氣巧拳と死別
前日譚も佳境に迫ります。
最近、矢鱈と更新が早いのは錯覚です。ええ、錯覚ですよ・・・暇人じゃないですよ。寂しい人間じゃないですよ。
少し時間が空いただけですから!
『お前とわしの使う氣術は、少し変わっていてな。良薬にもなれば、破壊の一手にもなる。決して使い方を過たなければ、お前を救うだろう』
いつかの日、師は少年に言った。その言葉を、よく記憶している。その一言一句が、ユウタの尊敬や期待の象徴なのだ。決して聞き逃すまいと、健気に話を聞いていた。
ただ、この言葉でユウタが疑問に思った事──彼と自分の使う氣術が、少し異なると言われた。即ち、比較される氣術師が他にもいて、それらを通常の氣術師として見ている。師は密かに、ユウタへと同胞の存在を仄めかしていたのだ。だが、その意図を察する事が出来なかった幼少の頃は、それで幸せだった。
いま、最大の難敵として立ちはだかるのは、嘗て師の口より聞いていた正体。ユウタが初めて、師と自分以外にいる氣術師を前に、全身全霊を掛けて迎え撃つ所存であった。
分断されたゴウセンは兎も角、少しでも気を抜けば、それが敗北に直結する。その解り切った事実を何度も確認して、敵の実力を推し量る。タイゾウの思わぬ奇策に翻弄され、見事に掻き乱されてしまった。大きな失態……わざわざ勝算が低いからこそ、二人組で挑んだ筈の決闘なのに、今ではその意義を成していない。
孤立したユウタは、完全にシゲルと名乗る巨漢と相対する形となった。山に居た筈なのに、今では森の奥まで叩き飛ばされている。そんな状況に理解が追い付かず、混乱に思考回路が上手く纏まらない。劣勢、それも今までにないほど完膚無きまで叩き伏せられようとしていた。
果たして、シゲルの拳から連動して打ち出される氣術によって引き起これた斥力は、異質な手応えだった。普通は、大気や自然にある氣を扱う故に、人体から打ち出す時は定形などない。ただ“力の運動”を発生させるのみ。
シゲルの氣術はそれを覆す。間違いなく、何度も手を合わせる内で、ユウタは衝突した際に、その力が拳の形体をしていた。前腕部を更に不可視の鈍器で武装したかのような、そんな攻撃である。
この時、自分が未だ氣術について、何も識らない事を悟った。そして、この術が自分に何かの運命を与えていることも。
× × ×
打ち上げられ、叩き下ろされ……
幾度も幾度も、凄まじい連撃と共に地面の上を転倒するユウタ。その体は、もう既に大半の体力を失い、立ち上がる事さえ苦しい。辛うじて敵の攻撃が致命傷になるのを避ける為に、紙一重で捌いてはいる。自分よりも遥かに熟練した氣術師を前に、氣術も体術もすべて届かない。
シゲルの太い剛腕が頬を掠めた。だが、回避できた訳ではない。今度は、鈍い衝撃が顔面を襲う。不可避の一撃だった。不可視の拳撃だった。ユウタの上体が、振り抜かれたシゲルの腕に遅れて引かれるように、轟音を鳴らし吹き飛ぶ。地面の上を何度も跳ねる様子は鞠を思わせる。良いように敵に振り回されていた。
地面に俯せで倒れたまま、頭上から低く野太い声がした。脳震盪を起こし、視界が平衡を失って意識が断続的に途切れる。呼吸は肺の奥から絞り出すように息を吐いて、小さく吸い込んでいた。横隔膜が麻痺して、酸素供給すらもままならない。そんな満身創痍な状態でも、耳に通るシゲルの発声が頭に残響を残す。
「俺の氣巧法──氣巧拳。練り上げた氣を鎧の如く纏い、間合いを、拳撃を、肉体防御力を強化す…る。お前の長剣が届くことはな…い」
