(5) ただひとつ
『ぬ、ぬぬぬ、ぬぬぬぬ、許せん……、許せんぞ!』
「ニート様、落ち着いてください」
『これが落ち着けるか! 紋章だかなんだか知らないけどパグ子さんのこと寄って集って勝手に聖女と持ち上げて、超能力を使えなかったら勝手に失望したあげく牢屋にぶちこんで飢え死にさせるだぁ? ちくしょう、ちくしょう、ふざけやがって!』
「ニ、ニート様、どうか落ち着いてください。本来であれば紋章の偽造は火炙りなのです。私の場合はその……嫌疑不十分とかで」
『それだよ、それ! 何が『本物の聖女様であれば飢えも渇きもしない』だ! 人が飲まず食わずで生きていけるわけないだろッ! そんなの聖女殺しで自分の手を汚したくないだけじゃないか、ちくしょう、ちくしょう、卑怯者め、恥知らずめ、くそぅ……』
「ニート様、お願いです、泣かないでください」
『泣いてねーよ! ちくしょう、ちくしょうぅぅ……』
「ニート様……」
「パグ子さん……。いいか、パグ子さん……」
「はい」
『パグ子さん、ひとつ頼みがある……』
「あの、ニート様。私は平凡な村娘でございます。世界を救うとか、そんなことなど私にはとても」
『そうじゃねえよッ』
「ニート様……」
『そんな腐りきった奴らばかりの世界とかどうでもいい! 滅びるなら勝手に滅んでしまえッ! だけど……』
「はい」
『だけどパグ子さん……、パグ子さんだけはどうか生きてくれよ……。そんな糞野郎どものために死なないでくれよ……』
「はい」
『残念なことに俺は最強の聖霊なんかじゃねーし……、それどころか最低辺のしがないニートだし……』
「はい」
『こっちはこっちであちこちに迷惑かけて、失望もさせて、義理も欠いてるどうしようもないボンクラ野郎だ……』
「はい」
『でもな、パグ子さん。俺はパグ子さんだけは絶対に見捨てねえぞ。俺は罪もないパグ子さんを見殺しにするような、そんな糞野郎とは違うッ』
「はい」
『俺はパグ子さんを見捨てない。パグ子さんが自由になるまで、笑って暮らせるまで、とことん手を貸してやる。だからパグ子さん……』
「はい」
『だからパグ子さん、このとおりだ……、どうか頼む、お願いだ。パグ子さんは生きてくれ。そんで自由になって、幸せになって、毎日馬鹿みたいに笑って暮らしてさ、そんでそいつら糞野郎たちを見返してやってくれ……』
「はい……。うぅぅ、う、うわーん」