前に進ませる音
一人、また一人と捌いていく。
橋の上から川へと落ちる亡骸と鮮血によって区画の境界線を穢れる。幾重にも展開された槍衾の中を移動し、擦れ違いざまに一刀を叩き込む。凶刃の輪に一点の隙が生まれると、優太はそこに体の芯を据えて、泰然と迎え撃つ。
後ろに目があるかのごとく、四方八方から突かれる槍を躱わして一閃する。絶妙な体捌きのみで攻撃を回避し、反撃を繰り出す。距離は近けれど、優太の手のみが届く絶対領域が生まれていた。
迅速に剣と体を運び、正確に致命傷を衝く。踏み出した足の腱、武具を操る手の力点、要所たる血管を小さく、しかし深く適度に切った最小限にして無駄の無い技術。畏れ無く敵を討ち取ろうと襲い来る警邏は、益体もなく犠牲者を積み重ねるばかりであった。
荒波も同然に全方位から放たれる多勢の利を十全に活かした戦法も、しかし優太の身体に一切の負傷を与えられず、また同胞を喪失する。戦場を支配しているのは、仮借ない猛撃の渦中に単騎で臨む少年。速やかな剣閃は初速から終端まで、人の目にすら留まらない。刃先に付着する血もきわめて少量であり、小さく振るってしまえば数滴が地面に斑点を作るのみで落ちてしまう。
外貌を裏切る優勢だが、内心では優太が焦っている。
余人には無い感覚器官の敏さを用いて、相手の予備動作を読み、一瞬の先を確実に取る戦術こそ幼き日より受けた修練の中で培った優太の基本。自分の感覚を狂わせる呪術師、単純に己よりも格上の遣い手、これらの与し難い敵を打ち破ってきたのも、やはり敵が術を発動し、攻撃を開始する――これらよりも先に踏み込んで斬ったからだ。
その行動には、紛れもなく相手が見せる意思が読み取れたからこそ、疑い惑うことなく斃してきた。
しかし、この警邏隊はそれらとは全く異なる種類であった。最初から設定を組み込まれ、忠実に稼働する機械。悉く撃退されながら、戦略の変更を行う様子もなく、仲間の死体に自らを重ねて相手を阻害する障壁でも築かん威勢で肉薄する。
その相貌に死の恐怖は見れない、だが勇敢な意思も無く、機械的に死地へ身を投じる。さながら生きる屍、最初から死ぬ為だけに増員されたとしか思えない。
何らかの奇襲や罠があると、常に危険視していた優太もその警戒を解く。これ以上の戦闘は不毛と判断し、掃討する決断を降した。
優太の身体が禍々しい黒い炎に包まれ、足許まで延焼する。凄まじい火勢で橋の両端まで奔走し、槍で彼を貫かんと踏み込んだ警邏隊を直下から夥しい刃が串刺しにした。胴を貫通しても、未だに槍を握って攻撃を再開しようとした警邏は、さらに内側から黒い刃を基部として、そこから突出し蜘蛛の巣状に分岐した数多の針に体内を撹拌されて事切れる。
「黑氣術――黒磔」
敵を一斉に殲滅し、小太刀を鞘に納めた。もう動く気配のある警邏はいない。黒炎が優太へと集中し、静かに消えるとその場を立ち去る。仁那達はまだ「一画」に到着はしていない、走れば追い付ける時間だ。
駆け出そうとした優太の背後で、閂の下りるような音が連続して鳴った。足を止め、振り返ると警邏隊の死体が膨張を始める。人体の原型を留めず、大きな球体へと変貌し――爆散した。次々と、橋を木っ端へ変えていく。
「これは――!」
「三画」の跳ね橋が、轟音を鳴らして瓦解した。
× × ×
「――何だろう?」
跳ね橋から離脱した仁那一行は、背にした「三画」の方角から聞こえるけたたましい音に愁眉を寄せる。祐輔との合流を目指していたが、今は背後で発生した謎の音に意識が向けられる。狭い学術棟の間に作られた暗い路地の中、同じ方向へと視線が集中した。
まるで大砲を発砲させたような音。
