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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
二章:ティルと黒塗りの刃
22/302

「冒険者」登録

冒険者登録です!

少し頑張ってみますね!



 食堂を出た頃には、路地に立つ人の数が増えていた。あと数時間も経てば、昨日にユウタが見た賑わいを見る事も可能だろう。ムスビとしては、いつも窃盗を行う場所でもある。シェイサイトは活気に溢れ、初日にユウタは緊張してしまった程だった。

 冒険者──可能性に満ち溢れた、興味を刺激する響きを持っていた筈の言葉が、今はユウタにとって酷く重い感情を与える。ムスビが共に冒険者を志願してから、途轍もなく厳しい試練にめ感じてしまう。冤罪とは雖も未だ指名手配犯として町中には、彼女の手配書が頒布されている。下手に動き回る事も危険な状況で、彼女がユウタの気苦労を気遣い、行動を慎むことなど考えられない。


 ユウタが町人に訪ねると、町の北側に冒険者登録を済ませる場所があるという。その情報を入手し、逸るムスビを窘めつつ向かう。道中、彼女を食事などに誘う声が聞こえたが、本人はそれらを一切無視して目的地へ足を進めている。好奇の目を惹く事実を見せ付けられ、ユウタはいよいよこれから先の困難を予見し、密かに悲嘆した。


「あ、しつこい奴がいたら、あんたを恋人で通すから」


「死にたいの?」


「そんなに嫌!?」


 問題児ムスビとこれ以上関わるという事が苦しいというのに、彼女の人避けに使われるのは御免だ。ユウタは苦労に緩く首を横に振って、睨め上げる。彼女は事態を深刻に捉えておらず、危機感というものが顔から窺えない。時折、あまりに急いでユウタの手を引く様を見ると、興味関心、欲に忠実な子なのだと解る。ユウタの師とは正反対な人間だ。

 ユウタはふと、足を止めた。

 師の名はアキラだった。【猟犬】でシュゲンが既知の仲だった故に判明したが、記憶を遡行すると新たに疑問が浮上した。

 春先に襲来した氣術師の三人組──彼等が口を揃えて言った、“タクマの忘れ形見”。その言葉(キーワード)が頭の中で反響する。

 タクマ、とは一体誰なのだろう。確かにタイゾウとの会話からも、師とは別人だと判断できる。では何者なのか、流石にシュゲンもその名を聞き及んでいる可能性は少ない。自分との関係は、血の繋がりだろうか。

 思考に沈む意識を、後頭部を襲った衝撃が引き戻す。頭の中に響いた鈍い音が、思考回路の流れを断絶した。痛みで目尻に涙を湛え、前を向くとムスビが両手を腰に当て、ユウタを睨んでいた。

 彼女が足を止めた理由は、その背景が視野に入ったところで納得する。ユウタは彼女の後ろに厳然と佇む大きな建物に、感嘆の声を洩らした。町を歩いていて、同じ大きさの物は見掛けなかった。戸惑い、躊躇、興奮……様々な感情が同時に胸の内で湧き立つ。


「よし、行くよ。──あんたは準備できた?」


「そのつもりで、ティルの家を出たんだ」


 その回答に、ムスビが口の端を上げて笑ってみせ、二人で戸を開く。






   ×      ×      ×





 冒険者協会──通称ギルド。

 魔物の討伐、薬草の採取、迷宮の探索と様々な依頼を受け、それを生計とする冒険者が募る場所。云わば冒険者組合といっても過言ではない。各町にあり、集落や村には無い。

 王国の首都に支部がある。


 それが町中でユウタが聞いたものだった。


 観音開きの扉を開け、中に入る。

 内装は広い酒場のようになっており、長椅子と机が陳列している。朝だというのに酒乱する者も何人か見受けられた。騎士とは違って薄汚れた重甲冑、または法衣など服装は様々で、中には人間とは思えない容貌の生き物まで歩いていた。恰も、扉を開けて閾を越えた時点で、ユウタ達は踏み込んではならない人外魔境に迷ってしまったかのように錯覚した。

