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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
第二幕:神人の黄昏
297/302

瞬く空の下で



 北の蒼空が灼熱になぶられる。

 数えるのが億劫になる回数も地上を照らす日輪が咲き乱れ、その都度に消滅に伴って轟音をけたたましく鳴らしていく。

 高空で身を捩る黒竜の威容は、常に戦場を占める両軍の剣戟を睥睨する強者の特権を有していながら、その意中には一人しかいない。

 自身と同じ太陽の如き熱を滾らせる個体、竜が帝王と呼ばれた所以なる聖炎に追随する賤しき火炎の使者。

 かつて不遜にも迷宮の最奥で相対して、初めて敗北の味を覚えさせられた怨敵である。

 帝竜はその体内そのものを火山とし、万象を焼き焦がす熱へと魔力を変換した。次こそは、その不遜なる仇敵が立つ大地もろともに燬き尽くす。

 何者も比肩を許さない強さを湛えた蒼い瞳が、眼下に立つ小さな影へと絶大な憎悪を滾らせた。


 紅く照らされた空漠の下。

 既に周辺の森は溶岩に晒されたと見紛う景観になり果てており、今もガフマンの満身から滲み出す熱波によって地面は沸騰している。

 たった一人。

 たった一体。

 双方が鎬を削るだけで、地形が変遷する。本来ならば幾年もの時を経て変ずる地の在り方は、猛り狂った炎の前で破滅まで加速した。

 偉大なる神の膝下、その大地が人間によって蹂躙される。

 ガフマンが長剣を振り上げた。

 赤熱した刀身は、上空にて対峙する帝竜の逆鱗から鍛えた世に絶無の逸品。長剣の奥に眠る帝竜の一部だった記憶が、ガフマンの熱を遺憾なく揮える補助器具と化していた。

 味方なれど、同盟軍は彼を避けて侵攻する。

 敵なれど、北の尖兵は彼を恐れて立ち退く。

 もはや天地に君臨するのは人と竜ではなく、どちらも天災に匹敵する二頭の竜そのもの。


「もう一本行くぞい、トカゲ!!」

『賤しき炎を弄して歯向かうか』


 ガフマンが長剣を深く腰元に引き絞る。

 ガルムンドは口腔に二つ目の太陽を作った。

 両者の初動は同時である。

 大地が波打ち、蒼空を熱風が洗う。


「撃ち墜とす――!!」

『死に晒せ!!』


 突き出された長剣の切っ先。

 開けられた竜の顎。

 その二つを始点に、地獄の業火が線として束ねられ、中間地点で交わった。激突した焦熱の衝撃によって周囲の雲は浚われ、大地に芯を据えた者たちは誰もが体勢を崩す。

 散った火花は、もはや巨大にすぎて隕石となって墜落し、多方向で小山と称する規模の火柱を立てた。

 またも絶滅の炎が不完全燃焼に終えた両者は、天地を燬く火炎にも劣らぬ熱い戦意で次なる挙に出る。


「…………ぉおおおおおおおッ!?」


 その直前。

 ガフマンもガルムンドも、空から響く声に動きを止める。

 見上げる方角は、帝竜の直上に広がる青の中。太陽に身を秘匿した何かが、悲鳴を上げながら落ちてくる。

 首を擡げてガルムンドが目を凝らす。眩い陽光の直撃で痛む碧眼を逸らさず注視した。

 そして――。


「じ、ジンナ様ぁぁあッ!!」

「うるせぇ、黙ってろ」


 見えたのは二つの影。

