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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
二章:ティルと黒塗りの刃
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チーム結成

真夜中の更新。

生活リズムや自分の体調などを鑑みると、廃れていってるのが解ります。犇々とヤバい、そう感じております。



 ガフマン。

 Lv.10の冒険者。数々の偉業を達成したと言われる強者。彼の故郷はリュクリルで、帝竜ガルムンドを討伐し、凱旋しようと首都からの帰路の途中、シェイサイトのギルドを訪れた。気分屋の彼に計画性や定まった目的は在らず、この町に滞在していたのも気紛れ。彼は性根から、紛れもない探求心の塊と評される生粋の冒険者である。

 偶然にも、彼が起床して真っ先にギルドへと向かい、到着したのはユウタが冒険者登録を済ませたのと同時だった。新人の冒険者誕生を遠目で確認しつつ、ギルドの提供する料理で昼前の空腹を満たそうと考えた時である。ムスビへの熱烈な勧誘が始まり、騒然となった受付前を静観していた。

 そこへ、人集りへと果敢に突貫するユウタの姿が目に留まった。数秒後には外へと再び投げ出される少年の勇姿に興味を引かれ、席から重い腰を上げた。現場へと接近し、一人の少女が発端であると悟って彼女らを救助した。暴走気味の熱意に駆られた周囲を諫め、二人を強引にギルドの外へと連れ出した。

 口実とはいえ、指導役を買って出たのは気紛れ。

 そしてまた、その自身の行動に後悔を懐くどころか、二人の未来を予測して年甲斐もなく胸を弾ませる。奇異な魔力の波動を、二人から感じたガフマンは、面倒を見る事に一切の躊躇いを覚えなかった。旅の中で発見した特殊な少年少女に、彼の意識は夢中であるのだった。

 特に、目を付けたのは少年の方である。

 受付嬢の視線で察したが、あれは特殊な潜在能力を持つ人間に対する期待の眼差し。彼女は魔法も呪術も持たない一般人だが、その洞察力は現役のLv.8以上の冒険者よりも優れている。彼女がそこまで有能なのかは謎である。

 しかし、受付嬢の眼に狂いがなければ、間違いなく少年は、自身に留まらず冒険者たちに多大なる衝撃を与えるだろう。


 ガフマンは傍で、シェイサイト滞在中は彼の成長を見守る事にした。




   ×      ×      ×




 ユウタの前に用意された食事。その半分がムスビによって強奪された。年頃の女の子が見せる、大食を角そうと慎むような羞恥心などは彼女に存在せず、一切の憚りなく再注文を重ねる。結果的にユウタは満腹する事も出来ず、ムスビの無遠慮な態度を咎める気力すらも削がれてしまった。

 自分も彼女同様に、追加注文をしたいがガフマンに対して図々しい真似は出来ない。実質、朝食を普段より多量にしていたため、空腹感はあまり無かった。それが唯一の救いと知り、必死に皿へ載せられた料理を貪るムスビを鬱々とした気分で眺める。

 ガフマンもまた、その巨躯を満足させるだけの量を用意させている。一度に机へ所狭しと大皿を並べさせ、野猪を一体丸々と使用した豪快な骨付き肉を、両手に携えて交互に食いちぎる。自身を取り囲む面子の食欲の強さに、満腹感を通り過ぎて嘔感を覚えた。恰も、彼等が口にした食べ物が間接的にユウタの胃に蓄えられている気がした。

 口元に食べ滓を付けながら、気に留めず食事を継続するムスビに呆れ、隣から手を伸ばして指で払い落とす。彼女が怪訝な表情でユウタを見たが、数瞬後には咀嚼を再開する。時折、自宅でハナエと共に朝餉を取る際に、微睡む彼女が同じように口端に食べ滓をそのままにしている時があった。それを常に取り除くのがユウタの役目で、リュクリルに移住してからは無かったが、ムスビの気の抜けた様子につい習慣として表に出てしまったのである。

 ガフマンは少年の行動に、野卑な笑顔を作る。からかう要素を見付けた子供のように、意地悪そうな顔だった。


「坊主は随分と面倒見が良いな」


「幼馴染の女の子と長く食事をしていた時、こういうのがあるんです」


 素っ気なく答えたユウタから視線を移し、ムスビを尋ねた。その誰何に彼女は一度無視を徹そうとしたが、執拗に呼ぶガフマンに根負けして顔を上げる。食事を中断された不服さを微塵も隠すつもりはなく、恩人である巨漢に対して臆面もなく鋭い眼差しを注いだ。


「娘、二人は恋人じゃないのか?」


「偶然にも、事情が重なって同行する羽目になりました」


「いや、坊主に聞いてなくてな」


 代わって答えたが、本人からの返答を求めていたガフマンが片方の眦を上げて、敵意剥き出しの彼女を正視する。

 ムスビの背後から、ユウタの拳が軽く後頭部を小突いた。心なしか、苛立ちが手先に籠ったのか本人の予想以上の鈍い音が鳴った。

 頭部を叩打された鈍痛に、目尻に涙を薄く溜めて耐える。怨嗟とも言える呻き声を発し、少年の左腕の肉を小さく摘まむ。慎ましく細やかな反抗が微笑ましく、ユウタは振りほどかなかった。


