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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
一章:仁那と襟巻きの龍
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迫り来る魔手



 港湾都市を眺め下ろす山陰から曙光が差す。朝は一時的に雲が晴れており、町を柔らかい陽光が照らす。だが、朝霧が立ち上ってやはり霧に当てられた光は、無窮の闇に向かって途方もなく伸びる一条の光のようであった。

 一際軒の高い酒場『仲案道堂』の屋根だけが霧から頭を擡げ、瓦屋根が鈍く照り返す。煙突からは既に朝食の用意があるのか、煙が立っていた。町を包む煙幕は広く延びて山の狭霧と合流し、低く蟠った雲海を作り出す。その中に孤島の如く浮かんだ屋根だけが、光を浴びて育つ高木のように佇む。

 そんな屋根の上に、二つの人影が現れた。雲海から躍り出たそれは、茶の外套と黒頭巾。屋根の上に音を出来る限り立てないよう歩き、煙突に寄り掛かる。朝日を眺め、周囲を一度見渡してから手元の紙に何かを書き付けた。机も無いのに紙面へ丁寧に書き込まれた文章。不備がないかを検めると、折り畳んで額に当てて念じると、紙は鶴の形に変形し空へと飛翔した。

 見送る二人は、その紙が無事に山の向こう側へと羽ばたく様子を見届けた。


「皇女様の手紙を出す為に、こうも命を削らなくちゃならんとはな」


「実質、貴方も返信の内容を彼女に問い質すほど楽しんでいるじゃないですか」


「だって、所在が露呈する危険を冒してまでの、婚約者と交わされる文通だぞ?気にならないのがおかしいくらいだろ」


 黒頭巾から覘く目元に浮かべられる表情が柔らかくなり、外套もそれを見て笑った。屋根の上で待機すること半時、空に回り始めた雲脚を見て二人は今日の天候を予測する――最近の彼らの日課だ。

 黒頭巾はふと、東の方角へと顔を向けた。


「どうしたんです?」


「向こう側で音がしなかったか?こう……しゃりん、しゃりん……みたいな。鈴の音……遊環だろうな、あれは。妖精族の耳なら判らんか?」


「さあ……(クロガネ)は見回りじゃない筈ですよ」


 首を振った外套の人影が、顔を隠していたフードを脱ぐ。長い耳が晒され、鮮やかな深緑の髪が湿った空気の中に靡く。目を閉じて、町の中に響く音に耳を澄ませた。……そう、確かに遊環が鳴らす音と同じだ。

 二人は音の正体をすぐに理解し、顔を顰めた。理由としては簡単、自分達を執拗に追跡する輩がいつも己の所在を喧伝するかのように鳴らして歩くのだ。これを幾度となく聞いて、命の危機を身近に感じた。

 奴が動き出した――二人はすぐに雲海の中へと飛び込む。音を立てず跳躍した二人が消えると、静謐の空気を明るくさせていた日光がすぐに翳り、辺りが薄暗くなった。





  ×       ×       ×




 宿を後にする者の足音は、受付の人間に覚られず、代金のみを置いて静かに後にした。扉を閉める際の配慮も細心の注意を払い、木がわずかに軋むだけで二人は周囲を確認する。

 明朝に立ち込める霧は、やはり昨晩から代わりなく一寸先を覆う。数歩だけ前に踏み出しただけでも宿の輪郭が霧に侵食され、朧気になって空気中に溶けて行く。朝だというのに路傍に林立する灯籠が付けられている――魔石を設置した故に光は絶えず提供され、微かに道という証明をしていた。

 半目は頷くと、西を目指して歩き始めた。その姿が霧に消え行くのを見送って、仁那は河川の向かう場所、海に面する港湾を目指して歩く。臭いは無いか、足音はしないか、襟巻きの祐輔が神経を研ぎ澄まして索敵し、何か反応があれば仁那はそれを回避して進路を選ぶ方針である。

 昨晩の取り決めで、半目との協力体制を築いた仁那は、彼が追跡する人間を探して港を歩く。祐輔が発見したという人影が有力な情報である。今日も居るという確証はないが、少なくともこの予断も許さぬ霧の都では見出だした微かな希望だった。

