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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
三章:詩音と言伝ての鳳
166/302

梟の弟子が見参



 白壕――。


 旅館の北側に位置する洞穴の中、変わらず書物を漁るカリーナの元へ伝令が届く。急ぎ隠れ家へ駆け入ったのは、忠実なる配下のジーデス。己よりも年の若い女に顎を使った無礼な挙措のみで扱われる不如意にも不平声を上げず、手先となって動く信のある男。

 使節団の中でも、彼こそカリーナの中では最も信頼に足る人物だ。それ故に性格も知悉しており、戸を叩く調子や音の大きさなどで事の重大さを大概は把握してしまう。内容までは判らないが、それでも随分と長い付き合いになったと薄く微笑んだ。

 揚げ蓋から身を滑り込ませ、段差を飛んで降りる様は落ち着きの無い男児、しかし形相は汗を貼り付かせた必死さがある。振り返ったカリーナはやや面食らって、呼吸の荒いジーデスに片方の眥を上げて訝しげに見詰めた。

 片手に握った書を、礼儀や作法を割愛して無言のまま差し出す彼から受け取り、紙面の文字に目を通す。差出人は破幻砂漠の地下にある東国中枢の一端、学術都市の学院に潜伏する使節団の一人。カリーナからすれば、砂漠に隠れた脅威などの危険を顧みずに言義へ向かい、長らく情報提供に努めている仲間だ。

 内容は危急のもの――カリーナにすぐ伝えて欲しいとの旨が記されていることから、誰が書状を検めても宛先が判るよう開示されている。仮に赤髭総督の息がかかった者に奪われれば、この隠密行動も無に帰す危うい文だが、その行動が無意味には思えない。必ずそこに真理があり、それが仲間の現状と内容の現実味を確立させる。

 カリーナはすべて読み終えると、予想通りの結果に微かな高揚と、そして胸裏の大半を占める怒りで文机に書を叩き付けた。ジーデスは軽く閲覧したが、急ぎ伝えるべしという文章に走り急いだためカリーナに視線で問う。まだ呼吸は整わない。

 カリーナは眉間に右の拳を当て、下に銅を抱くように組んだ片手に頬杖を付いた。これはジーデスが知る限り、彼女の中では処し難い苛立ちが生じた際の所作である。久しく見てはいなかったが、紙面に綴られた文が原因であることは自明の理。


「言義に居たヴェシュは、どのような事を?」


「……私の読み通り、“アレ”が運び込まれた。しかも偶然にも、数刻遅れて無名が飛脚を救出し、仁那が回収を完了した。それは根回しした入口の番兵によって確認済みだ」


「では事態は好転に向かっているのでは?」


「これは、ヴェシュの遺言状でもある」


 カリーナは指で摘まみ上げた書を揺らし、顔を伏せて重たい息を吐く。最後には、こう綴られていた。

 『この報告書が貴女の下へ届く頃、我が魂は既に母国の地へ還る』。これは、決死の覚悟で最期にヴェシュが伝えた物。命を尽くしてまで仕えた存在を哀悼し、カリーナは胸の内で小さく謝罪した。自分が命じたばかりに、また一つの命が赤髭総督の陰謀によって失われた。


「無名達よりも後刻、破幻砂漠をわたって言義に入った連中が居る。素性は行商人らしいが、どれも手練れの殺し屋だそうだ……ヴェシュもそいつらに殺られた」


「……“アレ”がまだ、隠滅されていないと知って赤髭が差し向けた、と?」


「番兵の内に、また赤髭が手回しした二重の密偵が居たんだろうな。金があれば、そちらに雇われるのが常道だ」


 カリーナは文机の上にある物をすべて片付け始めた。ジーデスも無言で手伝う。二人は阿吽の呼吸もさながら、手元を一切止めず綺麗な連携で部屋を整理する。

 ジーデスはふと隣を斜視して、カリーナの睫毛が弱々しく微かに震えているのを察した。苦楽を共にした戦友を失った兵士の心境に近い、胸を強く穿つ悲しみにあの冷徹とまで西の国家では揶揄された彼女も涙を堪えている。母親が病で逝去した際もそうだが、基本は独りの時に涙を流しているとジーデスは知っていた。

