表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
二章:幹太と審美眼の虎
143/302

竹林の中の鬼少女



 運命に抗う者は等しく、その肉を断たれるほどの絶望を味わう。何かを得るべく、他者から奪うという方程式の上に成立する法則の中に、必ず理が存在しており、決して怪異な解答とはならない。獲得を志すならば必定の未来、目標を目指した形に己を削いで行く、不必要な物と破棄しなくてはならない物。

 選択の時を常に迫られ、例え大切なモノであろうとも、なお眩しく、輝かしく夢がその目に映るならば、躊躇う道理は無い。そこに悦たる要素は皆無、殉教者か或いは生粋の愚者とでも形容する行為と思考。

 生を謳歌し、渇いた欲を満たす為に活動する者は等しく獣に堕ち、心底から望むのなら生殺与奪も厭わない。悲観せず、その行為を正当化し、己が利益を入手する手段を行使する。


 その際に、どうあっても必要とされるのは四つの力。

 一つ、助け合う力。独力で補えるモノには限界があり、必ずしも他者からの協力を要求する。それが欺すのか、或いは信に置ける仲間なのか。どちらでも、目標を見据えて進むならば必須。

 一つ、見極める力。自身が欲する対象が、果たして己の欲望を満たす幸福をもたらすか否か。外貌のみに囚われていれば、後に失意と屈辱の感情に苛まれる。

 一つ、支え運ぶ力。時や知性、力にも必ず流れがある。それらを運び、自身の希望する方向へと運ぶ者こそ願いを成就させる。理想を作り出す機運や状況を作り出すには不可欠。

 一つ、明瞭にする力。玉石混淆の世界、渇望するモノの輪郭のみを帯び、欺く狡猾な罠や真贋の区別を瞭然とさせる。四つの中でも最も重要であり、夢想を現実化する武器になる。


 個で全てを備える者はいない。何故なら、それが可能なのは神のみである。一人には一つの力があり、欠点を他社で補うのが当然の理。故に、数多の力を有して、欠如という概念こそ失われた存在。

 人間の中には居ない――ある者を除いて。

 『神の異物』として産み落とされた宿命を背負いながら、幼き頃より神にも等しい千里眼、そしてあらゆる『業』と『道具』を瞬時に獲得してみせる能力。何故その人が、規格外の存在として世界に現れたかは、神にすら慮外の事態である。

 故に、『神の異物』ではなく、『異形の神』となった。彼に勝てる人間は居らず、神すらも彼を御せない。世界の法則を外れ、自然の理を逸し、森羅万象を繙く。法則の管理者たる神が畏怖し、忌避する。

 だが、そんな彼も一人の人間であった。たとえその力が双璧を成す者や追随を許さない絶対的地位を保持する資格を有していても、人間として生を受けた時点で、感情も無く起動する筈がない。


 “――うん、わたしも―――が大好きです。”


 愛する人の墓を前に、その人は決意した。

 万物をこの掌中に収める権利を所有しながら、自身の蛮行によって大半を喪失し、漂泊の旅を思わせる人生の中に最も色付き輝いていた存在にさえ、手を伸ばせなかった。自分にあと少し勇気があれば、望む未来を実現しただろう。

 墓石を前に屈み込み、花束を置いた。


『……約束は守る。その為に費やした人生に誓って、そんな愚かな時を共にし見守ってくれた君に見ていて欲しい』


 墓石の前で誓約を立てる。亡き人へと届くように、けれど約定を打ち立てる相手は己自身。

 『異形の神』はここに、願望を叶える万能の権力を遺憾なく行使し、理想を果たす事を誓う。


『――実現の為ならば、“この世界”すら滅ぼそう』


 その日から、破滅への時が刻まれ始めた。


 『異形の神』は後に、腕の中にある小さな命の温もり――力は似ずとも己と同じ運命を背負った子の命が脈動する証を、肌で感じた時に亡き愛する人では成し得なかった幸福を享受した。

