雇っているらしいが……。ともあれ、奴等とは五ヶ月後の首都で落ち合う予定にしている」


 ユウタはその紙を作務衣に戻す。クロガネの傍へと戻った。


「貴様が奴を追うか理由は知らん。いや……貴様が目的とするのは、その護衛二人か?」


 鋭いクロガネの言葉に、ユウタは狼狽した。会話の流れのみで看破されたのは予想外である。しかし、クロガネは裏の世界で戦ってきた人間──相手の虚偽を見抜くだけの観察眼を持ち合わせているのだ。

 ユウタは隠さずに認めた。クロガネはその反応を見て、再びベッドに倒れる。


「ま、貴様がどうしようと知った事ではない。好きにしろ」


「アンタは、傭兵を辞めるのか」


「気儘に、今後について思案する」


「それが良い」








   ×       ×       ×




 一週間後──


 ユウタ達は町の関所に足を運んでいた。騒動の中心人物達が集合した光景には、町人達が再び噂を立てるかもしれないが、それらを一切顧みず彼らは関所前に集う。以前はユウタが一人、このシェイサイトを訪れた際に通過した場所だ。リュクリルへと続く街道が地平線へと延びている。今からでも歩けば、夕刻までにはトードの家に辿り着けるだろう。

 荷物を担いだガフマンが笑って、一人ずつ肩を叩いていく。相変わらずの怪力に、全員が悲鳴を噛み殺す。どこまでも配慮や容赦の無い彼は、やはり屈強で横暴で意地悪で優しい人間だった。


「そいじゃ坊主!またな!」


「ハナエには手を出さないで下さいね」


「そいつは保証出来んな。お前が称賛するなら、さぞ美しい娘なんだろう」


 ユウタが敵愾心を隠しもせずに仕込みを抜刀しようとする様子を楽しみ、ガフマンは大笑した。ハナエという少女の美貌に対する興味を差し置いても、少年がこれ程の執着を見せる人間が個人的に気になったからだ。

 ガフマンはムスビの頭に手を乗せ、その髪を掻き乱す。抵抗する彼女の嫌悪も気に留めず、その額を指で軽く小突いた。最初は反抗的で憎たらしい少女だったが、今は揺るぎ無い芯のある冒険者である。


「娘、お前はまだ成長できる!坊主と協力し、この世の未知を考覈(こうかく)し、そして堪能するのだ!それこそ、冒険の基本だ」


「そんなの解ってるわよ!一々うるさいわね!」


「一段落でも着いたら、家族を持て。良い母親になるぞ・・・坊主、式には呼べよ」


「勘弁して下さい」


 ユウタが額に手を当て、溜め息をついた様子を見てムスビも肩を竦めてみせる。二人の間には恋愛感情という物がない。ガフマンは今後の展開に期待する事とした。短期間ではあるが、自身が育てた冒険者の中でも、類い希な才能を見せる二人の成長は、純粋にあらゆるダンジョンを踏破した男の心を躍らせる。

 ガフマンはユウタ達の背後にいるヴァレンを見て、首を捻った。


「いや……うーむ…………犬だったか?」


「いい加減に名前を憶えろよ!?もう皆記憶してるぞ、なぁ!」


「まあそんな事ぁどうでも良い!“例の件”、犬ならきっとやり遂げるだろう。期待しとるぞ!」


「期待してくれるなら名前を憶えて」


 落胆するヴァレンを、横で慰めるティルには、無言で微笑んで見せる。全員はその意図を察せずに当惑したが、ティルは伝わっており、彼は強く頷いた。全員に説明もせず、ガフマンは拳を振り上げて咆哮を上げた。

