初相談Ⅺ
ようやく初相談が終わります。
「このみ先輩は、新入生の投票用紙を集計する役目を担っていたんだと思う。実際の投票結果を偽って、部員たちに報告することができる立場を利用したんだ」
本当の集計結果を知っている人物が、このみ先輩以外にいる可能性は低い。できるだけ情報が漏洩するリスクは避けるはずだろうし。それに、他の人も関わっているのだとすれば、その人たちと一緒に雨宮先生に相談しに行ったはずだ――さっきのこのみ先輩の雰囲気から察するに、一人で抱え込んでいた可能性が高いと考えられる。
「うーん、普通、投票用紙の結果を他の人が確かめるんじゃないかな? 全員フルートだなんて明らか不自然な現象だし」
確かに、俺たちからすれば、秋月のその疑問が生じるのがもっともかもしれないと一見感じてしまう。しかし――。
「それは、俺たち外部の人間から見たときの意見に過ぎない。想像してみろ――もし、自分が吹奏楽部の部員で、仮に二年生だとしても、一年間ともに部活動を一緒に頑張ってきたメンバーに向かって、《え、本当に? 投票用紙見せてよ》なんて、相手を疑うような真似ができると思うか? もし仮に言うとしても、《え、本当に?》ぐらいの確認程度に済ませるとは思わないか」
仲がよくなるほど、相手を疑うようなことはしなくなる。もし疑ったとしても、それを表に出さず、自身の内に留めておくようにするだろう。
「……確かに、仲のいい友達を疑うようなことはしたくない、かも」
特に女子の場合だと、男子に比べて友達意識や仲間意識といったつながりが強いのではないだろうか――これは本当に想像に過ぎないのだが。
「じゃあ、投票用紙は、今このみ先輩が持っているってことかな」
「……ああ、おそらく、この後吹奏楽部では、本当の投票結果が公表されることになるのだと思う」
秋雨先輩もいることだし、大丈夫だろう。後のことは、それこそ吹奏楽部内の問題だ――俺たち相談部員はあくまで外の人なのだから。
話は終わりとばかりに、俺はちらりと時計に目をやる――もう下校時刻だ。今日は長い一日だった。
席を立ち、空いている窓を閉めようと立ち上がる。
このみ先輩が眺めていた方角へと視線をやる。
――そこには、たがいに寄り添いながら歩く、二人の女子生徒の姿があった。