ニワトリと卵のパラドックス(外伝)
本編とは少し違う世界の話です。
悠人が消えた部屋で、義昭は物思いに耽る。
思い描くのは、かつての恋人のこと。――そして、共にタイムマシンの完成を目指した相棒でもあった……。
義昭がタイムマシンを完成させたのは、これが初めてのことではない。
この世界から消えてしまった。否、最初から居なかったことになってしまった彼女。義昭はもう彼女の名前すら思い出せなかった。
――未熟な自身の過ちで彼女を失ってしまった。
少なくとも彼はそう考えていた。
――彼女の居た世界を取り戻すまで、何度でも過去を上書きする。
それは、彼にとって大きな賭けでもあった。上書き後の世界に彼が存在する保証などないのだから。
それでも、彼女と再開するためならば、諦めるつもりはなかった。何度でもやり直して、当たりクジを引くまで同じ時間を繰り返す。
それが、義昭に取れる唯一の選択肢だった。
彼女の面影を有する少年――悠人と出会えたことは僥倖だった。義昭はそう思った。
果てしない繰り返しの先に待ち受けているものは、再会か?消失か?
静寂が支配する部屋に、時計の音だけが響き渡っていた。