だが、町中でそんな火器を使用すれば、民間人も無事では済まない。いや、そもそも地下都市の言義は天井の崩落を畏れ、そういった兵器を放棄する。警邏も刃物や警棒、少数と見込んだ相手の沈黙を近接戦闘で試みる武装に統一されていた。
潜伏していた魔導師か、或いは「三画」に秘蔵された兵器が火を吹いたのか。どちらの可能性も滑稽なほど絶望的に低い。
仁那は、この現象を優太の氣術だと読んだ。だが、そもそも氣術自体は戦闘においては火力の低い力であり、突如として火炎を散らす爆破などを起こす効果はないとゼーダや花衣からも聞いている。
優太の安否が心配になるが、いまは自分達も獲物の対象。言義に配備された狩人は、もう背後の路地に足音を立てて接近している。合流を誓った優太の言葉を信じ、全員が再び前へと駆け出す。
祐輔が待つ学術棟裏は、もう目と鼻の先にある。そこで荷物と相棒を回収すれば、何の憂いもなく「一画」へと走れる……筈だった。
現実は非常に困難な局面を迎えており、すぐ後ろに迫り来る追手の敵意を感じる緊迫した状況の最中、「一画」へと架かる跳ね橋が作動する時間を誰も把握していない。川の中央付近に一つだけとは知っているが、主に「三画」から出ない鉄徹一味には問うのも無理な話、先ほどから恐怖で口数の少ない石黒は訊ねられる状態ではなかった。これでは早く跳ね橋に到着したとしても、川の前で足止めを食らって、背後の警邏によって背水の陣で挑まざるを得なくなる。
訪れる先々で誰かに追われる自身の旅路を、仁那は初めて呪った。確かに昨今の千極は何処を歩いても後ろ指を指され、何かの切っ掛けで敵兵と疑惑をかけられて無傷では済まない、そんな剣呑な時代である。
しかし、こうして理不尽な追跡を受けるのは、約二ヶ月前から頻繁である。これもまた、自分に定められた運命なのか。
「駄目だ、追い付かれる!」
鉄徹一味の一人が声を上げた。
警邏がすぐ後ろ、抜刀を握って振り翳していた。仁那は跳躍して宙で身を翻す。右の拳を後ろに引き絞った体勢で、一同の頭上を通過すると銀色の光が瞬いた。白虎門・弁覩の能力を開放すると、仁那の姿形が変わり臀部から垂れた尾が先を分岐させて複数の拳を作り出す。
「『猫の手』――ッ!」
仁那の腕が振り抜かれた瞬間、鉄徹一味の後ろで路地を照らす銀光が何度も炸裂し、警邏は眩い光の中に呑まれて衝撃に散々となった。仁那を光源として降り注いだ斜光は、追尾する敵を容赦なく壊滅させる。
鉄徹一味は歓声を上げて見ていたが、仁那の攻撃圏外に居た警邏隊の姿に口を結び、黙って前へと足を運ぶ。着地した仁那が指を鳴らすと、そこかしこに反響していた拳撃の音が路地で増幅され、警邏隊を再度衝撃波となって襲った。
仁那は能力を解除し、鉄徹一味の後ろを走る。面倒事に直面する機会が増えた分、最初は手に余っていた能力の利用法も格段に上達し、それらを処理する術が増え選択肢の幅が広がった。
これはまるで、対処するだけの力を与えたのだから文句は言うな、とでも遠回しに釘を打たれたようで、仁那は思わず苦笑する。祐輔なら言いそうな台詞だった。
一行は追手からの逃走劇を演じながら、遂に目的の学術棟裏へと辿り着いた。「三画」で常に肉体労働を欠かさず習慣としている鉄徹一味、体力は彼等にも劣らないが負傷で痛む体を駆動させた石黒もまだ疲労の色は無い。仁那は瞬間的に能力を開放、解除と繰り返しているためか呼吸が荒い。
薄闇の中に視線を巡らせて、相棒の面影を探す。
「祐輔!」
『おう、オレ様は此所だ』
「ひゃあっ!?」
忽然と闇の中に浮かび上がった祐輔の姿に奇声を出して驚く。飛び退いて同様に怯える石黒と抱き合う姿に、龍は嘆息して尾をひらひらと振った。
仁那は悪戯だとすぐ我に却って、相棒の尻尾を捕まえて振った。感情の無い悲鳴を上げて振り回される祐輔だったが、すぐに仁那の額を叩いて止めさせると、路地の床に珍しく四肢で降り立った。すぐ彼を抱き上げて走り出そうとする仁那を制止し、学術棟裏の路地の奥を顎で示す。
