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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
第二幕:神人の黄昏
298/302

未熟な不滅(壱)/金の記憶



 およそ一月前。

 解放軍の侵略を阻んで己が組織力を再認識した同盟軍が最終準備に取りかかる期間だった。

 余暇を持て余したティルは、自分の戦法を見直す為にも、鍛練の相手を求めた。

 それに都合を合わせたのがユウタである。

 領主の息子の謀略を蹉跌に追い込んだ日から早二つ半ばの年が過ぎた。立役者と囃し立てられた記憶も懐かしむ冬の中、二人は雪原の上に踊っていた。

 それも――斬舞ともいうべき剣戟を演じて。

 木の双剣のティルは、幾多もの決着を確信した一手を受け流されて苦々しい顔だった。

 対するユウタは、小太刀ほどの刃渡りをした木刀で息一つ乱さず戦闘を支配している。彼にはティルの刃が、呼吸が、それどころか産毛の動きすら見えているかのように攻撃を凌ぐ。

 実力に雲泥の差を感じる。

 ティルは相討ち覚悟で躍りかかった。

 それと同時に、前に踏み込んだユウタが短剣を駆る手元を鋭く一閃し、手首を打擲して払い落とす。

 手元の痺れに動きを止めた瞬間、ティルの頭を横から刈り取る回し蹴りが炸裂し、そのまま雪上を横転した。水を跳ねるように氷砂の飛沫を散らして倒れる。

 意識が朦朧とする中で、ユウタが木刀を手放したのを悟って、敗北を認める。



 後刻、回復したティルは昼食を摂った。

 隣で瞑想しているユウタを盗み見て、その無防備な顔を指で突っつこうとする。けれど、指が届く前に身をかわされた。

 目を閉じながら笑むユウタに、ティルは感嘆と呆れの混じる溜め息をこぼす。


『どうして見えるんだ?』

『氣術を使わなくても、衣擦れとかで判るさ。あとは……骨の軋む音と臭い?』

蝙蝠(こうもり)みたいな耳と鼻だね』


 苦笑したユウタが目を開いた。

 琥珀の瞳がティルを映し、それから朝日を見遣る。曙光を真っ直ぐ受けた虹彩が精緻に削られた宝石のごとく煌めいた。

 この目が、戦闘では誰よりも敵の兇手に敏く、予備動作の段階から次の流れを読むのに長けた観察力を有する。

 生得的な才能を余念なく練磨し、純度を高められた一つの武器なのだ。

 鍛練でも、ティルはこの目によって何度も勝利への道から失墜させられた。


『氣術師相手って厄介だよね』

『初見でも次手を読まれるから?』

『これまで何度か戦ったけど一番の難敵だし』


 ティルの口から屈託が漏れた。

 ユウタは虚空を睨んで、うんと唸る。やおら片手で死角からティルの首に手刀を落とす。

 唐突な打撃にティルは狼狽え、(うなじ)に命中した鈍痛で苦悶する。何事かと批難の眼差しを注ぐと、ユウタは鷹揚に笑って応えた。


『予備動作から攻撃を読む』

『え?』

『それは踏み出した足、視線の運び、息遣い、肘や肩の動きから予測するんだ』

『そりゃ、判ってるよ』

『背後から遅い掛かっても無理なら、“正面の死角”を作るべし』


 ユウタは胸を張って言い放つ。

 真意が捉えられないティルは、不平顔で首を傾げるしかなかった。彼の説く“正面の死角”、その極意とは何なのか。

 正面など敵の視界にあるので、そもそも死角とは無縁な空間である。

 作る以前に、そもそも不可能なのだ。

 相手に見えているからこそ、死角なんて――。

 思索したティルの脳裏に、解答の片鱗と思しき部分が過る。


『あれ、今何か答えがあったような……』

『あとは、相手の観察力すら鈍らせる気迫』

『……それ技じゃなくない?』

『僕はそんな連中に、幾度も敗けそうになった』


 ユウタは手刀を引き戻す。

 敗戦の数こそ少なかれど、学ばされる教訓の多かった劣勢を強いられる戦いを経て、今の自分がいる。

 もし経験せず、また自惚れて経験を蔑ろに突き進んでいれば、二年前の春で死んでいた。いつだって敵は強大で、予想の遥か上から襲って来る。

 誰かに限った話ではなかった。

 特にタクマは圧倒的な格上の実力者には技術を用いて降した例として、また戦闘中に急成長するジンナは死力を尽くす人間の気迫の凄烈さを身に沁みて理解した経験である。

 極める強さの質は千差万別、さりとて極めた先に待つのはどれも単純な一つの答え。

 勝敗を決するのは実力差にあらず。

 雌雄を決するのは気迫のみではない。

 真に勝利を獲得する者は、相手を識り尽くした者のことであり、その前提がなせてこそ両者の効果が発揮される。


『相手に視られているなら、先ず君も相手をじっくり見るんだ』

『……そんなのやられてからじゃ遅いぞ』

『少し手傷を負わされた後でも良い。いや、その方が尚よろしい。傷から得た経験ほど、体に叩き込みやすい。

 子供が危険な目に遭ったときの焦り、それを回避した瞬間に感じる恐怖や焦り、また避けられずに直撃したときの痛みは何にも得難い』

『ふーん』


 ユウタは目を輝かせていた。

 何かの(スイッチ)が入ったのをティルは悟った。


『これは師匠からの訓えさ!』

『あ、はい』

『それに、親や他人がそれを殴って叱ったりするけど、あれは逆効果なんだよね』

『え?』

『だって、そうなるとね。それをすると『叱られる、殴られる』って理解するだけで、それが『危険だ』とは認識しなくなるんだよ。同じ過ちを再発させる種にしかならない』


 何だか話が逸れてきたとティルは顔を顰める。

 ユウタも話題の脱線に気付いて、咳払いで流れを打ち切った。


『つまり当然のことを言うとね』

『うん』

『見聞き触れた情報が多い、即ち相手を識るほど勝利に近付く道筋が整う。あとは、どちらが先取するか』


 ティルは納得して頷く。

 こなした戦闘の数、経てきた戦歴の長さは、圧倒的に多量な情報を与えてくれる。危地にあって、それに酷似した現場を経験していれば、過去の失敗あるいは成功から生存の道を切り開けるのだ。

