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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
一章:仁那と襟巻きの龍
141/302

幕間:剛力の仕事~鴫原~

小話です。



 様々な出来事を経て、俺――太郎は港湾都市知荻縄を出発点とし、新たに山の荷運び兼案内人を職能とする剛力を始める。山賊として元より山内を駆け巡っていた蜥蜴族の二人は、身体能力に関して問題はなく、俺が付いて行けるかが心配だった。

 でも鍛冶の里の出身で、粗朶を背負子にありったけ担いで山を登り降りしていたためか、筋力だけはあった。体力だけはやはり大人の二人に劣るから、荷運びの際は一番軽い物を担う。

 出会う人々は多種多様で、ただの旅人だったり、商人だったり、兵士だったり。不気味な人もいて、送った後にその先で事件が起きた時は、きっとあの人だろうと漠然と察した。

 仁那姉ちゃんみたいな人ばかりだったら、きっと世界的に平和なんだろうと思う。


 芭小さんに狩りを教えて貰いながら、玄さんには山中での山菜の採取、他にも天候の変調を表す兆し、毒を含有する植物の判別まで。里に居た頃では知り得なかった多大な知識を叩き込まれて、少しずつ慣れてきた。

 戦闘に関しては、獣相手ならば幾らでも対処法はあるが、武装した人間ならばまず回避の余裕があるなら全力で逃走しろ、これが二人の教え。面と向かって争うより、逃げて次の飯になる仕事を探す方がよっぽど利口だと。

 二人は山賊の頃、一体なにをしていたか聞いた。こんなに良い人達が、果たして旅人や村を襲うなんて事をするのだろうか。

 返答は「家に忍び込んで食料庫を漁る」、だったり「井戸の水を勝手にいただく」と、極めて小さな犯罪だったり寧ろ罪に問われないことだった。

 愉快な二人に囲まれて、仕事が上手く進み始めた。






  ×       ×       ×




 仁那姉ちゃんが旅立って三ヶ月、花衣さん達も港から既に姿を消している。そんな時期に、俺達は未だ戦いが続く鴫原の付近に足を踏み入れていた。

 なんと俺達宛に手紙が届き、直々に依頼があった。内容は、鴫原から知荻縄までの道案内と荷運びを頼めないかと。何だか物騒に思えて気乗りしなかったが仕事は仕事、俺達は渋々と承った。

 ここで砦を築いて戦っていた反乱軍の一部が、知荻縄より供給される物資の途絶によって、劣勢に陥った。俺達の居た町で行われていた悪事、それを根絶した影響が鴫原にまで及んでいた。確かに、鍛冶の里からも近いし、奴等の手が届いていても頷ける。

 俺達は藪に隠れて、戦場を一望した。人の死体は、嫌でも見慣れているから、嘔気を催すこともなく、極めて冷静にみられる。そういう自分も嫌に思えてしまうけど。


「芭小、此所に居たら(まず)いんとちゃうんか?」


「だが、鴫原では此所が一番安全に思える。依頼人もそれを考えて、此所で待機するよう指示した筈だ」


 待ち合わせ場所、その目印として樹幹に括り付けられた薄汚れた白い縄。俺達はその木の根本から、鴫原の様子を窺っている。

 安全かもしれない。けど、やけに不自然だ。わざわざ危険な戦地にとても近い場所で待機させる魂胆が知れない。一体なにを企んでいるのか、俺達はどんな犯罪の片棒を担がされるのだろうか。

 そんな風に勘繰っていると、戦場で物凄い火柱が立った。空を照らし、林間の闇を一掃する光に俺達は思わず悲鳴を上げる。

 熱風がここまで伝わって、急いで地面に身を伏せた。火薬じゃあんな威力は出せないだろう、一体なんなんだ!?


「そちらに居るのは、剛力の方々でしょうか」


 玄さんと芭小さんが俺を庇って、声の方向に立ちはだかる。

 声の主は、文字通り物音ひとつ立てずにこちらへ歩み寄って、樹影の中から姿を出すと一礼した。少し大人びていて、片手に杖を持った男の人だ。落ち着いた雰囲気、穏やかな口調で話し掛けて来る。俺達を認知していたという事は、恐らく依頼主なのだろう。

 兵士に頼まれるかと思ってたけど、甲冑はしていないし、寧ろ単衣と袴だけという軽装、戦争の真っ只中で何て無防備なんだろうと思った。


 ふと、後ろの(くさむら)が騒めく音に振り返ると、そこから数人の兵士が現れた。全員が抜刀を手に、猛然と迫ってくる。慌てて翻身した芭小さんと玄さんが俺を守ろうとした時、黒装束の男の人が横を過ぎて前に進む。


「あ、危ねぇ!今すぐ戻れ!」


「ヤバイで!早まんなや!」


 二人の制止の声が少年に届く前に、黒装束が跳躍した。足音を立てず、しかし素早く動いた彼の体が兵士の横を通過する。

 こちらに振り向いた時、無事なのは判ったけど敵の足はこちらを目指して……あれ?