 胸の中にあるこの子供が、いずれは自身が作り出した台本に翻弄され、途轍もない重荷を背負うかもしれない――そう考えた時、後悔はあった。自分の夢に、この子を付き合わせるのは、大変身勝手ではないか……。

 途方もない自問自答を重ね、懊悩に苦しみながら、最期まで解答を導き出せずに生を終えた彼は、様々な不安と悔恨を胸に懐き、しかし終焉を見守る子の穢れなき愛の涙に心の疵が癒される。


『愛している』









  ×       ×       ×






 千極東部の樹海は篠付く雨に打たれて、葉を打つ雨滴によって自然の恵みに歓喜する森の声が響き渡る。地面の泥濘をさらに泡立たせ、一部では一時の川を形成していた。樹間を蒸す湿気に旅人は襟を摘まんでは扇ぎ、しかし空気をいくら入れ換えようとも肌には汗が貼り付く。

 だがしかし、森を過ぎると竹林に入り、涼風が吹き抜けて空気の湿りを乾かす。何より山蔭が陽光を遮断してしまうため、天頂に太陽が昇る昼時を除いて気温が急激に下がる。夏は涼やかで、冬には桶に入れた水が半刻もせず凍る厳寒。

 初夏を過ぎて、暑さがより厳しくなるこの時期には、旅人がよく訪れる場所でもある。無論、この近辺に営まれる町を求め、冬にも足を運ぶ者は絶えない。戦争が激しくなろうとも、この東部一帯の土地は至って平穏な日常を維持させていた。

 殺伐とした南部を脱し、風に煽られると乾いた音を立てて互いに打ち合う竹に心安らぐのは、草履で泥濘を避けて歩く少女――仁那である。その雲の無い蒼窮を思わせる瞳で、竹林の中に切り開かれた一筋の道を辿っていた。猛暑からの解放、そして物騒な爆薬の臭いを忘れさせる空気を胸一杯に吸い込み、情けなく顔を綻ばせる。

 戦場から漂う死臭や火薬の硝煙に煙る山道の中、いつまでも頑なに少女の首筋に顔を埋め、不機嫌に唸り声を上げていた襟巻きの龍――祐輔もまた、鼻を悩ませる汚臭が消えたことを感じて顔を上げる。

 昼食を取った後で、体内で起こる消化運動に伴う脳の活動力低下に加え、戦場から離れて行くにつれて緊張させた意識を弛ませ、瞼を重くする睡魔に抗う。今ここで草枕に臥しても構わないし、祐輔もそれを受け容れるだろうが、もう少しの辛抱で心地よい寝床を提供してくれる場所に着く。疲れを取るなら、痛快なほどに寝たい。


 知荻縄から一週間が経ち、二人が次に向かうのは西国との対立や反乱軍が活動の拠点とする西部から離れた場所。流石に港湾での一悶着で精神と体力を大いに損耗した後で、連戦とまではいかない。一ヶ月を休もうとも、訪れる先で再び問題に直面する不祥事は、可能な限り回避したいと思うのが普通である。

 何よりも、以前から訪ねたいとあった町があり、東部を目指すならば訪問しようという計画。路銀の量も勘案し、町までの道程や宿泊にかかる経費も問題ない。むしろ、安価で楽しめるとその町は評判が付き、これに仁那が食い付かぬ筈もなかった。

 祐輔からすれば、人目の多い場所に向かうことこそ、自身の容貌からしても注目を集めるために気苦労が絶えない。重ねて、仁那は人懐っこい質であるため、邪な底意を含む人間による被害に遭わないかも不安の一つ。しかし、この少女は相棒のそんな屈託すら知らないのだろう。

 ふと、雨が止んだ。編笠を外して空を見上げた仁那は、濡れた服の部分を払って水分をある程度落とす。祐輔が首から肩にわたって占有し、体を丁寧に巻いて(ねぐら)を作っている所為か、首から上に関してはほとんど実害は無い。寧ろ、不思議なことに祐輔には肩が凝るほどの質量が無く、常時襟巻きがあっても不快にはならないのだ。