氣巧法。初めて聞くが、用途と戦闘に最適化された氣の操作は、ユウタが本来主流とする防御とは相反する概念だった。確かに、何度も放ったユウタの太刀筋は、間違いなくシゲルの腕を切断する事が可能なものである。武具の達人ならば、それを称賛したほど洗練された一刀だった。だが、その全てが徒労に終える。手応えとして、固くはないが、幾千にも束ねられた綿に阻まれたような反発力で妨害されるのだ。
そして、その剣撃を搦め取られて殴打される。こちらには即席の防御を展開するのに、氣術の発動は厳しい。故に、必死に把や鍔で対処するが、いなせるほどの威力ではなかった。更に、その岩壁をも打ち砕くような拳圧を、何度も受け続けていた所為で、刀身の亀裂が入っている。既に尖端は刃こぼれをしていた。
得物も身体も、限界が近い。本音としては、あと一撃で眠ってしまう。仮に生身に直撃するなら、一瞬で昏倒する確信がある。顔を上げるのも億劫で、手元も長剣を握ってはいるが、もう振り上げる気力も残滓すら存在しなかった。もう投降してしまえば、ハナエも無事に返還される。諦念に指先が緩められた時だった。
今までの比ではない殺気の籠められた拳が、危機感を持たせる。咄嗟に獣じみたユウタの感覚が、再び緊張した。手放そうとした武器を握り締め、刀身を斜めに傾けたまま待ち構える。
なぜ──諦めた筈なのに。本人でさえも理解し難い己の行動に、表情に出さず混乱していた。
未だ対抗しようと奮起する少年に、素直な尊敬でも懐いたのか、一度だけ口元を緩ませると容赦なく突き出した。辺りに旋風を発生させ、木々を薙ぎ倒した一撃と共にユウタは後方へと叩き飛ばされる。フジタから譲り受けた長剣の刀身がとうとう破片となって、ユウタと共に地面へ転がる。
仕留めた、その確実な手応えにシゲルが悠然と歩み寄る。
「見事だったが、何故…だ?氣術を使おうとしな…い」
「……使う隙も余裕も無かったんだ……。アンタに圧倒されてたんだ」
素直に認めるユウタに、喜色満面の笑みを浮かべた。シゲルの表情が豊かになった状態を不気味に思い、地面の上を這って距離を取ろうとする。猛獣を前に、手負いの兎が足掻いているも同然の光景だった。それが無様に見えない訳がない。這っていった先に端然と佇立する一本の木に、背を預けた。その瞳から、まだ戦意の火は消えていない。
シゲルが両腕を上げて、ふたたび構える。今度は手足も動かない。辛うじて意識が存続しているだけの、人形に近い状態である。そんな調子で、格上の敵を凌げるような経験も発送も少年には無い。
「お前の師は誰…だ?」
「名前は…知らない。ただ、背に大きな黒の刻印があった」
沐浴の際、川水に濡れた彼の背にある二頭の大蛇と短剣を想起し、ユウタは瞑目した。彼なら、この三人にも勝てたのかもしれない。尤も、通常を知らぬ少年には、相手も尋常な氣術を使っているのか判断しかねた。
ユウタが特徴を上げると、シゲルが息を呑む音がした。愕然として、その巨体を静止させている。一瞬、時間が停止したかのような錯覚が、森の中を颯爽と駆け抜けた風に取り払われた。それと同時に、ユウタに向けて憤怒を露にする。
「あの裏切り者…か!タクマの忘れ形見を連れ去った、あの…男!」
彼が何を言おうとしているのか、ユウタには解らなかった。『裏切り者』という点に関心を引かれたが、断片的な話に理解を諦める。だが、ここで一つ判明したのは、シゲルはユウタの師を知っている者だということ。
ユウタがその正体について問い質そうとした時、赤く充血した瞳で天上を睨む相手の様子に、言葉を飲んで引き下がった。
「許さな…い!ユウタ、奴は下箋の屑…だ!」
「…は?」
「凄惨な裏切りを容易く実効し、お前を我々から奪った悪・・・党ッ!奴の犯した罪科は重…い。あの老骨を踏みにじる為に、何人が犠牲になった…か!
