プロローグ
プロローグとなります。
鍛練を終えた少年は、疲労に体を引き摺りながら帰宅する。依頼された兎を三羽ほど仕留めて持ち帰れば、老人――先生が既に囲炉裏の鍋で魚の煮汁を作る準備に取り掛かっていた。
この家を建てる為に開拓され、枝葉により空が円形に区切られたかのように見える。茜色に染まる雲が穏やかに流れて行くのを戸口の前で止まっていた少年に、先生が呼び掛ける。
ゆっくりと中へ入り、兎を差し出すと先生は褒めることもなく、使う部位だけに捌き始めた。刃物の扱いに慣れている所為か、ただの調理とあるのに手元の動きすら見えない。
綺麗に切られた兎肉は、そのまま煮汁の中へと入れられ、蓋をされると後は臭いが部屋を満たす。完成は丁度、物語がまた一段落付く頃かもしれない。
先生は魚釣りのついでに汲んできた水を碗に注いで少年にも渡し、自分の分は颯爽と飲み干した。常日頃から無駄を省く彼は、必要な分だけ注ぐと一度で空にしてしまう。
少年は昼に中断された物語の続編を聞けるとあって、興奮気味に先生の方へと寄った。
「どこまで話したか」
「キスリート襲撃戦を終えた後です」
「好きな登場人物」
「主人公ユウタです、優しい上に強いので」
「都合の良い人間だと思わないか?」
「自分の意思で生きていると思います」
「なら良い」
何かを納得して、先生は頷いた。腕を組んで思案顔をするのは、恐らく頭の中で構成を見直しているのだろう。
少年が姿勢を正すと、天井を見上げながら物語の続きを語り出す。
「では続きを。あれは西国の首都襲撃があってから、時を暫し先に進めた頃、大陸の東で新たに現れた子の数奇な運命の話だ――」
次回から第二部本編スタートです。