 仁那の姿容や性格ならば、護衛達も油断し場合によってより奥へ潜入が可能かもしれない、という策である。祐輔もこれを否定せず、寧ろ良策だと内心では賛辞した。意図せず人の内側へと入り込める気質なのが、この少女の特徴。

 灯籠の光を頼り南下すると、視界が豁然と開ける一劃に辿り着いた。雁木屋根が続く繁華街が仁那を静寂を湛えた空気で迎える。

 どうやら中央地域から続く商業区域に合流したらしく、何より霧が晴れたということは、祐輔の情報から鑑みても港付近なのだ。

 やや急ぎ足で進む仁那の頭上から水滴が幾つか垂れた。首筋に当たる冷たい感触に顔を上げれば、顔面を猛打する雨滴の襲来が始まり、忽ち繁華街は豪雨に包まれる。雁木屋根の下へと急いで逃げ、濡れた服を叩いて水分を抜く。

 来た道を視線で辿ると、霧が引き潮のように北へと後退して消えて行く。奇妙なのは雨の降る中でもその密度を保ちながら、雨中を移動する光景。あたかも霧が命を宿した生き物であり、避難を始めている。


『な?気持ちが悪いだろ?』


「あれ、西国の魔法かな?」


『だとすると、どんな動機でこんな事してるのやら。どちらにしろ、碌でもねぇ』


 仁那は屋根に守られた歩道を進んで、再び南へと下って行く。所々で室内灯の光を見咎め、中からは人の肉声が壁越しに伝わってくる。会話の内容までは聞き取れないが、それでも声音は盗聴を注意しているように小さく険のあるものだった。

 壁に耳を当てる仁那を尾で引き戻し、祐輔は前へと強引に導く。


『テメェは死にてぇのか?何処が仲案道堂と繋がってるか判らねぇのに、一ヶ所に(かかずら)ってると後ろからまたやられるぞ』


「みんな、何かに怯えてるのかな?繁華街なのに全く人が通ってないし。わっせが場違いな気がしてならないんだけど」


『元々、周囲から浮いてるからなテメェは』


「みんな、わっせの襟巻きが格好良くて妬いてるからだね」


『フン』


 自慢気な顔になった祐輔と共に歩いていると、前方の雁木屋根の支柱の一つに寄り添う影を見付けた。屈み込み、手元で何かを交換する所作を少し遠い場所で観察し、二人が動き出したところで仁那は駆け寄った。

 外套の二人組が足を止めて振り返り、無邪気に手を振りながら迫る仁那を待つ。祐輔は努めて顔を彼女の首に埋め、自らをより襟巻きへと擬装するが、平生と差して代わり映えせず仁那を異様な蛇を首に飼っている少女へと仕立てあげる。

 待っていたのは黒とも判別の付け難い藍色の頭髪をした男――顔面から手まで包帯をした奇怪な風貌であり、簡素な上着を羽織っている。腰帯に差しているのは両端に穴のある筒状の鉄棒。

 隣に居るのは、青い髪の少年。小さな体躯に似合わず、立派な筋肉がある。成長期なのか、丈の合わない甚平を外套の中に着ていた。

 二人の手元には干し肉があり、二人で共有し食事をしていたのか、仁那を見ながら咀嚼する。祐輔は今日の朝食だった猪肉と比較し、粗悪な品だと内心で嘲る。

 仁那はそんな襟巻きの心境を見透かして苦笑する。


「こんにちは、わっせは仁那。この街に観光で来たんだけど、何か不気味なんだよね……話に聞いてたのと全然違うし」


「当然だぜ、変な襟巻きの姉ちゃん。此所は今」


()()、あまり人様に語る内容ではないぞ」


「え、でも好い人そうだよおじさん」


「外貌を駆使した詐術も、戦乱の中では常套手段。ちなみに私はまだおじさんじゃない。

 私は(トオル)という。少しこの町に調べ物をしに来た」


 対応するのは透という包帯の男性。少年是手は彼に注意されてか、その背後に回って不承不承という様子で大人しく立っている。祐輔の存在を開示するか否かを戸惑ったが、その必要があれば自ら名乗るであろうと思い放置した。


