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ケモミミ姫

親愛なる君へ


 やぁ……先日は忠告をありがとう。ヘリオス=ターレットだ。


 君の言うとおりだったよ。

 彼女は私ではなく、元の主のところへ戻って行ったようだ。

 

 君の言うとおり、少し落ち込んだけれど、でも、私は先日彼女を越える素晴らしいケモミミに出会ったのだ。


 彼女はとある亜人族の姫で、艶やかで、美しい、そして何より素晴らしい毛並みの持ち主だった。


 彼女との出会いは、とあるお茶会でだ。


 貴族でない君は知らないかもしれないが、貴族というのはなかなかこれで忙しい。やれお茶会だ、舞踏会だ、などなど。公務のような、そうでないような色んな仕事がある。

 その一つに外交が絡んだお茶会があって、そこにやってきたのが、かつて戦争の際に人族側についた亜人族の姫であった。


 彼女は背が低いが、その皇女然としたたたずまいには実に惹かれるものがあった。

ピンとたった、長い耳に、丸い尻尾。尻尾を振るという動作はないが、そのふさふさ感といったら見ただけでもわかる。

 まだ少女と言った年齢ではあったが、私の目は彼女に釘付けだった。


 優雅な振る舞い、最高の毛並み、ぷっくりとした赤い唇に、同じく赤い瞳。綺麗なブロンドの長髪はさらさらと音を立てるように流れて、小川のせせらぎを思い出させるような素敵な髪であった。


 何よりも、私が惹かれたのは、その天真爛漫さだった。

 優雅な振る舞いの中に子供っぽさが溢れていた。彼女が私の足を誤って踏みつけた時などは、申し訳なさそうに「ごめんあそばせ」と高笑いをしていた。

 思わずつられて、私も笑ってしまったよ。

 そうしたら、彼女も楽しくなってくれたのか、ずっと私について回ってくれた。


「これを食べなさい」

「あれを取って」

「椅子になりなさい」


 彼女なりの愛情表現があふれていて、私は実に嬉しかった。まさに運命の出会いと言えるだろう。

 初めて会ったばかりなのに、これほど打ち解けてくれるとは思わなかった。

 私に食事を食べさせてくれたり、膝の上に乗ったり、背中の上に乗ったり。

 まるで子供のような振る舞いは、それだけ私に気を許してくれているからだろう。


 そしてぴこぴことうごく長い耳は実に素敵だったし、ふさふさの丸い尻尾には触らせてはくれなかったが、背中に乗った際に少しだけそのふさふさ感を感じる事ができた。


 触らせてくれなかった、というのは彼女の貞操がとても固い事を示しているし、彼女のような無邪気な人こそ、私の嫁にふさわしいと、そう思った。


 お茶会の最後に、私は彼女を食事に誘ったのだが、次の公務があるからと断られてしまった。

 けれど、頬を紅潮していたからおそらく感触としては悪くない。


 それに彼女は姫であるから、そうそう簡単に受ける事もできないのだろう。

 日を改めて彼女を誘う事にして、その場は引いた。


 彼女は同じく亜人の騎士に手を引かれて馬車に乗って去っていった。

 彼女を嫁にもらった際には、あの騎士もまた私の下で働く事になるのだろう。


 婚礼の準備をしなければなるまい。一国の姫であるから失礼の無いように豪華絢爛に。


 これから忙しくなるからしばらく手紙を送ることはできないだろうが、君にも私の、いや私達の幸せを祝福してもらいたい。


 それでは、また


ヘリオス=ターレットより

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