その挙動の意味を理解して、摺り足で奥へと進むと、闇の中に人影が浮かぶ。学術棟の外壁に背を預けて座る男性がこちらを見上げていた。尋常ではない汗を掻き、短く浅い呼吸、そして腹部を右手で押さえていた。
屈み込んで仁那が覗くと、暗くとも判る服を赤く滲ませた出血。圧迫止血を試みて力の込められた掌の奥から絶えず、少しずつ広がっている。刺創か、相当深いのだろう。恐らくこれは僅かな時間しか与えぬ延命措置なのだ。
「わっせは仁那、貴方は?」
「……ヴェシュ、君がカリーナ様の……遣いか?」
仁那は一瞬固まったが、すぐに首肯した。横目で見ると、祐輔も頷いている。
『ソイツは、あのカリーナって娘と同じ東国に派遣された使節団の一員で、一年以上も潜伏調査してた奴だとよ。悲しくも、ついさっきバレて追い立てられてるらしいぜ』
祐輔の憐憫もない声音に、仁那は一度目を伏せてから、再びヴェシュへと向き直った。髭の濃い碧眼の男、確かに西国出身の血筋だと窺える。恐らく変装をして、言義に潜入していたのだろう。
だが、その偽装も追跡する者に剥がされたのかもしれない。ヴェシュは血に汚れていない手で衣嚢から取り出した紙片を仁那に手渡す。
「君達の事情は聞いている……これを、どうか……!」
「これは?」
「必要な事はすべて、そこに書いてある……後は……頼んだ……カリーナ様、にも……」
ヴェシュは言葉の途中で力を失い、頭を垂れてしまった。
神妙な顔で見守る鉄徹一味と石黒の前で、仁那は紙片をジーンズのポケットに入れて立ち上がる。祐輔が首に巻き付いて襟巻きになった。
「行こう!」
「このおっさんは、どうすんだ……?」
「事が済んだ後で迎えに行く。……落ち着いて弔ってあげたい」
仁那は学術棟裏から全員を率いて脱する。
「二画」の表通りに出て、学生や旅人を押し退けながら人波を掻き分ける。続く鉄徹一味と石黒が仁那に追い縋った。
彼女達が去った後、取り残されたヴェシュの死体の前に警邏が集まった。仁那達が居ないと悟って進もうとしたが、路地の中で何かの焼ける臭いがする。警邏の一人が音を辿った先にある彼を見回し、体を触って検める。
彼の外套の内側に固い膨らみを感じ、中に手を入れて掴み、素早く抜き取った。全員が額を寄せて注意したヴェシュの懐中より取り出した物――既に縄に着火した爆弾である。
投げ捨てるため腕を振り上げたが、それは血塗れの手によって制止された。死んだ筈のヴェシュがまだ呼吸をし、空前の灯火である命を思わせない強い眼差しを向けていた。警邏が固まったのを見て満足そうに笑うと、震える片手で胸に手を当てて瞑目する。
学術棟が爆発音と共に崩れる。
土煙を盛大に巻き起こして、天井へと伸ばしていた背をゆっくりと下ろしていた。衆目が集まり、仁那達は一瞬振り返ったが、再び前に向き直る。その音源が何なのか、「三画」を脱出して間もない時分に聞いたものとは違って、全員が正体を了解した。
決死の足止め、ヴェシュの真意と勇気を察して仁那は悔恨に唇を噛む。先程、頭を垂れた彼は左手を静かに外套に入れて、器用に火を点けていた。この修羅場を想定し、生き抜く為に覚えた技術かは知れないが、それでも後に鼻腔へ漂ってきた焦げ臭さに隠された爆薬の存在を察知したのだ。
ヴェシュの為にも、出来る限り仲間を連れて遠くへ向かう。それが命を擲って、警邏を食い止めんとした彼を弔う術なのだと解した。その爆薬を奪って背後の追手に投げた後、彼を担いで安全な場所に運んでから葬っても良かった。
だが、あの最後に見た眼差しの奥にある誇りや意思の固さに、仁那はその選択を尊重した。それを許容してしまった。あれが東国に身を隠し、故郷を救わんと孤独に戦い続けたヴェシュの覚悟なのだ。
