プロローグ─失敗─
PVのような世界観を伝えるための話
大地はひび割れ、命の灯は消え果た。
表面積にして地球と呼ばれた星の遥か数万倍の土地を有するこの箱庭で、無数の命が今消えようとしている。
地下からマグマが吹き出し繁栄を余さず蒸発させ、海は意思を持った濁流となりすべてを深海へと誘う。
大気が、海が、大地が、その全てを天災という人を喰らう地獄の顕現となり刻一刻と破壊を続えている。
天災とは自然災害と異なり、本来のちの再興、再生をももたらす破壊と再生の象徴ではあるが、度を過ぎた破壊、自然からの試練を乗り越えない限り再生は訪れることがない。
この大地は、今かつてないほどに激怒していた。
身じろぎ一つが大災害となるそれが、今もなお地震と津波と噴火と地割れと竜巻と大気汚染と…あらゆる天災を同時に、そしてそれらが数週間継続して起こっているという異常事態を鑑みればその憤激は推し量ることができるだろう。
だがしかし、そんな地獄でさえいまだに息をしているものがいる。
彼らはこの終わった世界でなおあがき続けているのだ。
その天災すら跳ねのける自らの意思と意地で己が心象を異界として顕現させ、この大地を駆け回る。
あるものは黄金の輝きを持った英雄だった。
民と国の繁栄を何より望んだ彼は、残る民草が今や一人残らず消滅した今となっても、心に一切の疑問なく『民草のため』と吠え、怒り、手に持つ二刀を振るい救済を望む。
あるものは赤い髪をし角を生やした覇者であった。
彼はその体からいくつもの亜人、獣、人を生やしながら、失ったすべてに涙しながらも大振りの蛮刀を振るっている。
彼の背後にはすでに山を表現して差し支えないほどの肉塊が連なり、まるで覇者を後押ししているように見える。
この二人の振るう一閃は、どちらも津波を押し返し、マグマを逆に蒸発させるほどの効果があったが、それだけではこの大地の怒りは何も変わらない。
この二人の渇望が弱いわけではない。
互いにかつてないほどの出力をもってこの天災に対峙している。
だが、それでも単純な質量の差を崩すことができないのだ。
あるところに桃色の美しい糸のような髪をたたえ、その虚ろな目で崩れ行く世界をみる少女がいた。
漂うその格は、大地が発するそれと比較し決して劣ることがない。
だが、彼女は目の前の崩壊する己が大地を見ながら動こうとしない。
まるで、もうすべてが手遅れであることを知っているかのように。
蚊が落ちるようにぽたりぽたりと彼女の周囲に集う機械と魔法の傀儡は落ちてゆく。
彼女は自らが起こした現象を、最後までその虚ろな目で見続けることだろう。
あるところに、男にしては大きな目とサラサラな髪を持ちイキッた表情をした勇者がいた。
瞳にはあきらめはなく、紡がれる言の葉は甘美で、そして軽い理想の垂れ流し。
はたから見たらその姿はとても滑稽に感じられた。
が、彼をみた人は数瞬だけこの地獄を忘れ、都合のいい現実に身をゆだねることができるだろう。
きっと幸せなままに死を迎えることができるはずで、そのことに勇者は誇りをもって地獄に対峙する。
あるところに稲妻を纏った金髪の少年がいた。
この惨状でも決してその笑みを消すことはなく、人口の明かりが消えた空を一条の光となって駆け巡る。
勇者と同じ、あきらめていない瞳をしているがその本質は大きく異なる。
正確には彼は最後まであきらめていないのではない。
最期に勝ちをつかもうとしているのだ。
その果てがなんの意味もない、破壊者にとってはただの地を這う虫の抵抗であったとしても。
己が願いを果たし、そのうえで自らに視線を向けて、『戦いたい』と、渇望した少年がその牙をもって勝ちを望む。
あるところに自分しか愛せぬ青年がいた。
その心情はいずれ消える若気の至りではあったのに、『本物』に出会ってしまった彼はその願いをもって妄想と現実の境界線を消し去った。
おそらく、大地が消滅しようとこいつだけは生き残れるだろう。
自分の妄想の世界からついぞ出ることなく、だれにも記録されることもなく
あるところに影法師がいた。
それは一つではなく、目線をずれせばいくらでも増殖する光の反転。
一切の曇りがないその暗黒は、身じろぎせずに立ち尽くす。
表情冴えうかがえないその無貌は、どこか悔しがっているように見えた。
幾星霜の果てに、願いをかなえられなかったかのように。
あるところに従者の恰好をした少女と、彼女の主と思わしき和服の小柄な少女がいた。
目の前の地獄でさえも楽しいというかのように、腰かけ、足をパタパタする様子からはどこまでも他人事のようにこの惨状を見ているように思える。
扇子で口元を隠し、お気に入りのおもちゃが壊れた瞬間を見たかのように残念そうではあるが、次の瞬間にはどうでもよさそうに別のことを考えているようだ。
従者はそんな彼女に付き従いながらも、目を閉じ主の傀儡であり続ける。
