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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
第二幕:神人の黄昏
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世界線の彼方に



 この世とは別の空間。

 そこで銀の貴影と異界の使者が相対していた。

 どちらも、本来ならこの世界にはおらず、干渉も敵わない異物である。ただ両者の介入があったことで、地上の混乱は激化の一途を辿っていた。

 用意した脚本も、用意した切り札も悉くが裏切られている。

 否。

 異界の使者は理解していた。

 その予想だにしない結果こそ、目前にある銀の貴影による策謀なのだと。

 その力の及ぶ範囲は、地上のみならず使者の故郷にまで影響する。そうでなければ、この世に『新生』として二つの魂を召喚できない。

 この少女の画策に、もう半紀以上付き合っている。

 計画通りに事が運んでいたなら、既に使者によって仕組まれた『新生』の片割れ――ムスビの中の真性が覚醒しているはずだった。

 抑制器となっているのは、銀の貴影――いや、この化け物じみた少女の用意したユウタ、それに加えてタクマ、二代目ヒビキ……彼女が干渉したことで運命や人格の基盤が狂わされた様々な要因が世界を撹乱している。


「君はこの世界が誤りだとは思わないのか」

「思わない」

「何故だ。ここは作り物なんだぞ」

「そう」


 少女は顔色一つ変えない。

 この混沌と化した世界の有り様に、むしろ納得すらしていた。

 異世界の存在を把握しながら、尚も後天的に発現したこの世を、厳然たる一つの世界として確立させんとする。

 どちらにせよ、既に『約束の子』は世界の起源に近づきつつある。

 もう隠蔽も不可能だ。

 尤も、旧世界の実存がユウタの口から語られた時点で、この世界の住人全体が疑念を持ち始めている、自分たちの在り方にさえも。


「どうして、そこまでする?」

「……兄様と一緒にいた」

「は?」

「ユウタは、ハナエやムスビと」

「……」

「それぞれが、たとえ別世界の生き物だとしても、私たちがここで築いた絆だけは偽物じゃない。無論、私や貴方たち、神が作った物でもない」

「まさか……それを」

「それらに満ちたこの世界は、もう作り物じゃない」


 異色の双眸が死者を見上げる。

 凪いだ湖面のように澄んだ瞳の奥に、しかし滾るような反抗の意思が宿っていた。

 それだけ、ユウタという存在に懸けた一念も、また彼とともに歩んでいく現世の人間にも重大な希望を託している証左。


「しかし、ユウタとムスビは目覚めつつある」

「うん。そう」

「それなら――」

「この世界の在り方は、この世界の人たちが決定すべき。今さら()()()の横槍は要らない」

「…………!!」

「物語を繋ぐか、結ぶかも」


 二人の頭上。

 蒼天の中には、亀裂が走っていた。すでに散り散りの欠片が降って来ている。普段は小波一つすら立てないほどの静謐に包まれたこの世界が河の汀のごとく騒立っていた。

 この異空間もろとも擁する『籠』自体が、収集のつかない事態によって軋轢が生じ、その負荷に耐えられず悲鳴を上げている。この亀裂はきっと、外界には知れているだろう。

 仮に、殻が完全に打ち砕かれるとき。

 それは、内側の世界の人間の総意によって開放を望まれた瞬間である。人の信仰心を存立の力の糧にしていた天津神も、今や叛逆的な姿勢の人類によって意図せず弱体化させられていた。

 その面前に然るべき人格、能力を有した上で資格――つまり、『楽譜』を作る者が立てば、問答の余地なく淘汰される旧世界の遺物として消滅する。

 それは、使者も同じだった。


「……必ず、修正する」

「させない」


 一つの世界を終わらせ、一つの世界を始めた存在として。

 少女は確固たる意志で使者に対立する。







アクセスして頂き、誠に有り難うございます。

八月に一気更新できるよう書き置きを蓄えております。

これはお知らせを兼ねた一部です。

完結まで一気に持っていきたい。……勿論、大切に、丁寧に。

ここまでお付き合い頂いている皆様のためにも、お粗末なことにならないよう努めて仕上げたいと思います。



次回も宜しくお願い致します。



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