仁那は目尻に浮かんだ涙に頭を振った。今の彼には、哀れみも同情も侮辱になる。
『仁那、来るぞッ!』
眼前に警邏隊の列。
仁那は奥歯を噛み締めて、一歩強く踏み込む。その肢体が縹色の火に包まれると、一筋の光となって敵陣へと突撃した。
警邏隊は猛然と前方から突貫を敢行する少女へ、何の感慨や称賛も無く槍の穂先を定めて刳る。
仁那が両手で強く前へ水を掻くように腕を振ると、半円状に拡散した雷に薙ぎ払われ、警邏は灰塵となって路傍に舞う。青龍門・祐輔の力を遺憾無く行使した故の効果だった。
止まれない、何としても。
優太と、ヴェシュが繋いでくれた道だ。絶やさず、約束の場所まで突き進む。
「行くよ、みんな!」
× × ×
「まさか兵士に爆弾を内蔵するなんてね……」
川面に散乱する残骸の上に座って、優太は流れに乗りながら服に付いた木片を払う。卒然と起こった警邏隊の自爆から、どうにか生き延びた。今は瓦礫と共に川の流れに従っている。まだ南の跳ね橋まで遠い。
南北の検問に遠い場所を見計らって、軽々と跳躍した。「二画」の地面に着陸すると、髪を結い直してから走る。まさか罠が警邏隊の中に組み込まれているとは予想だにせず、慢心を衝かれた不覚に優太は苦笑した。
優太は市街を駆け抜ける中、改めて警邏隊の違和感について、再分析を行う。
数は検問所に配備するには、あまりに過多と思われる員数。橋の上で堂々と違法の断罪を執り行い、それも死刑と早々に断じている。最も近い標的に戦力を集中させる戦法、対策も無く愚直に槍で刺そうと腕を振る。異常なまでの正義感や戦意を感じないにも拘わらず、敵の道連れを意図し爆弾を内蔵。
意思の無い瞳、決まった単調な動作、体内の爆弾。どれも尋常な人間には該当しない。常軌を逸した人間の範疇にも恐らく無い。――そもそも、彼等が人間でないのだとしたら。戦う度に、機械だと思わされる。この感想が事実であると手応えが実感をもたらす。
しかし、あれが機械なのか?
既存の生体を機械化する、または生体兵器を一から創造する。どちらも現代の技術では、況してや魔法や呪術でも困難な偉業だ。だが、もしそれらが可能であり、警邏隊がそれらによる産物なのだとしたら辻褄が合う。尤も、幼少から戦士として調練する千極首都によって作られた、無血にして無情の戦士とも説明が付く。
だが、優太は東国に足を踏み入れてから、そういった人種とは何度も邂逅した。そして、自分が殺意を向ける時、大抵は戦意を喪失して平伏するか、それとも武者震い、何らかの兆しを見せた。
「……あれは本当に人なのか?」
民衆の間をすり抜ける最中、負傷して街路に横臥する警邏隊の姿を見咎める。仁那達も奮闘している、彼女の性格から鉄徹一味を見捨てて先を急ぐ質ではない。まだ誰一人として欠けず、「一画」にある約束の場所での合流を精神的支柱として懸命に走っているのだ。
仲間の奮戦に優太は口許が綻び、しかしすぐに疑問が脳内に浮上した。仁那達が辿ったとは思えぬ南の暗い路地を一人で通過する際、足許には警邏隊がまた転がっていた。壁の損壊などの具合を見て、これが弥生を中心とした面子――つまり飛脚と鈴音を護衛する仲間の仕業だと容易に理解する。
検問所付近の警邏が仁那達へ即座に対応した理由は、簡単に自分が大胆な川の横断をして発見された所為だと考えていた。しかし、ならば言義にとって罪人は「三画」に集中しているし、その区画だけの問題である。
だが、疑問なのはどうして「二画」の警邏も瞬時に立ち回って見せたのか。街路に草臥れた彼等を観察すると、きっと北の検問所以外から配備された人員である。優太の知らない手段で、早急な情報伝達を完了させて警戒体制を敷いたのか。それでも異常な早さだ。
