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森出身で世間知らずな少年の世界革命  作者: スタミナ0
六章:マコトと射手座の銃
109/302

夜空の下の姫/そのムスビはとても……



 何人たりとも侵略者を入れない不可侵にして神秘の領域とされる森、その中央部の村からやや外れ、北の渓流から続く川を挟んだ場所に建つ一軒の家。滞在を許された稀有な存在が住まうそこには、いま一人の少年が屋内に列座する武具の一つひとつに手入れをしている。

 刃を砥石で鋭くしてゆき、柄の強度を確かめて何度も床を小突く。その歳ならば、鍬を持って畑に出るか、或いは商いの基本的な業態を学び将来への準備をする。しかし、この少年は何気ない顔で人を容易く殺める凶器の数々を磨き上げた。

 これが己の師に依頼されたわけでもなく、平生から行っている日課だという風に自然な手付きで一つずつ丁寧に仕上げる。刃を研ぐ音が静謐な空気を湛える森の中に響き、少年は瞑目して耳を澄ます。瞼を閉じているにもかかわらず、武器を扱う手元は危なげ無い。

 何かに備えているためか、多数の戦闘技術と生存に必要な知識、それらを学ぶ修練に費やされる日々。幾ら最初からこの境遇にあろうとも、大抵の子供が諦め泣き喚くであろう厳格な規律の下にある生活でも、一切の弱音も吐かず、しかもそれが当然の如く少年は過ごす。これが少年の中に際立つ特殊な性質なのかもしれない。

 最近、師が体調を崩し始めるようになった。少年と師――氣術師が病や体調不良で倒れる事、というのは寿命が近いという証左。体内の氣の流動を常に一定で保ち、それを操り乱した分をまた修正できるが、命の限界には逆らいようがない。

 いずれ一人取り残されるのかと思うと、子供の胸は孤独への恐怖に押し潰される。いつも毅然として、大人にすら物怖じしない胆力のある少年でも、こればかりは涙を堪えるのが精一杯であった。師を延命させる術もなく、ただ淡々と彼の死によって与えられる悲哀を享受するしかない。それがどれだけ心苦しいか、ただ唯一の家族を喪失する少年の心を推し量れる者はいない。


 林間の奥からこちらに二つ、この家を目指して歩く二人の足音を聴いて、少年は立ち上がった。師が不在の間に現れる訪問者など珍しい。何か急を要するものなのか、村に挨拶に出向いた師が居ないこの家を訪ねるという事は、すなわち自分に用件があるということ。

 戸口の方へと出て、家の前に立って二人を待つ。樹影の闇から姿が浮かび上がった――ゼーダとビューダだ。少年にとっては、師の次に狩りの手本であり、育て親の一人と思っている。

 駆け寄って挨拶をすると、包帯に隠された表情が真剣であることに気付く。


『ユウタ、お前は「先生」の死後、どう過ごす積もりだ?』


 截然と余計な会話を省いた質問。その内容――師匠の死後、というあまりに暗い話に何も言えず、胸を穿つ痛みに一瞬顔を歪めた少年は口を開かず、黙って見上げていた。今は師の亡き世など考えたくもないというのに……。

 ゼーダが更に続けて問う。少年の傷心と辛苦を知ってなお、言葉を続ける。


『この森に留まるか、それとも去るか……』


『僕は……居たい、です。この森が好きだから』


 苦しくも即答する。彼等が問い質したのは、ユウタの意思だった。元来、この森は村の外に人間を許さない体制である。唯一の例外たる師と自分、保護者である前者が亡くなれば、少年への扱いも変わってくるのだ。

 物心付く頃から師と過ごした森、彼との交流の過程で自分を見守ってくれる育て親も同然の守護者。そんな人達が居る場所を自ら離れるなど考えられなかった。震える声で応えた少年に、二人が首を縦に振る。