「調べ物か……。わっせは金色の髪をした少女と、後は酒場『仲案道堂』について、今聞き込みしてるんだ」


「ほう、後者は私も追っている内容だが、前者の理由に付いて質問しても良いか?」


「え?うん、今わっせ何か知らないけど酒場に追われてて……町に来る前に知り合った人に守って貰う代わりに、わっせがその少女を調べてる」


「つまり、その知り合いが本来少女を探している人物だと」


「でも良い人だよ。多分、「西人狩り」の運動にも参加してない。あー……何か、この大陸で一番高貴な血族……だっけ」


 包帯の内側で目を細める透。会話の中に登場した人物像を頭の中に描き、その真意を探っている。仁那の言葉に虚飾や偽装の跡は見られず、動揺の色は無い。この少女も相手を深く理解しておらず、疑ってもいないからなのかもしれない。都合良く利用され、走狗として町に放たれて漸く人を見付けたのだろう。

 是手が透の裾を引く。少年の純粋な瞳は仁那の背後を凝視し、必死に訴える。振り向くと、松明を持つ大勢の人間が路地を蹴り荒らして進んでいた。鬼気迫る一同の肉薄に若干怯え、仁那は数歩退く。

 透は干し肉を口に放ると、その場から跳躍して雁木屋根の上に立つ。八尺ほどある高低差を物ともしない脚力に仁那が唖然としていると、是手が支柱を掴んで()じ登り、続いて屋根の上に避難する。路地に取り残され、慌てていると襟巻きが解かれ、尾を手首に巻き付けられた。祐輔はそのまま上へと飛翔し、意を察する間もなく上に持ち上げられた仁那は狼狽えて宙で暴れる。

 充分な高さまで上昇し、塵芥を払うような仕草で祐輔は少女の肢体を屋根に叩き付けた。扱いが雑、少し労ってくれ!抗議しようと跳ね起きた仁那は、透と是手が屋根伝いに離れて行くのに気付き、後を追走する。下では男達が騒ぎ、二手に分かれて動いていた。

 雨に滑る瓦屋根の上を駆け抜け、三人は暗く狭い路地の中へと飛び降りる。着地と同時に溝板が喧しい音を立てて撥ね上がり、それが追跡の耳に届かないかと仁那を焦らせた。透は進路を選び、闇の路の中で速度を緩めず走る。

 もう仁那には方角も判らない。ただ必死になって二人の後ろ姿を追い求め、雨の冷たさや飛び散って足に付着した土も意中に無く猛進する。


 走行時間はおよそ十分程度。広い道へと躍り込めば真っ直ぐと港が見えた。軍艦が待ち構える埠頭の景観に見入る暇も無く、勝手知ったる風に港を歩いて停泊している一隻の中へと乗り込む。

 照明も無い船内に辿り着いて、漸く足を止めた一行はその場に腰を下ろした。


「あれは……まさか仲案道堂の?」


「奴等が養ってる門客だ、迂路を巡って来たから、恐らく此所を気取られる事は無いだろう」


「二人も追われてるの?わっせだけ?」


 肩を竦めて首を緩やかに横へと流す二人。


「この町に入った時点で、奴等の追跡は免れない。我々も一ヶ月前に潜入したが、今では港を出れもしない」


「どうして?」


「町の出入口となる局所的な区域ばかりに、仲案道堂の連中が張り出してんのさ。オレもおじさんも、今ではアイツらの隙を待ってるんだけどあんまり来てなくて……えと……?」


「所謂……膠着状態だ。奴等は捕縛を幾度も失敗しているが、我々も奴等の手勢の所為で攻め倦ねている」


 この町に入った時点で、既に酒場『仲案道堂』の執拗な追手を撒く事は出来ず、安全な出入口は封鎖されている。仁那が何をしたか、ではなく、知荻縄に来訪したという理由なのだとすれば、彼等は外部の存在に酷く警戒した閉鎖的体制を町に敷いているのだ。連絡網も町の出入口を管理可能である事から、仁那でも知荻縄全体を牛耳るのがあの酒場だと断定しても相違無い。