 普段は全くそんな様子も見せない彼女の弱い部分を見て、ジーデスにもまたその悲嘆の念が伝播する。カリーナの肩に手を置くと、とうとう全身が揺れて彼女は顔を伏せた。ジーデスの胸ぐらを掴んで引き寄せると、詰襟の服に額を寄せて面相を隠す。

 洟を啜り、嗚咽を漏らすカリーナ。その背に手を回し、優しくあやすよう軽く撫でた。喪失が与える悲哀が、いずれ人の精神を破壊するほどの衝撃を持つ。仮にカリーナがそれと直面した時、果たして何が彼女を支える柱となるのか。

 ジーデスは愁眉をより険しくさせ、漆黒の髪が流れるカリーナの肩を優しく抱く。

 すると、目元を無造作に拭って彼女が面を上げた。赤く腫れている。


「赤髭の思惑は、“アレ”を回収した者、運搬に携わった飛脚、それらを擁護する者を処分する事に他ならない。私が直接現場で共闘できぬのが歯痒いが、無名も送った……打てる最善を講じたいま、私は間接的に赤髭と直接対決をしている」


「はい」


 また(ハナ)をすすって、カリーナは赤く腫れた目元を撫でながら薄笑いを浮かべる。


「一年半前の焼き直しになるかもしれんが頼んだぞ、無名……仁那」






  ×       ×       ×





 言義・「二画」――。



 鈴音と詩音、輸慶を加えた一党は、混乱に次々と警邏の集う飯屋の前から避難した。元は輸慶が起こした問題ではあるが、今はその不平を紛糾する暇も無い。即座にその場を離れざるを得ず、宿に残した荷物は後々取りに戻ると考え、騒ぎが落着するまでの間、身を隠すため南へと向かった。

 祐輔との合流に支障が出ぬよう屋外に居る方が仁那との再会が早くて済む。しかし、言義の警邏に捕縛される事を回避する方が先決。

 一党が足を踏み入れたのは、南部の学術棟が高さを競い、聳り立つ塔が乱立する複雑な場所。ここ一帯は、古い備品倉庫となっているため人通りから離れ、鈴音が求める静寂がある。

 逃走の最中、そして今もだが鈴音の脳内で谺する輸慶の声。


 “――詩音こそ――『器』に相応しい逸材です。”


 仁那以外に選定された存在。

 それが身近に居た驚愕と、やはり認められないという思いが犇めき合って、鈴音の胸中は未だに騒いでいる。その屈託も知らず、騒動を発生させた行為を咎める詩音は、耳にすら届いていないのか虚空を見上げながら肩に留まっている輸慶を睨む。

 鈴音は近くの段差に座り、ひとり思案に耽る。詩音が『四片』の力の受け皿として条件を満たす存在、そうでなくては輸慶が『器』に相応する人材だと嘯いたりはしない。明確な根拠が無ければ、仁那を断固てして否定した上で詩音を示す自信が生まれる筈が無いのだ。

 容貌は人族、感じる氣は……確かに異質だった。どこか生物とは異なる物、かといって死者に似通うかと言えば全く違う。人とも亡者とも断定の困難な存在感。以前出会った神族とも一致しない。左手に包帯をしているが、もしかすると仁那同様に『刻印』があるのか。


「……詩音の種族って何?」


「え…………………………一応、人族だよ」


 俯きがちに応えた詩音に、やはり違和感は消えない。鈴音はさらに深く問い糺そうと身を乗り出して、背後に人の気配を感じた。段差を蹴って、空中で翻身する。頭を悩ませていた疑問が霧消して、脳内で警鐘が喧しく鳴り響く。

 詩音の背に自分のそれを付けて着地した鈴音が睨む方向――学術棟の間に挟まれ、地下を照らす蛍色の光が届かない闇の向こう側から、複数の足音が重なって接近する。警邏かと身構える詩音だったが、輸慶と鈴音には正体が判った。いや、その素性や人相までは知らないが、少なくとも殺気を伴ってこちらを害する危険の臭いだ。魔王の子として慣れた、それを狙う者から放たれる刺客と同じ。