 今や人に畏れられる強者たちは、そうやって常に尋常ならざる戦場の数と質を吸収してきたゆえの評価である。

 しかし、ふと脳内に卒然と浮かんだ名前に再び疑問を覚えた。


『じゃあ、有無を言わさないガフマンさんは?』

『これとは別さ。相手じゃなく、己を識り尽くしている人、だから与し難い戦法の敵に対抗する為の材料を自分の中から工面できるんだ』

『へー』

『力尽くに見えて、実は誰よりも器用なんだよ』


 ユウタが評するガフマンの内面に些かの疑問を呈する面持ちになるが、ティルは自分自身に置換して考えた。

 自分がどうしてユウタに勝てないか。

 何故、彼らの強さに辿り着けないのか。


 強者が須く行き着く答え。

 まだティルには皆目見当も付かなかった。




『そいつを扱うなら考えとけよ』


 火乃聿天守閣の西部。

 大陸全土から『加護』を有する人材を呼び、一人ずつに“解放”を促す術を伝授していたアオビは片手間で会話していた。

 その視線は、ティルが腰に帯びる漆黒の短剣に注がれている。


『そいつは秘宝、それも皇王に必須のな。だから、主そのものも選ぶ』


 ティルは短剣を抜いて刃を検めた。

 漆の塗装の奥に、燦然と輝く神々しい真性を秘匿している。ガフマンの言う稀少金属の正体が知れ渡ったのも、つい先日の戦場だった。

 中央大陸全土を支配する王にのみ所持するのを許された秘宝――『翠鬼』。

 効果としては、揃った際に肉体に不老の力を与える。尤も、老いを阻止しても肉体の損傷を治癒するには能わぬ欠陥品だった。

 ただ肉体の時間を止めて、永続的な生存を確立する為の醜悪な呪いの結晶、たとえ持ち主が死んでも、肉体を腐らせない程度に続く、歪な執念の塊である。


『もし、“それ”がてめぇを持ち主を定めていたなら、効果も出るんじゃねぇか?』

『どんな?』


 アオビが悪戯を考え付いた子供のように笑う。


『何にも負けねぇ、不死の肉体ってやつが』


 字面も、そこに含まれた意味も。

 尽くが邪悪に思われる言葉だった。






  ×       ×       ×



 ティルは天地が覆った景色を見ている。

 ミッシェルによる一撃で、本当に意思だけでは肉体が動かせないほどの痛打を受けた。出血と脳震盪が重なって嘔気が湧き、そも上下左右すらない今、背中に感じる地面の感触以外は何もない。

