訓練編/閑話/キャンパスライフの終わり
大変大変お待たせして申し訳御座いません。連載を諦めたわけでは御座いません
調べ物が大量に有って時間が掛かっております
***** 昭和十七年(1942年)6月中旬 *****
***** 大日本帝国・東京・東京工業大学 *****
***** 同・学長室前 *****
「連れてきました」
「よし、入れ。教授、キミは講義に戻ってくれ」
「はい」
ゴクリ・・・
緊張の余り 生唾を思わず飲み込んでしまった
血相を変えた教授に無理矢理連れてこられんだけど
何で急に呼ばれたのか?
さっぱり分からない・・・心当たりが何も思いつかない。
ああ僕かい?
僕は『池井田 敏雄』この大学の電気工学科に通う大学生だ。
授業中 突然『学長室に来い』と言われて訳も分からず連れてこられたわけなんだ
「池井田君。何をボサッとしている? 早く入り給え」
「えっあっ 池井田 敏雄、入ります」
一緒に来ていた教授に押し込まれるように 僕は学長室に入った
「ほう・・・彼か」
「はい。」
中には学長らしい・・・ 学長と言っても余り面識が無いので
発言から それらしい人物を特定したわけだ
他に二人。パリッとした背広を着た初老の男性が居る・・が・・・
そのうちの一人はどこかで観たような・・・そうでないような・・・
「キミ、そんなところに突っ立ってないで ここに座りなさいっ!」
「はっ、はいっ」
初老の男性二人と対面する形で 僕は学長らしき人物の隣に腰を下ろした。
「早速だが 池井田君。今から ある話をするが、
この話を受けるせよ受けないにせよ 秘密は守って貰いたいのだよ
どうだい?」
初老の男性のうち、なんとなく見覚えがありそうな人物に話を切り出された。
誰だったっけ?
「おい池井田君っ 返事くらいしないかっっ!! こちらにおわすは
あの大日本帝国海軍の・・・」
「いや学長、儂は肩書きなどに左右されないように こうしてお忍びで来ているんだ
そこのところを忘れないで頂きたい。」
「ああこれは・・・」
なぜか学長が あたふたとしている
えっ帝国海軍の偉い人なのか?・・・そこまで考えが至って僕は思い出し
手をポンと叩き、思わず立ち上がって叫んだ。
「大日本帝国海軍・司令長官・山本五十六大将・・・閣下」
本気で正体を隠すつもりも無かったかもしれないけど
正体を暴かれて苦笑いする初老の男性・・・じゃないっ、山本閣下
教授が血相を変えてたのは このせいかっ
しかし そんな大物が何で? 僕は益々訳が分からなくなった。
「ゴホン・・・」
山本長官の隣に座っている男性が咳払いをした
そう言えば こちらの男性も観た覚えがあるな・・・確か・・・
「宇垣君、アレを」
「はい、長官」
そうだ、もう一人は『宇垣 纏中将』だ
そんな大物ふたりが僕に何用だろう?
コトッ
「まずはこれを観て欲しい」
テーブルの上に置かれたモノを観る・・・初めて見るソレは全く訳が分からなかった
タバコの箱ぐらいの大きさで・・・回路基板だろうか?
小さいが 半田と思われる金属が無数に見受けられる
それにしても小さい。だいたい真空管が無いし。真空管が刺さりそうな穴も無い。
僕は からかわれているのだろうか?
「おっと 失礼。裏返しでした」
そう言って、宇垣中将は 問題のソレを ひっくり返した
ひっくり返ったソレを観て 僕はまた驚く。
「なんだこりゃっ!!」
隣に座っている学長も身を乗り出して 一言
「山本殿、これは一体?」
学長も研究者の端くれなのか興味を持ったようだ
それに山本長官は答えてくれた
「これが『計算機』だと言ったらキミは・・・君たちは信じるかい?」
計算機と言われたソレを学長共々覗き込む
電機部品らしく 電極はあるようだし 電線を繋ぐであろう部品も見受けられる
電機部品なのは 確かにそうだろうな・・・とは思うが それにしたって
部品が小さ過ぎる。
裏返されたソレを観ても やはり真空管が無いし 刺さりそうな穴も無い
あるのは大小様々・・・と言うか その中の
一番大きい部品でも1センチあるか無いかの代物だ
一番小さな部品など 米粒大か ゴマ粒大くらいしかない
電機部品だとしても 眉唾モノだよなぁ
そもそも身近で計算出来るモノと言えばソロバンか計算尺くらいで
僕は縁が無いが 手回し式計算機もあるにはあるが せいぜいそれくらいだ。
断じてこの大きさで計算機なんぞ・・・
そこへ 一緒に覗き込んでいた学長が冗談交じりに
「ラ○ベリーパイですか? これまた美味しそうですな。はっはっはっ」
またしても大将・中将の二人は苦笑いしている
大体そんな言葉どこから?
もう一度 ソレを覗き込むと 英語の刻印があるのが分かった。
なるほど『ラ○ベリーパイ』と読める
じゃあ敵国の・・・アメリカかイギリスの代物か?
