ファーストブリーフィング/造船を始めよう 8/ アーネ、働く
今日は臨時休暇になっちゃいましたので書き進みました。
LGBTな表現があります。
怪我をする描写があります。
苦手な方はご注意を
***** 西暦1907年(明治40年)1月7日 *****
***** ロンドンから北北西180km・ダービー地方 *****
俺、平賀 譲は、ドワーフ族の娘 アーネと この製鉄が盛んな
ダービー地方へ来ている
とある製鉄所へ アーネを働きに出すためだ。
エルフの血が混じり 見た目は華奢な少年だが、腐ってもドワーフ族の末裔
女性とはいえ 並みの人間が かなう相手ではない
適当に 力自慢をしてみせて どうにか働かせる事に成功して
ホッと胸を撫で下ろしたところなんだよ
では なぜこんな事になったかと言うと・・・
***** 1906年12月16日/ドワーフ村・造船所建設予定地 *****
セセラギ君が氷山漁船で出漁する その日、
ドワーフオヤジ殿がアーネちゃんを連れて来て こう言った
「なあヒラガのダンナ。アーネを人間界に出して製鉄を修行させてぇんだが
どう思う?」
この1年、ドワーフ族総出で大規模な製鉄を研究しているようだが
思うような成果が出ず、ドラゴン達に先を越されている有様だ。
しかし、ドラゴン達も万能ではなく その仕事に大量の魔力を消費する。
イカに良質な鉄が造れても 大量に魔力、すなわち食料を消費して
本末転倒な事態に陥っている訳だ
特に作業の中心になっている トドロキ君は 常に腹ペコの状態で、
見ているコッチが 居たたまれない。
ここはドワーフ族のメンツ云々は抜きにして 何とかしてやりたい・・・
なにぶん理屈で こうやっているとは分かっていても 実際にやるとなると
勝手が違うのが世の常。実際に体験してくるのが一番か。
俺は アーネちゃんを見てみる。
アーネちゃんは 女の子だ。女性を製鉄の現場へ送るのは いささか抵抗はある
ドワーフ族とはいえ 1/4ほどエルフの血が混ざっている関係か
どちらかと言えば 人間に近く、
また どういう訳か 華奢な少年と言った印象を受ける
もう少し成長したら 男の子で通すのは無理だろうなぁ・・・・今しかないか。
あと そうだな・・・声は比較的 女性的だから、
『ちょっと声は高いんですが れっきとした男の子ですよ』と 押し通すかな
俺はアーネちゃんに聞く、
「アーネちゃん、人間界の製鉄所へ行ってみたいかい?」
アーネちゃんは目を輝かせて言う
「うん シルのためにもオレ頑張るっ」
相変わらずの男言葉だが 気持ちのいいくらい粋が良い
日本男児として ここは一肌脱いでみよう。
そして年明けを目標とし、人間界での礼儀や常識を可能な限り叩き込んだ。
土曜日や日曜日だけで足りる訳も無く、
ホームステイ先には『友達の子が遊びに来ている』と言い訳をし、
平日も可能な限り『レッスン』に当てた。
当然、アーネちゃんはドワーフ族なので転移魔法は使えないから
シルちゃんやジージさん。バーヤさんの協力で魔法界との往復を毎日のように繰り返し
多大な労力と迷惑を掛けつつ
いよいよその日を迎えた。
***** 西暦1907年(明治40年)1月7日 *****
***** ロンドンから北北西180km・ダービー地方 *****
俺、平賀 譲は アーネちゃんを連れ、
何件か製鉄所を回ってみたものの色好い返事を貰えず
ついに最後の所に来た。
製鉄所の従業員らしい中年の男性を見かけたので声を掛けてみる
「おーい、この少年を雇ってくれないか」
そう言われて中年男性は 怪訝そうな表情で こちらを見る。
「ああ 間に合ってるよ」
そう言って いそいそと 仕事場へと戻って行く
ここもダメだったか・・・・諦めて帰ろうとしたその時、
「どうした若ぇの そっちは東洋人か?」
振り向くと 初老だがガッシリした体格の男性が立っていた
想像するにオーナーか頭領と言ったところだろうか?
