訓練編 / ヴァヴェル・ドラゴン
***** 赤城改・第一食堂 *****
「たく~ お腹すいた~」
「はいはい 食堂行こうね」
僕、秋葉尾 拓は 泣き疲れた シルちゃんを連れて
遅めの夕食を取りに 艦内・第一食堂に向かっていた。
「ええと 空いてる席 空いてる席・・・あっ トドロキ君が居るね
彼の周りが空いてるから そこで良いね? シルちゃん」
「はいなの~」
シルちゃんの同意が得られたので トドロキ君の近くに行く
彼の座るテーブルには 隙間無く 料理が並べられ
当のトドロキ君は リスよろしく マンガみたいに ほっぺを膨らませて
食事を満喫している
「赤城改のご飯は おいしいかい?」
「ん~~」
トドロキ君は 満足そうに返事をしてくれた
「たぁく~ お腹すいた~」
「ああごめんね ええと・・・」
基本 バイキング形式なんだけど 特別食べたい物がある場合は
個別に調理してもらう事が可能だ
その注文を出そうと 席を立ったところ、調理場から人が駆けてくるのが見えた
「ゼェゼェ・・・ごっ ご注文を承りに来ました」
「悪いね、豆腐ステーキ定食 2人前で シルちゃんにはご飯少な目で
食後のデザートに シルちゃんは あんみつで 僕にはコーヒーを」
「はっ、少々お待ちください」
注文を終え シルちゃんを見ると 足をパタパタさせて喜んでいる
いまさら僕が言うまでも無く エルフは動物由来の物を好まない
従って シルちゃんの食事には動物由来の
肉や卵などが入っていない物を与えている
そして何より 喜んでいるのは 食後の甘い物だろうか
特に和菓子だ。
シルちゃんも女の子の例外に漏れず 甘い物に目が無い
『女子』と言えば・・・もう一人
「拓、仕事終わったよ。あー 私も あんみつ 一つ頂戴」
仕事を終えた セセラギさんが トドロキ君の隣に座る
そして、デザートが来るまで待てないのか
トドロキ君のための料理をつまみ食いしている
モグモグ・・・と、食べてると思ったら おもむろに質問が飛んで来た
「ところでさ、拓の居た世界に私達みたいなドラゴンって居なかったの?」
シルちゃんも興味ある話なのか 僕の方を見ている
心なしか 目がキラキラしているような気がする
そうだな・・・ググるか
ポケットからスマホを取り出し 検索する
いくつか出て来たけど・・・・・とりあえず
「『ヴァヴェルの丘のドラゴン』ってのがあるね」
「ねぇ~ それってどこの おはなちなの?」
シルちゃんが興味を示した。
「ドイツのお隣 ポーランドって国の話だね」
にっくき『ドイツ』と聞いて シルちゃんは 若干引き気味になるも
セセラギ・トドロキの2柱のドラゴンは 聞きたそうにしていたので
インターネット解説サイトにある記事を語って聞かせた
***** 13世紀初頭・ポーランド *****
***** ワルシャワより南南西 250km *****
***** この時代の首都・クラクフ *****
「ドラゴンだーーーっ 逃げろーーーーーっ」
「わーーーーー」
「きゃーーーー」
今日も ヴァヴェルの丘の洞窟に住んでる ドラゴンのせいで
村の人々は今日も逃げまどっていた
どうやら生贄の娘が気に入らなかったようだ
俺は スクプ
靴職人をしている
やれやれ、今日も商売あがったりだ。
ポーランド王が、『ドラゴンを倒せた者には 娘との結婚を認める』と
お触れを出したので
今まで腕利きの冒険者や剣士が ドラゴンに挑んだが その全員が やられ、
ドラゴンに食べられた。
だけど 靴職人の俺には どうする事も出来ない
俺には 大斧を振るう体力も無ければ 剣を振るう腕前も無い
仕方がない
そう自分に言い訳をして 今日も 安い酒を飲みに行った。
***** その日の夜 *****
すっかり遅くなっちまった。
俺の家は 森の近くにあるから 下手すると山賊に襲われる可能性もある
早く帰らなくちゃ
安酒を飲み過ぎたせいか 真っすぐ歩けないその足で 俺は家路を急いだ。が、
・・・誰か居る? 野盗か?