 関所付近に居る人間達が、全員耳を塞いだ光景に、本人は途方に暮れた顔をする。やはり、彼自身に自覚は無い。


「それではお前達!暫しの別れとなるが、このガフマン、また合間見える事を楽しみにしとるぞ!」


 ガフマンは振り向かずに手を振って、街道を闊歩して突き進む。その背を見送った全員が苦笑した。ティルはあたかも、眩しいものでも見るように目を細めている。


「そう言えば、ヴァレンさん。“例の件”って、何ですか?」


「そいつは教えられん。まあ、遅かれ早かれ、多分いつか解るだろうよ」


「気持ち悪い仄めかし方したって、あんたカッコよく無いわよ」


 ムスビの言葉に彼は壁に顔を伏せてしまった。ユウタが彼女を咎め、関所で喧嘩が始まった。次々と出る皮肉と叱責の言葉に、門衛も微笑ましそうに眺めている。ヴァレンとティルは二人を放置して、町へと戻った。






   ×       ×       ×




 その日の夜、ユウタ達は旅の支度を負え、西の関所へと来ていた。互いに確認を終え、門衛との手続きを済ませる。依頼を完遂する事でユウタは路銀を稼ぎ、ムスビも次の町までの余裕を確保した。


「しかし、ムスビ。路銀を稼ぐ為の依頼に合流するまでの数日、ルクスさんの家で何をしていたんだ」


「ふっふーん、聞いて驚きなさい!」


「出たよ。自己アピールになると調子乗る」


 ユウタは呆れながら、彼女の言葉に耳を傾けた。興奮混じりにらムスビはルクスの家で自身が隠れて行っていた真実を話し始める。


「実はあたし、魔法の勉強してたの」


「ああ、そう」


「反応が薄いわね……」


「だって、使えなきゃ困るし」


 予想に反したユウタの反応に、ムスビは不機嫌に顔を膨らませる。何度見たかも解らない彼女のその表情に、話を進めるように催促した。一つひとつ取り合っていると、彼女との会話には莫大な時間を要すると身をもって学んだのである。

 ユウタの乾いた対応に不満を言いつつ、渋々話を続けた。


「ルクスさんには、初級の攻撃魔法を教えて貰ったし、独学で魔導書(グリモワール)を読んで色々会得したわ」


「治療に使えそうな魔法は?」


「……あー、治癒魔法はルクスさんに教えて貰ってないわね」


「寧ろそっちの方が重要性高いと思うんだけど」


 治癒魔法について失念していたムスビが、顔を引き吊らせた。今回の町の騒動で、それが如何に旅に必要かを教えられた筈である。負傷したユウタを救ったのは、ルクスによる治癒の掩護もあってだった。その彼の下で魔法を学んでいたが、その方面についての知識は未だ習得していない。

 ユウタはムスビの努力を認めるが、常軌を逸した行動に呆れて何も言わなかった。


 ふと、夜の町で龕灯を持った三つの人影が関所に駆け寄ってきた。それを見咎めた二人は、その正体を瞬時に察知する。


「ティル、ミミナ。見送りに来てくれたの?それにヴァレンさんも」


「まぁな。ガフマン曰く、暫しの別れだからな」


 困ったように微笑んだヴァレンに笑顔を返すと、ユウタにミミナが飛び込んだ。胸に顔を埋め、抱き締める腕に力を入れている。単衣の襟を濡らす彼女の涙に、ユウタは逆に抱き締めて頭を撫でた。旅立ちの日にハナエを同じようにした事を思い出す。


「ユウタさん……えぐっ……お元気で………!次会うときは、美女になって……迎えますから!」


「楽しみにしてるよ」


 ユウタはティルに振り向いた。

 ティルは龕灯を持ったまま、片手の差し出した。ユウタも応じ、彼と握手を交わす。


「ユウタのお蔭で、俺は強くなれたよ」


「こちらこそ、駆け出しの僕を救ってくれた縁がある。また会える日を楽しみにしてるよ」


 ユウタは、彼の掌の感触に、この町の思い出を遡行した。町の活気に戸惑う自分を救ってくれた彼は、とても優しい少年だった。妹と慎ましくも幸せな生活を送る姿は、ユウタの憧れでもある。【冒険者殺し】にも立ち向かい、そしてムスビの救出にも恐れずに参加した勇敢な彼は、とても眩しかった。