 警戒に身を寄せた一党の居る狭い路地を、学術棟に反響した足音が包囲する。これは相手が意図的に起こしている現象、数を悟らせない為にわざわざ大きく物音を立てていた。地下の都市に、狭い空間とあって効果覿面。鈴音達は相手の数に未だ予測が付かない。

 鈴音が二人へ注意を促そうと顔を僅かに前方から逸らした瞬間、闇の中から唐突に鋭利な短剣が飛来する。柄頭には鎖が連結されて伸びていた。その狙いは喉元、人体の急所の一つ。この暗闇の中、正確に投擲する手練に戦きながら、仁那は頭を右へ煽って躱わす。後ろの詩音達に刺さる直前で短剣の把を掴み取って止める。

 詩音が振り返って喫驚に声を上げると、鈴音は短剣ごと鎖を強引に引き寄せて闇に隠れる存在を暴こうと力を込める。鈴音の膂力は大抵の種族においても手に余る、たとえ(かいな)の力に自負がある者でも拮抗は許さない。

 しかし、予想に反して手元に伝わったのは抵抗感。鈴音の腕力でも手繰り寄せられない、余程の重量をした枷でもあるのか、或いは相手が純粋に鈴音を凌駕しているのか。

 すると、続いて第二、第三の短剣が放たれる。またしても鎖で繋がれた物だが、次は脚と胴を無造作に狙撃していた。鈴音は腰の山刀を抜き放ち、二つを素早く撃墜して手元に握っていた短剣を闇に向かって投じる。鎖で繋がれているなら、それを辿った位置に敵は居る。

 闇に消えた投擲、同時に次々と鎖と短剣が射出された。投げた姿勢のままである鈴音の体を刺す。一部は胴に巻き付いて、動きを完全に封じた。敵影は見えず、しかし相手の攻撃だけがこちらの身を貫く。この優劣の差を生む正体が何なのか、まったく解らない。

 輸慶は助勢に出る気もなく、完全に詩音の肩で座視を決め込んでいる。鈴音が縛られ、慌てて短剣を取り除こうと彼女に近付く詩音の背後から数人が現れた。全員が青い軍服に身を包む警邏、だが得物は櫂剣と町を守護する者にはやや剣呑な殺傷力の高い物である。

 警邏に紛れた刺客!だが、その飼い主は誰だ……?

 鈴音はふと、入口の番兵を思い出す。何かの約束が予めあったかのように、簡単な質問のみを済ませると、簡単に町へ入れてしまった彼等。あの時から、既に何者かに知らされていて、敵の懐に知らず飛び込んでいたのかもしれない。しかし、肝心の敵が何者なのか、それだけが判然としない。

 輸慶が詩音の肩を蹴って、警邏二人を蹴爪で頭部を鷲掴みにして持ち上げ、上空へと上がると残党に向かって急降下する。猛然と下降した輸慶は、詩音に迫る害悪達へ頭上から二人を叩き付けた。仲間と激突し、路上を跳ねて四散する。

 衝撃に突風が逆巻き、詩音は思わず後ろに尻餅をつく。


『大丈夫ですか、詩音』


「う、うん……」


 ふと、詩音は右の足首を押さえて呻く。

 そこに傷は無いが、彼はひどく痛みを訴えて踞ってしまう。輸慶が心配する、その後ろでさらに刺客の増援が肉薄していた。このままでは、全滅も免れない。

 鈴音の腰から橙色の刃を終端に付けた尾が出現し、鎖を総て一刀で寸断した。体に短剣を残したまま、振り向きざまに鈴音の尾が横薙ぎに振るわれると、学術棟の壁を深く切り裂きながら刺客を一掃した。鮮血が飛沫を上げて段差を汚し、詩音は背後から伸びる尾に唖然とする。

 流血で足元に池を作り、鈴音が膝を着くと荒々しい波紋が生まれる。詩音も慌てて駆け寄り、短剣を引き抜く。先程の治癒力を目の当たりにしているためか、引き抜いた後の失血も考えずに除去する。