これではまるで「三画」への侵入以前に、言義に入った瞬間から狙われているかのようだ。そして行動を起こした途端、警邏隊による沈黙を図った討伐が開始した。まだ材料が少なく、断言は出来ないが、仁那や箱橇を牽いた飛脚――「黒い箱」に関係した人物がこうも追われていると、自分達の見えない裏側で何者かが動いていると考えても早計ではない気がしてきた。
「面倒な事になってきたなぁ」
優太は失笑を禁じ得なかった。
花衣が言っていた通り、仁那の足先には常に騒乱や流血が絶えない。本人の意思に関係なく、それは事件として目の前に現れる。自分も体験した故に共感が示せる、これは手に負えない自然力か何かが働いている影響だと。
頻繁に問題の渦中に身を置く二人、つまり発端が一ヶ所に集まった途端、発生速度も規模の拡大も早い。カリーナは予め、これを想定した上で二人を送ったのかもしれない。言義に根付く赤髭の陰謀、隠された悪逆を暴く為に、外見だけの平和を破壊する二つの矛を駆使した。
「……これ、荒業なんじゃないか……?」
半ば怒りを覚えながら、あの人なら仕方無いと呆れる。従弟だろうと容赦無し、心根優しき少女だろうと関係ない、使えるなら最大限に有効活用する。久方振りに受けた彼女の任務、それが一年前の懐かしさを思わせる内容で我知らず笑声が溢れる。
目の前に「一画」の跳ね橋が見えた。――まだ降りていない!
両脇に佇む警邏の二人に向け、優太は小太刀を抜き放つ。刃先に黒炎が点り、足を止めて右目で二人を見る。遠景にある筈の二人を、直近で眺めるように接近する視界。真紅の瞳か遠くに居る人物を鮮明に映し出した。
「黑氣術――黒弾」
優太が小太刀を振るえば、先端から黒い弾丸が射出され、遠距離から警邏二人に命中させる。優太は彼等が倒れたのを遠目に確認し、右の瞼をまた閉じて、橋に近付く。
「どうやって動かすかは、大方知ってるよ!」
優太は跳ね橋の近くに垂れて欄干に結ばれた縄を強く引く。同時進行で氣術で対岸の橋にある縄も引力を応用して動かした。ゆっくりと作動して、傾いてお互いに連結する橋に優太は跳躍して乗る。
視線を南北へと巡らせること暫し、仁那達が北側から必死の形相で駆けているのを発見した。手を大きく振って示すと、鉄徹一味が歓喜の大声を上げて跳ね橋まで猛然と走り、優太を囲って腕を掲げる。
「兄貴、無事でしたか!」
「うん、少し手間取ったけど。みんな、早く「一画」の方へ移動して!」
鉄徹一味と石黒が対岸に辿り着いた時、仁那と優太は橋の上に仁王立ちする。
「優太さん、どうする!?」
「「二画」から架かる方だけを破壊する、出来る?」
「任せて!」
優太の全身からは黒炎、仁那の満身を銀の光が包む。もう橋の上に踏み出している警邏を見据え、二人の氣が波になって前に放たれた。
「黑氣術――黒波!」
「『猫の手』――!!」
黒い波が警邏を「二画」へと押し流すと、立て続けに銀の拳が高速で橋を叩き割る。仁那の力に耐え切れず、跳ね橋の半面が崩落した。
黒波は主の下へ還り、仁那も力を解除する。
対岸では、警邏が直立していた。全員が目を逸らさず、瞬きもせず二人を観察する。不気味な感覚が背筋を撫で上げ、仁那は自分の体を抱いた。
「な、何なんだろう」
「さあね……。でもこれで連中は僕らを追えない、今の内に行くよ」
二人は鉄徹達や石黒の待つ「一画」へと戻る。未だ絶えず注がれる背後からの視線を感じつつ、約束の場所がある北側へ今度こそ全員で目指した。
アクセスして頂き、誠に有り難うございます。
駆け足となってしまいましたが、次で鈴音達との合流……できるかは判りませんが、話を進めたいと思います。
次回も宜しくお願い致します。