『既に「先生」が村長に話を付けている、村も支援するから。お前の滞在は許可され、あとは本人の意思次第だった』


『……本当に、僕は此所に居ても良いんでしょうか?』


『……ああ、ユウタは大事な子だからな』


 少年がとうとう泣き出すと、二人が慰めてくれた。声を上げずに嗚咽を漏らす子供を宥めて寄り添う姿は、まさに親だった。


『二人は、村が好きなんですか?』


『うん、愛している。だから、出来ればこれからも、守っていきたい……な』


『ああ、そうだな』


 笑う二人に、少年もつられて笑む。

 暫くして帰った師の到着と共に修練が始まり、少年は愚直に打ち込んだ。今は一時でも師との時間を大切に過ごし、亡くなった後は墓を作って、そして村と生きていこう。

 その晩、人の優しさを心の底から感じた少年は、また涙を流して師の胸の中で眠った。








  ×       ×       ×





 王宮の一階にある侍女の為にある部屋。二段の寝台があるのみで、特に何も無い簡素な内装で三人が睡眠をとっていた。一つの寝台で一段目に眠っていたユウタは目を覚ます。珍しく熟睡していたらしく、窓の外は暗かった。恐らく九時間は眠っていただろう。ニーナ・ヴィルゼストと名告る王族の少女が去った後にすぐ寝たのだ。

 幾ら柔らかく心地の良いベッドであっても、ユウタはその体質の所為か、半時から三時間の眠りで回復は事足りる。何か熟睡の秘訣でもあるのかと探ろうと体を動かした時、片腕に乗し掛かる体重と柔らかい感触にユウタは硬直した。

 顔をそちらに巡らせると、すぐそばにムスビの寝顔があった。安らかな寝息をたてて、時折身動ぎをして腕に抱き着いてくる。いや、なぜ同じベッドで寝ている?

 顔を顰めたユウタに、静かに閉じられた瞼が開かれる様子もない。

 異性が恋い焦がれるであろう美容、それが無防備に晒されていて、しかも自分に密着する豊かな肢体と体温に正常な判断を下せる男は、きっと世にも稀な人間だけである。今回、その例にユウタが該当していた。

 旅の道中、不寝番をムスビが担当して自分が寝た後、次に目を覚ませば任務を放棄して眠りながら、ユウタに縋り付いている時が多々あった。今さら驚くこともなかった。

 そんな些細な疑問に思考するのも億劫になり、ユウタは小さく伸びをして、声もたてずに欠伸をひとつすると優しく彼女の腕を解いて上体を起こした。安心して眠れる秘訣、それがもし誰かと体温を分かち合うことならば、とユウタは考えた。婚約者のハナエと身を寄せて眠る未来を夢想して、情けなく顔を綻ばせる。

 寝台から降りて、無人の廊下に躍り出るとすぐに外へと向かう。あの部屋が「離れ」に近いこともあって、ユウタはすぐに裏庭の方へと脱出する。

 古びた井戸の滑車を動かし、落ちていく桶の速度を案配し、水を汲み上げた。二人が起きた時の飲み水に加え、自分の身を清める為の分を用意する。髪を解き袴や袷を脱いで褌になると、二つの桶の内で一つを頭からかけて、後は布で拭いながら汚れを落とした。

 すぐにまた着衣して、髪を結い直す。現場を見ているのが女性ならば赤面しながら見守っていたかもしれない。

 普段はゆったりとした東国の装束である彼の体は細く引き締まって程よく鍛えられた筋肉が付いている。元々端正な顔立ちのためか、その「隈」さえなければ町の娘には好評だっただろう。

 琥珀色の眼差しが空を仰ぎ、夜空に瞬く星の煌めきを見詰めた。街灯の所為で少し光が弱いが、それでも星は懸命に輝く姿は冬空に咲く花である。旅に出てよく星空を眺めるようになったが、ラングルスから続くこの一ヶ月半の月日では見る余裕もなかったユウタは、思わず眺め入っていた。わずかでも良い、漸くできた貴重な安息の時間に身を委ねる。

 杖を持っていないことに不安を覚えたが、今この場で騎士に急襲されようと、員数を揃えた包囲網も突破できる自信がある。少し「離れ」で時間を潰すことにした。益体もなく、その無意味さを忘却して空を仰ぎ見る。