 この揺蕩う感覚すら心地よい境地。

 次第に瞼は閉じていく。

 精神が僅かな闘志を燃やそうとも、肉体が拒んだ。


 暗幕によって鎖される。

 暗中に揺れて溶けていく自我に抗う気力すら、体の何処を探しても無い。自分は後継者に相応しくなかった、それだけのこと。

 勝利を、奪取を、そして未来を諦める。

 もう、意識は半分以上が消えつつあった。

 しかし諦念の闇に沈む中、一点だけが白濁を垂らしたように光っていた。

 首をそちらへ巡らせるように、半壊した意識を傾注する。


 光の中は、何処かの鍛治工房を映していた。

 金床に置いた刀剣、鎚を片手にした三人が談笑していた。窓の外には花畠があり、北大陸の岸辺で見た物と似ている。

 鍛治の三名はそれぞれが角を有する魔族だった。

 体色が赤、青、緑がある。

 どれも文字通り鬼気迫る面相、他人からは笑顔とは見え難いが、声色は穏やかだった。


「どうする、どうする、カムイからの仕事」

「受けるか、受けるか、打ち首覚悟の仕事」

「終わり、受けりゃ許されない最期の仕事」


 三色の鬼が笑顔で詮議している。

 機械仕掛けの人形のように、三名は中央で互いの鎚を打ち合わせていた。規則的に鳴らされる金属音の調律が工房にこだまする。

 言葉の調子も歌に似ており、鬼を傍から見る視点にあるティルには、本当に劇で演舞する糸人形の画を見ているようだった。

 また、工房の端々に飾られた武具の数々も音に共鳴して振動している。

 奇怪な現象そのものが、この場所を浮世離れした景色に思わせた。


「我らの進退、進退、もはや死以外に無い」

「どうする、どうする、受ける道理は無い」

「だがカムイ、だがカムイ、無視出来ない」


 暗鬱な声に変化する。

 鎚打つ音も重々しくなり、武具の反響も不穏さを増していた。

 殷々と地を揺るがす低音になり、やがて工房自体が脈動する。


「カムイに加担、加担、我らも首刎ねられる」

「カムイの当主、当主、アルテールが救える」

「カムイが求む、求む、それが彼女を助ける」


 懊悩に揺れる声色。

 曇った反響音。


「……覚悟、覚悟、彼女の為ならば」

「……覚悟、覚悟、大恩に報いねば」

「……覚悟、覚悟、これに応ぜねば」


 覚悟を決めた鎚の音。

 谺が途絶えるのも待たず三名が立ち上がる。

 各々が金床に向き直り、炉の熱を調整し始めた。工房を内側から蒸す暑気に満ち溢れ、三人の体に汗が滲む。

 それから、ひたすらに鎚の声。

 三人は先刻の話し合い以来、無言で打ち続けた。


 そして――終わりもまた同時である。


 工房に来たのは、方々を巡ったティルでさえも知らない装束に身を包む集団。鬼たちは手にそれぞれ、長刀、宝石、書本を取り出した。

 集団の先頭にいた男が手に取る。


「鎚で万物を創造する、素晴らしい力だ」


 男は賛嘆の言葉を贈った。

 しかし、三鬼は首を横に振る。


「御託は結構、これでアイテールが救える?」

「賛辞は不要、これでアイテールに報える?」

「挨拶は無用、これでアイテールは喜べる?」


 男が肯いた。

 渡された品々を携え、集団は去って行く。

 三鬼は笑ってその背中を見送った。鬼の面に背中を晒す恐怖がある者もいるのか、屡々鬼を顧みる。

 彼らが鍛造した物。

 それは皇族の証と言われたカムイの宝物。ティルの武具の材となった輝石もあった。

 つまり『翠鬼』、『緋鬼』、『蒼鬼』とは彼らに因んだ名だったのだ。名の通り、鬼によって生成された秘宝である。


 景色が変転する。

 花畠に翠鬼と蒼鬼が倒れ伏していた。

