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変化

主人公、ヒロインの関係性についてのお話

宗介と少女は次回

紅い月をみた。

死者は絡みつくようにその眩き星に幾多もの手を伸ばす。

『ワスレナイデ』

『マダ、マダダ』

『ワタシノイキテキタイミヲ』

『ダレカ』

『ダレデモイイカラ』

声が聞こえる。

それは怨嗟?懇願?悲嘆にくれつつもそれでも願う死者の声。

死に絶え、そして消えるはずのその魂とでもいえるものを吸い取られ、死に切ることもできなかった哀れなものたち。

そんな彼らが、数万、数十万、数百万

棺桶に、そしてあの血の中に眠っている。

生きるため、生かすため、愛する人を人ならざる者に変えたかの日。

生まれた原初の夜の姫はその命をつなぐために多くの命を吸った。

亜人、と言われる存在の中でも圧倒的な彼女の力はおよその相手を吸い殺し屍山血河を己が体内に積み上げる。

何度も何度も、何重にも積み重なったそれはそのまま腐って消えたか?

否、彼らは消えなかった。

彼女に取り込まれてなお、彼らは『意思』を持ち続けた。

無念

まだ私たちは終わっていないという生きぎたなくあがくその思い

その思いは年月を重ねるごとに強くなってゆく

そして、日ごと日ごとに彼女を蝕む。

一定量は彼女の意志によって彼らの願いを制御し、己が力として振るうこともできた。

だが、それを続ければいずれその天秤は傾きを返る。

最初から分かっていた結末。

自分が生きるために他者を喰らってきた夜の姫は喰らってきた彼らの意志の集合体によっていつか自らを乗っ取られる。

彼女はそれを寿命だといった。

彼は悲しみ、打開策を探したが、彼は超越者であったゆえに表面上の解決では納得できなかった。

彼女を生きながらえさせることはできる。

しかし、その結果どうなるか。

生き残った彼女は本物か。

そういった、本来なら納得できる部分が引っ掛かりどうすることもできなかった。

彼女を本質的に生きながらえさせることはもう不可能だとわかった。

ゆえに、原初の夜の姫は生を閉じた。

彼は、愛した彼女の願いを引き取り生来の役割すら放棄しその時を待つことにした。

こうして最強にして最美の亜人、吸血鬼は死んだ。

血を吸い、相手の魂を自らの血の中に溶かし込みその総群を己が意志で率い一人で大量の結果を残す能力。

重ねた年月に比例し強大になる能力。

その果てに自分が乗っ取られるとわかっていても生にしがみつく亜人。

他人の輝きをまるで自分のもののように。

だってそう

月の輝きは、ほかの光によって現れるのだから。

たとえ、その輝きが紅かろうと。


**********


朝を迎え、すぐに行動を開始した。

後片付けをし、ユリアを背負い『影』に示された方角へ歩を進める。

あいつの言葉に従うのは癪だが、ああいった裏のある手合いはまともに相手するのは避けたほうがいい。

どういった方向になろうと、どういった行動をしようと自分の掌から出ることはない。

そう確信しているからこそああいった態度がとれる。

厄介この上ないが、しばらくは利用できることも確かだった。

時間加速で早くいきたいが、背負ったユリアが無事かもわからないし異能は信頼できない。

あの不自然な覚醒。

自分でもわかっているが、あの『詠唱』後の異能は今の俺には不自然なほど強力すぎた。

まるでレベルが、経験値が足りないのに高ランク技を使っている感覚。

また一つ、自分の謎を自覚した。

やはりこの身は潔白にあらず。

何かがある。

誰かの思惑があり、その影響で俺は知らぬ間に変容している。

舞台、機界を脱したのにあの灰色の残り香が消えることなくわが身から、どうしようもなく匂ってくる。

不愉快だが我慢するしかない。

なまじ異能を知ってしまったゆえに心配事が増えた。

(全く…異能なんてないほうがいいんだけどな…)


林を抜けた。

辺りにおかしなところが見当たらないため、この林はあの剣士との戦いでえぐられた地形からはかなり離れた場所だったようだ。

剣士の追撃も気になるが、急いでも仕方ない。

異能の使用は最低限にしないと。

彼女がいる中で三回目の気絶なんてできない。

特に

(詠唱はもう使えないな…)

無限速と時間停止の理はすさまじく強力だがその使用後のリスクが高すぎて、さらに

正体不明のため寄りかかってはいられない。

しかし、

(だが、収穫はあった)

そう、あの高レベルの『時間操作』。

複雑で出力も高いあの異能は指針になる。

今は素面ではまともに使えない『時間操作』も、あの感覚を指針にしていけば非才の自身でもまだ見つけられるものがあると。

無論、『影』が言ったような自分と同じ強さの相手と相対した場合、そうもいっていられないだろう。

きっと、その時は『詠唱』の使用もためらわない。

そもそも、この『時間操作』ですら借り物。

多くの命を吸ってできた悪魔の機械。

これをつかうことすらしたくはない。

だが、そうも言ってられない。

折り合いをつけないといけない。

現状はままならず、未来は未定、過去はぬぐえず。

それでも、前に進むことは止めない。

もう俺は止まらない。


林を抜けしばらくしてから道を見た。

獣道ではない、文明を感じる『人が開拓した』道。

(ひとまず、安心か…)

嘘だとは思っていなかったが、目にしたとたんやはり安心できた。

気合を入れ彼女を背負いなおした。

「うう…ん…ん」

「お?」

そうやら今の揺さぶりで目が覚めかけているようだ。

さすがに彼女の姿は隠さないとならない(この容姿がまともだとは思えない)ため、道を遠巻きに発見しただけだったし、もとよりそのつもりだった。

すこし引き返し、数分かけて辺りを確認してから彼女を背から降ろす。

すこしぼおっとしていたようだったが、少しすると覚醒しその紅くきれいな目をあたりにキョロキョロさせ始める。

「ここ…どこ?」

「知らん。少なくともあの洞窟や樹海からはかなり遠い。それより、だ。お前怪我はないか?」

「ん…大丈夫、なんともないよ」

「そうか」

久方ぶりな気がする彼女との会話だが不思議と懐かしさより違和感を覚える。

(ん?なにか違う?)