「この少年を雇って貰いたいが無理だろうか?」
ダメで元々。もう一度聞いてみる
初老の男性は 俺とアーネちゃんをジロジロと見比べ
「おめえら兄弟か?」
と、聞いてきた。
俺とアーネちゃんが 同じ人種に見えるのか?
白人からしたら 白人以外の人種は同じなのか?
しかし ここでオロオロしては かえって怪しまれる。何とかゴマかそう
「いや、この子は友人のお子さんでね。今日は俺が代理で面倒を見ている」
ゴマかせたか?
「ほう・・・坊主、おめえのオヤジは どんな仕事だ?」
「・・・」
マズイ。まさか馬鹿正直に言える訳も無く・・・そうだっ!
「その子の父親は鍛冶屋だよ。ただ、軍からも仕事を出していてね
あまり大ぴっらに出来ないんだよ」
ドワーフなら鍛冶職人で間違ってないだろう
「ほう、じゃあ そっちの兄ちゃんは軍人か?」
くっ、俺の素性を出すべきか・・・
「ああ この国の軍人ではないがね。」
「どの国だ?」
『軍』と聞いては うやむやには出来んか・・・『軍』を出したのはヤブヘビだったか
「大日本帝国海軍だよ」
「ニホン?」
やはり分からないか。
「アドミラル・トーゴーの国だよ」
日露戦争で連合艦隊司令長官を務めた 東郷平八郎海軍大将の名前は
ここイギリスにも届いているはず。
まして 連合艦隊旗艦を務めた戦艦三笠は イギリスで造られている
これで 知らない方が どうかしている。
初老の男性は感銘を受けたのか
「おおそうか、そんな遠いところから来たのか。そうかそうか」
余程感動したのか 握手をする手に力が籠っている。正直痛い
そして 東郷海軍大将閣下、勝手に名前を使って 申し訳ありません。
心の中で平謝りをする。
初老の男性は 満足したのか 俺の手を離し、アーネちゃんを向くと
「坊主、この仕事は体力が無いと話にならんぞ。差し当って力が見たいな
ほれ そこの荷物を持ち上げてみろ」
「これかい? よっと。これでいいか?」
{なっ!!」
50kg程度はあるんじゃないかと言う 麻袋を軽々と2袋程担ぎ上げて見せる
華奢な少年が100kgを楽々と持ち上げる光景は まず初見では驚くだろうなぁ
これに気を良くしたのか、
「よしっ坊主、いつから働ける?」
「おいらアーネってんだい。今日からでもいいぜ」
「おおそうか アーネ、今日から頼む」
建物の中へ消えていく二人を 俺は手を振りながら見送った。
それからというもの、アーネちゃんを連日、エルフ族総出で送り迎えをし
ドワーフ族の製鉄技術も 徐々にではあるが改善しつつあるようだ。
そんな事を繰り返し、およそ1年が過ぎようとしていた ある日の事。
***** 西暦1907年12月23日/ダービー地方の製鉄所内 *****
俺、アーネは今日も仕事をしてた。今日もいつも通り終わるはず。
そう思ってた。その瞬間が来るまでは
「おーい みんな逃げろーーー炉の壁が・・・壁が」
誰かが大声で叫ぶ
声のする方を見たら 耐熱レンガの繋ぎ目が赤く輝いてる
うわっヤバイ 溶けた鉄が流れ出る。逃げなきゃ。
そう思って 駆け出した
そん時、
ガシャガシャ ズシャーーン
「うわーーー」
後ろを振り向くと 炉の近くの壁が崩れて 逃げ遅れた何人かが
生き埋めになっちまった
もう溶解した鉄がレンガの隙間から流れてから いつ決壊するか分からない
手遅れか?・・・・・ええいっ、黙殺すんのはガラじゃねえやいっ!!
崩れた現場に駆け寄って 数個が固まったレンガの塊をどかしていく
案の定 下敷きになった人間は瀕死だ。
構わず掘り出し、駆け寄ってきた他の人間に預けて 俺はまたレンガをどかす。
最後の一人を掘り出し終わった。よしっ間に合った。最後の一人を担ぎ上げる
そん時、左腕に痛みが
ジュジュジューーーッ
「イテーーーチクショーー」
思わず声が出ちまった。溶けた鉄が腕に掛かっちまった。大火傷だ
焦げた肉の匂いがする
左腕に力が入れられないから 右腕だけで掘り出した人間を担いで逃げようとしたけど
・・・・・手遅れかな?
