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邂逅

続き

今でも思う。あの時にどうすることが正解だったのだろう。

『ようこそ、我らが救世主。』

三年前のあの日、中学二年生の夏の自分の部屋から機械で埋め尽くされた世界に召喚された時のことは今でも鮮明に覚えている。

学ランのまま急に知らない場所に転移させられたら目の前に跪いた大人がたくさんいたのだ。

もちろん驚いたし、事情を説明されているときも現実味を感じることができなかった。

しかし、当時の俺は戸惑いながらも心の中では歓喜していたのだと思う。

学校という檻の中での生活を強要されて活字の世界に漬かっていた。

当時の俺は何度も読んでいた『勇者召喚』の当事者にまさか自分がなれるとは思わず、自分を無条件に受け止めて、褒め称えてくれる存在はとても心地が良いものだった。

『さすがです、勇者様!』

『やっぱり私たちとは格が違うんだな…』

耳に入ってくる称賛、羨望すべてが心地よかった。

過剰ともいえる期待に、いつか俺は押しつぶされそうになるのではないか最初は心配で夜も寝むれなかった。

だというのに

『我々とは体の構造が違うので…』

『あなたは選ばれた存在です』

俺は一切の努力をしなかった。

そこにはすでに栄光のレールが敷かれていて、ただ何も考えずそれに沿って行けばいいだけだった。

退屈していた日常に、突如舞い込んだ今の自分を全肯定してくれている場所はとても心地のよう場所だった。

自分のためだけに用意された機械を用いれば自分は超能力が使えるようになり、その能力は召喚された世界においても他の追随を許さないほど強力だった。

それを振るう人形も用意され、順風満帆な生活。


自分だけ


その甘美な単語が脳を溶かすほどの優越感をもたらしたのだ。

召喚初期の俺は警戒心を強く持っていたが彼らは飴を与えるだけではなかった。

苦難、敗北、成長、覚醒、信頼

そういった『物語』の要素を多く含みながら俺はその地で生活していったのだ。

過剰な期待、信頼は俺の精神を不安定にするとわかっていたのだろう。

まるで少年誌のように順序立てて俺は『主人公』として育成された。

残ったのは

信頼する仲間

守るべき民

誇るべき意思

自分そのものといえる能力

後は『めでたし、めでたし』とでもいえば物語が閉じるような状況。

三年間、『主人公』というレールをいくつもの関門をスパイスとして添えられ、けれど決して外れることのない道を全くの予定どおりに完走したのだろう。


それが今ではこのざまだ。


ピエロもいいところだ。

彼らからしたら俺はさぞ滑稽に見えたんだろうな。

あの日、俺はすべてを失った。

いや、実際は何も与えられていなかったのだから、『何も持っていないことを認識させられた』が近いか。


光が見える。

紅い光だ。

そろそろ目を覚ます時が来たようだ。


俺がまだ現代にいたころかっこいいと思って始めた『明晰夢』はこうして自分の罪を思い出すために使われているというのが、なんともひどい話だ。


**********


紅い


最初にそれを見た感想はそれだった。

吸い寄せられるような、そこの見えない縦穴を上から覗き込んでいるような錯覚に陥る。

危険だとわかっているのに、どうしても引き寄せられてしまう。

危険な光だった。

それと同時にとても魅力的な光だった。


『え…?』


そんな光からとっさに目を離そうとしたとき、初めて彼女の存在に気が付いた。

先ほど俺が見ていたのは瞳だったのかという理解が脳をよぎる中、俺は目の前の少女に釘付けになっていた。


こちらを覗き込んでくる瞳は真紅色をしている。流れる御髪はそこだけ月が出ているかのように輝き、雪のような肌は埃臭いこの洞窟の中でも一切の陰りがない。

というかそういったことが確認できてしまう半裸の恰好だった。

というか白い一枚布を纏っているだけだった。

そんなまぎれもなく『金髪美少女』。

外見年齢は14前後だろうか。

第二次性徴があまり見られない。が、それが芸術的な肢体をもつ彼女の存在に蠱惑的な魅力を与えている。


心のどこかで冷静な自分が今の自分の状況を思い出す。

異世界にやってきて明らかにヤバい黒龍と戦って目が覚めたら金髪ロリ美少女が裸で自分を覗き込んでいるのだ。


どう考えても厄ネタである。


自分の目的を果たすためには明らかにかかわっちゃいけない面倒ごとを抱えている存在。

もしこの世界に町があるなら彼女がいるだけで軽く100以上の事件が起こるだろう。


そんな機雷を目の前にしながら俺が思うことはほかにあった。

彼女を見た瞬間から脳を貫いた衝動。

押さえていたその行動を俺は実行に移した。











「おぅゥううううう  アア ううエええええ゛え゛…_!!!!!」


俺は盛大にえずいた。

かなりの時間何も食べていなかったため口に広がるのは胃酸の味だったがそんなことはどうでもいい。気分はそれとは別の理由で最悪だった。


キモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイ


なんだこいつなんだこいついるだけで見るだけで吐き気がする生理的に受け付けない気持ちが悪い気味が悪いそんざいが許せないなんでこんな奴が存在しているしてしまっている


嫌悪感

憎悪感

拒否感

その他ありとあらゆる俺の中のセンサがコレに警鐘を鳴らしている。


見た目が美少女とかどうでもいい。