 一つは長作務衣を着た男、悲鳴の主は彼である。錫杖を手に落下の抵抗を掻き消さんと必死に手足を振るっている。

 その隣では、異様に落ち着いた青年がいた。

 黒の外衣を纏う火傷の目立つ容姿。その掌中に蒼い炎を灯らせて、獰猛な眼差しを帝竜に投げていた。


「隠密の意味が――無いだろうが!」


 正体を確かめられた。

 その瞬間に、青年が帝竜の眉間に掌を叩きつける。竜の頭上に柔らかい空気の壁が現れ、二人を受け止めながら背へと弾いた。

 弾性を帯びた空気の凝固体によって拾われた命を抱え、長作務衣と青年は騒ぎ立つ黒い竜鱗の上に立った。

 己の背を顧みて、ガルムンドが不快に顔を顰めて唸る。

 帝竜の背に乗るといった重罪を犯しながら、二つの矮小な影が傲然と立ち上がった。


「行くぞ、茶菓子」

「そう呼んで良いのはジンナ様だけだ」


 ガルムンドが睨むと、アオビの不敵な笑みがこぼれた。

 



 陸地での戦況が苛烈さを増し、それに勝るとも劣らぬ勢いで繰り広げられる海戦。

 敵はただ一体。

 過去に南の海域で数世紀に亘って夥しい犠牲者を作り出してきた魔獣、海底より凝然と屹立した珊瑚礁のごとき巨躯を以て大軍に牙を剥くバハムンテである。

 有効な一撃を与えれば身を捩り、それが広域に荒れ狂う津波を引き起こす。鳴けば精神を侵食する呪術じみた奇声を上げ、海上に蜃気楼を起こして幻惑する。

 北の迷宮にある帝竜が純然たる魔法的な力で最高峰の威力ならば、南の海を支配するバハムンテは呪術的な禍の真骨頂なのだ。

 一動作の悉くが自然災害に匹敵する巨体、それ故に発せられる呪いの規模が万人の想像を絶する。過去には人が御し遂せぬ自然という概念そのものが権化した姿とさえ畏怖された。

 主に南海峡の島々に住む先住民にはバハムンテを自然力の象徴として信仰するところもある。

 そう――そこにいるのは、一つの神だって。


『ぎぃぃぃぃぃいいいっっ!!』

「相変わらず耳障りだね~」

「ガフマンさんが嫌がるわけだ」


 果敢にバハムンテに挑む船隊。

 その内の一隻の船頭に、ルクスとバルダが戦況に似合わない平静のまま立っている。出会い頭に二人が与えた一撃は絶大だった。

 しかし、現在のバハムンテは小さな傷痕のみを残す程度で、船隊の喰らわせた砲撃や魔法による傷の大概を治癒している。

 それは単なる自然治癒力の高さ、纏った珊瑚礁などによる耐久力、皮膚の頑強さのみではない。魔獣と呼ばれる所以の生態がある。


 十隻ほどから風の砲弾が放たれる。

 直径は約十丈、無色透明の弾丸が一隻から複数射出されて、高く迫り上がった厚い壁のごとき荒波すら貫通して目標に突き刺さった。

 珊瑚礁が破砕されて血飛沫が上がる。

 轟音、血、外観から見受けられる物は盛大で、だがしかし大袈裟だった。夥しい血霧が晴れてゆけば、その実態が判る。

 珊瑚礁の損壊はほんの一部、その奥で躍動する体表には軽微な傷のみ。

 どれも一般に上級魔法と分類される高火力な魔法だった。

 それらの一斉砲火すら通用しない。


「厄介ね、あの体毛」


 ルクスが目を眇める。

 その巨体に誤魔化されてはいるが、バハムンテの体表は微細な体毛に覆われていた。それらが衝撃の震動によって、同じ強さの振動を起こすよう動作して衝撃はおろか魔力すら掻き消している。