 別動隊である半目も、今は門客の襲撃を受けてるだろう。濃霧の中、躙り寄る害意を察知して切り捨てる能力がある彼ならば、たとえあの多勢相手でも処し遂せる。

 道を圧迫して進撃する門客の中に、あの蛙の姿は見受けられなかった。あまりに急いでいたといえど、あの異界の住人と形容して遜色無い外見ならば一目で判別する。更に後方に控えていたのか、或いは半目に差し向ける勢力へと配属されたのかもしれない。

 透の状況判断能力の素早さと的確さによって、今回の窮地を生き抜いた。だが、それよりも語るべきはあの跳躍力、およそ人が発揮可能な身体能力ではない。彼も目的あって知荻縄に潜入した一人、並大抵の実力では彼等を探ろうなどという蛮勇を為せる自信があるのだ。

 それに、是手は幼いながらに、この切迫した状況を何度も潜り抜けた度胸があるのか、追跡者達に恐慌で混乱する素振りすらなく、迅速に逃走の為の行動してみせた。寧ろ仁那よりも危機察知の早い子だ。

 ふと、小さく逞しい子供、という点で己の記憶に該当する存在を想起した。あの山道で出会った少年太郎のことだ。確か祐輔の目撃情報によれば、この町に昨日入ったという。

 仁那の背筋に冷たい感覚が走った。町へ立ち入るのみで敵視され、あの酒場による追跡がある。


「透さん、門客は捕縛後に対象をどうするの?」


「……一人ならば、即刻死刑。特別な例はまだ利用価値のある人間は生け捕りで監禁する。更なる利益を求め、捕縛した者を餌に次なる獲物を得る為だ」


「つまり理由も無い人間は……」


「早急に処分される……惨たらしくな」







   ×       ×       ×




「待て」


 床から立ち上がり、出口に向かう。

 眦を決して、未だ雨降り頻る港町へ駆け出そうと離れて行く仁那の足を誰何の声が留める。概ね察しているのか、透の険相が少女の背中を見詰めた。是手は固唾を飲んで見守り、その視線が二人の間を往来する。

 仁那の握られた拳固、肌が青白くなるほど強く力が込められている。脳裏に去来するのは飯屋で太郎と交わした言葉、話を聞いて喜ぶ笑顔、すべてが冷酷な情景に変わって行くのに堪えられなかった。

 昨日の夕刻にはこの町に到着していたのだ。あれから約十時間、子供の足では逃れらないだろう。今はもう殺されているかもしれない、そう考えると全身の血液を沸騰させる。

 少女の濡れた体から漲る怒気を感じ、是手は困惑する。誰からも一目瞭然とした痛憤、透は理解不能と一蹴せず、その理由を探っていた。


「何処へ行く?」


「仲案道堂に……外道が座す根城に」


「単身で赴いても無駄だと判るだろう」


「酷いよ……あんな小さい子供でも、そんな酷い事をするの?わっせには絶対無理だよ、許せない」


 震える声で仲案道堂の卑劣な暴力を批判する。少年の無念を晴らすべく返報を果たしに向かう覚悟を決めた少女の気迫が華奢な体から充溢していた。その心意気が紛い物で無い証左であると認めて、透は立って仁那の肩を掴む。それでもなお、留める。

 この非情な輩の蛮行を座視しろと、敵わないから仕方がないと片付けられているように感じ、腕を振り払って透を睨め上げた。


「徒手空拳で挑んでも、勝算は一分たりとも無い。奴等の力が個では打破できぬのは、明確にして覆し難い事実。それでも無様に散る最期を選ぶのか」


「それでもわっせは、見逃せない!」


「……よし、判った。仁那、お前は信頼しても良い人間だな」


「え……?」


 肩から手を離した透が外套を脱ぎ捨てる。左の腕が無い、空しく垂れ下がった袖を露にし、包帯の男は是手を手招きで呼び寄せる。駆け寄る小さな影が仁那の前で立ち並んだ。


「私は君が仲案道堂の手先ではないかと疑っていた。この港で同じように接触してきた人間に密告され、我々は常に逃亡を余儀なくされた」


「密告なんて……」


「そう、この町で信じられる者は少ない。君が信じる協力関係の者、話を聞く限りでは仲案道堂の仲間では無い。だが生憎、私と敵対関係の者から遣わされた奴だろう」


 仲案道堂は手段を選ばない。

 街中で巡り合う敵意の片鱗すら見えない人間であっても、門客の一員である可能性も否めない。実際に是手はそういう手口を何度も見た。だからこそ、最初は慎重に相手を欺きつつ、その真意を探る。