 ユウタは、彼の腰の鞘に納められたナイフを見た。漆を塗られたそれは、黒い偽装を剥がせば煌々と輝く刀身を見せる。それはあたかも、まだ磨かれず、内側に可能性を秘めた金剛石(ダイヤモンド)の原石。それがティルのように思え、ユウタは握った手に力を入れる。


「“アキラの弟子”」


「クロガネ、気付いてたけど突然喋るのやめて。心臓に悪いから」


 闇の中、三人の傍に佇んでいたクロガネが進み出る。ユウタは彼に剣呑な顔で向き直るが、相手に敵意がないと解り、少しだけ態度を改める。


「武運長久を祈る」


 クロガネの言葉に、ユウタは聞き憶えがあった。それは師が持っていた書物にある、東国(センゴク)の言葉。

 ユウタは頷いて、一応クロガネとも握手した。自分よりも大きな手に包まれ、圧迫される感覚に小さく悲鳴を上げながら、別れを済ませる。

 ティルと再び視線を合わせた。次に合うのは、ずっと先かもしれない。ユウタが旅を終えて帰る道程、或いは何かの用事で再び戻った時とそれぞれだ。だが、幾ら時が経とうとも彼らと育んだ信頼が崩れる事は無いと確信する。


「それじゃ、元気で」


 ユウタとムスビは、関所を超えて月夜の下の野へと出発する。後ろ髪を引くようなミミナの泣く声と、それを相殺してさらに押し出す二人の声援に手を振りながら暗い街道を進んだ。

 シェイサイトでの思い出が濃厚だったためか、まだ余韻があった。何度も振り返って、遠くなる町の防壁に苦い顔をした。ムスビがその様子を横目に眺める。


「なんて顔してんのよ」


「そう言えばムスビは、どうして僕の旅に付いてくるの?」


「決まってるじゃない!<(スティグマ)>のボスをボコボコにすんのよ!」


「あー、君も人探しか。そっちの方が大変そうだけど」


「勿論、あんたも協力すんのよ」


「え゛」


 ムスビの有無を言わせぬ気迫に、ユウタは項垂れた。<印>は間違いなく氣術師で構成された戦闘集団であり、自分や師に関連する人間である。東国の出身であるクロガネが氣術師を知っているという事は、氣術の起源が東に在る可能性が高い。──そして必然的に、氣術師の存在も。

 ユウタは、彼等と縁の切れない仲である。神樹の村の一件や、今回のシェイサイトでも、まるで仕組まれた遭遇だった。否が応でも、また対峙する事もあるだろう。


「まあ、<印>は片手間で協力する」


「ホントに!?」


「ああ、でも……その代わり、君も僕の目的に協力的じゃなきゃ困るよ」


「任せなさい!」


「不安しかないなぁ」


「あたしを甘く見るんじゃないわよ!」


「治癒魔法が使えたら、色々と妥協も信頼もあったのに」


「…………あ、そう言えばあんた、手紙書いてたわよね。あれ、誰に?」


「話すり替えるな」


 ムスビと騒がしく進む旅路は、意外にも心地よい。ユウタは奇妙な仲間の存在に、これからも行く先々で発生する問題を予感した。退屈はしない、だがきっと途轍もなく過酷な旅になる。





 月夜に照らされた少年少女の影が、シェイサイトの防壁から眺められる。ティルは二人の背を遠視した。二人ならば、きっとあらゆる困難にも屈する事は無いと信じている。共に過ごした期間が、それを確固たる物にしていた。

 鞘から引き抜いて、黒塗りのナイフを月光に翳す。妖しく光るその武器に、ティルは新たな覚悟を決めていた。ガフマンがそうであったように、そしてユウタ達の戦う姿を見て、彼も決然とした希望を懐く。


「お兄ちゃん、何してるの?」


「ああ、ミミナ。聞いてくれ、俺さ──」
























今回読んで頂いて、本当に有り難うございます。

第二章を終わらせられて、今は内心ホッとしています。


恒例の小話を二つ挟み、登場人物紹介を載せた後、第三章に移行します。


これからも皆様に楽しんで頂けるよう精進し、執筆に勤しみます。どうぞよろしくお願いいたします。



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