小隊長殿の艦内探検(後編)
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*** 場所は再び 赤城改・第一食堂へ戻る ***
「毎日お菓子が作れるのは有難いんですけど
偉い人が視察に来ては おみやげに羊羹を持っていかれるんですよ」
「まあまあまあ、大勢の人が建造に関わったでしょうから 大目に・・・ね」
夏籐 締です
食事しながら間宮から来た菓子職人さんと雑談しとったんですが
乗組員が食べる分のお菓子を 偉い人たちが持って行きはるのを嘆いておいでですけど
来たくても来られない方も いらっしゃるんじゃないかな・・・・・
そういった人達の事を考えると
一概に おみやげが けしからんとは 言えないんじゃないかな
カレーを食べ終わった俺達は 菓子職人さんを なだめていた。
*** 赤城改・道場 ***
ワイ、岡 鹿男は 道場と呼ばれるところに来ていた。
部屋の大きさは 天井の低い体育館とでも思えばええかな
床には一面 畳が敷かれている
そんな部屋の中央に 歳は15,6歳くらいやろか?
華奢で 男なんだか女なんだか よう分からん御仁が 一人 瞑想しとる
傍らには日本刀らしい 刀が一振り置いてある
そして御仁の2メートル先には・・・・H鋼かいな?
『H』字型の断面をした 鋼鉄製の柱が5本 立ててある
まさかアレ切るつもりなんか・・・
そして突然、立ち上がり
「たあぁぁぁーーーー」
掛け声とともに刀を抜いて 横に薙ぎ払う
・・・しばし静寂
鋼鉄製の柱には 何も変化はあらへん。
なんや恰好だけかいな。
ワイはそう思った。5秒後までは
刀を鞘に戻して 刀身が完全に鞘の中に納まると
ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン・・・・・ゴロン ドスーーン
鋼鉄製の柱が 5本とも 全て切断され 倒れる。断面も綺麗や
パチパチパチパチ
おおっ 思わず拍手してもうたがな
居合抜きの達人が こちらに気付いて スタスタと歩み寄ってくる
しかし刀で鋼鉄は切れんやろ・・・・・手品とか、
あらかじめ切れといたのを置いといただけとかな?
そうこう考えとる間に 御仁が 目の前に来た。開口一番
「手品じゃない」
御仁は ぼそっと それだけ言うと その場を去ろうとする
「ちょっとまちーー」
刀を持っていない方の手を握り 引き留める。
なんや女の子みたいな手やなぁ
しかし声は微妙に男の声みたいやし
なんかやりにくいなぁ 思いつつ質問をぶつけてみる
「その刀 見せてもろてもええか?」
そう言うと 御仁は コクンと頷いて 片手でズイっと日本刀を差しだしてきた
ワイは右手を伸ばして 受け取る
受け取った瞬間、
「重たっ!」
なんやのコレッ! 一般的な日本刀が 1.5kgなのに
この御仁の日本刀は少なく見積もっても 5kgあるんじゃないやろか?
片手で持とうとした俺は 余りの重さに落としそうになったんで
あわてて両手で抱えた
その様子を見ていた御仁が してやったり みたいな感じでニコニコしとる
「ソレ、ボクの鱗から作った。自作。」
鱗? この御仁 人じゃないんか?
「ボク ドラゴン。名前・トドロキ」
いちいち仕草が可愛いな
ドラゴンって・・・見た目に反して 名前が厳ついな
「ウン、でも気に入ってる」
!?
あのぉ・・・もしかして 人の心が読めるとか・・・か?