暗闇の中、一人の青年が俺に近づいて来て言った
「スクプ殿 貴殿にドラゴン退治を頼みたいが 引き受けては くれないか?」
口調からして 貴族か、
そうでないにしても 背格好からしてかなり収入の高そうな人物だ
少なくとも 物取りじゃなさそうだな。
それにしても この俺にドラゴン退治とは とんだ酔狂だ
俺は自嘲気味に言った。
「確かに俺はスクプだ。だが俺は しがない靴職人だ
あんた どこかの剣士とでも勘違いでもしたんじゃないのか?」
そう言って 落胆する青年の姿を想像したが、
その青年は落胆するどころか、ホッとした声で答えた
「いや 間違いじゃない。靴職人のスクプ殿で間違い無い」
嘘だろ?
それは死んで来いという事か?
おかしいな・・・貴族に恨みを買うような事はしていないはずだ。
やばそうだ・・・逃げるか
俺は来た道を引き返そうと 振り返って走ろうとした
「待ってくれ ドラゴン退治の方法を教えるから待ってくれ」
方法? そう言われて 俺は思い留まった。
青年は近づいて来て どこから取り出したのか 黄色い何かを取り出して見せた
「これは『硫黄』という
これを あのドラゴンの好物の羊肉に紛れ込ませて食べさせる」
「で?」
「それだけだ」
「それだけって・・・・・食べさせてどうなるんだ?
第一そんな簡単な方法なら あんたが やればいいんじゃないか。」
そう言うと青年は 何故か辛そうな表情になった
「我は ドラゴン退治の褒章を受け取る訳には いかないし
他にやらねばならない事がある」
そう言って 上。空を見上げる
釣られて俺も上を見てみた
綺麗な お月様が輝いてい・・・いや 何かデカイのが飛んでる
「大人しくしていろと言ったのに・・・」
青年がそう言った次の瞬間、人間業とは思えない高さに飛び上がった
「ギャオオオオーーーーー」
青年はドラゴンに変わってしまった
森の木々に阻まれて 遠くが見えないが どうやら さっき飛んで行った
デカイのを追いかけて行ったらしい
まったく・・・すっかり酔いが覚めちまったぜ
そして 待つ事しばらく
ガサガサッ
草むらが揺れたかと思ったら 先ほどの青年が 女性を連れて現れた
「見苦しい所を見せてしまって 申し訳ない」
青年は そう言いながら 女性をがっしり掴んで離さない
女性の方はと言うと
「あなたーーっ お願い 行かせてぇーーーっ」
と、涙ながらに訴えている。が 青年は
『諦めなさい』とか『掟だから仕方がない』とか女性に言っている
俺は今思っている事を口にした
「あんた達は一体・・・」
ここまでくれば大体想像は付くが やはりちゃんと聞いておきたい
「我ら夫婦は・・・」
青年は 傍らの女性の顔を こちらから見えるように引き寄せ説明してくれた
女性の顔は 涙でグショグショだが それでも絶世の美女だと見て取れる
「・・・我ら夫婦は 貴殿らが『ヴァヴェルの竜』と呼んでいるドラゴンの
産みの親だ。我がレッドドラゴンで こちらが妻のブルードラゴン。
そして我は 人の肉の味を覚えて自制の効かなくなった我が子を
討伐しなくてはならない。これは我が一族の掟だ」
俺は生唾を飲み込んだ。我が子を殺さなくちゃいけないなんて・・・・
「だが妻のブルードラゴンが 何度説得しても 我が子を助けようとするので
我が抑え込まなくてはならない。だから貴殿に頼むのだ
王様とやらから褒賞も出るだろうから 悪い話では無いだろう?」
なるほど。だが
「事情は分かった。だけどなぜ俺なんだ?」
そう、他の誰でもなく なぜ俺なのかと言う疑問が残る
「それは貴殿が『ドラゴンの血』に耐性があるからだ」
「耐性?」
「そうだ。『適性』と言い換えても良い。
適性の有る者がドラゴンの血を浴びると 微量ながら魔力が宿り
他のドラゴンから見た場合、普通の人間とは見なされずに
同属のドラゴンが人に化けているように見えるのだ。
そうする事で貴殿は 食べられずに済む訳なのだ。
我としても 頼んだ相手が食われるのは 気が引けるのでな」
そう言って青年は おどけて見せた
そうか、じゃあ俺は得しかしない訳だ
「ああ分かった その話 引き受けよう」
「おおっ、引き受けてくれるか。ではこちらへ来て しゃがんでくれ」
言われて 青年のそばで 体を低くする
すると 青年は自分の指を傷つけると 血を一滴、俺に垂らした。
別段 体に変化は無いようだった。
あっそうだ ついでだから聞いてみよう
「ちなみになんだが もっと多量に血を浴びた場合はどうなるんだ?」
「それは・・・・・」
何だか言いにくそうだな。
そう思った瞬間、俺は目眩に襲われた。
景色がグニャリと歪んで 立っていられなくなった
「次、目が覚めた時は ドラゴンの血が馴染んでいるはずだよ」
その言葉を聞き終わると 俺の意識は そこで一旦切れた
***** 翌朝 *****
「コケコッコーーーッ」
朝か
俺はベッドから ガバッと跳ね起きる
ここは・・・俺の家?