 目を血走らせていた兵士達の首が、腕が落ちて目の前に死体が積み重なる。傷口を検めれば、どれも鋭く綺麗な刀傷。……あの一瞬で、一体どうやったんだろう。第一、刀なんて持ってない!

 黒装束が死体を避けてこっちに近づく。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ、こっちも無事や」


「よかった、花衣の友人だから守らないと」


 知っている名に、芭小さんが反応した。


「花衣お嬢と知り合いか?」


「ええ。僕は(ユウ)()です」


 優太……確か、何度か話題に持ち上がった花衣さんの婚約者だ。手紙の印象と随分違う……いや、優しそうな所は同じなのか?

 優太さんは俺達から視線を外して鴫原を見た。


「もうすぐ、此所も鎮静化されます。取り敢えず一泊するので、砦に案内しますね」








  ×       ×       ×





「何だかリィテルと違って面白い町ね」


「どんな料理があるんだろう」


 二日後、俺達は未だに驚愕が収まらぬまま、彼等を知荻縄に案内した。到着と同時に体を伸ばすのは、俺でも知ってる「白き魔女」と呼ばれる人――(ムスビ)さんだ。花衣さんと違う種類の美貌で、正直道中は何度も盗み見てしまうし、山道では周囲の視線が多かった。……まさか、こんなに綺麗な人とは思わなかったぞ。

 でも、俺からすれば性格は花衣さんの方が慎ましくて、それでいて可愛い。何だか玄さんは口説こうとしてるけど、結さんは優太さんと会話して無視してる。


「あら、帰って来ていたんですね」


 出迎えてくれたのは量胡さんだった。俺には優しく、屈み込んで抱き締めてくれる。結さんに顔を緩ませている玄さんの頬を強く引っ張りながら、宿屋まで案内してくれた。


「いいい痛いやんけ!何するんや!」


「あら、喋るんですね、この肉塊。生きているとなると……困りますね、今日の食材に使う予定だったのに」


「辛辣ぅぅう!!」


 何だかんだ言って、玄さんを気に入ってるみたいだった。

 結さんと優太さんは、二人だけで町に来たという。他にも兵隊を連れているらしいが、彼らは鴫原で待機命令を下したとか。何だか粗い扱いのような気もするけど……。


「あ、太郎。おかえりなさい」


「美里、久し振り」


 仁那姉ちゃんに助けられた美里は、あの後に孤児院に行く予定だったが、今は量胡さんの下で働いている。同い年で、もう仕事をしているのが俺と是手くらいだから仲が良い。

 芭小さんに肩を押されてしまった。う……どうやら、俺が美里に好意があるのは知られてるらしい。


「美里も迎えに来てくれたんだ」


「うん、仕事だからね」


「う゛……あれ、何だか嬉しそうだね」


「そうなの!だって昨日、是手から漸く返信が来たの!忙しくて大変なのに、優しいよね!」


 撃沈。

 是手には敵わないようだ。まあでも、諦めるのはまだ早い。これから頑張れば、俺だって振り向いて貰えるかもしれない。……芭小さんの応援が心強いような、気恥ずかしいような。


「ほら、あの二人仲良さそうね、恋人みたいよ。あんたもあれくらいを演技できるよう目指しなさい」


「結は能天気で良いな。僕は色んな雑務で忙しいのに、君の()()()()()()()()()()を強いられてるんだから」


「そうね、褒美を賜そうかしら」


「何だろう、お金かな?」


「上級魔法の連投よ」


「虐殺だったか」


 俺と美里の会話を見ていた二人も仲が良い?……のか判らない。


「では案内します、剛力の皆様も今日は無償ですので、ごゆるりとお休み下さい。……貴方は働きなさい、でないと尻尾を切りますよ」


「わっ、わかったからやめろ言うとるやろ!?」


 量胡さんを先頭に、皆が歩いていく。

 この仕事は辛い事や苦しい事もあるけど、あの時に比べたら問題はないし、芭小さんや玄さん、たまに帰れば美里や量胡さんだって居る。色んな人と出会って、関わるこの仕事が今の誇りだ。

 きっと、旅に出ている仁那姉ちゃんだってそうだ。だから俺は仁那姉ちゃんと共通する部分があって、より励みになる。


「よし、頑張るぞ!」


「美里ちゃん、まだ諦めるな」


「う……そうだね……」


 いずれ幸運も運べるくらいになってやる!









アクセスして頂き、誠に有り難うございます。

旧名『氣術師の少年~ユウタの冒険譚~』

     ↓

新名『氣術師の少年~宿運と約束の刻印~』になりました。ご迷惑をお掛けします。

次は登場人物紹介です。何かと急ぎ足ですが、二章の台本が頭にある内に書き進めたいという思いで加速中ですね。


これからも宜しくお願い致します。

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