 二人が歩き続けていると、上空から急速に滑降する物体があった。先んじて祐輔が尾で払ったそれは、紙で折られた鶴。叩かれた衝撃に歪んだ翼で拙い飛翔を続け、仁那が差し出した手の上に降りて崩れる。確か、西国で使用される『魔力郵送』というものだ。

 何故だか儚い気持ちになった仁那は、鶴の事を想うと胸が苦しくなる。手紙を送る為に、送り主から魔力を注がれ、ただ相手に届くまでしかない脆弱な命、その天寿を全うしようと懸命に飛行を続けて目標を発見し、喜びに満ちて加速し下へ降りた途端に撃墜される不遇。

 相棒の祐輔を睨みつつ、紙面を展げた。仁那宛に綴ったのは、赤髭総督閣下によって追跡を受けていた中央大陸を統べた皇族の末裔である花衣。彼女の血筋について聞いた時は、驚愕を隠せなかったが、婚約者との幸せな生活を夢見る彼女は一般的な町娘と印象が変わらず、年の近い友人として接した。

 この手紙は友人に対して送られる物なのだろう――即ち、友好の証だ。


『あの小娘は何て書いてやがるんだ?』


「首都が二ヶ月先まで延期になるって。知荻縄からは移動するらしいけど、少し心配になるなぁ」


『近衛があれだ、心配要らんだろ』


 確かに花衣を護衛する七人の戦士は、堅牢な砦の如く彼女の周囲を固めている。首都から放たれた八部衆の夜叉ほどでなくては、やはり脅かすのは難しいのだろう。

 仁那は知荻縄で赤髭の使者として現れた彼(夜叉)――半目にも手紙を書こうと考えた。自分を良くし、守ってくれた大人の一人である。最後は感謝を伝える機会も無かった上に、その後に知荻縄から早々に発ってしまった。直接伝えるには、まだ長い時間が掛かる。


 町までの距離がそう遠くない位置にまで接近した時分で、祐輔が顔を周囲に巡らせた。何者かの気配を察知したのか、だが仁那には竹林の中に紛れる人間の存在を感知できない。彼の感じたモノの正体が開示される時に、固唾を飲んで見守っていると祐輔が首を捻る。

 虚空を見上げ、記憶の中にある情報を引き出そうと難儀しているのか、顔を険しくさせて唸る。仁那から注がれる視線も意に介さず、遂には溜め息をついて再び寝てしまった。

 報告を待っていた身として、焦らされたと感じて頬を膨らませる。だが、祐輔がまた睡眠を始めたということは、危険ではないということだ。しかし、竹林の中から何かがこちらを覗いているのだろう。手出しはしない、だが見ている。


『貴様の道を、いつでも見ている』


 脳内に響く声に、仁那は立ち止まった。聞き覚えのある……何処か、いつだっただろう。意識が記憶の海を泳ぎ、必死に正体を探す。違和感の正体は、必ずこの中にある。だが、仁那にな見付けられなかった。

 左手が微かに痛む。指先が痺れ、その『刻印』が疼いているのが判った。呼応しているのだ、この声に。だが、次第に左手のみならず全身が熱を帯びて、意識が朦朧となり始めた。前方の景色が霞み、今まで捉えられた輪郭が歪曲する。

 覚束ない足許、仁那は体の均衡を失って傍の竹の幹に縋り付いた。頭痛と嘔気に襲われ、ますます不調を訴える体に対処もできず、その異変を悟った祐輔が顔色を変えて叫ぶ。

 呼び掛けて来る。祐輔が必死に自分を見ている景色が朧気に見えて、仁那は儚く微笑んだ。急激に萎えた足の筋肉を始めに全身が脱力し、地面に倒れる寸前で左手を掴む力に止められた。

 不思議に思って、重い頭を巡らせてみれば、そこには自分と年の変わらないと思われる女性が居た。

 金糸を束ねたように艶やかな銀髪が風に揺れると、曇天の下でも陽光を反射する海の煌めきを思わせる。整った鼻梁に金色の双眸が、仁那を興味深そうに観察していた。畏れや迷いの無い、純粋な興味を内包した眼が太陽のようである。

