幕間:ハナエの危惧
小話です。ホントに短いです。
ユウタが旅立つ。
それを私──ハナエは見届けた。それは友人としては勿論のこと、何よりも想い人が去っていくのに何もしないのは耐えられなかったからである。こうやって、平然と「想い人」だなんて言えるのは、今まで散々ユウタの鈍感さである程度のことを言っても気付かれないからかもしれない。
あれから、お世話になっているトードさんとミオさんの下で、仕事の手伝いをしながらリュクリルで生活している。不馴れだったのは最初だけで、その時にユウタが尽力してくれたお蔭で町の一員になれた。
お節介な彼の所為で、縁談を迫られていた時以上に、プロポーズを受ける回数が多い。村よりも住民が多いのもあるけど、彼の過剰な私の紹介が端を発している。
そんな中、大人たちの間では私の恋心が旅立った少年にあると既に感付かれていて、言いようにネタにされる時がある。
ユウタは帰ってくる、と言った。
なら、事を済ませ、満足した彼を迎えられるだけ私も何かを始めよう。その時、もうコツコツと彼にアピールするのではなく、大胆に告白してみせる。最終目標は……か、家族?
そんな輝かしい未来図を頭の中で描くほど、暗い考えも浮かぶ。光の差す場所に、必ず影ができてしまう。
例えば、身近に言うとギゼルの娘。
あの人、どうやら私よりも後に、町の外でユウタを見送ったらしい。
「そ、そうなの?ユウタ、なんて?」
「行ってきます、一言」
彼らしいと言えば、彼らしい。
「私、負けないから。ハナエよりも可愛くなって、帰って来た時にユウタを落とす」
無表情で、それでも強かに言う彼女。ギゼルの娘がユウタに好意を持っているなんて、知りもしなかった。彼が村を出てから交流が多くなったけど、まさか敵意の裏返しだとは想像だにしなかった。よく見れば、確かに彼女も整った容姿をしている・・・どころか、私よりもスタイルが良い。
ルックスなら、間違いなく敗北してしまう。ユウタが女性をどんな目で見ているかは、未知である。実際に、あれが恋をするなんて事があるのだろうか。随分と私を重宝してくれたが、それでも最後は仲睦まじい兄妹のような雰囲気。
きっと、旅先で色んな女の子を虜にしたりするのではないのだろうか。良いように振り回して、きっと数多くの女性を期待させたまま放置する。無自覚なところが、魔性の悪魔と何ら変わりない気がするのだけど。
「ね、ねぇ?」
「何」
ギゼルの娘に問い質す。
「ユウタって、あなたにとってどんな人?」
「ユウタ……。掴み所が無いけど、たまにぶっきらぼうだったり、、でも基本的に優しくて自由。何だか視線を吸い寄せられるような……それと、手が大きくてあったかい」
あの無表情な彼女が恍惚と語っているのを見て、もう納得せざるを得なかった。
あれは悪魔だ。
トードさんから、手紙が届いたと聞いて、慌てて受けとる。何やら、ユウタが旅先の町から送ってきたらしい。
× × ×
ハナエへ
そっちの生活は順調?
僕は、西の国から手始めに探検しようと思っていて、冒険者登録もしたよ。色々な制度があったり、やはり勉強不足な自分が目立つばかりだ。そこで知り合った女の子に随分よくして貰ったんだけど、厄介な事件に巻き込まれてしまった。
今は解決したし、早めに次の町に向かうつもり。旅は順調・・・とは言えないけど、楽しいよ。それとついでに、同じような目的で旅をすることになった少女が居るんだけど、彼女が凄く厄介な性格の持ち主で。
彼女を見る度に思うよ。やはり、ハナエって男性から見たら、女性の好みで理想像なんじゃないか。また旅先で君の事を自慢しそうになったよ。もしかしたら今度は、別の町から縁談が来たりね(笑)
守護者の二人組については、まだ追跡中。良い情報はないけど、これからも随時報告します。あ、手紙が要らないなら言ってくれ。
それでは、また。
追伸:ギゼルの娘には、名前を知らないから教えてくれと伝えておいて。次の町は……だから、よろしく。
ユウタより
× × ×
「だ、そうよ」
「危険」
ユウタの手紙を見て、私とギゼルの娘は二人で頷いた。彼の旅先で出会った女の子、そして次に仲間になった女の子・・・私たちの敵意を誘うような手紙である。
ギゼルの娘にとっては、名前も知らないと言われ、正直ショックだろう。
「ハナエ、やはり旅に出なくて良いの?」
「い、いいいい良いのよ別に」
出たいのは山々だが、きっと多大な迷惑をユウタに掛けてしまう。なら、いまここで彼を待つのが最善の策である。
私はそっと、天に祈った。
どうか、彼が無事もなく、帰って来れますように……!!
鈍感系の主人公が跳梁跋扈する現代のファンタジー物は、こういう女の子の苦悩が大好きなんでしょうね・・・。ハーレムって恐ろしい。




