訓練編 / 風竜の谷
善は急げとばかりに
急遽 風竜の谷へ同行する人選が進められ 陸軍側にも伝えれる
陸軍にも協力を仰ぐのは あきつ丸搭載の 三式連絡機を使用する関係でだ。
これから行く 風竜の谷という所は 『谷』とは言われているが その実態は
空を飛べない種族の接近を拒絶した 岩山ばかりの大地
当然ながら 航空機の離着陸に適した平地なんぞ 期待するだけ無駄なのだ
そこで不整地での離着陸を得意とする 三式連絡機に白羽の矢が立った
陣容は
ユラメキ、ソヨギ のドラゴン2名
この二人は ドラゴンの姿で 飛行し、護衛に当たってもらう
俺、シルちゃん、ジージさん
岡隊長、夏籐・兄/弟
陸軍からは 相田中尉、花山曹長、他1名のパイロット陣
三式連絡機 3機
で、出発する事になった
***** 赤城改・飛行甲板 *****
ドワーフ港に停泊する 赤城改
その飛行甲板に三式連絡機が3機 駐機している
「長官、それでは 行ってまいります」
「ああ 良い結果を期待しとるよ」
両脇を 宇垣参謀長と黒島先任参謀に固められた 山本長官が見送りをしてくれる
当初、山本長官も行きたがっていたけど
今回、魔改造した一式陸攻が使えない関係で 同行は断念して頂いた
僕とシルちゃんは 相田中尉の機体に乗り込む
ここで 乗り物酔いしやすい シルちゃんのため
「シルちゃん はいこれ」
そう言って 特大のペロペロキャンディーを渡す
満面の笑みで それを受け取り 頬張る
好きな物に集中させ、気を紛らわせて 乗り物酔いを回避しようという作戦だ。
水平飛行に移行したら 外の景色を好きなだけ 堪能してくれれば
何とかなるかな・・・
皆も乗り込み 準備が完了する
「発艦っ!!」
3機とも 危なげなく発艦。風竜の谷へ向けて飛行を開始した
***** 赤城改・艦橋 隣の 航空管制室 *****
海軍所属の艦から 陸軍の航空機が発艦する。実に感銘深い。
以前から私は 陸でも海でもない『空軍』の発足を提唱して・・・・・
これは失敬。私とした事が、自己紹介もしないで。
申し遅れたが 私は 中島 知久平と言う者で 現在は衆議院議員をやっております
いや、海軍の『九七式艦上攻撃機』や 陸軍の『隼』などを作った
『中島飛行機』の創業者と言った方が分かりやすいだろうか
先日、山本長官からお呼びがかかり 何事かと付いて行ってみれば びっくり仰天。
なるほどなるほど これは急な呼び出しにも関わらず
付いてきた甲斐があるという物だ
しかし今の私は政治家だ
政治家として、あるいは中島飛行機の大社長として
何が出来るか考えなくては
しばし私は その場で物思いに耽ってしまった
***** 上空の 三式連絡機 *****
やあ 秋葉尾だよ
今、風竜の谷へ向けて 飛行中なんだ
ドワーフ村から 1時間くらいだろうという ジージさんの話で
それだとドワーフ村から200kmくらい 離れているっていう事なんだよなぁ
200kmを『近く』とか言うかな?
まあそれはともかく
現在、ソヨギちゃんを先頭に 3機の三式連絡機が続き
最後尾を ユラメキが務める
なんせここは魔法世界。常識では考えられない事が起きる
表の世界じゃ 飛んでるのは せいぜい鳥類だけだけど
こっちの世界では 結構大きな生物が飛んでる訳で
油断していると 単発機程度の大きさでは襲われかねないんだ
ゼロ戦や彗星とかなら いざ知らず、
機動性に難ありな三式連絡機では不安が残るので
前後を ドラゴンさんで挟んで 露払い 兼 護衛を頼んだわけだよ
あっ 先頭が ソヨギちゃんなのは 彼女が『風使い』だから。
彼女なら乱気流の一つや二つは 楽に潰してくれるから
シルちゃんの乗り物酔いも収まるだろうし なにより墜落の危険も グッと減る
「秋葉尾大佐殿、前方の岩山が目的地だそうです」
相田中尉に言われて前方を見た
『谷』と言われた場所だけど 元は川があった場所なんだろうか?