 衝撃の強さに、ムスビも先刻まで威勢のあった姿が小さく見える。彼女が固まっている事に気付き、ユウタはその手を小さく握って引いた。

 カウンターまで辿り着く途中、肌を刺すような視線が集中しているのが解った。それがムスビに対する物か、或いは見慣れぬ顔が入ってきた事への嫌悪、興味か。ユウタはその中でも、毅然として振る舞ってみせた。ただでさえ、萎縮しているムスビに自分も気弱なところを見せてしまえば、今後悪意の矛先として──言い換えれば、舐められてしまう。

 救いだったのは、冒険者たち。この町に至るまで、達人との死闘を繰り広げた経験のあるユウタは、経験が浅くともある程度は一瞥でその人間の所作や身なりから実力を判断できる洞察力を培っている。故に、ギルドの中の人間を見て、心底安堵した。


「ギゼルやタイゾウ程じゃない」


「だ、誰と比較してんの?」


 ムスビは知らぬ名を口にする少年に戸惑う。

 改めて思った事は、やはり神樹の村の守護者達が伊達ではないこと。対峙した氣術師の三人が、威勢だけの連中とら違うこと。師が計り知れない化け物のような人間だということ。

 カウンターの前に立った二人を、受付の女は少し訝る視線を投げ掛ける。若い男女がギルドの中に入るというのは、極めて珍しい。僻地から出世を狙った人間、または名のある実力者が冒険者となる場合が多い。少なからず、冒険に興味を示した若い世代も志望したが、登録して間もなくその厳しさに斃死する者などが絶えず、それが噂として伝播し、余程の自信がある者だけが現れる傾向になりつつある。その中でユウタとムスビの存在は、極めて稀有である。

 受付嬢は、躊躇いながらも二人と言葉を交わす決意を固めた。


「どうしましたか?」


「冒険者登録をしに来ましたが、まだ無知な点が多くて。ムスビは、何か知ってる?」


「あっははは!決まってるじゃない、知るわけ無いでしょ?」


「本当にお荷物だな、君」


 無知を豪語するムスビを無視し、眼前で目を細め、若干引き気味の受付嬢に慌てて笑顔を取り繕う。周囲の冒険者から、奇異の眼差しがユウタとムスビを射止める。本来なら今すぐギルドを立ち去りたいが、ユウタは朝食や服代で切迫する己の経済状況を鑑みて、この場から逃げる訳にはいかなかった。

 ユウタは細く息をついて、改めて受付嬢に向き直る。


「まず、冒険者について教えて頂けますか?」


 その質問に、背後で小さく押し殺した笑声が聞こえる。ムスビの耳が敏くそれを拾うと、こめかみに青筋を浮かばせ、拳を握りながら身を翻す。それを咄嗟に襟首を掴んで止め、カウンターへと引き寄せる。不満を必死にユウタへと訴える為に口を動かしていたが、少年の意を察して渋々押し黙る。

 此所で問題事を起こせば、二人が苦労することとなる。それを避ける為に努めるユウタの姿勢を知り、ムスビも耐えるしかなかった。

 実際、ユウタが喧嘩というものをした経験が無い。死闘の際に、大切な存在を罵られた憤りで相手を殺めてしまった。だが、自分を嘲る相手に怒りを覚えた事が無い。まず彼自身が、罵声や嘲笑を気に留めない性格なのである。

 受付嬢は二人に憐愍を抱き、説明を始めた。その同情が気にくわないムスビは、また不機嫌に鼻を鳴らして視線を逸らす。諫めるユウタの手を振り払わなかった。


「冒険者は、冒険者協会(ギルド)に募る依頼などを自由に選択し、完遂が認められると依頼人から提示された報酬を得る職務。

 まず、冒険者には十の位階が定められ、初級者のLv.1~最高級のLv.10まで。協力体制で挑み、報酬を分配する仲間──チームを作る事が可能です。

 依頼の種類としては、魔物の討伐、迷宮探索、鉱物・薬草・魔物から蒐集できる素材の採取、その他にも多種多様な仕事があります。そういった物には、難易度を示すランクが存在しますね。〔E〕を最低基準に、最高ランクの〔SSS〕まで」