 仁那の困惑が募る。半目と敵対する勢力と接触した場合、どう対処すれば良いのか。恩人の弊害とあらば、拳で捕らえるのが賢明。仲案道堂に密告するという手段は断じて使わない。それは仁那の精神が断固として拒絶している。


「だが、今私と君は目的同じく、仲案道堂を追う者だ。少なくとも君が探す「金色の少女」、所在は知らないが私の知人だ」


「ほ、本当に!?」


「ああ、そこで君に提案がある。

 我々も仲案道堂を打倒する共同戦線に参加しよう。ただし、その仲間の行動に関する情報提供を要求する」


「う、うーん……」


 仲案道堂を倒す、何とも魅力的な提案である。だが、やはり恩人の半目を蔑ろにし、この二人に合わせるのは危険か。だが、是手も透も芯から悪人ではなく、どちらかといえば好ましい人間である。半目と二人が直接対峙し、互いに命を懸け合う修羅場を目の当たりにしたくはない。彼等が遭遇しない程度に情報を管理すれば、悲惨な未来は回避できる。

 独断では自信がなく、いつも決断の際に意見を求める相棒祐輔を探す。首元、船内の闇、外の景色……祐輔が居ない。雁木屋根の上に載せられてから、別れてしまったかもしれない。だが、少なくとも追跡者に捕獲される不覚を許すほど祐輔も甘くはない。いずれ合流できるだろう。

 仁那は首を縦に振って答えた。


「うん。やろう、その共同戦線!」


「よし、契約成立だ。行動を共にする際、奴等との衝突が避けられない戦闘状態は私に任せろ」


「わっせだって戦えるよ。それも、武闘なら相手が兵士や刺客でも拳でいつも人を守って来たしね」


「ほう?用心棒か何かを生業としているのか」


「違うよ、わっせは侠客。一食であろうとその恩を返す為に、その人を守るのが唯一の仕事。成り行きとはいえ、二人には助けられちゃったから、戦いに関して任せて」


「……止めはしない。実戦にてお手並み拝見といこう」


「改めて宜しくな、仁那姉ちゃん!」


「宜しくね、是手くん」


「へへ、何かユウタ兄ちゃんを思い出すな、その性根から優しいところ」


 ふと知らぬ名に首を傾げた。


「ユウタ兄ちゃん……そうだね、名前だけでも良い人っぽい」


「でも、ユウタ兄ちゃん強ぇんだ。魔物のことバッサバッサ切ってくんだぜ。ありゃ……えと……?」


「鬼神の如し、か?」


「そう、それだよ!あと隈さえなけりゃかっこいいんだけどな。みんな、ユウタ兄ちゃんには協力したくなっちまうんだ」


「ふーん……ユウタ、か。そんなに良い人なら、会ってみたいね」


「いずれ会える」


 深々と頷く透に、仁那はその「ユウタ兄ちゃん」と是手に慕われる人間に想いを馳せる。その人物が此所に居合わせたなら、きっと自分と同じく憤慨したのだろうか。

 胸中を騒がすのは太郎の安否、祐輔の行方、半目の目的、是手と透の正体、仲案道堂の本性、「金色の少女」の所在。これら総てが線で繋がれる時が来るのだろうか。

 半目との約束、透との契約を同時に終わらせなくてはならない。たとえ至難の業だとしても、仁那は決意を固めた。


「うん、やることは決まったけど……」


 軍艦の中から外を覗く。


「――祐輔、何処に居るの?」


 まずは相棒探しからだ。








アクセスして頂き、誠に有り難うございます。

第一章は優しき侠客と卑劣な悪党の戦いです。

まずは一つひとつの疑問を丁寧に解消して行けるよう頑張って書きます。


次回も宜しくお願い致します。

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