「いや、肝が据わっとる娘だ。幾度も命を脅かす急場を凌いできた──そういう眼をしとる」


「すみません、態度悪くて」


「はっはっはっ!人の注意に耳を傾けんのは、我と同じだな!」


「同視しないで。と言うか、チームなんだから味方してよ」


「ガフマンさんが状況解決として、チームと言っただけだ。便乗するな。僕は君と組む気はない」


 襷の紐を締め直し、荷物を持ち上げた。早々に退席する準備をする彼に、ムスビが困惑した。

 ユウタは正直に本音を言って、限界が来ていた。本来、ハナエの件でもそうだったが、自分を守る力しか持たない。それを自覚した上で、脳内に投影されるのは、自身の眼前で死に行く人達。繰り返し再生されるのは罪悪感を掻き立てる記憶である。

 己が誰かを護するなど甚だ無理だと痛感しているのに、ムスビが居る。回避すべきだった事態、自戒した筈なのに、それを甘んじて受け入れている自分が腹立たしい。更には、己の現状を弁えず趣のまま行動する彼女は手に余る。ガフマンという指導役が在れば、ムスビの管理は特に問題ない。ムスビの監視を部分的に委任できる。チームを組織しない以上は、ユウタはただ一人の冒険者。

 周囲の厚情に甘え、態度を改めぬ人間の相手をしている事に疲労していた。良い機会だと思い、彼はその場を辞するつもりで席を立つ。


「ごめん……なさい」


 弱々しい声音で発せられたムスビの声に、ユウタは彼女を睥睨した。

 俯いた顔から表情を読み取ることはできないが、反省の意が少なからず感じられる。だが今さらかと内心で嘆いた。


「それじゃ、僕はこの辺で」


「なに??」


 去ろうとするユウタを引き留めるように、大袈裟にガフマンが狼狽えた。疑念に振り返ると、眉間に手を当てて、彼は大きく唸り声を上げている。


「何ですか」


「いや~、喧嘩したままなのはなぁ。チーム結成が無いにしろ、詫びた娘に対してお前さんが何も示さないのは道理が通らんだろう」


「どんな理屈ですか……」


「仲直り、というやつだ。指導役として注意するが、冒険者同士の関係は友好的で無くてはならん。それが悪意というモノを寄せてしまう要因になるからな」


「だからって」


「それに──泣いとる女を捨て置いたまま、逃げるのは男じゃない」


 ユウタは慌てて彼女を覗き込んだ。先程の一言から黙っていたが、少し肩が震えている。膝で固く握られた拳の上に、水滴が落ちていた。

 恐らくムスビは、誰かに拒絶された事が無かったのだろう。忍び寄る【猟犬】の追手から逃げる生活で、その容貌からも人には好意的に受け止められていたのだ。だからこそ、今は頼りになるユウタに突き放された事には絶大な悲しみを覚えたのである。彼女が相手の意を弾く事はあっても、一度気を許した相手に拒まれた経験がない。故に、悲泣の涙が溢れるほど傷心した。

 ガフマンが苦笑しながら、手拭いで肉の脂が付いた手を拭き、ムスビの頭頂を撫でる。

 卑怯だと言える筈もなく、ユウタは渋々また席に腰掛けた。視線を合わせる事は出来ず、彼女とは反対側に顔を向ける。


「改善すれば良いんだ。反省しろ」


「坊主も素直じゃねぇなぁ……」


「ああ!もう、僕も悪かったよ!」


 ガフマンに見透かされ、ユウタは開き直った。隠し事が下手な性格とハナエに言われていたが、今その意味を漸く理解した。自責と罪悪感に弱く、誰かの為に腐心してしまう人間である。だからこそ、こうも厄介事に自ら身を投じ、日常を苦心して過ごす。元から、自分の性格も起因の一端であると再確認した。

 ムスビは少年の言葉を聞いて、涙を無造作に拭い去った。顔を上げると、その目元は少し赤く腫れているが、取り戻した威勢でそれは隠される。謝罪した相手に対し、鼻を鳴らして不敵な笑みを浮かべる。


「解れば良いのよ!あんたも改善しなさい!」


「ガフマンさん、やっぱ無理です。こいつ無理です。規則に引っ掛からず始末できる方法ってありますか?」


「良いじゃねぇか。気丈夫な方が、良い嫁になるぞ。

 さて──ここでまた先輩冒険者の助言(アドバイス)だ」


 ガフマンの言葉に二人が意識を向ける。


「実はな、初級者は大抵が失敗続きをする。それは何故か?

