夏休みⅠ
夏休み編、始まります。
六 夏休み
「明日は――何の日でしょう?」
部室に入って来るや否や、椅子に座る俺、晴人、冬川に人差し指を向けてくる秋月。
「……明日は国民的な記念日ではなかったと思うが」
俺は文庫本に目を落としたまま、そっけなく答える。
「もう! 夏休みだよ! な・つ・や・す・み!」
秋月はそう言うと、いつもの自身の定位置の席に座った。
入部から三ヶ月。俺たち四人が座る席は固定化されていた。相談部で過ごす時間が俺たちの当たり前になりつつあることを改めて実感する。
「……夏休みがどうかしたのか」
聞かれるのを待ってましてと言わんばかりの表情で秋月は窓の外を指さす。
「合宿に行こう!」
合宿……それはまたいきなりだな。相談部が合宿に行って何するんだ……。
「それはいいね。合宿だなんて高校生らしいじゃないか」
晴人が嬉々とした調子で言う。
「ちょっと待て。相談部が合宿に行ってどうするんだ。体育会系の部活が合宿をするというのはよく聞くが、文化系の部活が合宿だなんてめったに聞かないぞ。天文部が星を見に合宿に行くというのならばわかるが、相談部は別にわざわざ合宿などする必要はないだろう」
本音を言えば、遠出するのが面倒なだけだが、そんなことを言っても相手にされないだろう。
「そうですね。合宿をするには申請書を学校に提出する必要があって、そこに活動目的を書かなければなりません」
生徒会役員である冬川は学校の仕組みについては当然のように詳しいようだ。
「目的だって! そんなの決まってるじゃないか! 《部員間の親睦を深める》だよ。体育会系にしたって、別にわざわざ遠出して練習する必要がない部活だってたくさんある。例えば屋内コートを使うような部活――例えば、バスケ部とかバドミントン部だって、どこの屋内でやろうと一緒じゃないか。わざわざ遠くの体育館でやる必要なんてない――合宿の目的なんて、非日常で過ごしたというその経験を共有することだよ。それで互いの親睦を深めることにつながる――合宿をする目的は究極的にはこれじゃないのかい?」
多分に晴人の主観が入っていると思われるが――屋内コートを使う部活だって、学校では他の部活との兼ね合いがあって、普段はあまりコートを使えない。しかし、合宿では貸切れば使い放題で練習がたくさんできるといったようなメリットもあるだろう――確かに言われてみれば、合宿の大きな目的の一つに、部員間の仲を深めるということもあるだろうと思えてくる。
「……目的がそうであるとして、合宿で何をするんだ。普段はこうして暇をもてあそんでいる俺たち相談部が」
何かひらめいたことがあるらしく、握りこぶしと手のひらを打ち合わせる晴人。
「そうだ、それだよ! 普段は依頼がほとんど来ない。だから、合宿では依頼を解決するために活動する――これが一つの目的になるじゃないか!」
合宿で依頼を解決するって、具体的にはどうするつもりなんだ。
「それはね……どうしようか」
とぼけたふりをしているな、晴人のやつ。
「何か考えはないのか、歩くwikiさんよ」
ふむ、そう言われては検索してみるしかあるまい、などとつぶやきながら顎に手を当て、空を見上げる晴人――正確には空ではな部室の天井だが。
「ボランティア! ボランティア活動をするっていうのはどうかな?」
晴人がとぼけたふりをしている間に、秋月が席を立ちあがった。
「それは名案だと思います。ボランティアは相談部の活動目的と似ています。それに、ボランティアということで申請すれば、学校側も無下に却下したりはできないでしょうし」
冬川は秋月の提案に賛成のようだ。
「でしょ! よし、じゃあ早速何のボランティアをするか決めよう!」
秋月はそう言うと、冬川に近づき、スマホを見せ合いながら、どんなボランティアに行くのか相談し始めた。
僕もそう言おうと思ってたのに――横からそんなぼやきが聞こえてきたが、彼女たちの耳に届きはしなかった。