 一人で冬空を彩る星の数々を何も考えずに見ていると、「離れ」に出た人の気配を察知した。視線をそちらに向けずに、ユウタは懐手の匕首を引き抜くかを見極める。

 姿を現したのは、寝間着の姿で護衛もなく歩く王族の姫ニーナだった。撫子色の髪を右肩に流して、ふわふわと裾を風に揺らしながらユウタに歩み寄る。警戒を解いて、懐から空手を取り出したユウタはそちらに向き直った。


「綺麗ですよね」


「ええ。でも山の上から見た方が綺麗ですよ、此所は少し明るすぎる」


「首都は人が多いので仕方ありません。そうですか、山頂からは美しく見えるのですか……。それも、ロブディの時に?」


 首肯するユウタの隣に腰を下ろして笑う少女は、やはり何処か町娘とは違う高い気品などが些細な所作からも見える。

 星を眺める間、二人での無言が続き、堪えられずユウタは旅の話をした。これまで出会った人物、巡り合った困難と強敵、親の愛情と婚約者の話までした。無論、持ち前のハナエ自慢話はここぞとばかりに炸裂し、ニーナに嫌がる様子がないと判ると延々と話し続ける。

 その中でもニーナが意外だと思ったのは、彼に婚約者が居たことだった。そして意外にも、それが国王の追っている皇族の末裔だと密かに察する。

 十五歳と成人したばかりの年齢で結婚を早期に考えるのは政略的な底意のある領主や貴族が殆どだ。だが、次に<印>を潰滅させる目的を果たした後に結ばれる、という話にその早期的な婚約に納得した。少年に自覚は無いのかもしれないが、それが完遂するにはまだまだ一年という時間では足りないと、どこかで悟っているのだと。きっと、それを婚約者のハナエも解しているのだ。

 聖女の暗殺に加担する話を抜いて語られた旅の話、それを聴いてニーナはユウタに対し、惜しみ無い尊敬と同情心を懐いた。

 特別な出生、自身が選んだわけでもないのに、そこに宿命の呪縛を受けた人生。若年でありながら、過酷な現実と対決しなくてはならない彼と婚約者、そして相棒の少女。彼等は悪くない、ただ運が悪かったと、苦し紛れにしか言えない。

 まだすべてを理解し、共感は出来なくともニーナは素直に呟いた。


「辛かったんですね」


「そうですね。……でも苦しい時は、いつも誰かが助けてくれました。やっぱり、一人じゃどうしようも無い時がありますから」


「本当は、今からでもハナエさんと共に暮らしたい、と願うでしょう?」


「それはいつも。けど、ハナエを幸せにする為には、僕の総てを注がなくちゃ駄目なんです。だから、今自分が抗うべき運命、戦うべき敵、守らなくてはならない仲間と確り向き直って、全部終わらせないと」


「……本当に大好きなんですね」


「こんな僕を瀕死の状態でも想い、愛してくれる大事な人ですから」


 照れ臭そうに笑うユウタから、婚約者に向ける深い愛情が感じられた。惜しみ無く、自分の総てを捧げられるように運命に立ち向かうと、当然のように、しかし決然とした意思を持って答えていた。見せ掛けや、一時の感情では絶対に口に出来ない言葉と想いが彼には存在する。

 ニーナはこんな彼が、本当に伝説の暗殺者の弟子なのか、そして世界を脅かす氣術師と同族であるかを疑った。戦いとは無縁な、それこそ優しすぎるユウタの気性は誰にでも不安と疑問を与える。幸せを願い、戦いの果てに躓き何もかも台無しにしてしまうのではないかという危惧が絶えない。

 そんなユウタに、行く先々で仲間が集う理由を理解してニーナは何故か嬉しくなった、まるで自分のように。

 だが、旅を語る言葉の節々から覘くユウタの非情な剣を連想させる冷たさが滲み出ていた。それが時折、ニーナを慄然とさせる。


「私はユウタさんに、幸せになって貰いたいです」


「……有り難うございます。ニーナさんにも幸があるように」


「あはは」


 そのまま二人で雑談を続けていると、「離れ」に複数の人影が現れた。その気配の中に憶えのあるユウタが黙って見守る中、身なりを整えたムスビと衛兵が立っていた。いつの間にかドレスに着替えているムスビに愕然としているユウタを余所に、衛兵と姫が打ち合わせをしている。