 物理現象や魔力そのものも散逸させた体毛は、火炎で焼こうにも海に濡れていて燃えず、風は散らされ、水は海上では無力化され、氷撃は珊瑚礁で威力を削られてしまう。

 空ノ王(ガルムンド)が攻撃力、陸ノ王が速力、そして海ノ王(バハムンテ)は耐久力。

 魔王とはまた一線を画した魔物の王。


「海を毒に変えても直ぐ耐性を付けるし、呪術の持続性も期待出来なさそうだ」

「僕の魔法で()()ですからねぇ……」


 二人で唸っていた。

 誰もが決定打を放てず、バハムンテの鳴き声に精神そのものを蝕まれる。この膠着状態が続けば、戦意とともに命そのものを手折られる。

 険相のルクスが再び魔法攻撃に出ようと魔力を練った。

 その時――。


「…………ぉおお待たせええええ!!」


 空を切り裂いて彗星が墜ちた。

 垂直にバハムンテを襲撃した光が、珊瑚礁を粉砕して雷霆を轟かせる。津波の中心にある魚影が悶絶で暴れ回り、かつてない奇っ怪な悲鳴を上げた。

 次いで潮吹きさながらに血が噴き上がる。

 唖然とする船隊、その目前で瓦解した珊瑚礁の一部の上に倒れる影が蠢いた。


「いったたたた……スズネ、大丈夫?」

「ん、問題ない。ジンナは?」

「わっせは腰をヤっちゃったかも……」

『老化にゃ早いだろ』

「なッ……まだ、ぴ、ぴちぴち?の若者です!」


 鮮やかな縹色の火が灯る。

 バハムンテは頭上に乗しかかった者へ憤慨し、巨大な顎を開いて咆哮する。波紋のような音圧で大気を断続的に叩く衝撃波を発した。

 突然揺れる足元に狼狽えた縹色の火――否、人影がその場に転倒した。


「いてて……これが魔獣だね」

「大きい」

「うん。でも――こっちだって怪獣と一緒なんだから!」

『怪獣言うな』

「行くよ、ユウブ」


 衝き上げた拳から蒼い光が迸る。

 そこに英雄の少女(ジンナ)、そして魔王の娘(スズネ)なる異彩二人の貴影が並んでいた。





  ×       ×       ×





 明滅する空の下。

 草原の上で短剣による決闘が繰り広げられる。

 剣よりも短く、それ故に対敵との距離は近い。剣よりも早く相手に届く、その反動として相手と、死と近い。

 だからこそか。

 短剣の遣り手が達人であるほど、他の戦士を圧倒しうる実力が備わる。強者としての前途は、されど落命の罠に満ちる難路なのだ。

 その険しき道のりを乗り越えてきた両者による剣戟。

 ティルは血塗れだった。

 惨憺たる姿には変わりないが、致命傷は無い。完全には防ぎ遂せなかった刃が掠めて生まれた小さな傷痕がある。

 面に垂れた血を拭う猶予すらない。

 絶え間ない死の波となって、眼前の遣い手ミッシェルの短剣が襲い来る。最強の冒険者パーティとして語り継がれたガフマンの相棒、甦ってなお刃先に衰えはなく、伝聞以上の技である。