 緋鬼は正座のまま頭を垂れており、憤然と仁王立ちするカグツチに面を匿す。同族の血に濡れた鬼は泣き笑いしていた。

 カグツチに頭を踏まれても、苦悶の声すら上げない。


「よくもやってくれたな、鬼ども」

「貴様らだ、貴様らだ、アイテールを追放した」

「そんなに、あの女が愛しいか。確かに只人にしては美しい造形だったな」

「穢した、穢した、貴様らが穢した」

「……鬼ども、あの娘に誑かされたのか?」


 緋鬼は首を横に振った。


「創る手、創るしかない手、呪われた我らの手を美しく尊いと、心底から言ってくれた。

 醜い面、美とは無縁な面、泣く子も黙る醜悪を優しく綺麗と、虚飾なく言ってくれた」

 煩い声、対話に向かぬ声、耳障りな我が言葉を面白く好きと、慈しんで言ってくれた」


 緋鬼は面を漸く上げ、カグツチの胸ぐらを摑む。そのまま身を翻し、羽衣が引き裂けんばかりの膂力で神族の身体を投げ飛ばした。

 突然のことに反応できず、カグツチは花の海を跳ねて転がる。


「よくも門に縛ったな!?よくも無用な天地の仲立(なかだ)てにしたな!?よくも彼女を呪いで穢したな!?」


 倒れていたカグツチに向かって闊歩する。

 天を仰ぎながら、カグツチは笑った。


「本来なら死罪だが、父上からの命令だ。これから貴様はこれから角を失い、分かたれる陸地でヤミビトの剣を打つ」

「……何?」

「それが新たな貴様だ、『(ドン)』」


 カグツチの周辺から炎が迸る。

 緋鬼は飛んで退くが、火の手は風の如く疾駆して彼を絡め取り、一呼吸の間も待たず全身を包んだ。悲鳴して、その場にのた打ち回る。

 立ち直ったカグツチが近付き、足の裏で踏み押さえて手刀を角に振り下ろす。容易く断たれた赤い角が刹那の後に地面に転がった。

 足を退けると、緋鬼の体から火が焼失する。

 火傷で黒ずんだ体は、仲間の体液で薄く緑色も滲んでいた。


「角を失えば、ただの小人の様だな」

「我……私……は……」


 緋鬼は事切れたように動かなくなった。



 景色が暗転する。

 暗闇の中に引き戻されていた。どうして、こんな記憶を視せられているのか。

 それは、手に突き立つ漆黒の短剣の所為だと推察する。

 製作者にまつわる話。

 呆気に取られていたティルの眼前に、三色の鬼の面が映る。


『諦めない、諦めない、必ずや宿願を果たす』

『それまで、それまで、この想いは絶やさぬ』

『ティルよ、ティルよ、不滅となって継げ』


 鬼に睨まれて身を竦めたティルの視界が、火炎に焼き尽くされた。







  ×       ×       ×





 北大陸南端の平原。


 倒れたティルが戦闘不能と見るや、ミッシェルは深く落胆する。

 息巻いて挑んできた後継者も、まだ技術においては未熟であり、補う気迫も足りず、資格は無かったと言わざるを得ない結果だった。

 ティルの右手に突き立つ漆黒の短剣に手を伸ばす。

 彼が所有するに価しない、そう決定してしまった。

 その為の決闘で、敗北したのだから。

 ミッシェルは柄を摑みながら、次なる獲物テイに視線を運ぶ。呪術使いではあるが、冒険者仲間には彼女より優れた呪術師など沢山いた。

 全く脅威にもならない。

 すぐに処理して、ガフマンの下へ向かうだけ。

 ミッシェルは立ち上がりしなに短剣を引き抜く。


 ――それが出来なかった。


 ミッシェルは訝って手元を見る。

 漆黒の短剣が、ティルの皮膚に固着したかの如く動かなかった。掌から刃は微動だにせず、持ち上がるのは彼の手のみ。

 握力で封じているかと推測したが、開かれた掌は弛緩しきっていた。