昨夜は どうやって帰って来たか覚えていない
・・・・・あれは夢だったのか?
そうも思ったが 何やら刺激臭がする
「これは・・・硫黄」
ベッドの傍らに 昨日見た黄色い塊が置いてあった。そして
「メエーーーッ」
この鳴き声はっ
窓を開けて 外を見ると 我が家には居ないはずの羊が 3匹、
ロープで木に繋がれていた
「用意の良い事だな」
俺は用意を済ませ 翌日、ドラゴン討伐に向かった。
***** 翌日・ヴァヴェルの丘付近 *****
チクショウ。町のヤツら 馬鹿にしやがって・・・・・今に見てろよ
そして、どうやらヴァヴェルのドラゴンは お昼寝中のようだ
俺は用意された羊を処理し 中に硫黄を詰めた
その羊を ドラゴンの住処、洞窟の前に放り出し
俺は少し離れたところから様子を見る事にした。
待つ事暫く
「クンクン・・・良い匂いだ。おおっ大好物の羊だ。モグモグ・・・」
ドラゴンが出て来て 3匹の羊を ものの数口で 平らげた。
「うん? ノドが乾いたな。水を飲もう。ゴクゴク・・・」
ドラゴンは ほとりの川まで移動して 川の水を飲み始めた
「ゴクゴク・・・ゴクゴク・・・」
ドラゴンは 川の水 全部を飲み干す勢いで 水を飲んでいる
硫黄を入れたのは 喉の渇きを促すためか?
「ゴクゴク・・・ゴクゴク・・・」
ドラゴンは まだ川の水を飲んでいる
気のせいか 川の水位が下がってきたように見える
心なしか ドラゴンの体も大きくなってきたよう思える。
いや、気のせいじゃない 確かに大ききくなってきている
それでも ドラゴンは 水を飲む事を やめようとしない。
そして、揶揄では無く ドラゴンの体は ドンドン膨れ上がって ついには
パーーーーーーーーン
大きな破裂音と共に ついに ドラゴンは 破裂した
こんな簡単な手段で あっけなく最後を迎えたのだ
やったーー
地位と名誉と 王女との婚姻が約束されたのだ
嬉しさのあまり 小躍りしそうになった
しかし、
ビチャビチャビチャ・・・・
何か生臭い物が降って来た。 ドラゴンの血肉らしかった
最高の気分から最低の気分へ 叩き落された
そこへまた先日 体験した感覚が襲ってきた
視界が歪み 俺はまた倒れ込んだ。
再び気が付くと 俺はドラゴンを討伐した英雄として祭り上げられ
王女と結婚。王家の一員となった。
***** 赤城改・第一食堂 *****
「ていう事があったらしいね・・・って トドロキ君どうしたの?」
カタカタカタ・・・
食事の手を止めて トドロキ君が震えている
まさかとは思うけど 大食漢のトドロキ君としては
ヴァヴェルのドラゴンと同じように 破裂しないかと心配になったとかか?
「んーーもーー 可愛いんだから」
セセラギさんが そう言いながら トドロキ君の背中を バシーンと叩く
「もーー これ飲んで落ち着きなさいな」
そう言って トドロキ君はコップに注がれた水を受け取って 飲み干す。次の瞬間
バタン・・・
トドロキ君は気を失い セセラギさんがトドロキ君の体を支えた。
あれ? 完全生物に近い ドラゴンさんが気絶?
いやまて、確かトドロキ君は お酒が飲めなかったはず・・・
しかし おかしいな。航行中の船内では お酒の提供はしていないはず・・・
まさかセセラギさんが 魔法でコップの水をお酒に変えたのか?