 それに加え――。


 ティルは横薙ぎに振るわれた短剣を防ぐ。

 そのまま腕力で押し込もうと踏み込んで――その足が鮮やかに払われる。予想していた罠に、直前で軸を変えて踏み堪えた瞬間、ミッシェルの足が更に腹へと突き入れられた。

 血を吐いて堪え、その顔を続けて頭突きが襲う。痛みに目が眩む中、もう一振りの短剣の柄頭が腹に突き刺さった。

 やむを得ず後ろへと転がって距離を置く。

 ミッシェルが腕を掲げ、その片手にある漆黒の短剣を見てティルは我知らず顔を険しくする。


「睨んでもあげないよ」

「……ええ、勝ち取るって言った手前ですから」

「勿論、手加減もしない」

「その割には、殺せる場面で殺してくれませんね」

「……ガフマンは、元気?」

「空を見て下さいよ」


 ティルが笑って上を見る。

 ミッシェルは見上げずとも、口許が綻んでいた。帝竜が放射する煌炎を相殺する別の熱源、それが何であるかは容易に察せられる。

 ガルムンドの討伐は自身の死後である。加えて、死者としてかの最強の魔獣がいることに驚いていたが、ガフマンしかいないと了解した。

 あの帝王と呼ばれる竜の視線を恣にする人間に、かつて想いを馳せた記憶が蘇る。

 夢に目を光らせる真紅の青年、その志の輝きが神に返報する戦士の部族として化せられた重責を忘れさせた。


「ガフマンって、どんな人?」

「何というか……豪胆、大雑把、想定外」

「ふふ、それは知ってる」

「あと、皆の憧れです」

「……よく分かる」


 沁々と頷いてみせるミッシェル。

 その反応にある真理を心得たティルは、腹部の痛みを堪えながら立ち上がる。


「貴女を見て納得しました」

「……何が?」

「死者たちは、()()だってこと」

「つまり?」


 ミッシェルが韜晦の笑みを浮かべた。

 ますます確信を得て、ティルは周囲の状況を見回した。死者と争う生者、様相は現世も地獄も関係がない混淆とした戦場である。

 それでも――異様な部分が端々に認められた。

 敵陣へと勇敢に攻め入る者、傷を負って後退しながら前線より脱却を試みる者、森の中から戦場を眺めるだけで進撃しない者……。

 黄泉國の神によって尖兵として煽動されたには、士気が同盟軍に比して劣る。戦意のない者すら見受けられた。

 そして。

 幾度となく剣戟の合間に必殺の機があり、十全に捉える技と余裕を有していながら看過し、その逸機を(うら)みとせず戦闘を続行するミッシェルの立ち居振舞い。

 どれもが敵として不十分、不自然だった。

 技は圧倒的に劣り、心では覆し難い絶壁。されど、壁はティルに挑戦の機会を無制限に与えている。

 それらの違和感や疑問を熟考した結果、その解は至って単純な真理に行き着いた。


「貴女がたは戦う相手を選べる。黄泉國の力に操作されず、自らの意思で行動が可能なんです。

 つまり――俺たちの敵であって、敵でない」

「正解」


 その解答の正否をミッシェルが判定する。

 そして解は、的中していた。


「そう、選べる。むしろ、同盟軍の傘下に降って北大陸を攻め滅ぼせる」

「……なら、何故そちら側に?」

「私は所詮死者、如何に生前の恩情あっても生ある者に与してはならない。過去の亡霊として、淘汰されるべき前任者として、踏破されるべき道として立ち塞がる」


 ティルは嘆息して、背後にいるテイに振り返った。

 まるで誰にも認知されない、氣術師の隠密にすら匹敵すると思わせるほど気配を消して二人の対決を静観している。彼女が生存しているからこそ、ティルにかけられた呪術が持続しているのだ。

 行動可能な範囲で負傷した部位の痛覚の麻痺。

 これがあるからこそ、戦闘中に膝を屈することはない。却って自身の生命の危機に鈍くはなるが、枷が外れた気分だった。


「ティル、助勢は必要?」

「それは…………うん、気持ちだけ受け取っとく」

「相手が倒される気なら、尚更容赦は要らない」

「いや、彼女は拘っている。俺が乗り越え(たおさ)ないと!」


 これは試練。

 相手に完全抹殺の意図が無いにせよ、ここからティルが撤退することは許容しない意思表明だった。倒されるべき敵として在り、逃れられない障害として何処へ往こうとも現れる。