「冒険者のレベルで、請け負える仕事も変わりますか?」


「いえ、基本的には自由にLv.1でも関係なく〔SS〕まで受けられます。流石に〔SSS〕はLv.9以上の冒険者でなければならない、と規定がありますから」


「昇格は可能ですか?」


「依頼の数、または達成した依頼の難易度、その成果でランクアップですね。他に質問は?」


 ユウタは暫く腕を組んで黙想した。恐らくは、ギルドの規則について、違法となる行為に及ばなければ罰せられる事も無いだろう。義務として守る事は、問題ない。だが、冒険者になる前にどうしても確認しなくてはならない事項を、ユウタは抱えている。


「その門地、身分、性差、罪科など関係なく、冒険者になる事はできますか?」


「…はい。我々ギルドは、分け隔てなく、冒険者を希望する者を受け入れます」


 それを聞いたムスビの顔が嬉しそうに満面の笑みを輝かせた。先程まで微かに聴こえていた笑声が消える。ユウタすら口を噤んでしまった。

 彼女が見せる笑顔があまりに眩しく、呼吸も忘れて凝視する。先程まで嗤っていた冒険者も瞠目し、僅かに頬を紅潮させて見入っていた。受付嬢が微笑し、カウンター口の下から一つの箱を取り出す。

 眼前に差し出されたそれを、手慣れた手つきで金具を外して行き、蓋を開ける。中に手を入れ、持ち上げられたのは、少し錆びた楕円形の鉄。その中心に磨かれた同型の石。深緑を閉じ込めた宝石の如し美しさにムスビは感動している。ユウタはそれを見て、ハナエの瞳を想起した。


「あの、これは?」


「冒険者登録の手続きに必要な物です。

 改めて訊ねます。貴方達は、冒険者になる覚悟をお持ちですか?」


「はい」


「当然でしょ」


 傲岸な態度のムスビを、受付嬢の死角で蹴る。

 足に激突したユウタの爪先に、悲鳴を噛み殺して耐えた。少し動揺したかに見えたのか、受付嬢が顔色を探るように二人を交互に見る。


「冒険者を志望しますか?」


「お願いします」


「し、志望します」


 受付嬢が楕円形の鉄に手を重ねるよう催促する。惑う事なく、指示通りにユウタは右手を石の上に翳した。右腕の烙印は包帯で隠しているが、ムスビが少し怪訝な視線を向けているのを察する。

 すると、鉄の中から丸められた紙が出現した。驚いて身を引いたユウタの頭上に射出され、宙を舞いながら落下してくる。静かに掴み取って、受付嬢に差し出す。彼女は静かに頷いて、それを受け取るとユウタだけに見えるようにした。


「こちらが、ユウタさんの能力です」


「の、能力?」


「冒険者登録の前に、まず本人の力がどれ程か、それをこちらで算出した物です。これによって、己の実力を把握し、どの依頼ランクが妥当かを判断する材料になります。

 こちらもE~Sで判定されます。

 Eは弱点にもなる低さです。DはEよりも改善の余地がある、という感じです。Cが平均、BやAは平均以上。Sとなると、秀逸していると判定されたという事。」


「な、成る程」


 彼女の説明通り、ギルドが出したユウタの能力を確認する。



──────────


ユウタ(15)/人族・男


・通常ステータス

筋力:C/耐久:C/敏捷:S/魔力:E/技術:S

・特殊ステータス

魔力操作:S──魔法適正:E/呪術適正:E

総合戦闘力:A──武器適正:A/格闘:A

        特殊能力:E/その他:S


──────────



「……だ、大丈夫ですよ。Sクラスなんて凄いじゃないですか!」


「相殺するように点在するE………。

 あの、『その他』とは?」


「項目外の能力判定です」


 ユウタは自身の能力判定を再確認する。

 魔力や魔法や呪術が致命的。その他が高評価だという事実を踏まえ、魔力操作が卓越している理由は、氣術の副産物である。氣術師が魔力を“氣”と総じて称呼する。二つは同意義なのだから、確かに操作技術が優れているのも理解できる。