だが、お前の家を先日尋ねた…時。奴の墓らしき物を確認し…た。お前は優し…い。許されざる大罪人に、知らぬとは言え丁重に葬るなん…て」
紡がれる罵倒の言葉の数々。あの偉大なる師を、下郎と悪評するシゲルに、ユウタの芯が凍てついた。憤然とした怒りではなく、静かに波打つマグマの如し憤りが沸々と胸の内で生まれる。自分の知らない彼が、例え他人に大きな損害を与える罪深い人間だったとしても、彼と過ごしたあの日々の思い出を覆すことは出来なかった。どうあっても、ユウタには彼が悪人とは到底信じられない。
憤怒の感情に反応して、右腕がふたたび痛みを訴える。だが、そんなモノすら気に留めなかった。包帯を乱暴に破り捨て、そこに刻まれた本性を晒す。刻印から漲る氣を掌に集積させた。指先の景色が歪んで、その中に大気中の氣が吸収されていく。
一方的に死んだ彼へ罵声を浴びせるシゲルに、ユウタは長剣を投げ捨てた。先程までのダメージが嘘であるかのようにすっと立ち上がる。その様子に、夢中になっていたシゲルは慌てて腕を上げた。
「まだ戦うの…か。ならば、死力を尽く…せ!!」
踏み出したシゲルは、再び視野に捉えた少年に慄然とする。先程まで振り回されていた未熟な少年ではなく、その威風は屹立する霊峰だった。自分よりも高く、大きく見える。何より、右手に湛えた尋常ではない氣の量に、シゲルの本能が危険だと叫ぶ。
だが、変貌したユウタに疑念を懐きつつ、体は別系統の回路で形成されているかのように迷いの無い攻撃を開始した。慈悲の欠片も持ち合わせぬ、振り切れば大鎚にもなる脚を横から薙いだ。その高さは、少年の肩から首にあたる。
コンマ二秒で襲来する蹴りに、ユウタは泰然とその場に立っていた。そして、右手をシゲルに翳すと、掌を大きく開いた。
彼に攻撃が到達する刹那の瞬間。シゲルの体が、辺りの土や倒木した森林などを巻き込み、盛大に吹き飛んだ。突風でも吹き荒れ、発生した竜巻が地面を捲り上げ、少年に害意を向ける総てを斥けた。凄まじい斥力が働き、シゲルを問わずに前方に捉えた物体を無差別に弾き返した。
ユウタは、右腕の刻印がまた前腕部へ移動し微かに大きくなっていく変化の過程を見た。仄かに赤色の光を帯びた縁が、その存在を際立たせる。
シゲルは、後方へと弾かれる際に全身に突き刺さった枝や木片を取り払った。氣巧法で防御されている筈の肉体──長剣の刃すら阻む効果を持つそれが、全く機能していなかった。彼はその正体を知っている。
「奪ったな、俺の氣…を!」
少年の右手に募った氣の塊。あれは、肉体に固定化されていたシゲルの力を、否応無しに吸収した副産物だった。そして、それに気付かず攻撃を実行した相手へと返戻した。
ユウタが指を振る。それは、糸を織るような所作であった。その仕草に呼応して、周囲の岩や木々が根から強引に持ち上げられ、中空で静止する。夥しい魔弾を装填した彼に、シゲルは昂然と立ち上がって両の拳を固く握り締めた。
「良かろ…う。俺の全力を、とくと味わ…え!」
無造作に、ユウタが手を振り下ろした。軍勢を率いる指揮者の所作で、一斉に浮上させていた瓦礫の数々を差し向ける。直線軌道で、一切迂回せずにシゲルへと殺到する。その砲撃を甘受し、迎撃する所存でその場から動かなかった。シゲルは、再度その身に練り上げた氣を装備する。氣巧法を最大限にまで引き上げ、一挙手一投足に全力を費やす。
「オオオオオオオオッ!!」
烈帛の気合いと共に咆哮する。