 ユウタは矯めつ眇つし、ムスビの自慢げな顔を見て嗤った。


「着飾ったところで、本性は変わらないんだから残念だよ」


「そうね、服一つで人間変われたら世の中平和よ、戦争なんて起きたりしないし」


「本当に残念だよ、これで性格さえ良ければ綺麗なのに」


「ん?じゃあ外見だけならどう?」


「え?」


 ムスビが距離を詰めて、上目遣いにユウタへ感想を求めた。既に言った筈だが、再要求を受けて困惑する。自分の言葉で満足する質なのだろうか、自己主張の激しきムスビが平時行動を共にするユウタの言葉など。


「綺麗だけど」


「ほんとに?」


「え?う、うん」


「ふん、なら良いわ」


 そう言って喜色満面の笑顔を咲かせるムスビに、ユウタも喜ばしく思えて目を細めた。戦いがなければ、少し鬱陶しいだけで強く美しい花のような少女なのだ。自分が相棒では不相応も甚だしいと思える可憐さ。欠点はあるが、それがまた彼女の人柄をより魅力的にしている。

 ドレスの裾を摘まみ上げ、何処かの令嬢のように頭を下げて挨拶してみるムスビ。見詰めていたユウタに片手を差し出す。その真意を悟って苦笑したユウタが手を取ると、悲しげな笑顔を向けるニーナと、二人を弄る衛兵に見られながら少し散歩をした。

 今さら恥ずかしそうに、それでも口許の笑みは絶やさずにいる。

 その時のムスビは、本当に綺麗だった。







  ×       ×       ×




「マコト、起きるんだ」


「……あと、五年」


「同じ女の子のムスビが起きてるんだよ?君も頑張らないと」


「オレは女じゃない、男だ!」


 跳ね起きたマコトに睨まれて、ユウタは苦笑いを浮かべる。彼の悩みである容姿を指摘する話ならば、彼がすぐにでも起き上がると判っていた。

 ドレスで待っているムスビを背に、ユウタはマコトに彼が眠っている間に出来た事情を説明する。まだ半ば意識が覚醒していない彼は頷いて話を飲み込む。


「ニーナさんの用意してくれた手配が整ったんだ。これから僕とムスビで、身の潔白を証明してくる。君はもし刺客や襲撃者がいたら……すぐ逃げるんだ」


「バカ言うなよ。オレも一緒に行くさ」


 同行を要求するマコトに閉口する。

 ユウタとムスビ――【梟】と「白き魔女」と畏怖される者として、その身に罪がないことを国王に伝えに行く。ニーナの希望が通り、謁見が許可されたとあって、二人はわずかな不安要素も消したい。その際、分断されたマコトが「東人狩り」の脅威に遭わないか、それだけだった。

 マコトの身は、成り行きでニーナに保護されている状態だ。だが、これから王との面談を行うにあたって、そのニーナもそこに居合わせなくてはならない。つまり、彼女の庇護下にあっても完全に無防備なマコトが「東人狩り」を是とし、またそれを行う王宮内の人間に襲われたとしたら……

 その危険を考慮して、マコトに伝えたが彼はユウタに付き添うと言う。


「でも、僕とムスビだけしか……」


「二人だけじゃ信憑性に欠けるだろう?<印>に敵対する、それは将来的に東にも西にも味方するって意味だぞ。それなら、西の姫とこんな東出身の賤しい奴を証人として伴うべきだ」


「で、でも……」


「それに、オレは<印>の元構成員。持ってる情報、それと力をある程度提供して身の安全を確立させる為の好機でもあるんだ」


 正論であって暴論。ユウタは返答に困り、背後のムスビを窺うと肩を竦められるだけだった。ニーナは許してくれるだろう、それに悪くない話だ。仮に話が拗れて、王宮の中で追われる場合にマコトがいた方が生存率が高い。――いや、そんな事態にならないように、彼を同伴するのが最適なのは確かだ。