 青漆の単衣に山袴だが、裾に三筋の朱い線が引かれていた。首には砂避け用と思われる縁の厚い眼鏡(ゴーグル)を提げ、腰には一振りの鉈を装着した装い。狩人を思わせる出で立ち、だが彼女の側頭部に一対の角が生え、尖端まで鮮やかな真紅。

 何者かを問う前に、少女が仁那を背負う。仁那と体格は差して変わらない華奢な四肢、しかしそのまま呻き声すら上げず軽い足取りで、町の方角へと進む。祐輔が酷く警戒しているが、その理由を察するほど仁那は賢くなかった。


「貴女は?」


「起きてたんだ。私は(スズ)()


「わっせは仁那、有り難う……迷惑をお掛けします」


「良いよ、狩の途中だったし」


 そう答えた少女の背後から、地面を蹴る小さな足音が聴こえた。野犬と面って祐輔が振り返り、威嚇に牙を剥いて咆哮すると、相手は立ち止まった。だが、それは恐怖故ではなく、驚いたからである。嚇かした祐輔も、口を開けたまま硬直している。

 不審に思った鈴音が振り返ると、襟巻きの龍と対峙した存在をそこに認めた。

 白毛が厚く、しなやかな四肢と揺れる長い尾。花の下にある小さく柔らかな膨らみで、口を閉じれば柔らかな微笑みを浮かべているようにも見える生物――猫である。

 猫は龍を、龍は猫を――睨んだ。


『何でテメェが此所に居んだよ、クソ虎!?』


『それはニャーの台詞ニャんだよ、このバカ龍!!』


「?喧嘩は良くない、今は仲良くしよう。仁那を町まで運ぶ必要がある」


 鈴音は片手で白猫を抱き上げつつ、器用に仁那を背負いながら歩いた。彼女の肩を挟んで、猫と龍が唸る声に眉を顰めずに歩いた。






  ×       ×       ×




 体調が回復した仁那は、鈴音に礼を言って自らの足で地面に立つ。体の中で蹶然と起きた異変は消え、指先まで感覚が戻る。脳内で谺した声が兆しなのか、これが一時的なものであれば良いが、これから先もあるとなれば旅に支障が出る。

 知荻縄の戦闘で『刻印』の力を開放した後に似ている。あの時に比較すれば、まだ症状は軽微ではあった。軻遇突智から譲受した血のお蔭で一命を取り留めたが、その後遺症なのかもしれない。他者からの輸血、本来は自分の一部でない異物を取り込んで補ったその負荷。仁那の体と軻遇突智の血に生じた軋轢か。

 いま原因として考えられる要素は他にない。滞在中の一ヶ月は何も無かったが、恐らく何かが引き金となって発作が起こったのだろう。竹林の中に身を隠す正体不明の存在に反応したのだ。


「う~ん、何だったんだろ」


「仁那、どうにかして。(ベン)()と祐輔、ずっと睨み合ってる」


 振り向いて、仁那と鈴音は呆れる。

 二匹とも旧知の間柄であるらしいが、その際に禍根があったのか険悪な空気を醸し出している。互いに一歩と譲らず、頭上の龍を睨め上げ、眼下の猫への嫌悪に面相を歪ませた。

 関所で手続きを終え、これから中へ入ろうという二人の足が一向に進まないのは、二匹の格闘が長期に亘って行われている所為だ。

 気まずそうに関所の人言が二人に訪ねる。


「あの、そこの二匹は?」


「龍はわっせの相棒」


「猫は私の使い魔です」


「え、弁覩って使い魔なの!?」


 鈴音が指を鳴らすと、祐輔から離れて主へと駆け寄り、その場で前肢を掲げて二足で直立し、人間の作法を真似て腰を折る――俗に言うお辞儀というものであった。その芸に仁那と関所の兵が拍手し、鈴音が目配せをすると普段の姿勢に戻る。