いや それにしたってそんなに技術格差があるのか?
工業力の差はあっても そんなに技術格差は無いだろう
まさか石器時代と飛行機が飛んでる今との差があるわけで無し・・・
僕は正直な感想をクチに出した
「山本さん、僕には どうしてもコレが計算機だとは信じられません
僕たちを からかっておいでですか?」
山本長官は 少し困った顔をして すぐに言った
「しょうが無い、じゃあ こっちはどうかな?」
そう言って 出されたモノを観ると 今度は小さめの本くらいの大きさで
数字や プラスやマイナス等の計算記号が書かれた 出っ張りが付いた
何かを テーブルの上に置かれた。
学長と二人『何だコレ?』と祖ぞきこんで居ると 山本長官は続けた。
「まあ百聞は一見にしかずだ。『AC』と書かれたボタンを押せば動き出すから
あとは好きに計算してみるといい もう一度押すと ソロバンで言うところの
『御破算』になるからね」
えっ? ホントに計算機なのか?
思わず学長と顔を見合わせるも
「池井田君、やってみたまえ」
学長の顔には『何か訳の分からない物には触りたくない』と書いてある
僕は観念して『AC』と書かれた出っ張りを押した
そしたら
数字の書いてある出っ張りの奥にある 灰色の部分に数字の『0』が浮かび上がった
「おおっ」
「うわっ」
学長共々 驚きの声を上げる
ホントに計算機なのか?
「池井田君、なんか入れてみたまえ」
学長に急かされる・・・
じゃあ試しに『 1 + 1 = 』
隣の学長がボソッと『そんな簡単な計算・・・』って言ったけど
じゃあ自分でやればと言いたくなるけど それはグッと堪える
最後にイコールを押すと『2』の数字が浮かんできた。
「池井田君、もっと複雑な計算をしたまえ」
学長が命令口調で 僕に指図するが、もはや怒りより興味の方が増した
答えの分かっている複雑な計算を片っ端に入れてみた。
答えは全て合っている。
「池井田君、どうだね?」
「はい、全て合ってます」
僕は学長と顔を合わせて同時に叫ぶ
「「確かに計算機だ」」
隣の学長と同時に 同じ結論に達した
どんな計算も一瞬で答えが出る
計算尺や手回し式計算機が もはや化石扱いだ
最初に見せられたソレも 信じるしか無いっ
どっちも計算機なんだ・・・と。
「池井田君、貸してみたまえ」
学長が僕から 電気ソロバンとでも言うか・・・奪い取ると
自分で何やら計算を始めた。現金である。
・・・いや それよりも この電気ソロバンが『計算機』だとして
最初に出された コレも きっと計算機なんだろう・・・信じがたいが。
しかし単純に計算するだけなら 後から出された電気ソロバンで良いはずだよねぇ
僕は腕組みをしながら考える
・・・最初に出された コレは どんな役割があるんだろうか?
考え続けても結論が出そうに無いので聞いてみることにした。
「山本さん、後から出されたコレが計算機だというのは分かりました。
でも最初に出されたソレも きっと計算機なんでしょうね。
しかし僕には何に使うのか検討が付きません
こちらは何に使われるんでしょうか?」
パシーン
山本長官は 自分の肘を パシーン と叩いた。
なんか『してやったり』って感じがするなぁ
「良い質問だね。コレが『計算機か?』ではなく『何に使うか?』と。
その用途を聞いてくる辺り 勘が良いね」
ちょっとだけ褒められた?
山本長官は続ける
「後から出した コッチは『電卓』と呼ばれるモノで四則演算などの計算を行う
紛れもなく『電気で動く計算機』だ
最初に出した コレも広義の意味で確かに計算機なんだよ
お察しの通り、やや用途が異なるがね。」
しかし山本長官は少し残念そうな表情で さらに続けた。
「しかしだ・・・その『用途』の質問に答えたらキミは部外者では居られなくなる
それでも良いかね?」
部外者では無くなる・・・軍人になるって事か!!
きっとそうだ・・・徴兵? 前線? 何だろう? 僕に何か やらせたいって事か?
ゴクリ
僕は緊張の余り 生唾を飲み込んだ。
これまで発言の無かった宇垣中将がクチを開く
「池井田君、最初のコレはね、コッチの電卓より数百万倍も計算能力があるんだよ
まあそこら辺から想像してみてくれ」
そう発言すると 隣に座る山本長官が『余計な事を・・・』と ボソッと言い
宇垣中将が 慌ててクチを押さえる
もしかして 今の『軍機』なのか? まずいんじゃ・・・
それはひとまず置いておくとして
数百万倍の計算能力? 想像も付かない・・・数百万倍という数字も信じがたいが
今更嘘を言うとも思えない。きっと本当なんだろう。
学長はと言えば 相変わらず『電卓』を いじっている。これで満足なようだ。
学長は放って置いて 最初のコレの用途を考えてみよう
山本長官・・・・海軍・・・・軍艦・・・大砲・・・そっか 弾道計算か?
いや待てよ、それなら『電卓』で済むんじゃ無いのか?
