夏休みXIV
連続投稿しています。
夏休み編、終了です。最後の締めが納得いきません。後日改編するかもしれません。
修学旅行を機に、冬川は彼女たち京都女子のメンバーに対する態度を変えた。そして、その修学旅行で彼女たちが見つけた秘密の隠れ家に、今回冬川がいた。だから、俺は当然のように修学旅行で起きた何らかの出来事が、彼女と彼女たちの間に溝をつくってしまったのだと思っていた――この場にいた冬川以外の全員がそう思っていたに違いないし、そこを疑いもしていなかっただろう。
「修学旅行で見つけた、この秘密の隠れ家。実は私、それ以前から知っていたの」
しかし、それ以前、過去の出来事が関係しているだなんて思いもしなかった。修学旅行を起点とした物語ではなく、それよりも昔を始まりとした物語。
「初めてこの場所に来たのは、私が小学校低学年の頃だったかな。祖父母の家がこの近くで、よく生身天満宮に家族で参拝しに来ていた。あるとき、祖母と二人で生身天満宮に来る機会があったの。参拝が終わって帰ろうかというときに、祖母がこの秘密の隠れ家に通じる道を教えてくれて、一緒にここまで来たんだ。どうして祖母がこの場所を私に教えてくれたのか、今となってはもうわからない。祖母が何か言ってくれた覚えもないし、そもそも私はそんなことを聞かなかったし。今みたいに、あまりにも、きれいで輝いていて、言葉も出なかった」
木々が覆う空。わずかな隙間から見える星々。上を見上げる冬川の瞳にどんな光景が映っているのかはわからない。彼女は視線を俺たちの方へと向ける。
「この場所は、私と祖母の思い出の場所。この思い出の場所を失いたくなかった。私が疎遠になれば、めぐみや美穂たちがこの場所に来ることはもう二度となくなるんじゃないかと思った。この場所は、私たちの、秘密の隠れ家だから。一人でも欠ければ、《私たちの》場所ではなくなるから」
「……私たちは、凛の思い出の場所を奪おうだなんて――」
高坂の言葉は最後まで語られない。
「わかってる! それはわかってるよ。私が何も言ってなかったんだから。だけど、言うことなんてできなかった。ここが思い出の場所だって言ったら、絶対みんな私のことを気にかけて、この場所に来るのをやめてしまう。……この場所は私だけのものじゃない。私には、めぐみや美穂たちがここに来るのを強制的に制止する権利なんてない。それに、もしめぐみたちがこの場所を気に入って、足繁く訪ねるようになったとしても、私がその中にいなければ、それでいいと思った」
いつの間にか冬川は下を向いていた。彼女の表情は見えない。表情からは何も読めない。
「私と祖母の思い出の場所が、めぐみや美穂たちとの思い出の場所に塗り替えられてしまうのが、恐かったの」
表情が見えなくとも、辛く苦しい気持ちを抱いていることがひしひしと伝わってくる。
思い出が塗り替えられることを恐れ、これからより深く綿密に紡がれるはずだった彼女たちとの思い出をふいにしてしまった冬川。祖母との思い出の場所を守り、高坂や倉敷たちとこれからの思い出をつくっていく――そんな未来もあったのではないかと、どうしても感じてしまう。今の冬川もそう感じているからこそ、顔を上げた冬川は、こんなにも後悔に満ちた表情を浮かべているのだろう。
足にこつんと何かが当たる感触がした。拾ってみると、それは手にすっぽりとはまる大きさをした木造の球体だった。年月の経過のためか、表面は薄く汚れてしまっている。
「あ、それ、祖母の家でよく遊んでた――けん玉」
冬川に渡す。そのけん玉を彼女はじっと見つめると、その場で泣き崩れてしまった。
高坂と倉敷が駆け寄り、彼女を支える。
彼女の手から零れ落ちたけん玉を拾い上げると、そこにはこう書かれていた。
『りんの心休まる場所になりますように』
今までの彼女にとっては、ここは心休まる場所ではなかったかもしれない。祖母と親友との板挟みに合って苦しんでいたのかもしれない。けれど、これからは――。
両脇を支えられて歩く冬川の後ろ姿は、輝きに満ちた晴れやかさを宿していた。
花火会場に戻ると、晴人から小言を言われた。どうやら俺たちが途中で抜けたため、花火終了後の観客誘導が大変だったらしい。《晴人は花火見たんだろ。俺たちは見れなかったんだ。これでトントンじゃないか》と煙に巻こうとしたが、《そんなの関係ない》と一蹴されてしまった。些事だが、これを今回のオチとしておこう。




