文化祭Ⅲ
特にこれといって妙案も出ず、立ちふさがる壁の大きさにある種辟易とした感情を抱きながらも議論の成り行きを見守り、傍観していると、窓の外に向かいの校舎――教室棟の一階を歩く人影が見えた。
「あれって、本真先生じゃないか」
遠目でしかも三階から見下ろす形なので断定とまではいかないが、茶髪の女性は高校ではあまり見かけない。生徒が茶髪にすることは禁止されているし、おそらくは先生と考えていいだろう。女性で先生と言えば、この高校には数えるほどしかいないと思われるし、彼女が本真先生である可能性は割と高いのではと考えられる。
そのまま教室棟一階の窓際を歩く彼女を目で追っていると、突然彼女は窓に、つまり俺たちに背を向ける形で、窓から離れ、俺の視界から消えていった。
「あそこは――」
確かあそこは――。
「保健室だね」
「保健室に何の用だろう」
秋月を含む他の三人もいつの間にか俺の近くに寄って来て、窓から見える本真先生を目で追っていたようだ。
どうして本真先生は保健室に入っていったのだろう。怪我をした生徒を連れて行ったのか。でも、彼女の隣に誰かがいるようには見えなかったし。もし仮に誰かがいたとしたら、あれほど急に窓際から離れることは隣の生徒とぶつかることになってしまうだろう。後他に考えられるのは、本真先生本人が軽い怪我をしたから保健室に行ったという可能性。
「誰か保健室にいる生徒の見舞いに来たっていう可能性もあると思うわ。見舞いっていう言い方が正しいかは置いておいて」
確かに冬川の言う可能性も十分に考えられる。ということは、可能性としては大きく三つか。
「というか、別に本真先生が保健室に何の用事があったかなんて、正直どうでもよくないか」
始めに本真先生を見つけた俺が言うのも変だが、実際のところ本真先生が保健室に何の用事で言っていたのかなんて、考える必要性が全くない気がしてきた。
三人とも俺の言葉に不意を突かれたようで、しばし沈黙が流れた。
「確かに」
重なる三人の声が静かな部室の空気を振動させる。その振動エネルギーが部屋の空気を温めたのか、弛緩した雰囲気が戻ってきた。
「最近、ミステリー要素の多い現実生活を送ってきたから、ついつい目の前に気になることがあると、なぜだろうと考える癖がついてしまったみたい。習慣って怖いね」
最後の着地点がぶっ飛んでいる気はしたが、というより、着地点に無事着陸できていないと感じられたが、秋月の前半の意見には、それこそ再び「確かに」という言葉を導入したい俺たち三人だった。