川底に 転がっていそうな大小さまざまな 岩や石ころが多数広がっており
その先に テーブル状に広がる岩山が あった
その岩山を見ると 確かに ソヨギちゃん達より 一回りか二回りは小さい
ドラゴンが数体 飛んでいるのが見えた
いきなり岩山に降りたら 縄張りを侵されたとみなされて喧嘩になるかな・・・よし
「全機、岩山そばの谷底に着陸。シルちゃんも二人に念話で伝えてね」
「はいなの~」
ペロペロキャンディーを頬張りながら答える
よし、乗り物酔いも問題なさそうだ
しばらくして 3機と2体は 谷底へ着陸。2体は 人の姿になる。
取り合えず みな機体から降り、僕は片手に拡声器を持って岩山に向ける
「あ~テステス。風竜さん達、ちょっとお話したいんですが よろしいですか」
「「あ~テステス・・・」」
「「「ア~テステス・・・」」」
拡声器の声が木霊して 谷中に響き渡る
「面白いの~ 私もやるの~」
シルちゃんが思いって切り 空気を吸い込む
「ややこしくなるから やめてね」
僕の意図を察して ユラメキが シルちゃんを羽交い絞めにし、
ソヨギちゃんが シルちゃんの口を そっと塞ぐ
「モガモガ・・・」
いい加減100歳くらいになるはずなんだけど 中身はまだガキンチョだな~と
思った次第。
そうこうするうちに 空から バサッ・・・・・バサッ・・・と、音がした
ドラゴン・・・いや、風竜らしい 1体が岩山から降りてきた。
なるほど 人語を解する知性はあるんだな
谷底へ降りた風竜が口を開いた
「翼を持たぬ者達よ 我らに何の用だ?」
へえ~ ここまで流暢な人語が喋れるんだ。
さて、交渉を始めるとして。・・・やった事無いんだよなぁ・・・
でも回りくどい言い方って苦手なんだよなぁ
しょうがない ズバッと言ってしまおう。
「はい 風竜さん達のチカラを お貸し願いたく 交渉に来た次第です」
ああ~苦手だな~
案の定、風竜さんが怪訝そうな表情になる
もちろんドラゴンの見た目のまんまなので そんな気がしただけもしれないけどね。
しかし、風竜さんは大声で笑い始めた
「はっはっは 冗談も大概にしてもらおう。
そこに居られる神龍殿を差し置いて 我らに助力を求めるなど笑止
我らのチカラなど必要あるまい」
そう言われて ソヨギ・ユラメキの両名に視線が集まる
確かに これ以上望めないほど強力な 4柱だけど
逆に言えば 4体しか居ない訳で、
誰が言ったか『戦いは数だ』との言葉もある
4柱のドラゴンさんが いちいち迎撃に出てたら 超絶ブラック状態になってしまう
恐らく彼らは 一対一の勝負しか やった事が無くて
戦争のような大規模な戦いの経験が無いんだろうなぁ・・・
そっから説明しなくちゃダメかな?
そうこうしているうちに 風竜さんは 上空を見上げていた
そして口を開き
「あの羽ばたかぬ大鳥も お主らの仲間か?」
首から下げていた双眼鏡を手に取り 覗き込む
ここまで来たか・・・・・ドイツ軍機
***** ドイツ海軍航空母艦・グラーフ・ツェッペリン 作戦室 *****
儂は今年で76歳になるSS(親衛隊)少将だ
名を カール・マリア・ヴァイストール と言う
何? 老害? 何の事だ
古代アーリア人は 1万歳まで生きたと言われる。
儂のように 100歳にも満たぬ者など 古代アーリア人に比べたら
赤子同然では無いかね?