 負傷した鈴音は再生の最中も、尾を前後へ奔らせて敵を仕留めていたが、今度はまた闇の中より飛んだ短剣の鎖に搦められ、尻尾の動きが止められた。詩音を庇いながらの戦いには限界がある、輸慶の助力があっても難しい。

 鈴音が顔を上げると、いつの間にか一党を夥しい警邏が囲っている。しかし、みな瞳に輝きは無く、生気を感じさせない無機質な眼差しで鈴音だけを見詰めていた。あたかも詩音は眼中に無いとばかりに、()()()()()()()()()()。異質な空気に訝って、視線を四方八方へと巡らせた。

 どちらにせよ、このままでは捕縛……最悪は殺されてしまう。尾を抑えられ、傷の回復中に更に痛打を受ければ確実に終わる。


「お願い輸慶……詩音を連れて、此所を強行突破して」


『ふむ……貴女はどうするのですか?』


「私を抱えると、追い付かれる。輸慶の力なら、一人くらいは逃がせるでしょう?」


『……了解しました。鈴音、実は……いえ、何でもありません』


 何かを言い掛けて、輸慶が口を噤む。

 刺客が一斉に動いた。

 武器は様々だが、どれも町の警備に当たる者が持つ者にはあまりに物騒な凶刃ばかりが闇の中に躍る。力を振り絞って、鈴音は詩音を突き飛ばして立ち上がり、迎撃に構える。体の調子はまだ五割程度、この数を処しきれるとは思えないが、今は不可能と断じたとしても動かなくては詩音も死なせてしまう。

 縛られた尾で身動きが取れない、泰然とその場に立って覚悟を決めた。


英雄(ヒーロー)、遅れて見参ンンン!!」


 遅れて、間の抜けた叫びが頭上から路地を叩いた。






  ×       ×       ×




 鈴音が見上げた瞬間、二つの人影が宙に躍る。

 刺客も動きを止めて振り仰いだ。新たな敵の予感に、その切っ先を上に掲げて跳躍する。


「食らえ!――《烈火の矢(バーニング・アロー)》!」


 一つの人影から、全方位へと放射状に紅蓮の矢が放出された。周囲一帯の空気を熱して、暗闇の路地を瞬間的に照らす閃光が咲き乱れる。轟音の連鎖に学術棟や地面が震動した。詩音を飛散する瓦礫を防ぐべく翼で頭部を包む輸慶。

 熱風と衝撃波の狂宴を前に、鈴音は耐えて地面に低く伏せた。強い氣の連続爆破によって、前衛を殲滅し、控えていた刺客も後退する。

 目の前に尋常一様ではない威力を有した魔法を放った女児が居る。背に太陽の模様を刺繍した桜色の単衣を紅の帯で締め、黒の裙子を穿いている。毛先の乱れた黒の乱髪に、両耳で一房を軽く結う。紺碧の輝きを灯し、恐れと迷いを知らぬように澄んだ瞳。鍔の無い短刀を袈裟懸けに肩に掛けた紐で腰の高さに提げている。

 白く陶器のように滑らかな肌をしており、指先から先程敵勢に浴びせた魔法の硝煙を立ち上らせていた。彼女自身が強力無比な兵器となって、敵意を悉く灰塵に変える。


「ふっ、我が名は弥生(ヤヨイ)。師匠は「白き魔女」こと(ムスビ)様にして、先生は闇人・梟の優太様!【太陽】の幹部に若くして上り詰め、将来を期待されし風雲児、ここに見参っ!!」


「弥生、油断ハ禁物」


 もう一つの声――鈴音が見ると、それは学術棟の壁に貼り付いていた。

 四肢、ではなく六本の脚に臀部からは太く伸びて湾曲し、先端部が膨らみ刺又に似た形状の尾を持つ蠍人族(スコーピオ)。魔族の近縁の種族とあって、外貌は人形を逸している。鎧のごとく隆々として硬質な光沢に濡れた枯草色の甲殻。