真っ赤に輝いてた耐熱レンガが崩れるのが見えた
シル ごめん。俺は覚悟した。
「アーネちゃんのばかーっ」
後ろを振り返ったら 涙で顔がグショグショのシルちゃんと ジージ様と
人化したドラゴン達が居た
魔法を使ったのかな?
俺の周りから 溶けた鉄やらレンガやらが どかされ
崩れた炉の壁は 時間を巻き戻すみたいに 修理された。
で、俺はというと
シルちゃんが治療魔法で治してくれてる
みるみるうちの 俺の左腕は元通りになった。前より綺麗なくらいかな
ん?
気のせいかな 胸が・・・・・!!
胸が大きくなってるじゃんっ!
ジージ様が寄って来て、
「これシルや、治療魔法は加減せんと 成長を促進してしまうぞい」
「あっゴメンゴメン」
「こりゃあ ホルモンバランスまで正常に治療されたようじゃな
年相応で結構じゃないか フォッフォッフォッ」
言われて自分の体を アチコチ見る
お尻の方も・・・
もっかい胸も・・・
俺は女の子なんだと思い知らされた
そう言えば『シルちゃんを嫁にしたい』とは 前ほどは 思わなくなった。
でも何だろう このギュッと抱きしめたくなる感覚は?
まっ難しい事はいいや
俺、いや私は シルちゃんをギュッと抱きしめた
「シルちゃん 助けてくれてありがとう」
「うんうん お友達お友達」
シルちゃんから お友達と言われて 若干寂しい気もするけど
何か別の物が充足されていった気がした。
そこへ、親方がやってくる。私を雇ってくれた人だ。
「おうおう 何の騒ぎだ これは ・・・・・」
親方が こっちを見る。どうしていいか分からず 愛想笑いを返す
「お前は誰だ? アーネの姉か?」
ええと・・・どう説明しよう
そんな私達を見かねてか 他の人が親方に駆け寄り 事情を説明する。
「なんだとっ 信じられん。おめえアーネ、女だったのか!」
私は観念した。
「はい、黙っててゴメンナサイ」
そこへ ジージ様が割って入る
「あの子は ドワーフじゃからな。並みの男より役に立ったじゃろ フォッフォッ」
「ドワーフ? そういうあんたはエルフか?」
「ああそうじゃとも おおそうじゃ あそこの死にぞこない共を治療せんとな」
そう言って 生き埋めにされて 生きてるのが やっとの人達のところへ行き
「これ ケガ人は寝ておれ、取って食いやせんぞい。
死なない限り治してやれるから ほれ順番じゃぞ。むーーーん」
そう言って あれよあれよと完治していく ケガ人達
親方も茫然と見ている。
「終わったぞい」
「ありがとうございます。辛かった腰痛も治って ありがたやーありがたやー」
「俺 虫歯も治ってるぞー」
ジージ様 大盤振る舞い?
「チッ」
親方が舌打ちしてる。なぜか シルちゃんが親方に しがみついてる
もしかして なんか治療した?