 疑念で顔を曇らせたミッシェルの眼前で、短剣の刀身が(みどり)色に変じて、切っ先から柄本に及ぶ全体から発火する。

 慌てて手放して離れた。

 ミッシェルは掌の皮膚に残る小さな火傷を見詰める。

 それから、ティルの手を再び観察した。

 短剣は火に包まれ、やがて灰塵に帰したように形を崩し、火炎を倒れる少年の全身まで延焼させた。

 テイも息を呑んで悲鳴を堪えている。

 仲間の最期が火に炙られて終える光景を目の当たりにするなど拷問にも等しい。

 しかし、ミッシェルは警戒で睨め付けていた。

 あの短剣に際立った効果は無い。切り付けた敵に呪いを付与する他、持ち主に特別な力を授ける性能すらも未確認。

 おそらくミッシェルよりも長らく使用していたティルでさえも。


 火に焼かれていたティルの体が起き上がる。

 炎熱による断末魔の苦悶ではなく、虫も止まるような落ち着いて緩慢な動作だった。

 短剣に続く異変に、ミッシェルは即座に足下に落ちたティルの短剣を拾い上げる。自分が貸し与えた物なので、取り返したも同然ではあるが。

 兎も角。

 漆黒の短剣が少年に何かを与えた。それだけは明白だった。


「……まだ()れそう?」


 ミッシェルが問いかける。

 人としての意思があるか、それとも。


 尋ねる声と眼差しに、ティルが面を上げて応えた。火の奥で、火よりも熱く燻る闘志がある。

 何かに打ち克った心身を以て、再びミッシェルに対敵した。


「当然、まだ終らせないッ!」

「ただの炎じゃなさそう。……不思議な氣の波長を感じる」


 ミッシェルの呈示する違和感の存在。

 それは身を焼かれるティル自身が誰よりも理解していた。

 体の内側から発火しているが、血管や臓器が燃焼しているのではなく、皮膚もまた炎を発散しているにも関わらず焼尽しない。

 肉体の破壊よりも、異質な現象が起きている。

 傷口からの出血が止まり、失血による意識喪失や四肢の機能不全が解消された。身体を苛む何もかもが尽く――停止していた。

 それは、心臓さえも。

 ティルは自分の胸に手を当てるが、鼓動していなかった。脈もない、ただの動く死体と化した様である。

 それでも、生きている実感があった。この停止が一時的であり、停止というよりは“保存”だと本能が解していた。傷が再生することはなくとも、少なくとも肉片一つになるまで死ぬことはない。

 これより先に生命が崩壊しないように。

 ティルの内側に氣となって分解した短剣が不滅の光を放っている。


「私は凄い贈り物をされていたんだね」

「どうでしょうね。ガフマンさんは、そこまで考えていないと思いますよ」

「……納得した。矛剴が躍起になって手に入れようとした宝。そう、そこにあったんだ」


 ティルの空の手に、炎の短剣が出現する。

 本来なら人には摑めず、しかし皮膚を焦がすしかない物に、たしかに摑んだ手応えがあった。

 それを手中で回旋させ、ティルは再度構える。


「俺はやれます」

「……分かった、続けよう。死んでも後悔しないでね」

「安心して下さい、不滅ですから」






読んで頂き、誠に有り難うございます。


ち、力尽きた……次回から全力で挑みます。

外出自粛できっと退屈している、かもしれない皆様に細やかな娯楽として提供できるよう努めます!

最近は私も、散歩は控えているので退屈してます。桜が咲いてるのに花見客もいないのが悲しいですね。

早く回復に向いて欲しい。

皆さんも体にお気をつけて、健やかに乗り越えましょう。


次回も宜しくお願い致します。

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