 肢体をそのまま滑らせ、鈴音の近くに降り立つと深々と一礼する。


「我々、【太陽】ノ構成員デス。貴女達ヲ守ルベク馳セ参ジマシタ。ワタクシ、ピュゼル……以後、オ見知リオキヲ」


「……助かった、ありがとう」


 蠍人族のピュゼルは四本脚で上体を持ち上げると、再び頭を下げた。砂漠や乾燥した地域に済む彼等は好戦的で縄張りを侵すならば容赦なく牙を剥き、魔物と危険性が差異が無いとまで評される。しかし、ピュゼルの態度は礼儀正しく、それらの風聞を虚偽と思わせた。

 ピュゼルは地面を這って、鈴音の尾を拘束する鎖の元を辿る。鈴音は闇に消えた彼の姿を見送って暫し、戻ってきたのを見て安堵する。


「複数人ニヨル拘束デスノデ、ゴ心配無ク」


 桜色の装束の女児――弥生は、短刀の把に指を絡めて身を低く前に飛んだ。小柄な体は闇の中を矢のように走り、後退した刺客の環の中に潜り込んで一人ひとりを斬り伏せる。それも袈裟懸けに胴を断ち、頭蓋を割ったりするのではなく、急所へ的確に刃を通らせる。溌剌とした性格からは予想だにしない暗殺者じみた手際に、鈴音は呆然とその光景を眺めた。

 矮躯は数人に包囲されても怖じ気づかず、攻撃をされる直前で一人を殺め、僅かに生じた連携攻撃の隙を衝いて敵の態勢を崩し、一気に瓦解させる。数秒の後には、ただの少女と侮り一斉に攻撃を仕掛けた者の骸が路地に転がった。

 詩音はただ半ば放心しており、足許の死体を力無く見下ろしている。鈴音は尾を引き戻し、詩音の肩を抱いて揺らす。すると、弱々しく笑ってから意識を失い、胸の中に倒れ込んだ。死体が道端に落ちる姿が心に堪えたらしく、顔色は悪い。


「詩音をお願い」


「ハイ」


 ピュゼルに詩音を任せ、鈴音も山刀を片手に出る。

 自身よりも大柄な敵を前に、飛び出す隙を見計らっていた弥生の頭上を超えて、全員を回し蹴りで側頭部を草履の踵で打ち抜き失神させる。学術棟の壁に轟音を響かせて埋もれた刺客の一人を掴み、後方に構える団塊に投げ捨てた。

 淡い橙色の光を帯びた両手を打ち合わせ、鈴音は前方を強く睨め上げる。投げられた男の皮膚を体内から骨が突き破って突出し、受け止めた人間を刺し貫いた。

 鮮血を撒き散らしながら、骨で貫かれて絶命した筈の男が腰の長剣を振り回して仲間へと襲い掛かる。

 弥生は好奇を含む眼差しで見た。普通ならば地獄絵図と酷評し、目を逸らすほど惨たらしい景観だ。それを意に介さず、鈴音へと振り向く。


「これが死術!」


「うん」


「呪術の起源、ここまで強力だとは……」


「本来は戦闘に不向きなんだけどね」


 鈴音は素っ気なく答えて、背後を顧みる。気を失った詩音を守りながらの戦闘は困難だと先程鎖に縛られた不覚で痛感した。まだ刺客の増員は絶えず、数を見ると途方もなく感じる。弥生とピュゼルの援護を受けても、正面衝突で全員を始末するのもあまり良策とは頷けない。弥生の魔法が鳴らした轟音で、別の警邏もこちらへ向かうだろう。

 逃げ場が消える前に、別の安全地帯を探すしかない。


「弥生、退却しよ」


「ええ、正直キツいですからね……「一画」に逃げましょう。安心して下さい、貴女達の荷物は既にピュゼルが持っています」


 ピュゼルは尾にぶら下げた鈴音の雑嚢等を見て納得する。荷物を勝手に触られた不満も出ず、弥生の行動に合わせた。


「おそらく先生もそちらに来られると思うので……行きましょう!」


「うん」


 鈴音は刺客の環を突進で割りながら、弥生とピュゼルを含めた四人で「一画」を目指した。









アクセスして戴き、誠に有り難うございます。

最近、寝付きが悪いのと忙しいという二重苦が体を苛むことで若干の体調不良です。更新にも少し影響は出ますが、余力があればどんどん買いて行きます!


次回も宜しくお願い致します。



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