 躾が上手いのか、従順な猫を誰もが使い魔と判断して疑わなかった。しかし、背後の祐輔が鼻で嗤う声に、猫はやにわに嫌そうな顔をする。


『ニャン?』


『テメェ、いつの間に猫語が板に付いたな。人間なんぞに媚び売りやがって』


『ふっ、猫はみんなの好物(アイドル)ニャ。傷心を癒し、人を穏やかにする……お前には到底理解不可能ニャね、無駄に矜持(プライド)が高いんニャから』


『昔は「人間なんぞ皆殺しにしてくれるッ!」とかほざいてたテメェが?オレ様からすれば、何の冗談か判んねぇな』


『く、黒歴史を掘り起こすニャよ!?』


 仁那が手招きで祐輔を呼び寄せた。会話を中断し、渋々と帰還した相棒の眉間を指で打つ。


「祐輔、そんな邪険に扱わない!」


『けっ、あれが丁度良いんだよ』


「知り合いなの?」


『……古い馴染みだ』


「ふーん……別に良いけど、相棒のわっせを置いて、そっちに構ってると皮を剥いで本当に襟巻きにするからね」


『発言が穏やかじゃねぇな……。何だ、嫉妬か?』


「そうだよ、ほらほらおいで!」


 両腕を広げた仁那の胸に体当たりし、体に巻き付いて擽る。戯れる少女と龍を微笑ましそうに、だが内心では愕然とした兵士であった。仲睦まじいことは良いが、彼等は何ら問題なく意思疏通を可能としている。魔物の一種であり、龍と猫に擬態しているのかもしれないが、人語を操る知性と豊かな感情には疑問が絶えない。

 弁覩の嗤笑を聞いて、祐輔が顔を向ける。前肢を腕のように組んで胸を張った猫が、嘲りを湛えた表情を浮かべた。


『ニャ~んだ、お前も人間に絆されてるニャね。素直じゃニャいのは相変わらずニャ、彼に付いて行くと一番に家出しただけはあるニャ』


『う、うるせぇッ!また海にぶちこまれてぇのか!?』


『ふん、引き摺り込んで三週間、一緒に海底を彷徨した過去が懐かしいニャ』


『テメェが離さねぇから、いつまで経っても海上に上がれなかったんだろうが!』


『ニャーを残して帰るつもりだったニャ!絶対に逃がさニャい!』


 喧嘩の内容を聞く人間には、海ではなく水溜まりで戯れた蛇と猫の情景しか浮かばない。


『それに、その娘からお前の氣を感じるニャ。まさかと思うんニャけど、その娘が……』


『多分な、だから付いてやってるだけだ』


「?よく判らないけど、力を貰う前からずっと一緒だから関係ないよね。というか、嫉妬してる相棒を放置したままなのは可笑しいでしょ祐輔」


『ニャんだ、まさか友人じゃなくて愛人だったかニャ』


『テメェ、あいつに変な事吹き込んだら、今度こそ殺すからな。ちなみに破廉恥な真似でもしてみろよ、保存食にしてやる』


『確かに良い(しし)()きニャ……旨そうニャね』


『殺す!!』


 再び闘争が始まろうとしたのを、それぞれ飼い主が制止し、決着は先延ばしとなった。鈴音に関しては、弁覩を視線だけで圧する。祐輔は優雅に仁那の首に巻き付き、眠ってしまった。


「ごめんね、鈴音。手間掛けさせてしまって」


「別に良いよ、逆にこちらも迷惑させてしまったし、お詫びさせて」


「いや、助けて貰ったから十分だよ。むしろこっちが」


「じゃあ、相殺で。後で一緒にご飯食べよう、弁覩の知り合いだから皆許すと思う」


「他にも居るの?」


「うん」


 鈴音と歩調を揃えながら、仁那は奇妙な猫との邂逅で生じた疲労を感じ、早く寝食を済ませたい一心であった。






今回アクセスして頂き、誠に有り難うございます。

二章のスタートで少し緊張していますが、温めていたネタなので、すらすら書けました。続く二話目も早々に更新できるかと。


次回も宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