「お嬢ちゃん 俺の肝臓が悪いのが分かったのか?」
「エヘヘ」
親方は大きく ため息をつく
「こいつぁ たっぷり礼をしないとな・・・・・もしかしてコイツが欲しいのか?」
親方は炉を指差して そういう。私は思わず コクリと頷いてしまった。
親方はニッコリ笑って
「アーネ、こいつぁおめえの暇賃込みだ。なんなら転炉も持ってけぇ
よお じいさん あんたら 建物は運べるか?」
「なんじゃい わしらなら山ひとつでも問題無いぞい」
ジージさんは じいさんと呼ばれて 少しご機嫌が悪いけど とっても乗り気ね
「よっし 早速持ってけ。おーーい みんな外に出ろーーー」
ジージさんの方は、
「じゃあシルはここに居なさい。ドラゴンは50メートルくらい離れて
4方向に分かれなさい。準備が出来たら転移するぞい」
みんなが ぞろぞろと外へ出て行く。
みんなが出て行くのを眺めていたら親方に怒鳴られた
「こらっ アーネ」
「は はい。」
親方の怒号に身が引き締まった
「おめえが ちゃんと最後に確認するんだぞ。そしたらお別れだ。達者でな」
「・・・はいっ お世話になりました」
何だか色々な物が こみ上げて来て泣けてきた。
それからドラゴンさん達を最大直径とする円の中に 人間が居ないのを確認して
ジージ様と シルちゃんが呪文を唱える
「「転移 ドワーフ村!」」
私たちは ダービーを後にした。
こうして魔法界のドワーフ村に立派な 高炉と転炉が出来たの。
後日、ヒラガさんが来て びっくりしてたのが忘れられないわね
***** その頃/魔法組合では *****
「・・・と いう事がありました」
組合長は いつものように中年男性から報告を受ける
「そうか そこの製鉄所には便宜でも図っておけ」
「組合長、よろしいので?」
「大丈夫じゃ 女王陛下なら何も言わんよ」
「では そのように」
***** 西暦1908年(明治41年)3月29日/ドワーフ村海岸 *****
俺、平賀 譲は また凝りもせず ドワーフ村に来ていた。
知らない間に ドワーフ村に製鉄所が出来ていたのは 正直驚いた。
しかしこれで ドラゴン達に頼っていた 製鉄が
今度は工業的な手段で量産できるので 魔法を別の方向に使う事が出来る
そして今日、造船所を作る運びとなった。いわゆる『乾ドック』を作る
乾ドックとは つまり 陸の一部に水を引き込める場所を作り ここで船を作る
長さ数百メートルの用水路、
あるいは壁の一方が海に接しているプールとでも思えば良いかもしれない。
もちろん船を作っている間は 水など入って来ては困るので 大きな扉で
海と仕切り 造船を行う場所から 水を汲み出し ここで船を作る
そしてこの海と仕切る扉は 一種の船であり『扉船』とも呼ばれる
まずはこの扉船を作っていた訳だ。
『たかが扉船」と思うなかれ この扉船ひとつで5千トンあるのだ
この扉船は 造船中は注水され一種の重しとなり
海側からの水圧も加わり、水を堰き止める壁として固定される
ドックを開けて船を出し入れしたい場合は 扉船の水を排水し扉船を浮かせて
扉を開けると・・・こうなっている
この方式なら ドックを作る手間は かかるものの大きな船を作るなら
断然この方式だと思う。
また傾斜した船台と違い、作業場所が水平なので 経験の浅いドワーフ族でも
船を作りやすいのではないかと・・・こう 考えた訳だ。
まず、扉舟を取り付ける部分を先に作り 扉舟を沈める
これはトドロキ君とセセラギ君の仕事だな
この二人で工事の大部分は出来てしまう。
そして、ドック部分を広げていく。ここはトドロキ君の独壇場だな
土系統の魔法で およそ人間業では不可能な速さで 乾ドックが出来上がっていく
こうして
長さ 335メートル
幅 61メートル
深さ 18メートル
念には念を入れて この大きさになった。
人間界でこの大きさのドックを作ろうものなら国賊扱いだが
魔法が使えるこの世界なら 土木工事に掛かる費用は度外視できる
これなら将来的に大抵の要望には応えられるはずだ
あと必要な物は クレーンくらいな物か。まあドラゴンで代替出来るとは思うが
何でもかんでもドラゴンでと言うのも ちと可哀そうではあるな。
俺は今年、グリニッジ王立海軍大学造船科を卒業してしまうので
この乾ドックで船が完成するのを見届けられるかは分からないが
卒業前に ひとつの事業に関われた事は 実に感銘深いと思う。
こうして ドワーフ村・第壱號ドックが完成した。
当なろう小説は実在する個人・団体とは一切関係御座いません。
仕事の都合で今後連載のペースが変わる可能性がありますのでご了承くださいませ。
更新情報:
5/8 17:50
ドックの大きさを決めましたw
5/12 19:45
都合によりドック完成の日を少し後ろにズラシました
乾ドックの説明文を修正しました