爆弾の炸裂する音は絶えず連発で響き渡った。何度も飽くことなく岩石や樹木と邂逅するシゲルは、それらを一蹴する。ユウタを中心に生産される自然の砲弾。地形が変わっていく中でも、少年だけが依然として静かに佇んでいる。無言のまま、一切気を散らすことなく。
シゲルは焦った。これでは、埒が開かない。少年を倒す前に、こちらの消耗が激しい。この荒々しい作業も持続する限界も、刻一刻と迫ってくる。氣巧法でカバーされた拳骨は、触れることなく対象を破壊してくれるが、それが次第に薄くなっている事に気付いた。またしても、この弾丸の雨を維持しつつ、シゲルの氣を削っていく作業を並行していたのだ。
このままでは、拳を自ら潰す羽目になる。それを考え、少年を見据えた。いま、氣の操作に意識が傾注して、防御が疎かになっている。その制圧射撃の弾幕の向こう側で、無防備なユウタに目を厭らしく細める。
骨身を削る覚悟で走り出し、行く手を阻む障害物を乱暴に打ち砕いた。疾駆する男の速度は、もはや空を泳ぐ鳥のように軽い。その巨体からは想像だにしない行動速度で、ユウタとの距離を詰めた──かに思えた。
「何ィ…………ッッ!?」
加速していたと思われていたシゲルの体は、次第に足も追い付かない引力に掴まれ、ユウタへと豪速で接近する。少年が氣術の操作を変え、敢えて敵を近くに招く理由は思い当たらない。釈然としない疑念と、唐突に強くなった少年の変化に対する恐怖で反応が遅れた。
ユウタと至近距離で相対する。シゲルの内懐で低く身構えたユウタは、敵の分厚い筋肉に覆われた胸部を叩いた。心臓を穿つほどの威力はない。これが、少年がわざわざ自分を引き寄せた魂胆の正体なのか。
しかし、すぐにユウタの真意を悟ったシゲルであったが、既に遅かった。
× × ×
氣術──万物に流れる力の流動を操作する事を念頭に置く。対象に宿る氣、それを用いて様々な現象を起こして見せるのだ。
突き放す斥力、圧し潰す圧力、寄せ付ける引力、浮き上がらせる浮力……
時に、人体の中に流れる氣を手繰り、自然治癒力の促進や空間認識能力の増幅、身体能力の強化を可能とさせた。元来から肉体に働く力への助勢として役立つ。
しかし、氣術が特異な点──それは生命から、氣を奪い、或いは乱し暴走させる事が出来ないこと。在るべき流動を捻じ曲げたり、抜き取る事は誰もが成し得ない。何故なら、体内の氣の流れとは、云わば生命の脈動。血液と同じく、逆流や暴発は死に瀕する損傷を与える。
タイゾウや他の氣術師にも、その技術を再現することは叶わない。だが、ある人間がそれを自在に操ることを可能にしていた。
氣術師同士の戦争は、終焉がない平行線を辿るばかりである。それを調停し、治める者に必要な力こそ、氣の“与奪”を呼吸をする事と同じく自然に行える者が存在した。
その人間の体には、黒い大蛇の刻印があったとされる……
× × ×
ユウタは眼下に広がる生々しい景色を、興味も無い様子で見下ろした。辺りに飛び散った鮮血や肉片が、戦闘によって荒れ果てた大地に貼り付いている。爪先を濡らしたそれを払って、ユウタは踵を返した。体内の氣が循環速度を上げて、戦闘の疲労を回復させてくれている。
もう一度、振り返った。また、動くことがあれば、確実に息の根を止める。──それも杞憂だ。
四肢が爆散し、胸部に内側から破裂したかのような空洞を湛えたシゲル、だったモノからは、生気を感じられない。
ユウタは枝葉の被さっていたフジタの長剣──刀身の無いそれを拾い上げ、そこから、山を真っ直ぐ目指した。一人を斃し、今度はゴウセンに加勢しなくてはならない。分離された時点で、あのタイゾウが大鎌使いの青年と共に蹂躙している事だって考えられる。