ただただ俺がこいつを許せないのだ。

違和感

まるでそこにあっちゃいけないものが無理やり繋ぎ止められているのを見ている感覚。


「あ…」


それを認めてしまうと俺のナニカが壊れてしまう。そう確信する存在。


「あ…い…」


俺はこいつを…


「ん…!」

「ッ!」


何かに袖を引かれる感覚がして俺は再び現実に目を向けた。

そこにはいつの間にか彼女から離れていた俺に追いつき、縋りついてくる彼女の存在があった。

相も変わらずその見た目は万物を魅了する色香を放っていたが彼女は俺に何かを伝えようとしているようだ。

「あ…いあ…え」

「おい?何が言いたい?」

先ほど感じた黒い感情は不自然に俺の中のどこかに潜っていき、今はみる影もない。

自分の不自然すぎる自分の感情の変化をいったん頭の隅に置き、目の前のことに目を向ける。

「お…いう…」

「言葉が通じない、のか?」

ここが異世界だから日本語が通じるとは思っていない。

どうせ「翻訳魔法」でもあるのだろうと思っていたし。

まだ言語を用いる生物に会っていないが彼女のこれは音も発生していないように思える。

言語がわからない以前の問題だ。

「う?…あdさっ  …ああdf!     あ、あ、あ、これ…で、いい…かな?」

「え?」

と思っていたらたどたどしいが日本語が出てきた。

どういうことかと思っていると

「あなた、の耳、できこえる…おんてい…に合わせた。いみ…もわかるように…した?はず…」

「ああ、なるほど」

どうといったこともない。調整中だっただけのようだ。

それでも日本語が彼女の口から出てきたことが疑問だが今はそんな好奇心を端においてしなければならないことがある。

「よっと」

「…?」

服についた砂埃を払いながら立ち上がると彼女が不思議そうに首を傾げた。

「なに…してるの?」

「何って移動だよ。こんな知らない開けた場所でゆっくりしていられるか。というかよく気絶してて無事だったな…」

考えると背筋がぞっとする。

「ここ…誰も来ないよ?」

「は?」

「ここ、いちばん下。みんな、こわがって来ない…。」

それは先に俺が殺した黒龍を怖がって、ということだろう。

あんな奴の領域に早々立ち寄ろうとも思わない。

しかし

「それでも俺が戦わされたような小竜がいるんだろ?そいつらが主を殺されて何もしないとは思えないだろ。」

「それでも…ここが安全。」

どうやらこのお嬢様は意見を曲げる気がないようだ。

「そうはいってもな…。ならせめて見つかりにくい、もしくは常に周りが見やすい場所はないか?」

そう尋ねると彼女は少し顔を俯かせてうなった後

「なら…こっち…」


俺が彼女についていったのは彼女を信頼したからではない。

「何かするなら俺が寝ているはずにするはず」などといったバカ丸出しの浅い考えからでもない。

先ほど俺が感じたこいつへの憎悪。その正体、つまり自分について知るためだった。

俺は三年間あいつらに生活を管理されてきた。

裏切られた今となってはその過程で俺の体に何かされていたとしてもおかしくない。

さっきの感情はそういったことが原因であると考えたのだ。

いくら何でも親の仇以上の憎悪を向け、次の瞬間それがなくなるようなことが普通の人間に起こるはずがないのだから。

(あ…親、か)

思い出したくなかった。これ以上その話題を自分の中にとどまらせておきたくなかったので彼女のその小さな背中に質問する。

「あの…」

ここで地球にいたころのコミュ障特有の話かけ方をしてしまってから後悔する。

ここ数年でもてはやされ、それに見合うようにしようとわざと芝居がかった、まるで主人公のような口調を心掛けていたが親のことを考えたせいで過去の自分が戻ってきたようだ。

「…?」

振り返った彼女は不思議な顔をしつつこちらを見ている。

「ンッ!えっと…君、名前は?」

自分の言葉を亡き者にするための強引な切り替えを誘った言葉だったが彼女はの返事は返ってきた。

「な…まえ?…ゆり…あ」

「ユリア?」

「ん…。それより…ここ…。」

いつの間にかそれは目の前にあった。

数メートルしか移動していなかったのに今まで内心同様しまくっていたからだろう。

こいつの存在に全く気が付かなかった。

それは棺だった。

黒塗りで、空いたその中身は赤黒い靄で埋め尽くされている。

「なんだ…これ…」

そこから感じるのは意思。

この中に一つの国があるような圧倒的な存在感。

「これは…みんな…」

「は?」

その言葉から始まる会話の内容は俺の動揺を吹き飛ばす言葉だった。

「わたしが…母さんから受け継いだみんな。いまは静かにしてくれているけど…」

俺と彼女の関係を決定する言葉。

「なまえ…あなたの」

「音川…託羽」

「タクハ…いい響き…」

彼女はそう言って棺に触れながらこちらを向く。

「私は…ユリア。まだ続きがある…はずだけど忘れちゃった…。」

今まで月明かりのようだと思っていたその金髪が赤黒い靄で覆われる。

「わたしも…母さんと同じ、吸血鬼。」

それはまるで赤い夜に浮かぶ満月。

「タクハ…あなたのおかげで…で、私は封印から解かれた…んだと思う…」

紡がれる一言一句に俺は嫌な予感がしていた。

「私…あなたがいないと…死ぬよ?だから…連れて行って?」

「まじかぁ…」


どうやらこの厄ネタ少女、依存系メンヘラダウナー金髪ロリ吸血鬼だったらしい。


テンプレテンプレ

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