暴走
襲撃者強すぎ、殺意高くて最強主人公殺しそうなの困るんだけど…
弱体能力が初戦って能力バトルの見栄えとして駄目だと思う
俺は彼女に助けられた。
何もなかった俺を、彼女は助けてくれたんだ。
彼女は幽閉されていた。
自分の意志ではこの白い山の頂上から出れないのだと、彼女は苦笑していった。
その笑顔は何かをあきらめてしまっているようだった。
彼女はここから出ることができない。
会話の端々から彼女が恐ろしい年月をここで過ごしていたことがわかる。
かつてはここから出れると信じていた時もあったのかもしれない。
だが、そんな希望の炎すら、莫大な時間が消し去ってしまったのだろう。
(話し相手ができてとてもうれしいわ)
そう言って笑ってくれた彼女の笑顔は本物だった。
俺が彼女を『可哀そう』なんて思うことは彼女の積み上げてきた年月を愚弄することになるだろう。
俺は彼女の笑顔になにも返せなかった。
俺はせめて今の彼女に少しでも幸せになってもらおうと、それが俺のできる唯一の恩返しだろうと思った。
彼女は俺の話をいつも興味深そうに聞いてくれた。
時折俺が帰りたがらないか気にしているようだったが、俺は彼女に恩を返すまでここから離れるつもりはなかった。
高校生だった俺は、突如飛ばされた異世界で俺を拾ってくれた彼女に感謝していたのだ。
何かできないことがないかとできうる限りの努力はしたが、それはかなうことはなかった。
そんな俺を彼女はうれしそうに見ていた。
俺は彼女のため、自分ができることを躍起になって探していた。
だから気が付くことができなかった。
彼女は弱っていた。
何も知らない俺に、この世界のことを教えてくれた彼女はその意識を眠らせておかねばならなかった。
でも、俺は彼女が寝ているのを見たことがない。
その兆候はあったはずなのに俺はその瞬間まで気が付くことができなかった。
これは六年前の記憶
あの日、影に助けられた俺は内に彼女を宿し、刀を振るう。
この世界は量がすべてだ。
質量
時間
人数
どれだけの量を持つかがすべてで、一人の天才など塵芥でしかない。
自分の才覚なんて信じない。
勝たねばならない。
そのためなら最善を尽くそう。
非凡な俺でも、せめて食らいつけるように。
俺の刀はそのためのものだ。
ある日、俺の中の彼女が急激に弱ったのを感じた。
そしてその原因が彼女の兄妹の影響だということはすぐに分かった。
誰かがあいつを倒したんだ。
あの『黒龍』を。
視界が真っ白になった気がした。
彼女を苦しませる奴がいる。
そいつに悪意がなかろうと、知ったことではない。
殺しに行こう。
彼女がこれ以上苦しまないために。
それが解決策になるのかはわからないけど。
やれることは全部やろうと決めたから。
**********
彼女に刺さった刀は朽ちるように消滅し、そのせいで出血はよりひどいものになった。
とっさにユリアのもとに駆け寄るが予見していたように空から光が降ってくる。
「っシ!」
鎌を振るって空間を叩き切る。
一撃で揺らいだ空間は障壁となり光の暴力を打ち消した。
「おい!ユリア!返事をしろ!」
彼女を抱えて走り出す。
時間加速は無意識のうちに発動していた。
後ろからの砲撃が来るが、俺は加速減速によって狙いをそらし、よけきれない攻撃は撃ち落としてそのまま走り続けた。
(第一拠点は破棄!第二拠点まで逃げたいんだけど…っ!)
後ろを振り向かず鎌で迫る砲撃を叩き落とす。
(これ、振り切れないな!)
辺りはきれいに何もない。
隠れることができないのに相手は制空権を持っている。
そして俺の時間加速はなぜか出力が上がらない。
(どう考えてもあいつのせいだよな…)
心なしか、戦闘を始める前より能力不調がひどくなっている。
あいつとこれ以上戦うのは危険、なのだが逃げることもできない。
樹海に入ろうとしてもあいつは俺たちの進行ルートの木々を前もって消滅させてくるので意味がない。
加速も、倍率100以下にまで出力は落ちてるし、なにより俺は飛べない。
取れる手段皆無。
出血がひどくなるユリアを抱えたままいつか捕まるのが確定した哀れな獲物。
それが今の俺の現状だった。
(え?)
それに気が付いたのは現状に絶望しかけていた時。
気が付いてしまった。
ユリアから流れている血液量が異常だということに
(っ!)