そんな僕の疑念を察してか セセラギさんは 人差し指を自らの唇に当て
『ナイショよ』的なゼスチャーをする
「あらあら 行儀が悪いわね。でも今日はこのまま寝かせちゃおう
・・・・・あらやだ こんなに料理を残しちゃって
勿体ないから・・・えいっ」
そう言って セセラギさんはテーブルの上の料理に魔法を掛けて
料理を全て凍らせた。
「残りは明日 トドロキに食べさせるから大丈夫よ~」
と言って、トドロキ君を お姫様抱っこして食堂の外へ消えて行った
ここ赤城改・第一食堂も消灯時間が近くなってきたせいか 人も まばらになり
僕の座るテーブルには 僕とシルちゃんだけになった
そして シルちゃんはと言えば 先ほどの話を聞いてか 自分のお腹が気になる様子
「はははっ シルちゃんはお腹が破裂する程 食べて無いから大丈夫だよ
だから あんみつは食べてしまって良いんだよ」
寝る前に 甘い物って体に悪いかなとも 思ったけど
・・・たまには良いか
***** 13世紀・ポーランド *****
***** ヴァヴェルの丘の上に建設された ヴァヴェル城 *****
あれから歳月が流れ、妻としてめとった王女も王妃と呼ばれる歳を経て
そして 天に召されて行った。
なのに俺はと言えば ほとんど歳を取る事も無く 病気とも無縁だった
そんな俺も王位を子供に譲り 隠居生活をしていた
そして さらに年月が流れた ある日
***** 1240年代・ヴァヴェル城 *****
「スクプ様、スクプ様 大変で御座います」
執事が慌てて 俺の寝所へ駈け込んで来た
「落ち着け。それで何事だ?」
「はい、それが・・・モンゴル帝国と名乗る賊が攻め入って来たので御座います」
「くっ、それで戦況は?」
「はっ、それが大変申し上げにくいのですが 我が軍が押されております」
「何と言う事だ・・・」
俺は取る物も取り合えず 親族や家臣を逃がす事を優先し、
宝物庫にある品々は 最悪、放棄する事に決めたが
のちに後悔する事になるのだった。
***** 時代は戻って ドイツ・狼の巣 *****
「何? ポーランド国内に無いだと?」
「はっ、総統閣下。くまなく探しましたが 見つかりませんでした
過去の戦乱で国外に持ち出されたとの結論に達しました
現在のところ 東アジア方面にあるとの見方が濃厚であります」
「もうよい、引き続き捜索せよ」
「はっ、総統万歳」
報告に来たSS隊員が下がるの見届け、儂は椅子に深く座りなおした。
ポーランドへ侵攻したのは 先の大戦でポーランドに領土を取られたという
側面もあるが それは事のついでに過ぎない
本命は 『コレ』なのだ。
しかし・・・どこにあるというのだ?
頭の痛い事に 同盟国である日本から同盟の破棄が通知されている点だ
そもそも ソ連やアメリカに対して睨みを効かせるため 日本と同盟を結んだが
例のモノが東アジアにあるという事になれば
無理矢理引き留めてでも 同盟を維持したいところであるが
どうやら我が軍の魔法界への侵攻も知っている様子だ
さて、どうやって同盟を維持した物か・・・・・大いに弱った。
***** イギリス・秘密の森 洞窟内 *****
「それで奥方様は?」
「相変わらず心を閉ざしておるよ」
儂は洞窟の奥へ足を運んだ
奥には年老いたブルードラゴンが横たわり ほとんど動かないのか
体表にはホコリが積もっていた。これで本当に生きているのか?
あの時、アレを持ち出しておれば こんな事にはならなかったはず・・・
「・・・申し訳ない。本当に申し訳ない」
「その話は何度も話したであろう。
我は 妻が人間を襲わないように抑え込むので手一杯だったし
それに アレの重要性を貴殿に十分説明しておかなかったのだ。
これは我の手落ちでもある。貴殿がこれ以上気に病む事は無いのだ」
「はい、しかし儂の人生の総決算として 何としてでも探し出す所存です
現在、東アジアというところまでは分かっているのですが・・・
レッドドラゴン殿、相変わらず魔力を辿る事は出来ませんか?」
「ああ、魔力を感じる事は出来ぬ。ここまでくると何か魔術的な手段を用いて
人為的に遮断していると考えるのが妥当だと思う」
「そうですか・・・」
大量のドラゴンの血を浴びたため 不老不死とまではいかないが
儂は長大な寿命を得るに至ったが
あれから600年あまりの月日が流れても 儂の苦悩は続いている
儂とレッドドラゴン殿は しばしその場で立ち尽くしていた。
***** 中華民国・某所 *****
「これが・・・竜の心臓」
男はモンゴル軍侵攻の際 持ち帰られたソレを物珍しそうに眺めていた
当なろう小説は フィクションです。実在する個人・団体等とは一切関係御座いません
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次回更新は未定です