 ユウタは杖を片手に、マコトの用意が終わるのを待った。やはり王族との対面ともあり、ムスビの衣装はニーナが拵えた物。しかし、ユウタとマコトは東国の農民も着る服装である。特にユウタの服は代えがなく、戦場を駆け抜けた痕跡や煤汚れも幾つかあった。

 仕方なく、ニーナが苦慮して納戸の奥の奥、そこに仕舞われ使われずに保管されていた黒の袷と青の袴を出してくれた。それに着替えて、漸く準備万端となる。


 玉座までの道、そこで横を過る人々の剣幕、小さく囁く声には誹謗中傷すらあった。獣人族の鋭い聴覚を持つムスビが度々聞きとめては冷たい視線で刺し、周囲を黙らせる。村での冷遇を受けた事のあるユウタや、常に人に追い立てられていたマコトには平気なものだったが、彼女の仲間を侮辱された事への憤懣に感謝した。

 ユウタとムスビ、マコトはあの近衛達に囲まれて導かれる。その間、ジーデスと交友関係であるユウタとは他愛もない会話をしながら進み、遂に玉座の間となる部屋の前に立つ。重厚な扉の奥側を想像して、ムスビの目にも緊張の色があった。

 覚悟を決し、前を見据える三人の前で開門する。


 その空間は、神殿だった。純白の柱が立ち並んで、床は大理石となっている。玉座までは赤い絨毯が長く続き、そちらに目を運べば王と視線が衝突する。壁際には整然と並ぶ重甲冑の騎士が佇み、王の傍に一人豪奢な鎧と斧を担ぐ男性と、隣の椅子に腰掛ける王女と思われる女性、そして複数の侍女。

 一見で三人は圧倒されそうになったが、気を取り直して近衛と一緒に進み出る。

 不躾に周囲を首を回して眺めるようなことはせずに斜視するユウタは、ふと王女と目が合った。自然と逸らさずに見詰め合う中で、彼女が微笑んだ。


「いだッ!?」


「なに鼻の下伸ばしてんのよ」


 横からムスビに足を踏まれて、ユウタが狼狽える姿を国王が面白そうに見た。近衛は既に笑いを堪えているが、片方の口端が吊り上がって震えている。マコトは王の前でも平常時と変わらない二人の様子に呆れを通り越し、安心する。

 ドレスの裾を直していたムスビに、王の傍で斧を担いでいた騎士が接近する。近衛が後ろへと引き下がった。


「ほう、中々良い娘だな。此所に来て身内を蹴るなんて真似……肝が据わってる」


「な、何こいつキモ……」


「本当に遠慮ないな。ムスビ、失礼が無いように」


 小声で囁いたユウタの前で、ムスビの顎を手で持ち上げて上を向かせると、顔を近付ける騎士に凍りついた。息のかかる距離で、品定めをするような眼差しを向ける騎士が笑う。


「良い女になりそうだな」


 その一言を聴いて、マコトと近衛が動く。王の前で、果たして身分を弁えず無礼な真似をしているのはどちらか、と紛糾を堪え切れずに踏み出した。

 しかし、彼等が前に出るよりも先にユウタがムスビの腰を抱き寄せて、騎士から離す。


「僕の相棒です、やめて下さい」


「ふはは、済まない済まない」


 軽く謝って身を引いた斧の騎士を睨みつつ、ユウタは王に視線を戻した。ムスビは腰に回された手を払うこともなくそのままに、斧の騎士に向けて舌を見せる。

 王女の傍から、ニーナが現れた。小さく手をユウタに振っている。目礼して返すと、王女がまた笑った。


「あんた、鼻の下」


「伸ばしてないから」


 王が玉座から立ち上がる。

 玉座の間の空気が一気に緊張し、ユウタとムスビも姿勢を正した。――面談が始まる。


「ようこそ、我はギュゼナ・ヴィルゼスト。この国を統治する王だ」

















アクセスして頂き、誠に有り難うございます。

次回も宜しくお願い致します。

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