後ろをとっさに振り返ると、血の海ができていた。
明らかに人の容積を超える血液量。
俺が走ってきた道は血の道となっている。
そしてその瞬間。
その血液が動き出した。
今までただの血液だと思っていたそれが、意思を持ったかのように形状を針のように変え空へと飛んで行ったのだ。
襲撃者は光と刀でそれに対処するが、血の攻撃は止まない。
血の道が血の海となり、今やその量は地面を覆いつくさんとしていた。
「っと!俺もかよ!」
どうやらこの血の攻撃は無差別に狙っているらしい。
原因であろうユリアをみて、とっさに彼女から手を放す。
地面に放り出された彼女は、しかし叩きつけられることなく触手のような形となった血で受け止められた。
そのまま虚ろな目を開き、言葉を紡ぐ。
「…緊急事態と判断、『血脈封印』第一段階を解除」
そこからこぼれる音は、ここ二カ月彼女から聞いたものではなく。
「『魂濁血脈』励起」
無機質で
「血液操作をもって、敵戦力、殲滅に入ります」
でも、どこか慈愛を感じる声だった。
起きたことは、血の濁流による殲滅。
先ほど打ち上げていた血は、襲撃者を囲うように空中でドーム状の壁を作り出し、辺り一帯を覆った血が刃に変形し、飛び出し空間を覆う。
襲撃者とは違った悪意の攻撃。
よける場所のない数の暴力での攻撃に、俺と襲撃者は対応する。
俺は時間障壁
彼も何とかしていたが、すぐにこの攻撃が自分たちを殺すまで続くことを理解したのか。
ユリアに向かって急接近してくる。
近づかないと火力が出ないのだろう。
俺も彼女を止めようと彼女に近づく。
しかしユリアは血の刃に守られ、まるで棺のように血の中に沈んでいった。
襲撃者は今まで見たことのないような強力な白い光で棺に攻撃するがあまり意味を成していないようだった。
互いに、防御が破られるのは時間の問題だった。
(一応、最後の手段はある…)
だがそれは危険、極力取りたくはない手段だった。
薬物使用よりも取りたくはない。
機界で教えられた『時間操作』の出力の上昇、新たな使い方を得る。
『詠唱』は。
(…今はこいつをどうにかしよう。幸いおりてきてくれたんだしな)
ユリアの声は『敵戦力、殲滅』といったのだ。
襲撃者を倒せば、この攻撃は止む、かもしれない。
それがわかってるから襲撃者も、ユリアをたおして解除を試みたのだろう。
今、この状況は俺も危険だがより襲撃者のほうが危険だ。
俺の戦意に気が付いたのか、血の刃が無数に飛び交う空間で視線が交錯する。
俺がこの空間で戦える時間は1分ないだろう。
いつもの時間加速を使って接近戦を今度は俺から挑む。
彼も逃げてはいつかやられることが分かったのだろう。
素直に接近戦に応じてくる。
こいつからしても、この空間から出るために自分の邪魔をする俺を倒すことは重要だと感じたのだろう。
俺の袈裟切りはたやすく彼にそらされる。
先ほども使われた『斬り払い』。
時間切断を付与すればおそらく対策になるのだろうが、そんな出力に余裕はない。
今だって弱体化は刻一刻と進んでいるのだ。
空間からの攻撃関係なく、こいつの相手は短期決戦でなければならない。
そらしたながれでの斬撃。
先ほども見た、全く同じ構えからの攻撃。
だが、避けれない。
必死に鎌を引き寄せるが、この武器は重いし長いし使いずらいことこの上ない。
まず刃のついてる方向がふざけてる。
さすがは農具。
(馬鹿言ってられないんだけどな)
刀もかなりの欠陥武器だが、まだ開発思想が武器であるだけこっちよりかはましだ。
リーチはこちらが長いが、こと接近されるとこちらがはるかに不利になる。
棒術で刃を防御しながら一瞬のスキをうかがう。
しかし、相手は決まった動きをなんども組み合わせを変えて行うだけで、それゆえにスキがない。
同格相手ならまだしも、格下の武才相手には有効な手段だ。
(嗚呼、なるほど…)
こいつの戦い方が何となくわかった。
こいつの戦い方は『相手が格下であってはじめて有利になる』ものだ。
武才は持っている。
俺なんかとは比べ物にならんだろう。
しかしこいつの決まった、そして完成された動きは上位者相手ではおそらく小細工以外の何物でもない。
一蹴されて終わる。
だからこその『弱体化』なのだ。
強制的に強者を自分の下へと持っていく。
なるほど道理、素晴らしい戦い方だ。
(それをいま受けているのが俺でなければの話、だが!)
そもそも俺は武才はないし、頼みの時間操作も今や本来の1割以下の出力だ。
近接戦を挑んだはいいものの勝てるビジョンが思い浮かばない。
「っち!」
思考加速
体感時間を増やし、相手の動きのわずかなスキを見つけようをする。
が、駄目。
一度見た攻撃は二度目では対策される。
時間操作をしようと、結局攻撃には鎌、俺の武才だよりになるのが問題だった。
経験が、才能が、努力が、心意気が違う。
はなっから勝てる相手ではなく、俺の敗北は約束されていた。
「…」
時間障壁維持時間残り10秒を切った。
信じられるものがなくなった。
頼れるものがほかになくなった。
俺ができることは全部やった。
近接戦を再開してから弱体化がさらに進み、もう1パーセントの出力も出ない。
薬も切れかかっている。
そうなってはいよいよおしまいだ。
信じれるものは、縋れるものはもう一つしかなかった。
これに身を任せるのは怖かったけど、きっかけがあきらめではあるけど
これが本当に最後の手段。
今、初めて
俺は自分の能力を信じよう
『覚醒せよ、我が因子―時の流れは残酷に』
なんか文圧うすいので一章終わったら大規模かさまし作業します
裏設定
一応、襲撃者の能力で薬の効果すら薄くなってます