(6) キモい
「あー、あー、ニート様、聞こえますか?」
『ああ、バッチリだぜ。モニターにもちゃんと映ってるし』
「凄い……。小さなボタンにしか見えないのに、ここから本当に見えているのですね」
『ああ。貯金を叩いて、あやしいサイトで購入した超小型のボタン型カメラだぜ。PCマイクだとさすがに大きすぎてお互い邪魔だったけど、それなら音も拾えるし、穴を通るのは細いUSBケーブルだけだから』
「はい。ニート様に言われたとおりこの線をテープで固定しましたから、こっちの手も不自由なく使えます」
『そうだ、早速だがパグ子さんの手にある何とかのナンチャラを見せてくれないか?』
「救世の紋章ですか?」
『ああそれ。ボタンカメラをそっちに向けてくれ』
「分かりました。こんな感じで見えますか?」
『お、パグ子さんの黒い手が見えるぞ。パグ子さんて、耳と鼻先と手足の先が黒いのな』
「知りませんッ」
『そんで肉球も黒くて。うーんと……、どこだ? 紋章とかどこにあるんだ?』
「ここですよ。ここにあるじゃないですか」
『黒い肉球に、ちょっとだけ質感の違う黒いホクロみたいなこれか?』
「ホクロじゃありませんッ。救世の紋章ですよ、千年にひとりの!」
『たしかにカメラのコードはここから出てるけどさ。俺の手の穴と同じくらいの大きさではあるけれどさ。しっかしこれ、分かりにくいと言うか地味と言うか……』
「ニート様ぁ、なんかムカついてきたんですけどぉ」
『試しに俺の穴に指を入れてみます』
「ギャアーーー! 私の紋章からなんか出て来ました! キモい! キモい!」
『おいこらキモいとはなんだ! 俺の指だぞ』
「だって全然毛が生えてなくてッ、イモムシみたいでッ、なんか生理的に無理ですよこれッ」
『なにおぅ? よし、おまえなんかこうしてやる』
「ギャアーーー! やめてください、そんなキモい指で撫で回さないでッ! 嫌ぁーーッ!」
『こうしてやる、こうしてやる』
「嫌ぁーーッ……あ……あ……」
『うーーん。パグ子さんは完全にグロッキーだけど、俺は果たして勝ったのか、負けたのか』
「はあ、はあ、ニート様、乙女の心になんというトラウマを刻んでくれるんですか」
『……』