 平均以上の評価を得た総ての項目が、ユウタの師による修練で得たモノである。そう考えると、自分にとっては喜ばしい結果だ。


「これを、どうするんですか?」


「自分で管理して下さい。個人情報でもありますので、処分などにも細心の注意を。能力値の上昇もありますから、また確認を希望される際は受付までお越し下さい」


 ユウタは背嚢の中に入れ、横目でムスビを盗み見た。受付嬢の説明を受けながら、同じ手順で現れた紙の紙面を睨んでいる。あまり期待に添わない結果でも出たのか、とユウタは予想していたが、次の瞬間には不敵に笑う彼女を見て唖然とした。


「ど、どうだったんだ?」


「これが凄いのよ、見なさい!」




──────────


ムスビ(15)/獣人族・女


・通常ステータス

筋力:A/耐久:B/敏捷:C/魔力:S/技術:D

・特殊ステータス

魔力操作:C──魔法適正:S/呪術適正:A

総合戦闘力:C──武器適正:D/格闘:A

        特殊能力:C/その他:S


──────────



「何だと!?」


「へっへーん!見た?見た?」


 統計して、ユウタよりも優秀である。認めざるを得ない現実に、首を横に振って否定したくなった。少年の物とは違い、目を見張る結果を叩き出したムスビは、先程から胸を張って優越感に浸っている。

 何よりも歴然としているのは、魔法と呪術に関して秀でている。ユウタとは真逆の評定に、顔を顰めることしかできない。目を覆いたくなるのを堪え、勝ち誇るムスビに振り返った。


「魔法とか呪術……お前、使えるの?」


「……まぁ、何とかなるでしょ」


「使えなきゃポンコツも同然だね」


「はぁ!?」


 ユウタはそう言いつつ、彼女の欠点が無知であるからだと判断した。つまり、修練によってこれらの欠点を補い、本人の向上心によって現在の低評価を覆すことも可能なのである。成長速度は個人によって千差万別だが、この数値を見たユウタは、それすらも人の常識の範疇を超えた領域だと密かに予感した。


 受付嬢は、このギルドで長らく勤める女性である。数多の冒険者、その栄枯などを見守ってきた彼女の下に、新たな志願者が訪れた。そして、算出された結果以上の潜在能力を、二人に見たのである。

 一喜一憂する彼らへと、手帳を渡した。困惑する二人に補足する。


「それは身分証明書です。貴方達が冒険者である証明品。厳重に管理して下さい」


 ユウタが中身を確認すると、名前や性別などが記載され、最も下の項目に「Lv.1」と記されていた。ムスビも同様のレベルらしく、出発点は同じだと安堵する。


「つまり……これって」


「はい、今から貴方達は冒険者です。

 依頼を受ける際は、必ず受付に。

 我々は身分や出自に関する事案には一切関与しないので、そこは承知して頂きます。

 他の冒険者への悪意ある行動は、被害を受けた者からの訴訟があった場合、罰せられます。例としては、報酬の横領や、妨害行為が該当しますね。

 重ねて、注意して下さい。──良い冒険がありますように」


 歓喜するムスビに、ユウタは胸を撫で下ろした。彼女の登録が問題なく完了すれば、あとは路銀を稼ぐ為に依頼をこなして行くだけだ。次の町への補給が出来れば、ムスビやシェイサイトと別れて自由な行動が可能である。

 ユウタは手帳を懐にしまうが、再び取り出して中身を眺める。自分も冒険者として認められた事に、高揚感を覚えていた。


「ちょっと!アタシとチーム組んで!」


「は?いや、報酬の山分けとか嫌なんだけど」


「他の男に取られるけど、良いの?」


「勝手にしてくれ。そこまで面倒見るつもりはないから」


 ユウタが素っ気なく答えると、ムスビは嘆息をついた。喜びを分かち合う為の提案だったが、ユウタは感情を抜いて経済的である。彼女は一蹴された事に対し、不満を包み隠さずに少年の手首を捻り上げた。ここまで彼に拘る理由は特に持ち合わせていないが、問題の発生を危惧すれば、解決策として彼とチームを組むのが最善策。

