エピローグ「裏切り者の足跡は形を変えて」
第一部・エピローグです。
物語を傾聴する少年は、話が一段落付いたところで先生が話を切った途端、顔を暗くさせて俯く。外の明るさを見ると、そろそろ修練の再開時間であると知らされる。
それを勿論、先生が見逃している筈がない。話を長引かせようと質問したところで、それが徒労に終えるのは事前に判る了解だ。規則に厳しい彼を欺く手段など、少年には到底思い付きもしないし、あったところで実行は不可能。
先生は釣竿を持って外に出る。
少年が鍛練であろうと、この人は釣りをする為に川へ向かう時がある。無論、監視が無いといって手を抜くような事はしないし、先生は見ずともこちらの様子を把握している。それこそ、第三の目とでもいうように、森の至る所と視覚を共有しているかの如くその状況を理解することの早さと確かさは神業だ。
少年と別れるように家の前で川の方角へと歩き始め、そして少し先で立ち止まった。
「次の話は夜にすることとしよう」
「はい、わかりました」
「夕餉は兎を適当な数だけ用意しなさい」
「はい」
必要な内容だけを伝えると、先生は森の中へと姿を消す。あたかも樹影に同調し、世界と一体化したように見える。足音や気配で彼を探知しようとするならば、それは愚考であり空しい行為。実際に何度も試行したが、少年は悉く失敗を積み重ねた。
家では家事の殆どを一任されている。余分な物は教えず、修練の内容以外は強要されたことはない。
兎を仕留めて、今日は恐らく彼の好物である魚の煮汁に漬け込むつもりだろう。確か、先生が上機嫌な時に作られる料理だ。臭みが無いように、後で肉を洗い清めなくてはならない。得意な狩猟法で捕獲すべく、道具を揃えて向かった。
先生の気分が良かった理由とは何なのか、まだ少年には判らないが、話をする時の様子はまるで己の過去を見返すように時々表情を変化させている。それがなお状況を正確に伝える言葉となっており、少年は耳だけでなく先生の顔も確かめながら聞くのだ。
「登場人物の裏切り者が好きだったのかな」
悪人ではないから、少年も彼を別に嫌ってはいない。寧ろ、彼が居なかったら、主人公ユウタの旅は無かったのだから、彼を責める道理は無い。
「今晩も楽しみだなぁ」
少年は荷物を置くと、修練を再開した。
本作をお読み頂き、誠に有り難うございます。
これにて、第一部【裏切り者の足跡を辿って】は完結となります。ここまで書き進められたのは、暇を持て余した私の惰性と、皆様の応援があったこと、重ねてお礼申し上げます。
読んで頂き、本当に有り難うございます。
「続きが気になる」、「面白い」、「何これ」と思った方は、ブックマークなどして頂けると嬉しいです。執筆への活力へとなります。
次回から第二部【×××(まだ非公開)】となります。
今後も頑張って行きますので、『氣術師の少年~ユウタの冒険譚~』を引き続き、どうぞ宜しくお願い致します。