今、儂らは この世界へ 当艦と2番艦 ペーターシュトラッサーとの2隻で来ている
この空母群が魔法界派遣部隊に選ばれた理由は簡単だ
航空機の運用が予想される点と、
いざ戦争が開戦されると 水上艦艇への重要度が下がり、
解体の憂き目に遭いそうな所へ
解体されるくらいならと SS(親衛隊)で貰い受ける事にしたのである
そして、空母機動部隊として訓練されていた部隊をSSへ編入させ
総統閣下の理想を実現するべく 儂は空母を率いて この地へやってきた
なに? 海図も無いのにどうやって航行してるかだと?
愚問だな
分からなければ知っている奴に聞けば良いのだ
この世界の人間。いや 人間ではないな。
人魚殿に聞けば 適格・正確に答えてくれる
これで座礁の心配も 迷子になる心配も無くなる
夜間 六分儀で天測する必要も無い 昼夜を問わず問題なく航行できる。
実にありがたい話だ
「コンコン」
ドアがノックされる音がした
折角 この空母機動部隊の自慢をしていたところなのに無粋な邪魔が入った
「入れ」
儂は入室の許可を出す
「はっ、総統万歳」
「総統万歳」
互いに敬礼を交わし
入室してきた伝令士官が報告する
「偵察に出ていたパイロットからの報告で 日本軍機を目撃したとの事です」
儂、カール・マリア・ヴァイストールは 儂自身の耳を疑った
「なんだと? 今、日本軍機を目撃したと言ったか?」
「はい、報告してきたパイロットに何度も確認しました。間違いありません」
「そうか、分かった」
「はっ、総統万歳」
そう言って 伝令役の士官が作戦室から出て行った
さて、
日本軍機が こちらの世界に居るという事は
何らかの魔法技術を日本軍も取得したという事か・・・
表向き 同盟国である日本軍を 勝手に殲滅する訳にも 行くまいし
ここは接触し あちら側の目的を探るべきか。
儂は現地日本軍とコンタクトを取る事を決めた
***** 風竜の谷・谷底 *****
「秋葉尾大佐。赤城改から通信です」
「分った 行く」
三式連絡機の機内に入り 通信機の前に座る
「こちら秋葉尾。赤城改 応答願います」
「こちら赤城改。ドイツ軍が接触を求めて来ました。どうなさいますか?」
表向き 日本とドイツは友好国だから こちらでも いきなりの交戦は ご法度かな?
いやしかし 何かやったところで 露見のしようが無いし・・・・
単にこちらの意図と戦力が分からないから 情報収集までの時間稼ぎかな?
よし じゃあお互いに戦力は見せられない可能性があるから ここで会談を開くかな
「幕僚さん達は何か言っていますか?」
「いえ 秋葉尾大佐の良いと思うように との事でした」
う~ん それって良い意味に捉えればいいのか 悪い意味に取られればいいのか
分からないなぁ・・・・・どのみち 説明は要りそうだな。
「では 一旦帰還します。以上」
「赤城改、了解」
交信を終え、風竜さんの前に来て
「済みません 用事が出来てしまいましたので また改めてお話させて頂きます」
「我らは構わぬ。」
「そこでですねぇ・・・この谷底に滑走路を造りたいのですが良いですか?」
「カッソウロとはなんだ?」
「ええとぉ 地面の一部を平らにして突き固めたような状態にします
一時的に使うだけなので 用が済んだら元に戻します」
「元に戻せるのならば 我らは構わない。自由にしてくれ」
「ありがとう御座います。それでは僕達は帰ります」
そう言うと 風竜さんは 岩山の頂上へ消えていきました
「さあ 僕達も帰ろう。っと、その前に ユラメキ、ソヨギちゃん」
「分ってるよ」
「承知」
2柱のドラゴンさんは ドラゴンの姿に戻り
「ここら辺か・・・」
ユラメキが その大火力で 谷底の大小さまざまな岩・石を溶解させ
ドロドロに溶けたところへ
「ソヨギ、頼む」
ソヨギちゃんが大風量の風を起こし、溶解した岩石を冷やし固める
そこへ岡隊長が
「おっ これで彗星も 一式陸攻も降りれるやな~」
急ごしらえにしては 上出来すぎるね。後で壊すのが勿体ないくらいだ
僕達は出来立ての滑走路から離陸し、帰路に就いた。
***** 風竜の谷・岩山の頂上付近 *****
一部始終を見ていた風竜達は驚愕していた
「さすがは神龍様」
「ねえねえ でもなんで人間の言う事聞いてんの?」
若い風竜達が騒ぐ中、
先ほど 秋葉尾に対面した風竜は考えていた
「あれほどの実力を持ちながら・・・理解できぬ
増してや魔法も使えぬ人間に仕えるなど 到底我らには分からぬな」
だが・・・・・自分達は このままで良いのか?