 漆黒の短剣という縁で結ばれた限り、ミッシェルが断じてティルを看過する道理は無い。


 ティルは短剣を上に放りながら飛び出す。

 途端にミッシェルは一歩飛び退いた。その対応に、彼は悔しさで歯噛みする。

 全てが読まれていた。

 相手に頭上まで注意させて隙を作らんとし、その効果が活きるよう受け太刀覚悟の気勢で摑みかかる。両手で短剣を操る者としての戦略の一つだった。

 視界の外に出た短剣を捉えて直撃の瞬間を見誤らないよう、敢えて一歩退く。それだけで視野の広さは格段に広がる。

 技量では格下の相手をいなしながら、短剣にも十全な対応が為遂げられる策。

 こうなれば、ティルの劣勢は今まで以上だ。片手の短剣のみでミッシェルに挑むのは死に等しい愚行になる。いわば策略が自らを愚に堕としたも同然だった。

 ティルは自身の面を拭って、手に付着した血を前に払う。目潰しと看破して避けず目元を庇う腕でミッシェルが受け止めた。

 その間に懐まで肉薄したティルがその腕を摑んで押さえ込む。抵抗に振るわれたミッシェルの短剣を、自分のそれで防ぐ。

 落下した短剣がミッシェルを捉え――その寸前で運動を停止した。空中に氣術で縫い止められている。

 舌打ちしたティルは己を叱咤して、ミッシェルを拘束するのに全力を消尽した。

 二人の間で刃が圧し合い、拮抗する。腕力なら負けないと意地になって身を乗り出す。

 ミッシェルによって蹴りなどを防ぐべく、彼女の股下に深く踏み込む。


「何処まで行っても勝利には遠いね」

「それでも挑みます」


 ミッシェルの足がティルの前足に絡んだ。

 彼女は身を巡らせつつ、彼の拘束を逆手に取って腕を引っ張り横へ流した。前傾姿勢が崩れて倒れそうになる彼の肩を摑んで引き、更に地面へと導く。

 思惑通りに倒され、仰向けで草原に伏したティルの胴に乗しかかり、短剣を眉間へと振り下ろす。

 危険を察知した神経が反射的に腕を持ち上げさせ、ティルは凶刃を振りかざしたミッシェルの腕を下から押し返す。鼻先で刃は静止した。

 再び腕力に依存した競り合い。

 しかし、ティルは先程と一転して不安に駆られていた。出血の影響が着々と現れ始め、四肢を動かすのに僅かな煩悶を覚える。

 痛覚のみならず、五感も鈍くなってきた。

 脆弱ながらも唯一だった優位性さえ剥奪されんとしている。


「ぐッ……ぅう……!」

「判るよ、少年。きっと貴方は周りで戦ってる人達の誰よりも強い。生得の器用さで満足しない裏打ちされた努力を刃に感じる」

「ど、どうも……!」

「それでも足りないのは、何?」


 ミッシェルが短剣を駆る腕に、絡めるように自身の片足を乗せて加圧する。彼が逃れられないよう、その鳩尾にもう一方の足の膝を叩き込んだ。

 追加された二つの痛撃にティルは腕が痺れてしまい、思わず顔を横に振った。圧し負けてミッシェルの短剣が推進し、弾かれた腕の隙間を貫いて頬を裂き、肩に突き立つ。

 苦鳴したティルは、再び短剣を取り除こうと摑みかかって抵抗する。

 それでもミッシェルは動じない。


「一騎討ちで格上に勝つには?個体戦力は勿論だけど、観察力だよ」

「観察……?」

「喩え鼠でも、猫が脆い部分を見つけてすり抜けていく。草食獣が捕食者を前にして見せる、起死回生の力」

「つまり……!」


 ミッシェルが手元の力を抜いた。

 急な脱力に、千載一遇の好機かとティルが跳ね返しに上体に力を漲らせて、肩の短剣を抜こうとする。

 そこへ。

 横から漆黒の短剣が頭めがけて迫る。戦いたティルは咄嗟に手で庇う。その掌を貫いて、短剣が鼻の中ほどを抉った。

 激痛の炸裂に、瞼の裏で閃光が咲き乱れる。

 意識が白んだティルが今度は力を抜く。顎をミッシェルの爪先が蹴り上げた。脳天まで衝き上げる衝撃、立て続けに撥ね上がった頭を地面に打ち付ける。

 脳震盪を催す二連撃に、ティルが白目を剥いた。

 痙攣する彼の上から退き、ミッシェルが立つ。


「そう、死ぬ気で私の弱点を探せば良い」


 単純で、至難を要求する口元は笑みを湛えたままだった。





読んで頂き、誠に有り難うございます。


戦場に視点を戻す回にしては、かなりティルを痛め付けてしまった感が否めませんが……。

冒険者殺しの件といい、彼をメインに書くと何故か作中最大レベルの劣勢が常ですね。個人的にはユウタvsタクマ並みに酷かったりします。


実は結構好きなキャラです。

温かい目で彼の成長を見守ってくれたら幸いです。


次回も宜しくお願い致します。


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