そう考え観察する。

ユリアはいきなり黙って自分をまじまじを観察してきた託羽を不思議そうに思ったのか、きょとんとしながら首を少しかしげている。

(やはり)

そして託羽は確信する。

その変化は喜ばしいことで、そして『心当たりがある』変化だった。

彼女に聞きたいこと、特にあの血の防衛機構についての話もしたかったし、人里をいざ訪れるとなった今一度情報確認をしたかった。


「託羽?どうしたの?」

「どうしたの、はこっちのセリフだ。変わりすぎだろお前…」

寝ぼけから完全に目覚めた彼女と話せばその変化は非常に顕著だった。

「?」

「ったく…やりづらい」

「そうそう、託羽。あのね、わたしなんとなく血の使い方わかった気がするの。これで少しはあなたの役に立てるようになると思うよ」

見ての、聞いての通り。

(感情の取得、というより封印の一部解除、か…)

おそらく原因はあの白の剣士による傷。

あの弱体化の光を彼女はその見て受けた。

一太刀も喰らっていない俺でさえ弱体化したのに、彼女は投擲された刃をその身に受けた。

その結果、おそらく彼女を縛っていたナニカが『浄化』された。

彼女はその血の中に棺をしまっており、棺中にあるものを『みんな』といった。

察するに、彼女は何らかの原因、対策としてその感情を封印されていたのだろう。

その封印をあの一刺しによって解除された。

(だからこそのあのダウナー系だったんだろうな)

感情はなくはないが、どちらかといえば言う通りにし学習する人形のようだった。

それでも利用するには便利だったが、こうして感情を強く持ってくれたのならより利用できる幅が生まれる。

(封印されていた理由、ってのはあるんだろうがそれを探る方法も理由もない)

ひとまずこの変化は吉。

けしてハイテンションというわけではないが、人並みに、キャラ並みに話すようになった彼女の話を聞きながら再度、人と会った時の対応について話し合う。

前に話した時よりはやりやすい。

彼女の背格好、服装はどうしても目立つが変えもない。

だが彼女は

「なら、私は血に溶けてあなたに張り付いてるよ」

そう言ってその肉体を血液に変化させ、俺に絡みつく。

不思議なことに体積は小さくなった。

いかにもなファンタジーに一瞬閉口しかけるが、『今の彼女は吸血鬼の権能を使えるようになった、思い出した』ということだろう。

そこは素直に喜べる。

「んーどんな形になったらいい?」

「アクセサリや布みたいになれるならそれがいい」

「ああ、なるほどそれはいいね」

腕にとぐろ巻いている紅い不定形のそれに話かけながらも、託羽は思う。


これから、否応なく彼女と行く先を一とすることになろう。

これは彼が託され、ほかに手段があったわけではないとはいえそれを良しとした。

利用しようとするその魂胆こそあれど、二月という時分を共に生き、死線をくぐった仲。

情はある。

それは人として当然だ。

同時に怖くもある。

自分のことさえわからぬのに、他者に目を向けている場合かと。

しかし、いやだからこそ。

二人でなら乗り越えられる。

陳腐な言葉。

情欲、愛欲の類ではない。

この二人は、今共に路頭に迷っている。

問題しかない。

何もわからぬ。

でも、それは隣に立つ彼女も同じ。

ならばいいさ。

縋ってやる。

利用するのだろう?

せいぜい傷の舐めあいでもしようか。

思う存分寄りかかってやる。

だから、もうお前の前で無様に倒れたりはせん。

厄ネタ爆弾であるお前『俺と同じ異端』ゆえに。

歪で、どうしようもなく人生に積みがかかってるからこそ。

同じくらい落ちぶれている相手だからこそ


お前は信頼できる


剣劇、理の激突の末宗介に抱いたものとはまた別の信頼。

底辺同士でみっともなくたむろしようか。


「ユリア、とりあえず腹減っただろ?飯にするか」

「おお、ありがとう託羽」

「俺も見たことない動物ばっかでな。流石に食えないから残ってるのは少し余った非常食だけだがな。何とか人里に行って食料を位相空間に叩き込まないと…」

「なるほどね、だが気を付けてね託羽はいろいろ違うから」

「わかってるよ、そんなこと」


だから死んでくれるな。


(俺にはお前が必要だ)


主人公:依存先をユリアに定めこのヤバい状況でも狂わないようにした。こういった判断ができる人物ではあるものの、そもそも彼一人では洞窟生活時点でリタイアしている。そもそも依存はしていた。今回、それを『自分からしたものだ』として自分を正当化した。

ヒロイン:属性変化。ダウナー、人形要素がなくなり感情取得、仲間としてはかなり心強くなる。それが主人公の依存意識のきっかけになる。


次回、白の孤独

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