(2) 甘味でごまかせ
『あの……』
「……」
『すみません。俺、そっちの声がぜんぜん聴こえないんです』
「……」
『あの、もしかしてさっきからなんか怒ってませんか?』
「……」
『やべぇ、この人絶対怒ってるよ……』
「……」
『しかも見た目がパグ犬なのに、なんか仕草が妙に乙女チックというか……』
「……」
『やべぇ、なんかますます怒ってるし……』
「……」
『あのぅ、アンパン食べますか?』
「……」
『丸ごとだとさすがに穴を通らないので、ちぎって入れますね』
「……」
『はい。よかったらどうぞ食べてください』
「……」
『な、泣かないで。お願いだからアンパン食べながら泣かないで。ほらまだあるから』
「……」
『それでさ、食べながら聞いて。もいちど整理してみるけど』
「……」
『俺の声はそっちへ届く、そっちの声は俺には届かない』
「……」
『こっちからそっちの様子は見える、そっちからこっちは見えない』
「……」
『こっちからそっちにモノは送れる、そっちからは無理』
「……」
『オーケー。だいたい把握した。だけど参ったなぁ。そっちからの音声が完全オフなんじゃコミュニケーションにも限界あるものなぁ』
「……」
『うわ、パグ子さんがまたションボリしてる』
「……」
『うーん、またなんか一層パグ子さんのご機嫌を損ねた気がするけれど、何を言ってるのかさっぱり分からん』
「……」
『そうだ!』
「……」
『こっちからそっちにモノを送れるってことはさ』
「……」
『えーと、昔オンゲで使ってたのがたしかこの辺に……』
「……」
『よしあったぞ』
「……」
『セット完了、と。あとはこいつの先っちょを穴に差し込んで』
「……」
『よしスイッチオン。じゃあパグ子さん、そのPCマイクに何か話しかけてみて』