 無所属の個人では限界のある仕事に挑戦してしまう傾向があるからだ。周囲の成果に対する焦燥、個人には難儀な依頼の高い報酬への好奇心…………理由は様々だが、一人じゃ対処不可能な状況に遭遇しやすい。

 力の無い内は、誰かと協力体制を敷いておくのが最善だ。それも、親密とまでは無くとも、ある程度は互いを把握している人間だ」


 ユウタとムスビは、互いを同時に見た。確かに、冒険者としての知識も受付嬢から受けた最低限の説明しか聞いていない範疇。何度も己が無知だと感じている。これならば、逼塞した状況を切り抜けるのも難しいだろう。そうなった時、一人で処する事が可能なのか。

 仲間が必要──その理屈は理解できる。ユウタはある程度、ムスビという人間の気性を認識している。少なくとも、ギルドで彼女を勧誘した冒険者よりも認知しているのは事実。

 それは、ムスビとて同じだった。反発し合ってはいるが、少なくともこの町で信頼できる人間は限られている。

 まだ不安定な自分を律してくれる相手が必要なのは明確だった。


「まぁ、最初の内だけは……」


「やっと認めた。足引っ張んないでよ」


「君も背後には気を付けろよ。戦闘中に予想外の角度から襲撃されるかもしれないから」


「怖い仄めかし方しないで!?」


 チーム結成を果たした二人が、いつもの調子で皮肉を言い合う。

 和解した彼等が会話をしている内に、ガフマンは皿を平らげた。軽く腹鼓を打って、席を立つ。

 ユウタとムスビは、すぐ傍で巨大な獣が現れたかと錯覚してしまった。軽く驚きに硬直している少年少女の目前で、速やかに勘定を済ませると、再び小脇に二人を抱えて店を出た。


「よし、お前さんらにいっちょ冒険者の心得を教えてやる!」





   ×       ×       ×



 一行は再びギルドに来ていた。昼食を済ませた店から道草もせずに直行し、カウンターに隣接するようにある大きな掲示板の前。

 先程の喧嘩を経て、少し気の晴れた二人は壁に貼り付けられた紙を眺め入る。乱雑に貼られたそれらは、あまりの多さに重なり合っている。隙間無い依頼の群棲。ユウタは思わず顔を引き吊らせた。


「こ、これは通常なのでしょうか?」


「いや、最近このシェイサイトの依頼が滞っていると噂を耳にしたが・・・こりゃ酷ぇな。間違いなく連中がサボってやがる」


 掲示板の様子に、ガフマンもため息をついていた。ユウタは自分の感覚が異常で無いことに安堵する。


「冒険者が職務放棄?」


 ムスビは一枚を手に取って見つめた。難易度の部分を見て、それを壁に戻す。ユウタは彼女が仕事を吟味している事を悟った。

 彼女なら、初発から困難な仕事を好んで選択するかもしれない。ユウタが危惧した通り、彼女は手に握った〔SS〕ランクの物に目を輝かせる。ガフマンに許可を得ようと声を発する前に、慌てて背後からその口を塞ぐ。


「むぐッ!?~~~~~ッ!!」


「良いか?最初から〔SS〕なんか挑戦したら、それ以下の物にやり応えを感じなくなるだろ?ここは無難に、低い物からやるべきだろ」


 ユウタは彼女の手から依頼書を奪うと、ムスビの届かない高さに貼り直す。


「臆病者め」


「はいはい。僕は気の小さい奴だよ」


「この、少食!」


「君に比べたら皆がそうだろうね」


 二人が抗論を重ねる中、ガフマンは黙々と掲示板を見回している。指導役として、駆け出しの彼等が冒険者という職業に失望したり、幻滅したりしないような仕事を受けたい。それを前提に考えるが、問題なのは貼り出されている物の内容が、極端な物ばかりな事である。

 シェイサイトに滞在する冒険者が仕事をしない理由までは解らないが、それでも達成されずに増え続ける依頼の量は尋常ではない。


「あー…。しょうがねぇな」


 ガフマンはカウンターまで行くと、あの受付嬢と話し始める。彼の裁量に任せると結論した二人は、完全に蚊帳の外のようになっていた。不毛な討論を続けていると、自分達は仕事をいつまでも受けられないかもしれない。両者が納得してしまった以上は、ガフマンの判断に頼るしかなかった。


「何かねぇかな」


「申し訳ありませんが、今こちらも忙しくて…あ、ちょっと」


 受付嬢が、カウンターの後ろに向かって呼び掛ける。


「ガフマンさんに案内をお願い」


「了解ですッ!」


 明るい声が聞こえると、ガフマンが微笑む。ユウタは戻ってきた彼の背後に付いてくる人間を凝視した。ムスビもその正体に瞠目する。

 ガフマンと比較すれば、小人と誤認してしまう背丈。黄金色の髪を揺らした少女が二人の前に立った。


「ギルド受付役補佐のミミナです!」


「う、嘘でしょ…?」




















次回から本格的な冒険が始まります!

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