 ユウタは痛みに悲鳴を上げる。


「な、何すんのさ……ッ!?」


「良いから、アタシと組みなさい……!」


「何でそんな必死なの?」


「決まってるでしょ、だって」


 言い掛けて、ユウタは横合いからの衝撃に、抵抗せずカウンターから離れた出口付近まで押し飛ばされた。卒然と自身を襲撃した謎に、彼は床を転がりながら放心した。起き上がったユウタは、周囲を検める。

 疑問の正体──それは、冒険者登録を済ませたムスビをチームに勧誘する為に殺到した男達。ユウタと彼女が抗論をしているのを見て、千載一遇の機会と見たのだろう。先程、カウンターでのムスビの笑顔が間違いなく男達を惹き付けたのだ。

 危機感に、慌てて彼女に集る集団へと押し入った。ムスビまで出来た人の団塊が、強固にユウタを阻む。筋力の強い人間によって、乱暴に振り払われてギルドの床を無様に転倒した。

 ムスビは冒険者といえど、懸賞金のある指名手配者。徒に人目に触れさせてはならない状況に身を置いている。


「まずいな…」


 集団が崩れる様子は見られない。彼女が折れるまで、執拗に勧誘を止めない所存だろう。これならば、ムスビと一時的にでもパーティーを組んでおくべきであった。自分を誘った彼女の意図を今さらながらに察して溜め息をつく。自分の短慮に呆れるばかりだ。


「静かにしろォ────ッ!!」


 その時、ギルド内に響き渡る大声に全員が身を竦ませた。騒然としていたムスビの取り巻きが、瞬時に凍てつく。反響する声と、訪れた静寂の中で床を踏み鳴らしながら、大男が現れた。


「そこの娘が嫌がっとるだろ。お前らは理性の無い獣か?そんな積極的に行ったら、捕まるモンも手に入らねぇだろうが」


 ユウタの横に立つ。

 燃え立つように炯々(けいけい)と光る双眸の鋭さは、一瞥で全員を黙らせる。圧倒的な強者と、本能的直感で誰もが悟ってしまう威風を纏っている。

 筋骨隆々たる巨躯は、動く要塞と感想を懐かずにはいられなかった。ユウタは実際に、横に並び立ったその男性を、高く聳える分厚い防壁と見紛った程だ。

 赤い髭と髪は炎を連想させ、荒々しく逆立っている。如何にも手入れが施されていないのが一見して解る髪型だった。ユウタも人の事を言えた質ではないが、それが素直な感想である。

 赤目赤髪の巨漢は、足元のユウタを見下ろした。


「おい坊主。ありゃ、お前さんの恋人か?」


「え!?」


 唐突に間の抜けた質問を受け、忘我していたユウタは素っ頓狂な声を上げた。

 男が屈み、ユウタの顔を覗く。接近する岩のような顔面に、思わず身を捩って避けようとした。一面識も無い人間に急接近され、顔を引き吊らせる少年に、その大きな口を開けて哄笑した。近くで砲撃があったと錯覚してしまうような大声に、耳を塞いだ。


「成る程な、そういう事か」


「何か納得しちゃったよ…」


 ユウタの体が宙に浮く。襟を掴み上げられたと悟るのに、そう時間を要することはなかった。少年の意を察した様子で、彼が頷く。


「そこの娘と、この坊主はチームだ。教育指導は、このガフマンが承る!」


 集団の中から、ムスビは持ち上げられたユウタと視線を合わせる。両者がこの事態に理解が追い付かず、ただ静観する他になかった。果たして、これが救いなのか、それとも状況の悪化を促すものなのか。