砂を蹴って木々の隙間を縫うように走り、目的地まで俊敏な動きで距離を縮める。そこに凄惨な現場が展開されていない事を祈りながら、少年は不安の高まる胸を押さえ、無我夢中で地面を蹴った。
例の山に到着した。
崩れた山の土砂を踏み越えて、中腹辺りを目指す。不気味なほどに静寂に包まれた山の雰囲気に、不吉な予感がした。そういえば、金属音もしない。ゴウセンとあの大鎌使いには、立派な得物がある。まだ後者の実力は未知数だが、ゴウセンなら絶対に拮抗する筈だ。
ユウタは息を切らして、ようやく到着した。そこで目にしたのは、岩に項垂れて座るゴウセンだった。慌てて駆け寄り、その肩を揺らす。
「ゴウセン…ゴウセン!」
「うるせぇなぁ」
弱々しい声音で、顔をゆっくりと上げたゴウセンは、儚げに微笑する。よく見ると、顔中に切創があり、血に濡れた相貌は瀕死寸前である状態を読み取れた。ユウタは他にも傷がないかを探る。彼の頭から首、肩や胴……腹部の辺りで、少年の動きが止まった。
ユウタが気づくのを待っていたかのように、ゴウセンの腰を下ろした岩肌を滑る血の滝。急所を深く刺し貫いた鎌の痕跡に、歯を食い縛って沸き立つ感情に耐える。彼の傷を嘆くことも、そんな事態を招いてしまった自分の迂闊さに対する憎しみも、戦場である此所には不要なのである。
「……敵は、何処に?」
「お前には…負けられねぇかんな。……一人、討ち取ったぜ」
震えながら、ゴウセンはある方角を指し示す。その先を視線で追うと、短槍で串刺しにされた大鎌使いの青年が、白目を剥いて死亡している画があった。一体、どんな熾烈な抗争を繰り広げたら、この様な末路に至るのだろうか。敵も恐らく、こうなる事を予測していなかっただろう。
ユウタは再び仲間へと向き直った。段々、ゴウセンの瞳が薄れていく。瞳孔から色が失われていくのを直視できず、俯きながら瞼を閉じた。
「ったく………途中でこれとか、不運すぎるぜ……。
おい、ユウタ、お前──ハナエを頼んだぞ」
「任せてくれ。必ず、救いだして…そしたら、ゴウセンの所に」
「ふっ──そっか、そりゃあ……良いなぁ」
ゴウセンの全身から力が抜ける。前へとしなだれ掛かってきた彼の体を受け止め、その背に回して強く抱き締めた。相手が自分をどう想っているかは解らない。だが、紛れもなくユウタにとっては友人の一人だった。それを救えなかった己への悔恨が際限なく溢れる。自死したくなる衝動を抑え、ユウタは剣の把を片手に、山を登る。恐らくそこで、最後の敵が待ち構えているであろう。
ゴウセンの場から、徒歩一〇分ほどの場所で、ユウタは膝を屈した。
立て続けに驚愕に打ちのめされるユウタの眼前で、外套を風にはためかせながら冷然と立つ敵を見上げる。
「よくやった、少年。氣巧法という未知の業にも屈する事をせず、遂には討ち滅ぼした。君の成長を高く評価するよ」
「これ、は……?」
「ああ、君が来ると信じて、それまでの戯れだ。いやぁ、中々に楽しませて貰ったよ」
悦に浸る下卑た笑顔をしたタイゾウに、ユウタは何も言葉を失った。足元に広がる光景は、少年には幻影を見ているとしか思えない。
散乱した鋼の破片。荒れ果てた山地に開拓された平坦な場所。クレーターのような広い円形の穴の中心で、両腕を切断され、呼吸を止めて地面に眠るフジタが居た。
ゴウセンの相討ち、フジタの死。ユウタの心に影を翳す出来事が、少しずつ積み重ねられていく。
果たして、ユウタはハナエを取り戻せるのか。
次回も、読んでいただけたら幸いです。今回、立ち読みでもアクセスして頂いた人に、感謝です。




