(13) 筆頭法術師
「真の救世聖女であるならば、真の大聖霊を従える者であるならば、法術の力もまた地上の誰よりも優っているはずである。よって被疑者パグ子には、これより法術の力比べを行ってもらう」
『ふん、超能力を見せろってやつか』
「では我らが聖教会が誇る筆頭法術師殿をこれへ」
『へえ、あのおっさんが超能力者なのか。なんかワクワクしたきたな』
「パグ子もです! ああ見たい、すっごく見たいのに、この目隠しが邪魔くさいッ」
「ごほん。ここにとり出したるは魂なき人形三体。さすればこれより聖霊の力により、ここに魂を宿して見せよう」
『え、おいおいおい、そんなまさか! 嘘だろ?』
「何? 何? 何が起きてるんですかニート様! 傍聴席がめっちゃ沸いているんですけど」
『おいおいおい、信じられねえ……まさかこんなことが……』
「ニート様ぁ! ニート様ぁ! パグ子にも、パグ子にも、おーしーえーてーッ」
『あのさ、テーブルの上でさ、誰も触っていないのに人形が三体グルグル回ってるの!』
「え……ニート様それって」
『いやあ、マジ驚いたわー。いやいやいやいや、マジ驚いたわー』
「それって以前ニート様が教えてくれたやつですよね?」
『うん。すっごく原始的な手品。いやあ、この目で見てもまだ信じられねえよ。だって教会の筆頭法術師様だぜ? そんな偉いお方が超能力でなく、まさか子供騙しのインチキをするなんて……』
「筆頭法術師殿、誠に見事であった!」
「は。なれば一言だけ申し上げる。聖霊の力を我が物とする術は年少の者には不可能。なぜなら真の法術とは、長い年月をかけた修行、その不断の努力によってはじめて得られるものであるがゆえに」
『うわ、このおっさんときたら……』
「うむ、これは至言なり! さすがは筆頭法術師殿だ。さすれば被疑者パグ子よ。筆頭法術師殿が只今見せた真の法術を超える力をここに示し、自らの証を立てるがよい」
「ニート様ぁ、期待してた分、パグ子はなんかゲンナリですよぅ……」
『ああ、俺もだよパグ子……』
「どうした早くせんか! 筆頭法術師殿を超える力を、聖霊三体を超える力を示して見せよ」
「ならば審問官様に申し上げます。さようなことはこのパグ子にはできませぬ」
「なんと!」
「そうか、そうか。ならばそなたは法術の力もなく聖女を騙ったことを、自ら認めると言うのだな?」
「いいえ審問官様、そうではありませぬ。なぜならば筆頭法術師様は、先程より今に至るまで法術など使っておらぬからです」
「ここ、この小娘め戯れ言を申すな! ワシはこの衆目の中で真の法術を使って見せたのだ! おぬしは目隠しのためそれを見ておらぬだけではないか!」
「いいえ。私は全てを見ておりましたが、あれは法術ではございませぬ。そのテーブルの下には筆頭法術師様の助手殿が隠れていて、磁石で人形を操り動かしていたではないですか。つまり私が見せて頂いたのは法術ではなく、ただの手品でございました」
「なんと!」
「ですから私にはできませぬ。このパグ子は未だ若輩なれば、聖霊の御業は使えても、手品の技など使えませぬゆえ」
「静粛に! 静粛に!」
「ううう、嘘だ、でたらめだ、その小娘は嘘をついておるのだッ」
「静粛に! 静粛に!」
「ごほん、ごほん。被疑者パグ子がかかる虚言を弄し聖教会の筆頭法術師を貶めようとするならば、これは不敬として火炙りに……」
「お待ちください大教主様」
「なんだ」
「それが果たして虚言か誠か。こうして確かめてみれば一目瞭然。ぬんッ」
「ひ、ひぃぃッ!」
『おおおッ。強そうなおっさんがさっきのテーブルをひっくり返したら、中から磁石を持った男が出て来たぜ』
「衛兵よ、虚言偽計を以て神聖なる法廷を汚したこの不届き者二名をば、直ちに投獄せよ!」
『ここにもいたな。曲がっていないおっさんが』
「はいニート様」
「静粛に! 静粛に!」
「大教主様、この私は聖教騎士団の末席ではありますが、パグ子様が見事なる奇跡を起こされたことをここに証言……」
「騎士様、お待ちください」
「パグ子様……」
「騎士様、それはしばしお待ちください。このパグ子は未だ法術を見せておりませぬゆえ」
「そそ、そうだ。被疑者パグ子は聖霊の力を示すがよい。今すぐ、今すぐにだ!」
「はい。審問官様は先ほど聖霊三体と仰いましたが、最強にして至高なる大聖霊様。その号令あらば、聖霊三体といわず」
『ポチっと買ったよプレーヤー。最大音量スタンバイッ』
「三十体でも」
「!」
「三百体でも」
「!!」
「使役したるはいとも容易きことにございます」
『こちらもお高いスピーカー。そこに掌かざしたならば。ベートーベンの歓喜の歌。オーケストラも合唱も、大編成で』
「さあ、このとおり!」
『お届けだぜッ』