 思案する間もなく、ユウタ達の登録を手伝った受付嬢が進み出る。


「ガフマンさん、よろしいのですか?」


「構わん!この坊主、見たところ根性ありそうだからな。娘を救う為に集団に飛び込んだ時は驚いたぞ!」


「あ、ありがとう……ございます?」


 戸惑うユウタを床に下ろす。

 漸く地に足が着き、襟を正す。ムスビが集団の中から駆け出し、ユウタの隣に立った。剣呑な眼差しを横に投げ掛けている彼女に視線が合わぬよう、ガフマンと名乗る男へと向けた。


「助けようとしてくれて、ありがと」


「え……?」


「でも、こうなる事わかってたんじゃないの?」


 不意に感謝された事に、引き戻される。しかし、振り返った先では、ムスビが眉根を寄せて憤怒にユウタの襟を掴んで揺する。前後に激しく振られる体に呻き声を溢した。礼を言われた直後に、その何倍もの不満が怒濤の連続で吐き出される。

 至近距離で絶えず放たれる愚痴ではなく、必死に受付嬢とガフマンに意識を傾注する。突然現れた男が指導役を買って出た真意を知りたい。下心があるにせよ、仮にそれが害意となれば距離を置かなくてはならない。

 ムスビの所為で、会話の内容をほとんど聞き逃してしまったが、ガフマンが二人を引き剥がす。ユウタは受付嬢に尋ねた。


「あの、この人は?」


「かなりの著名人です。

 数々の〔SSS〕ランクの依頼を成功させ、世界に六人しか存在しないLv.10の冒険者。その仕事場は、戦争の一兵や深層の迷宮探索。最近では討伐が難しいとされる帝竜ガルムンドの退治という偉業を成したお方。

 【灼熱】のガフマン──それが彼です」


 ユウタは、ガフマンを見る。

 冒険者のランク、依頼の難易度などの説明を受けた直後である今、内容を反芻する内に相手が破格の存在だと認識した。現れた時から、その強者然とした雰囲気は感じていたが、改めて情報を得ると凄まじい人物である。冒険者としてではなく、戦争の一兵として戦場を生き抜いた経歴があるという事は、間違いなく実力者だ。

 ガフマンが二人の前に歩み出る。


「よろしくな、坊主、お嬢さん!紹介された通り、ガフマンだ」


「ユウタです、指導よろしくお願いします」


「アタシはムスビ。礼を言うわ」


 ガフマンが破顔した。


「もう少し柔らかく接する事は出来ないの?」


「アタシにそんな注文が通るとでも?」


「手段は厭わない」


「ちょ、武器を握るの止めて!?」


「はっは、仲が良くてよろしい!それじゃ、お前さん達をビシバシ鍛えてやるぞ!」


 ガフマンが二人を脇に挟んで、ギルドの出口へ向かう。早速依頼を受けようと考えていたユウタにとって、予想外の行動だった。


「何処行くんですか!?」


「まずは昼飯だ。安心しろ、奢りだ!」


「ホント?素敵!」


「ムスビ、キャラ違くない??」



 先が思いやられる。

 ユウタは項垂れて、ガフマンと共にギルドを後にした。















































一気に設定が増えると同時に、新キャラ登場しちゃいました。勢いに任せると、こんな事になっちゃうんですね・・・くっ、どうしよう・・・!



──────────

ユウタ(15)/人族・男


・通常ステータス

筋力:C/耐久:C/敏捷:S/魔力:E/技術:S

・特殊ステータス

魔力操作:S──魔法適正:E/呪術適正:E

総合戦闘力:A──武器適正:A/格闘:A

        特殊能力:E/その他:S


──────────

ムスビ(15)/獣人族・女


・通常ステータス

筋力:A/耐久:B/敏捷:C/魔力:S/技術:D

・特殊ステータス

魔力操作:C──魔法適正:S/呪術適正:A

総合戦闘力:C──武器適正:D/格闘:A

        特殊能力:C/その他:S


──────────



 二人のステータスです。

次回もよろしくお願いします。





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