じゃあ計算・・・計算・・・ああそうか『主計科』があるな・・・
物資の管理や給金の計算・・・って これこそ『電卓』で済むじゃ無いかっ!!
「おっと」
宇垣中将が胸に挿した万年筆を撮ろうとして 床に落とす
ポトッ・・・コロコロ・・・
僕の方に転がってきたので 拾って宇垣中将へ渡そうとする。
「済まんねぇ」
「いえ」
僕はなんとなく その万年筆の形状に注目した・・・何かに似ている・・・
そっか『魚雷』だっっ!!
魚雷は威力はあるが なかなか当たらないと聞く。
電卓で計算?
いやいや それなら いっそ計算機を積んで・・・
ああそうかっ!!
ああ・・・僕はこの計算機に俄然、興味を持った。もう止まらない
僕は興奮の余り立ち上がり そして言った
「分かりました山本さん、僕はこの計算機を使ってみたいです」
そう言って立ち上がった僕を観た学長が
電卓を いじる手を止めて僕の方を見つめる
「・・・本気かね?」
学長が 一言、絞り出した。
僕は熱弁する
「学長、聞いて下さい。この計算機があれば戦場が変わりますっっ
・・・いえ、戦場だけじゃ無いかもしれません。きっと人々の生活を
豊かにするでしょう。僕は確信します。」
そう言われて学長が僕を 何だか化け物でも観るような表情に変わった
思った事を言っただけなんだけどな
「よしっ、良いだろう。大日本帝国海軍は池井田君、キミを歓迎する」
山本長官が 待ってましたとばかりに そう発言した。
もしかして僕は乗せられた?
でも僕は
「あっ ありがとうございます」
条件反射的にそう 言って深々と礼をした。
早まったかな?
「さて・・・そうと決まれば」
山本長官がそう言って 学長に向かって顎を しゃくっている
「はっ・・・ただいま持って参ります」
えっ なんだ?
学長が自分の執務机から何か紙切れを持ってきて 僕に渡す。
そしてクチを開いて言った
「略式だが キミ、池井田 敏雄君。キミを本日付で卒業とする。
これは卒業証書だ。持って行き給え。」
「はっ はいっ。」
思わず両手を伸ばして 姿勢を正して受け取ってしまった。
えっ なに? 最初から僕が海軍に行くのは決まってたって事?
それも卒業を待たず 今すぐ?
何がなんだか 訳が分からないよっ!!
その疑問を察したのか 山本長官が説明を始めた
「知っているかい? いわゆる『徴兵』と言うのは陸軍の管轄なんだ。
まずキミが前線なんかに引っ張り出されては困るのでね。
それからキミには将来的に多くの部下を抱えて貰おうと思う。
そこで活用するのが『短期現役士官』制度だ
部下を抱えるとなると二等兵なんぞでは話にならん
今からキミを士官学校へ 二、三ヶ月放り込むからしばらく我慢してくれ」
山本長官は 両の手のひらを合わせて 僕に謝るようにそう言った。
そしてどこに待機していたのか 水兵が二人現れ、僕の小脇を抱え
そして、僕は連れて行かれたのだ。
バタンッ
閉まる学長室の扉を見送りつつ、この時の僕は少しだけ後悔した。
***** 引き続き 同・学長室内 *****
「行ったな」
「行きましたね」
この儂、宇垣は 山本長官と学長殿とで 池井田君の新しい門出を見送っていた。
「しかし・・・宇垣君。万年筆を落とすタイミング。なかなか良かったよ」
長官にそう褒められ
「いや~~魚雷を連想させる万年筆を探すのも・・・なかなか骨が折れました」
「「「はははっ」」」
学長殿も交えて 一同、爆笑する。
「しかし・・・山本閣下」
爆笑を終え 学長殿が質問してきた。ちと警戒が必要だな
「何だね?」
「池井田君を魚雷開発に割り当てられる・・・そういう事で宜しいんでしょうかね」
長官も どこまで話そうかと思案を巡らせておられるご様子。
いかに軍機とは言え、何でも秘密では話が進まないこともある
そこらへんの匙加減が難しいところであるな
「そうだね。そう・・・魚雷も含まれる。だが ね。」
長官は言葉を句切って続ける
「実のところ ソレさえ大した事ないモノを作ろうというところだ。
彼くらいの若さ。いや もっと若い人材を集めないと正直厳しいところだね。
ワシらのような年寄りには出番が無いのだよ。
ああその電卓は差し上げましょう。
あと 分かってるとは思いますが・・・」
「はい、他言無用。決して人には見せません
池井田君も見かけ上、退学したように装いますので・・・それで良いですか?」
「結構」
そこまで話が纏まると 儂と長官は 大学を後にした。
次にスカウトすべき人材を求めて。
当なろう小説はフィクションです。実在する 個人・団体・国家等一切関係御座いません
次話は「恋の行方と おっ*い岩」を予定しております。
当初、閑話扱いだったところを ひとつのエピソードに格上げしますので
やっぱり時間が掛かるかと思われます。投稿時期は未定としておきます。