「ヒミツ」
「読んどるやろがーーーーっ!!」
思わず怒鳴ってしもたが トドロキ君は さらにニッコリしとる
そして アッという間に 俺から日本刀を取り戻すと
人間離れした速度で 道場から出て行った。
「なんやったんや・・・」
しかし ここには参謀殿は おらんようやな。しゃーないし食堂に いこか
そう思て 道場を出た時
「アキバオ、機関室」
通路のかなり遠いところから
山彦よろしく残響がかかってトドロキの声が聞こえた
「おおきになーー」
通路の向こう側に 礼を叫ぶ
・・・次で最後にしよか。
***** 再度、東京帝国大学・総長室 *****
「なあ牧野君、大和や武蔵にあだ名があったろう。
どんなあだ名が付くんだったろうか?」
ワシ 平賀 譲は牧野君との会話を続いていた
今は 艦のあだ名について話し始めたところだ
「秋葉尾君の話だと来年あたりに 大和に対して【大和ホテル】
武蔵に対しては【武蔵御殿】や【武蔵旅館】とか付くようです」
「ほう ならば赤城改は【赤城宮殿】とでも付いて欲しいな」
そう言うと牧野君は苦笑いしながら
「いえ大和と武蔵の場合、その年 出撃を司令部に渋られて
長期停泊状態になったため そこらへんを揶揄されたようです
ですので不名誉な意味合いですね」
「そうか・・・」
伝家の宝刀として作られたような物だから
使いどころが難しかったか。
肩を落としたワシをみかねたのか 牧野君は言葉を続ける
「ですが赤城改なら【宮殿】と呼んでも差し支えないでしょう
こう言っては何ですが大和や武蔵を上回る近代的な施設に装備、
潤沢に真水が使えたり 常に空調が効いていたり
豪華客船などと比較しても見劣りしないですよね」
「ああ そうだね」
牧野君の言う通りなのである
ワシは予備役で総長と言う役職であるので
設計・建造には十分に関われなかったのだが
片鱗を見ただけでも これまでの船がガラクタに思えてくる
立場上、仕方ないとはいえ 進水式を見られなかったのは大変心残りである
「大和や武蔵同様に 揶揄するような名前を付けるとしたら・・・ですね」
年のせいか 肝心のところが良く聞こえなかった
「牧野君 今なんと?」
彼は悪戯っぽく笑う
*** 赤城改・機関室 ***
船の最下層やろうなあ。見渡す限りパイプや武骨な機械が並んじょる。
『第一缶室』
いくつかあるボイラーのひとつみたいやね。ここで聞いてみよ
標識の下にあったタラップを降りてみる
タラップを降り切った その先に有ったんは・・・・・地獄やった
とにかく熱い、てか暑過ぎて痛いっ・・・ていうか火事やっ!!
ワイの周囲は 火と炎しかあらへん。盛大に燃えとる
ワイの数歩先で 機関員らしい数人が消火作業をやっとるんやけど
文字通り【焼け石に水】やな
ワイも手伝おうと歩み寄ろうとしたんやけど 体が金縛りにおうたみたいに動かん。
ワイの意思に反して体が全く動かへん。金縛りなんか?
やけんど周囲の機関員は ワイが居ないみたいに作業に没頭しちょる
数秒が えろう長く感じられた。そして、
ドドーーーン
何かが爆発したようや。
「機関長、缶が破裂したようです」
「何が何でも修理しろ。船足が止まったらこの船は的にしかならんぞ!」
機関長らしき人物は 鬼の形相で そう言う
「・・・しかし」
そう言われて機関長らしい人物は フッと笑ろた
「わしの判断が遅れて 皆が逃げ遅れたのは済まないと思う
だが誰かが船の心臓を動かさなならんっ
悪いが貴様らの命、わしが預かる」
・・・・・これって もしかして・・・・・
「おい、兄ちゃん大丈夫か?」
ポンと肩を叩かれ ワイは我に返った
もう一度 周囲を見渡すと 火も炎も どっかにいってしもうた
そこには 高圧の蒸気を作り出す 重油ボイラーがあり
機関員が 黙々と作業をしとる。なんや髭だらけのおっちゃんもおるなぁ
そして ワイの目の前には 筋肉隆々な兄ちゃんがおった
「ああ おおきに」
それだけ やっとの思いで声を絞り出すと 目の前の兄ちゃんを観察する
身の丈は 1.8か1.9mくらいやろか。かなり高い
そしてガッシリした体格。服の上からでも分かるくらいモリモリした筋肉。
顔は・・・まあええ男やね。髪の毛は 赤みがかった黒やろか
しかし軍服を着ちょらんから階級が分からんな、聞いてみる事にする。
「あのぉ お兄さん階級は?」
「オレか? オレはドラゴンのユラメキって言うんだ。だから軍人じゃない」
ドラゴンさんって何人おるんや? てか【ユラメキ】ってガラじゃあらへんな
それはひとまず置いといて
「ユラメキはん こないなところで 何してるんで?」
「オレはな、ホラ あそこに髭ボーボーのおっちゃんが居るだろ」
そういって さっき見た髭だらけのおっちゃんの方を指差す
「あいつら【ドワーフ】って連中なんだけど そいつらと一緒に
ここで釜焚きの仕事を やってる」
白い歯を ニカッって感じで見せて なにやら上機嫌のようや
しかし それって どちらにしても軍人・・・機関員の仕事なんやないんか
どうやら話は続くようや
「オレは炎使いのドラゴンだから 魔力で湯沸かしだ
ドワーフは手先が器用な連中だから整備が担当だな」
ドワーフっちゅーんがよう分からんけど 民間人も働いとるゆう事か
「オレの仕事は 正確には魔石に魔力を注いでだな・・・・って
オマエ今日来た 飛行隊の連中か?」
「はい そうです」
それがどうしたんやろ?