遠ざかる 秋葉尾達を見送りながら どうすべきか考える風竜達であった。
***** 赤城改・艦長室 *****
今、艦長室には
僕、シルちゃん、ジージさん、山本長官、宇垣参謀長、黒島先任参謀の
6人が集まり ドイツ軍との会談について話し合っていた
「軍令部としても反対なされないという事でしょうか?」
大事な事なので 念を押して聞く
「確認している。ついでに言うと 外務省にも根回しは終わっている」
と、山本長官。
そこまで聞いて僕は、
「じゃあ ドイツと手を切るつもりなんですね?」
そう言うと 山本長官は軽く咳ばらいをし
「そのなんだ。このままドイツと組んでも負けるだろうし
魔法界に対する極悪非道ぶりは陸軍・海軍問わず憤りを感じていてね
なによりも陛下が一番心を痛めておられる。
ここら辺が潮時では無いかな」
「本当に良いのじゃな?」とは ジージさん
「ここまで協力して頂いて 今更知らぬふりは出来ませんよ」
魔力素材に魔導機器、果ては軍艦の建造・改修に 航空機の改造など
協力分野も広がりつつある
そんなジージさんの言葉に『何を今更』のような表情で山本長官が答える
そこで僕は ここぞとばかりに これまでタイミングを計っていた件を切り出す
「それでは『あの件』を このタイミングで公表しようかと思いますが
海軍・・・いや 日本国として いかがですか?」
ひとつ間違うと 日本国との関係を損なう恐れがあるだけに神経を使う事案だ
そんな僕の心配をよそに山本長官は
「その件は エルフ国の問題であって 大日本帝国の問題では無いな
我が国に反対する理由は何も無いよ」
胸のつかえが取れた僕は
「あっ ありがとう御座います」
「なに 礼を言われるような事じゃないさ」
山も長官はニコニコしながら そう答えてくれた
そこへ、
クイクイと服の袖を シルちゃんに引っ張られた
「わたし 眠いの~」
「そう? じゃあ済みません シルちゃんを寝かしつけて来ます」
「ああ」と山本長官
「どれ 儂も行くとしよう」と ジージさん
僕はシルちゃんを連れて シルちゃんの私室へと向かった
艦長室に残った重鎮達は、
「長官、本当に良いのですか?
黒島先任参謀は聞く
「なにがだい? そもそも彼はエルフ国の宰相なんだよ。良いも悪いも無いだろう」
「しかしそれでは我が海軍として・・・」
なおも食い下がろうとする黒島に対して 宇垣参謀長が
「よしたまえ黒島君、我らは裏方に回ると決めたでは無いかね。
途中で横槍を入れると 返って悪い方向に向かうよ」
「・・・」
そんな重鎮たちの会話をよそに
2日後の午後に 風竜の谷での会談がドイツ側に伝えられた
当なろう小説は実在する個人・団体とは一切関係が御座いません
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更新情報: 8/15
追記しました。