あるところに白髪の少女がいた。
その肉体から機械の部品を見え隠れさせながら、軋みをあげ、スパークする自分に頓着せずに体中に装着した全長30mの武器でできた鉄塊で空に浮かび、無数の兵器から実弾、エネルギー弾問わず、リロードも弾数制限もないというように無間の駆動を続けている。
一呼吸さえ止まることはなく、発射される破壊の銃弾。
果てに、もう破滅しかないと頭はわかっているのに彼女は駆動を止めない。
装填をカットし、チャージを短縮し、弾薬は複製し、軋む肉体を無視してどこまでも。
あるところに恩讐を背負った少女がいた。
彼女は己を持たない。
既にその母体には多くの人の思いが積み重なり、彼女のディテールは失われている。
でも、その全てを背負って彼女は刀を振るう。
けして、彼の思いを無碍にはさせないと。
たった一人の親友を思い、己が背負ったすべてを濁流としてぶつける。
恋だの愛だの、無粋なものは彼女と彼の間には存在しない。
互いを思い、理解しようとその心音に耳を傾ける。
私は彼を否定しよう。
私は彼の敵になろう。
だが、決して理解者であることをやめはしない。
気に食わないなら殴り合おうか。
だって、お前の思いを私は知りたいのだから。
あるところにその生にすべてを残された少女がいた。
親から託されたその魂は、彼女ではおよそ扱うことはできなかったはずだった。
だが、彼女は成長した。
不器用で、ひねくれて、そして優しい少年とともにすごした思い出は、今の彼女を作っている。
初めから決まっていたのだとしても、私はこの思いを偽りだとは言わせない。
努力し、決断し、血反吐をはいて手にしたすべてを、無価値だなんて言わせない。
そう、だからきっと私たちは何も間違っちゃいないんだ。
あるところに救われた青年がいた。
彼女の献身は彼の心を癒し、救ってくれた。
彼女にとってはほんの些細なことだったとしても、俺は確かに救われたのだ。
だから
君を絶対幸せにしてみせる。
そのためには、この命だって惜しくはない。
他のすべては踏み台だ。
愛しい君よ、どうか俺に君を救わせてくれ。
この地獄でさえも、腕に抱いた彼女の重みを感じながらそれだけを考えるのだ。
あるところにひねくれた目と態度をした少年がいた。
持つ鎌の一振りは、ほかのすべての生存者より多くの天災を薙ぎ払っている。
が、彼の表情は優れない。
もどかしさを思い、でもできることをやっているように見える。
くわえた煙草の煙さえ止まった空間で、時間操作は起動する。
時は永遠に止まる。
時は無限に加速する。
過去が、未来が、今が切断され、つながれる。
神の所業を行った彼は、それでもどうしようもないことがわかっているのだ。
今のままではどうしようもない。
しかし、次に進む方法がない。
何かが足りない。
何かが足りないのだ。
そう考えたのは何度目だろう。
箱庭の終焉を、どこか他人事のように見るその瞳は移す見果てぬ夢の終わりが眼下に写る。
反省点はいくらでもあった。
アドリブもいくらでもあった。
なら次につなげられるか?
いや、それは不可能だ。
彼の努力のすべては、だれにも伝わることなくこの世界の終焉と共に消え去る。
彼はタイムリープができるわけでも時間遡行ができるわけでもない。
そんなことをしたら意味がないのだ。
気が遠くなる。
自分が何か間違っていたのか?
根本で勘違いをしているのか?
そんな疑問はそれこそいくらでも考えた。
それでも走り切った結果がこの地獄だ。
彼らは決してこの天災を止められないわけではない。
大地が有する格に相当、越える人物もいるのだ。
しかし、彼を殺すことはできない。
彼を殺すことは、踏みしめる大地の終焉を示す。
その地獄の真ん中で、人型をかろうじて残す一人の亡骸のそばで天に向かって号哭する彼女こそがその地獄の窯を開いた張本人。
──返せ
──帰せ
──還せ
──カエセ
──カエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセ
全部奪った。
それでも足りない。
私はただ、貸したものを返してもらいたいだけなのに。
役者はまだ残っている。
力も、意思も砕けていない。
だが、舞台が終焉を迎えた。
この結果を誰にも伝えられることはなく。
積み上げた思いは、何も意味をなさずに消えゆくのみ。
もう後戻りはできない。
誰にも看取られることなく、だれにも止められることなく。
いとも簡単に運命操作者は舞台の幕を閉じた。
いつものように。
記録として知っている。
何もできずに幕を閉じたかつてのように。
積み上げられた『失敗』の一山になり果てた。
いつかきっと、うまくいくはずだと信じていたい。
だれとも知れないその願いをもってして、ここに運命は終息する。
『超越せよ、我が因子─』
大体の主要キャラは出した
あとはそこまで書ききれるか