「アキバオが説明あるって言ってなかったか。そろそろ時間だぞ」
えっもう1時間経ったんか。ヤバイで 全力で走っても遅刻やろな どないしよ
「オレも呼ばれてるから兄ちゃん 一緒に近道いくぞ」
そう言われて ワイはユラメキはんに 小脇に抱えられてしもうた
そして、
一蹴り・10メートル以上の飛距離で 通路を駆け抜けていく
タッタッタッ と、景色が後ろに吸い込まれるように流れていく
彗星に乗っているのとは また違うスピード感や。
ていうか 遅刻でもええから降ろして欲しい
「おろしてーーやーーーー」
ワイの悲鳴がこだまする
ゼエゼエ・・・・・やっと 降ろしてもらえた・・・・・
「兄ちゃん飛行機乗りやろ? 速いの苦手か?」
開けた空と 艦内の通路を一緒にせんといて欲しいわ
話は勝手に進む
「しょうがない 転移陣使うか。おうコッチコッチ」
ワイは襟首を掴まれ、引きずられる。問答無用や
そう言って通路の一角、階段の近くに設けられた 踊り場みたいな所に連れて来られた
そこには床に幾何学的な模様と 見た事無い文字らしい物が書いてある
「おう兄ちゃん、この円の中に一緒に立つんだぞ。
保安上の問題で 登録してある人物しか使えないからオレに捕まれよ」
訳が分からんが 言われた通り ユラメキのお兄さんに両の腕を絡めてしがみ付く
はたから見たら 男色家の変態さんやろうか?
そしてユラメキの兄さんは 唱えた
「転移・第一食堂」
そしてワイは軽い目眩に襲われた
時間にして 瞬きをしている時間やろうかな、
景色が変わり周囲には食べ物の匂いで溢れとった。
「おー兄ちゃん もう離していいぞ」
「・・・ああ おおきに」
ワイは恐る恐る ユラメキの兄さんから腕を離した
ユラメキの兄さんは 食堂の一角を指差して
「あいつら 兄ちゃんの仲間じゃないか?」
良く見ると こちらに気付いたのか 夏籐兄弟が手を振っている。
思わずワイも手を振り返した
もう色々あり過ぎて胸いっぱいや
グウゥーーーギュルギュル
腹の虫が鳴る。胸いっぱいでも 腹の方は すっからかんや
「腹減ったか、オレが持ってくるからアッチで待っててくれ」
それだけ言い残すと 食堂の奥の方に駆けて行った
もう走る気力も失せたんで 小隊のみんなのところにトボトボと歩く
夏籐 締の隣が空席だったので そこへ腰を降ろす
「隊長、どうでした?」
夏籐 締・・・兄貴の方な。ワイに話しかけてくる。
彼が食べたであろう皿を見ると カレーみたいやな。ワイも食いたかった・・・
恨めしそうになる気持ちを抑えて とりあえず返事をする
「戦果無しや、腹だけ減ったわ・・・」
「ああ そうでっか。とりあえずなんか飲みます?」
「ユラメキの兄さんが持ってきてくれるそうや。やから ええで」
「ユラメキはんて?」
おう噂をすれば影や。両手に四角いお盆・・・トレイ言うんか?
その上に 大きめのコップに 紙に包まれた食べ物らしい物が載っている
ユラメキはんとワイの分の 2人分持ってきてくれたようや
「おう時間が無いからコレで勘弁な。ハンバーガーいうヤツや
飲みモンは コーラってヤツで どっちもアメリカのヤツだな」
「えっ敵さんのでっか?」
持ってきて貰うてアレやけど 敵の物と聞いては やはり気分は良くない
「食い物に敵も味方も無い。食べ物に対して失礼じゃないか?
敵の物だと言うなら【敵を食ってやる】つもりで食えば良いじゃないか。ん
アキバオ・・・じゃない 参謀殿ならそういうだろう」
「はあ・・・」
腹も減ったし 時間も無いという事だったので それ以上抗議せず
ハンバーガーの包みを取り ひと口頬張る・・・・・カレーの味がする
このドラゴンさん 気配り出来るなぁ
そんな気配り出来るドラゴンさんに慕われとる 参謀殿。
ワイは より一層会ってみたくなった。
***** またまた 東京帝国大学・総長室 *****
「大和の3倍ほどの全長を誇り 50万トンの巨体に張り巡らせた通路
その中に仕掛けられた転移魔法。そして意図したわけでは無いでしょうが
【アレ】も出るようです・・・」
「アレとは?」
なんとなくは想像つくが あえて聞いてみる
「旧・乗組員が出てくるみたいですね。十分に供養したとは聞いてますが
こういったものは やはり難しいかもしれませんね」
「そうか 欧米ではむしろ喜ばれると聞くがね」
ヨーロッパなどの古城では 【出てくる】なんてのは良くある話で
むしろ出てくると 箔が付くとか
日本人の感覚では分からないが そういう捉え方らしい
彼は言葉を続ける
「迷路に魔法に幽霊とくれば・・・・・迷宮
【赤城迷宮】ではないでしょうか」
そうか
ワシとしては シル君のためにも【宮殿】と呼ばれるようになって欲しい
それがワシ 老兵としての最後の願いだ。
当なろう小説は実在する 人物・団体などとは一切関係は御座いません。
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